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act.45

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act.45




エレの刻印は龍殺しの刻印に共鳴し、低い唸りをあげて荒れ狂う。
悪魔の刻印は龍殺しの刻印と引き合う性質を持っていた。
引き合い、どちらかが果てるまで殺しあう宿命を。

「エレ!!」

死が、エレの中に溢れ、蠢き、調和する。

――殺セ!!


「うっ……があああああ!!」

悲痛な雄叫びをあげて。
悪魔の騎士は――龍殺しの騎士に向けて剣を振り下ろした。

「あ……」

巻き起こる衝突の烈風。
その剣を受け止めた者がいた。シアナの前に立ち、豪剣を持ってエレの狂風めいた一太刀を受けきって見せた。

「総長……!!」

颯爽と現れたのはズイマ総長だった。
背中をシアナに向けて、総長はエレと邂逅している。
嵐の如く繰り出される連撃を、巧みな剣捌きで迎えては押し流す!!

「全く……この馬鹿息子が……!! 正気を取り戻さんか……!!!」
「があああああっ」
「……飲まれたか……未熟者め、仕方ない、ひとつ私からじきじきに痛いのをくらわせてやる」

熟練された太刀筋。――重さが違う。速さが違う。重ねてきた修練の年月が違う。
鍛え上げられた一刀、そこには魂が宿る。想いが宿る。その一振りは魂の斬撃だ。
傍で二人の剣闘を目の当たりにしたシアナは、鳥肌を覚えた。

刻印の呪いにより精神を侵され、飲まれてしまった今のエレは理性を無くしている。
理性をなくした事によって箍が外れたのか。いつにも増して攻撃の様は鬼――或いは羅刹を思わせる修羅ぶりだった。
ただ戦い血を降らせることのみを志向し、そこに僅かの躊躇もない。
目の前のシアナを殺そうと、剣を振るう。そしてそれを邪魔する者も殺そうと、鬼神じみた猛攻で攻め立ててくる。
邪魔する者がズイマであろうと――容赦なく。

「がああああああああっ!!」
「はあああっ!!」

その連なる剣の突進を、ズイマは回避することなく受け止める。

ズイマは、正気を無くしたエレを現実に引き戻すべく一撃一撃に渾身の力をを込めているのだった。
かわすことなど出来るはずもない。

この一撃はエレの苦しみだ。
それを受け止めずに、親などと名乗れるわけがない。
刻印がお前を苦しめているのなら、その辛さごと――受け止めてやる!!

「目を覚ませ!! エレ!!」
「がああああああぅううう!!」

エレの目は吊り上り、口は大きく開かれ、瞳に理知はない。殺戮を行う為だけに特化した「悪魔」へと変貌したエレは獣めいた狂相で攻撃してくる。
エレは、唐突に剣を放った。直線に乗って剣はシアナへと飛ぶ。
ズイマはそれを叩き伏せた。

瞬間――ズイマに隙が生まれた。
本の数秒。だが――狂戦士と化した悪魔の騎士にとっては十分過ぎるほどの時間。

エレの手が、ズイマへと伸びる。
そして手は――ズイマを正面から貫いて血飛沫を降らせた。


「総長おおおおっ―――!!」

シアナの悲しい叫びが空にこだました。


「がぶ……うっ」

口から大量の血を滴らせるズイマ。
返り血を浴びて真っ赤に染まったエレを見て、苦しげに口を動かす。
「エ……レ、」

息子の名前を愛しげに呼んで、一度大きく身体を痙攣させるとその場に崩れ落ちた。
すぐさま総長を抱き起こし、止血を施そうとするシアナ。

「総長!! 総長!! しっかりして下さい、今すぐリジュを呼びます」
「いや……いい……」
「なっ……そんなわけにはいきません! ちゃんと治療すれば――」

シアナは傷口に目をやる。胸から背まで貫通している。目を覆いたくなるほど酷い傷口だった。
これでは……助からない。今喋れているのが不思議なくらいだ。湧いてきた絶望的な考えに、シアナは首を振ってそれを断ち切る。
駄目だ。諦めるな。総長を助けなくては。

「シ、シア………エレ、を……たの、…頼む、ぞ」
「総長――」
「あいつを……って……くれ……は…………」
「総長っ、ズイマ総長!!」



ズイマの身体の痙攣が止まる。
静かすぎる空の下、穏やかな微笑を浮かべて、目蓋を閉じた。

「あ……」


脈が途絶えた。鼓動も聞こえない。身体は徐々に冷たくなっていく。
ズイマは――死んだ。

「ああああ……」

空を仰ぐ。
シアナは絶叫した。
心が張り裂けそうな程、悲痛な声をあげて。慟哭があたりに響く。

ズイマの死を目の当たりにして、意識が戻ったのか。
エレは何も言わなかった。戦おうともせずに虚ろな様子でシアナの腕の中に抱かれたズイマを見ていた。
悲しみも喜びも、希望も絶望も、何処かに置き去りにしてしまった目で。


再び、鼠色の空から雨が降り始めていた。
悲鳴を聞きつけ、その場に隊員達が駆けつけた頃には既にズイマの息はなく、
疲労で地面に倒れたエレと、悲壮な姿のシアナを見つけた。
騒ぎを耳にしたリジュとイザークもやって来る。

「これは……一体何があったんですか、シアナさん……!!」
「……リジュ」

気絶したエレの手には、夥しいほど血が付着している。

それと、ズイマの惨い亡骸を見て――その場に居合わせた全員がようやく真実を知った。
悪魔の騎士が総長を殺害したという、残酷な真実を。
「……そんな」

イザークが唖然と呟く。
無理もなかった。
誰がこんな悲しい未来を予想出来ただろうか。

「……こいつ……」

騎士の一人が、怒りを露にしてエレに近づく。
利き手は剣の柄に。足は強く地を踏みしめ。
地面に身体を横たえたエレを憎憎しげに睨み付け、ぎりぎりと歯を噛み締めた。



「こいつ、ズイマ総長を殺すなんて――何て事を……!!」

そうして今にも斬りかからんばかりに、全身を憤怒で震わせた。
剣を抜こうとした手を、リジュが押さえる。

「――やめなさい。怒りで目を眩ませてはいけません」
「ですがリジュ隊長、こいつのやったことは……!!」
「ええ。分かっています。彼は……エレは罪を犯しました。……それは当然、裁かれるべきものでしょう。
ですが、だからといってここで貴方が、私怨で彼を裁いていいという正統な理由にはなりません」
「くっ……」
「いいですね。分かったら剣から手を離して下さい」

騎士はリジュの言葉に気圧され、俯く。
その表情は暗い怒気が滲んでおり納得がいっていない様子だった。

「リジュ、後は……頼んだわ。私はエレを雨が凌げる場所で休ませてくる」
「はい。シアナさん、後で……事情を聞かせてもらえますね」

シアナは無言で頷く。
気を失ったエレを肩に担いで、歩き出した。









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