2026/03/02 一応完結しました。が、気が変わったら更新するかもしれません Panzerfalcon
はじめに~函館新幹線の妄想
函館市の大泉市長が提唱する、北海道新幹線の函館駅乗り入れ、いわゆる「函館新幹線」については、ネット上の声は「やる必要があるのか?」「誰が金を出すんだ?」ばかりで、技術的観点からの実現可能性に関しては驚くほどに議論されていません。
そこで、本稿では(事業の是非はともかく)どのようにすれば実現できるのか、を検討してみたいと思います。ベースとするのは函館市が千代田コンサルタントに外注して作成した
実現可能性に関する報告書です。
1.検討の前提となる想定状況
新幹線電車を在来線に乗り入れる案件の前例として山形・秋田新幹線がありますが、函館新幹線はこの2例に比して圧倒的に複雑な状況で進めなければなりません。
山形・秋田新幹線の乗り入れ先は、国鉄が建設しJR東日本が継承した東北新幹線です。函館新幹線が乗り入れる北海道新幹線は、JRTT(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が整備新幹線として建設中で、いずれJR北海道に貸し付ける設備であり、また、在来線区間にしても、北海道新幹線札幌開業と当時にJR北海道から第三セクター会社に経営移管される見込みの設備です。
今回は、この「第三セクター会社」は、道南いさりび鉄道(DIR)になるという前提で検討します。また、北海道新幹線札幌開業に伴う並行在来線の取り扱いについても、2025年11月時点の状況に基づき、函館〜新函館北斗間はDIRに継承のうえで旅客営業を継続し、函館新幹線の在来線乗り入れ区間の運営もDIRが行う、とします。新函館北斗〜長万部間はDIRが継承し、旅客営業は廃止のうえで貨物専用線とする前提ですが、そのスキームのあり方についてはここでは考えません。
すなわち…山形・秋田新幹線では、当事者はJR東日本、山形県または秋田県(が設立する第三セクターの車両保有会社)、そしてJR貨物(奥羽本線の山形〜蔵王間に貨物営業があったため)のみであったわけです。それに対し、函館新幹線では、当事者は地元自治体として函館市(がやりたがっている)、北斗市、七飯町、北海道が名を連ね、鉄道事業者としてJR北海道、JR貨物、DIR、JR東日本(函館新幹線は東京まで直通するため)、北海道新幹線の建設・財産所管主体としてJRTT…と、考えただけでも頭に激痛が走る複雑さです。
この検討では、本来、技術面のみを考えるつもりですが、それでも、どのハードウェアをどこの事業者が所管しているか(または所管する見込みであるか)は検討の前提として外すことはできません。そして、この点こそが現在の函館市案に最も欠けているところなのです。
2.函館市案とはどのようなものか
図2 千代田コンサルタントによる函館市の新幹線直通案を筆者が図式化したもの
函館新幹線を実現するうえで肝要なのは、函館~新函館北斗間の函館本線のハードウェアを、如何にして新幹線電車を直通できるように改良するか、という点です。当該報告書の新幹線直通案を筆者なりに図版化したものが↑図2です。超おおざっぱに概略を示すと、
- 函館~新函館北斗間の上り線の大部分を、現状の線路配線をそのままに三線軌化するプラン
- 三線軌化は、通常の保守間合の中で、ちまちまと上り線の枕木を三線軌対応のものに交換し、枕木交換が終わったところから標準軌用の追加レールを敷くという手順となり、それと並行して各駅の信号設備を改修していく前提
- 乗り入れる車両はフル規格・ミニ新幹線の両論併記
この報告書の案(函館市案)の技術面における主な突っ込みどころは、
- ①「営業運転しながらの三線軌化」を簡単に採用している
- 資料のP75に「新幹線を函館駅に乗り入れる場合、軌道改良には三線軌条化と改軌が考えられる。改軌は、単線で上下在来線を入れるダイヤを組めないことなどから、工事の難易度は下がるものの採用をせず、三線軌条を基本として進めるものとした」とあるように、大きなコストと工期を要する工法をいとも簡単に推している。
- ②フル規格新幹線直通案を安易に「実現可能」としている
- 特に、改軌するとしても新幹線より整備レベルが劣る在来線の線形で全長25mのフル規格車両が安全に120km/hの走行ができるのか、誰も知見を持っていない状況下で簡単に結論を出している。
- ③ミニ新幹線直通案にしても検討不足
- ミニ新幹線を直通させるためには、現在の北海道新幹線 新函館北斗~札幌間の設計変更が必要になる。また、既存の東北新幹線・北海道新幹線のホームドア等の改修費用も必要になるのだが、両方とも何も言及していない。
- ④信号関係の設備改修についての検討が浅い
- 資料のP77で「現在の上り線に対し、三線軌条化とし新幹線等車両は単線(往復)運転となるため、信号設備の改良・増強が必要となる。併せて、現行の運行管理システム(指令)の改修も必要となる」と触れている程度で、他のページでもわずかに言及しているのみ。
- ⑤函館~新函館北斗間において新幹線列車が交換不能
- 同区間の所要時間を15分とみても運転間隔は2往復/hが限界。新幹線直結路線としてはダイヤ乱れに弱すぎる。
そこで、本稿ではこの函館市案の対案として、
- ①在来線と新幹線を極力分離する
- 下り線単線運転、上り線を使用停止の上で改軌(案によっては一部三線軌を使用)する設備構成案とする。単線運転で現行ダイヤと同等の利便性が確保できるか、についても検討した。
- ②フル規格新幹線案は非推奨とする
- 一応考察はするが、技術面で疑問符が多すぎる。
- ③ミニ新幹線直通案に絞る
- 東京方面から直通する列車の分割・併合は盛岡駅とする。そのため、JR北海道・JR東日本との関連も検討した。
- ④信号システムの改修についても検討
- 「一部に三線軌を採用するが信号設備のコストが大きくなるA案」と「三線軌を採用せず、七飯~北斗間の線増が必要になるが信号設備のコストが(B案に対して)小さくなるB案」の2案を提示し、さらに追加検討を行った。
- ⑤途中に新幹線用の交換設備を設ける
- ダイヤ乱れへの耐性を向上させた。
という案を提示します。
3.車両および運転形態
3ー1.車両
函館市は、千代田コンサルの報告書を受けて、フル規格10両編成で函館駅への新幹線乗り入れを基本方針としているとのことですが、筆者の見たところ、フル規格車両乗り入れ案とミニ新幹線車両乗り入れ案を定性的に比較すると↓の表のようになります。
| 項目 |
フル規格車両直通案 |
ミニ新幹線車両直通案 |
| 建築限界 |
新幹線フル規格寸法に拡大が必要(三線軌の場合は片側に、改軌の場合は両側に) |
在来線寸法のままでOK(軌道中心線を変更しないなら) |
| き電電圧への対応 |
フル規格車両は25kVき電対応のため、在来線の20kVで走行できるかどうかは確認されていない |
山形・秋田新幹線の車両は25kV/20kV両用車として建造されている(主変圧器一次側の入力電圧のタップも切り換えていない) |
| 信号保安装置 |
DS-ATCのみを搭載しており、在来線用のATS-Pを搭載するには車両改造が必要 |
山形・秋田新幹線の車両はDS-ATC、ATS-Pの双方を搭載している |
| 列車無線・防護無線装置 |
新幹線用のデジタル列車無線のみを搭載。在来線用の無線装置を搭載するには車両改造が必要 |
山形・秋田新幹線の車両は新幹線・在来線用のデジタル列車無線を搭載している。函館新幹線を実現するには函館本線用の無線装置を追加搭載する必要がある |
| 在来線規格の線路を走行することに対する安全性 |
軸距2500mm、台車中心間距離17,500mm、連結面間距離25,000mmであり、この寸法の車両で在来線の線路を走行させた場合の安全性は確認されていない(走行試験が必要) |
E6・E8系は軸距2500mm、台車中心間距離14,150mm、連結面間距離20,500mmであり、この寸法の車両で在来線の線路を走行させた場合の安全性は実績をもって確認済みである |
| 運転最高速度 |
現状のE5系の運転最高速度は320km/h、ALFA-Xの開発目標速度は360km/h |
現状のE6系の運転最高速度は320km/h、ALFA-Xの新在直通型は建造されていない |
| 総合評価 |
フル規格新幹線車両を在来線区間に走行させるにあたり、工事完了後に走行試験が必要(うまく行かなかった場合はミニ新幹線に切り換えるが、無駄になるコストがある)。また、車両側に新規設計項目がある |
ミニ新幹線車両を在来線区間を走行させるにあたり未確認項目や新規設計項目は無い |
…ということで、筆者はミニ新幹線車両での乗り入れを推します。
車両は「こまち」と共通仕様の7両編成(E6系またはその後継車(E11系と想定されています))。「函館新幹線」向けの新規設計要素が無いので車両建造費をコストダウンできます。また、現在の狭軌の軌道中心をそのままに標準軌に改軌する(上り線を使用停止して改軌工事を行う)ことで、建築限界に関する種々の課題が一挙に解消します。
以下、本稿ではミニ新幹線車両が乗り入れる在来線区間を「ミニ新幹線区間」と呼びます。
3-2.駅と名称
ミニ新幹線には函館・五稜郭・七飯の3駅を設けます。七飯駅は、七飯町の代表駅として、社会科的に必要でしょう。北海道新幹線との接続駅となる現新函館北斗駅は、新幹線に"函館"と付く駅が二つあるのは混乱のもとになること、また、北斗市への手土産として、ミニ新幹線開業に合わせて北斗駅(仮称)に改称します。以後、新函館北斗駅は、単に「北斗駅」と記載します。
3駅には新幹線専用の改札を設けます。また、3駅とも駅舎からミニ新幹線ホームに直結できます(3駅とも上り線側に駅舎があり、上り線をミニ新幹線化するから。詳細は後述)ので、「函館新幹線」に起因してエレベーターやエスカレーターを整備する必要はなく、コスト面での恩恵があります。
3-3.運転形態(新幹線側)
3-3-1.ミニ新幹線の連結順序の問題
東京~盛岡間はミニ・フル併結(フル編成は盛岡で切り離す)、盛岡~北斗~函館間はミニ単独とします。東北新幹線盛岡以北と北海道新幹線はフル規格車両10両編成に対応した設備であり、ミニ・フル併結での運転はできません。
函館新幹線の妄想においては、函館~北斗~札幌間の道内便もミニ新幹線とします。特急「北斗」が現行ダイヤで5~6両が標準であり、ミニ7両で道内需要は十分賄えると思われます(新幹線による需要誘発分に関しては増発で対処します)。車両は「こまち」と同仕様ですから運転最高速度は320km/h。
運転本数は、千代田コンサルの報告書では東京便が5往復(その他区間便あり)、札幌便が8往復と想定していますが、これはまあ妥当でしょう。
ミニ新幹線方式の問題点は…現状の東北新幹線の(下り列車で)ミニ前+フル後 の連結順序が、「函館新幹線」で本来実現したいダイヤと合わないことです。本当なら、下り列車でフル前+ミニ後の編成順序として、前のフル編成を再速達で札幌へ直通させ、後のミニ編成を盛岡で切り離して、いわて沼宮内・二戸・七戸十和田・奥津軽いまべつ・木古内各駅の需要を拾って北斗から函館に直通する、というダイヤにしたいところですが、そのようにできません(もちろん、社会科的観点からレコードホルダー的な最速達便も設定しますが)。
なぜ山形・秋田新幹線が今の連結順序になっているのか、と申しますと…
- (所要時間の長い)在来線直通列車の福島・盛岡駅における停車時間を短縮して、山形・秋田方面との時間短縮効果を稼ぐ。
- 特に、秋田新幹線ができたときには東北新幹線は盛岡以北が開業しておらず、下り列車の盛岡到着後にフル編成を残してミニ編成だけが秋田に向かう、という構図にしなければならなかった。
- 在来線列車は自然災害や踏切障害などの輸送障害リスクが大きいため、在来線からの上り列車が遅れて福島・盛岡駅に到着しても、併結相手のフル編成を先に行かせて、フル編成の乗客が遅延の巻き添えになるのを防ぐ。
- 逆順で連結すると、ミニ編成が到着するまで、フル編成が福島・盛岡駅の手前で待たされることになる。
といった理由があり、合理的に考えられてはいるのですが、(下り列車で言えば)途中で切り落としたミニ編成でローカル駅の需要を拾っていく、という使い方には合致しないのです。
この問題(函館新幹線のミニ編成の理想的な連結順序が、山形・秋田新幹線の実態と合わない件)を解決するには、盛岡以南の東北新幹線各駅を(下り列車で)フル前+ミニ後の編成にも対応できるように車両の連結器と制御装置(つまりE5(E10)系・E6(E11)系の両先頭車に併結用連結器を装備する)、ホームドアと信号設備を改修することが考えられます。が、そのコストはおそらく「函館新幹線」の本体工事費を凌駕する規模になるでしょう。
また、長年JRE関係者および乗客に根付いた「ミニ新幹線は北寄り」という慣習をひっくり返すのは、旅客案内上の混乱も大きいです。号車番号はどのように付与するのか…まさか10~1号車の後に17~11号車を連結することもできないでしょう。
3-3-2.運転パターンで問題を解決する
そこで、より現実的な解法として、↓の図のパターンAのように、(下り列車で)はまなす(東京~北斗~函館間の列車を仮にこう呼びます。以下同様)+はやぶさの列車を盛岡駅で分割後、先行したミニ編成を二戸に、後続のフル編成をいわて沼宮内に千鳥停車させ、八戸駅ではまなすをはやぶさが通過で追い越すという運転方法が考えられます(旅客案内が判り難くなるので、はやぶさは停車させるべきではない)。
上り列車であれば、はまなすが八戸駅で後続のはやぶさを待避し、はやぶさはいわて沼宮内、はまなすは二戸に千鳥停車させて、盛岡駅ではやぶさの後ろにはまなすを併合します。
図1-3-1 はやぶさ号とはまなす号(仮称)の併結運転の案
また、↑のパターンBは、はまなすの最速達便(いわゆるレコードホルダー)を運転する際のパターンで、いわて沼宮内・二戸・八戸・七戸十和田の4駅と東京を直結するはやぶさ(いわゆる地元対策列車)と組み合わせます。このはまなすは、本州から札幌を目指す乗客が座席を占有しないようにするため、北斗で札幌方面に向かう列車には接続させません。
さらに、↑の案では、函館~札幌間の道内便としてニセコ(仮称)を設定しています。ニセコは、北斗駅で速達型のはやぶさと接続して、道内の各駅とのアクセスを確保します。下りの速達はやぶさと上り(函館行)のニセコが接続する、というダイヤにできればなおベターですね。
接続ができないときは、東京⇔札幌間の上下列車の北斗駅発着にタイミングを合わせて函館~北斗間の短距離列車をミニ新幹線で運転することも考慮します。
3-4.運転形態(在来線側)
北海道新幹線札幌開通後、函館本線は北斗~長万部間の旅客営業を廃止して貨物専用鉄道とする方向で関係者間の協議が進んでいます。その場合、函館~北斗間のローカル電車2~3往復/hに加えて貨物列車を一日25.5往復運転(これは現在のダイヤでの話)することになります。
ただし、これは開業後の姿であって、その前日までは特急「北斗」やDCローカル列車も運転しており、上り線の改軌工事を行っている間、函館~七飯間が現下り線のみの単線の状態でこれらの列車を全て捌かねばなりません。つまり、もっとも詳細で困難な検討が必要なのは、改軌工事中のダイヤということになります。しかし、千代田コンサルが作成した報告書では、前述しましたようにP75でこの点の検討をさっさと諦めているわけです。
今回、筆者はこの単線化・改軌工事中のダイヤを検討し、一応それは可能という結論を得てはいるのですが、このページの構成上、
工事中ダイヤについては後述します。
なお、函館新幹線の各種検討においては、実は木古内~五稜郭間の津軽海峡線(旧江差線)区間が密接に関係してきます。ここでは、現行(2023年3月改正ダイヤ)と同じ函館~木古内間9往復、函館→上磯9本、上磯→函館7本(本数差が発生するのは回送列車が存在するため)のダイヤを維持するものとします。
4.線路配線
函館~七飯間は狭軌在来線と標準軌ミニ新幹線の単線並列とします。現在の上り線をミニ新幹線用に標準軌化し、現在の下り線の単線(狭軌のまま)で在来線列車を運転します。下り線側をミニ新幹線用にすると五稜郭駅構内の改修工事量が非常に大きくなるため、これは誰もが考えてもそのようにするでしょう。
上り線のミニ新幹線化について、以下にA(三線軌道区間を設ける)・B(狭軌在来線と標準軌ミニ新幹線を分離する)二つの案を述べます。なお、両案に共通する事項は以下のとおりです。
- 函館駅
- 現在の1・2番線(非電化)のホームを改修し、電化したうえでミニ新幹線専用とする。
- 五稜郭駅
- 現在の3・4番線を撤去後に改修してミニ新幹線専用とし、切り欠きホーム(2番線)を設けて上下列車の交換を可能とする。直線側(1番線)を下り(函館→北斗)用、2番線を上り(函館←北斗)用として2番線の北斗側には安全側線を設けない。函館側は過走余裕距離を確保して安全側線を不要とする。
- 大中山駅
- ミニ新幹線が通過する上りホームを撤去する(駅舎・跨線橋と接続している部分は除く)。現下りホームのみで上下のローカル列車の乗降を取り扱う。
- 七飯駅
- 現在の1番線(上り)ホームを改修し、ミニ新幹線用ホームとする。現2・3番線で上下のローカル列車の乗降を取り扱う。
- 北斗駅
- ミニ新幹線列車は新幹線駅に発着し、狭軌線列車は在来駅に発着する。福島駅・盛岡駅のような、ミニ新幹線列車を在来駅に発着させる設備は設けない。
- 藤城線
- 狭軌線単線化後のダイヤでは一部の上り列車を藤城線経由としなければならないため、上り列車を通せるようにするための信号設備改良を行う(災害時に実績があり、すでにそうなっていると思われるが)。
- 七飯~北斗駅間
- 25kV/20kVの異電圧デッドセクションを設けて、新幹線/ミニ新幹線の分界点とする。分界点から新幹線側は、フル規格の建築限界で建設する。これは、新幹線側から分界点までは新幹線用の保守用車を入線させるため。
4-1.A案(三線軌道区間を設ける)
A案は、用地買収や設備改修量を徹底的に削減するかわりに、部分的に三線軌道を採用するものです。三線軌道では、分岐器がメンテナンスや除雪などの面で問題になるのですが、三線分岐器は桔梗駅2、七飯駅1、北斗駅1の計4箇所となり、函館市案の10箇所超に対して有利になります。ただし、ミニ新幹線を使用開始した後のオペレーションは、少々面倒なものになります。その理由は、
信号設備の項目で解説しておりますが、筆者としてはあまりお奨めできかねる案です。
4-2.B案(狭軌在来線と標準軌ミニ新幹線を分離する)
B案は、ある程度の用地買収・設備改修はやむなしとして、その代わりに三線軌道を排除します。すなわち、在来線設備とミニ新幹線設備を少なくとも信号保安設備としては分離し(電力設備や踏切は分離できないが)、ミニ新幹線使用開始後のオペレーションを単純化します。筆者はこちらの案を推します。
5.電力設備
5-1.電車線路設備
- ミニ新幹線区間は五稜郭SSの20kV電源でき電します。七飯~北斗(幹)駅間に新幹線の25kV電源と区分するためのデッドセクションを新設し、ミニ新幹線と北海道新幹線の指令統制権の責任分界点とします。
- 函館駅の1・2番線は現状では非電化であり、配線変更と同時に電化工事が必要です。五稜郭駅は駅舎から3・4番線までを撤去して配線変更を行うため、その際に支障移転工事と本設化工事を行います。
- A案の三線軌道区間においては、電車線の偏位が狭軌・標準軌双方の軌道中心線から±250mmの範囲に入るように調整が必要であり、調整だけでは済まない場合は支持物を増設して径間を短縮するところが出てくるでしょう(これは詳細設計で判る)。また、桔梗駅の前後に狭軌線用の上下わたり線を新設するため、電車線設備の改修工事が発生します。
- B案では三線軌道は無いので偏位に起因する支持物施工は発生しませんが、桔梗駅と七飯駅の配線変更に伴って電車線路設備の大規模な改修が必要になります。
- ミニ新幹線のランカーブは現在のはこだてライナーと同等にする(踏切の鳴動時間を変化させない)ため、現行のシンプル架線(ちょう架線:St90 9.8kN、トロリ線:GT-Sn110 9.8kN)を改修して集電性能を向上させる必要は生じません。
5-2.配電線路設備
- 五稜郭SS~北斗(在)間には単相1回線の6.6kV配電線路設備があるので、電車線路設備の改修に応じた施工が発生します。
- A案では、七飯~北斗(在)間では在来線と新幹線の間に並んでいる配電線用の単独柱が新幹線~在来線の連絡線新設に支障するため支障移転工事が必要です。また、桔梗駅に分岐器が4箇所(うち2か所は三線分岐器)、七飯駅構内に三線分岐器を1箇所、北斗駅(在)構内に三線分岐器を1つ設けることになるので、電気融雪器・制御盤・電源用変圧器を新設します。
- B案では、桔梗駅の現下りホームを島式化する際に、下り線側を通っている配電線が支障するので支障移転工事が必要です。また、桔梗駅に新設する分岐器(2か所)用の電気融雪器関係の設備を新設します。
- 既存の配電線路で容量が不足する場合は太線化が必要です。五稜郭SSの変圧器が容量不足になるレベルになると、変圧器の取り替えには巨費を要する(同SSはき電用主変圧器の三次巻線から三相6.6kVを取り出すようになっている)ので、容量増を回避するには、電気融雪器ではなくガス融雪器(都市ガスかプロパンガスを熱源とする)や熱風融雪器(灯油を熱源とする)の採用も考えなければならないでしょう。融雪器は、分岐器不転換が発生すると新幹線の運行に直接影響を与えかねませんが、ランニングコストが非常に大きいため、融雪能力と信頼性とオペレーションの観点から綿密な検討が必要です。とは言え、函館市案で全ての三線分岐器にスノーシェッドを設けるようにしているのは、流石にコスト高に過ぎるでしょう。
5-3.電灯電力設備
本稿の案では、函館・五稜郭・七飯の各駅は現状の電灯電力設備の容量の中で改修できると考えられます。ただし、五稜郭・七飯の両駅について、新幹線直通化を機に、駅舎から在来線用島式ホームへのアクセス改善のためエレベーターを新設する、といったオプション的な工事をする場合は、受変電設備の増強が必要になります。
5-4.変電設備
き電系統
現状、道南いさりび鉄道および函館本線函館口はATき電方式で電化されています。「函館新幹線」に関係する変電ポストは、函館ATP、五稜郭SS、新函館北斗ATPの3箇所です。現状では函館~新函館北斗間のうち函館~七飯間は複線ですが、き電系統的には上下線のき電回路は共通であり、下り線を在来線用の単線、上り線をミニ新幹線用の単線としても、それぞれ個別にき電停止できるようにするにはコストがかかり過ぎます。よって、A案・B案共に、き電系統の分離は行わず、き電系統に関わる施工は線路配線変更に伴う電線の繋ぎ変え程度に留めます。
以下に、き電系統図を示します。フル規格新幹線区間の上下線のき電系統の区分を省略しているほか、一部は推定で描いておりますのでご注意ください。
図5-1 現状(2025年11月時点)のき電系統図
五稜郭SSについて
2025年11月現在、道南いさりび鉄道および函館本線函館口の電化区間に電力を供給する変電所は五稜郭変電所(SS)のみです。同SSは1988年の江差線電化(つまり津軽海峡線建設)時に新設されたときは容量30MVAの主変圧器が1基あるのみで、同SSが脱落した際は、青函トンネル内にある吉岡SSからき電電圧20kV×2(在来線のATき電だから)で木古内SPで延長き電をかける、という運用で冗長性を確保していました。
その後、2016年に五稜郭~新函館北斗間の電化に際しては、吉岡SSのき電電圧が新幹線用の25kV×2にアップされたため、五稜郭SSの主変圧器が脱落した際に備えて以下のような代替電源確保の方策が採られました。
- 木古内~五稜郭間の電源は、木古内き電区分所(SP)に、25kV×2を20kV×2に降圧するダウントランス(容量7.5MVA)を設けて、吉岡SSから延長き電で確保する
- 函館~新函館北斗間の電源は、五稜郭SSに受電系1回線と予備のき電用変圧器(容量7.5MVA)を増設して確保する
このため、五稜郭SSは他の交流き電用変電所とはかなり異なる主回路構成になっています。
ところで、現在、五稜郭SSはDIR(旧江差線)区間38kmを走行する貨物列車と、函館本線函館~新函館北斗間18kmを走行する旅客電車に電力を供給しています。そこに、ミニ新幹線が2本(五稜郭駅で進路交換できるから)が加わっても大丈夫なのでしょうか? 例の報告書ではこのあたりは触れられていません。
ATき電区間で、電機牽引の貨物列車、ローカル電車およびミニ新幹線電車に電力供給している変電所としては、他に秋田SSが考えられます。秋田SSは羽越本線仁賀保~秋田間57km(ローカル電車、特急「いなほ」および貨物列車)と奥羽本線院内~秋田間105km(ローカル電車と「こまち」)が通常のき電区間であり、五稜郭SSより3倍弱の区間長でありながら主変圧器容量は同じ30MVAです。少々荒い考察ですが、五稜郭SSにはミニ新幹線に電力を供給する余力は十分ある、と考えられます。
ただし、函館ATPと新函館北斗ATPのATの容量はよくわかりません(在来線用のATは1.5~3MVAが多い)。函館ATPは、かつて函館駅まで電機牽引の寝台特急が乗り入れていたことを考えるとAT容量はそれなりに確保されていると思われますが、新函館北斗ATP側は負荷として733系3両編成を最大4本(=投入された編成数)想定すれば十分であるため、より容量の小さいものが選択されている危険性があります。が、ATはあまり小さな容量のものを特注で作るとかえって高価になり、直近上位の一般的な容量の製品を選択するのが通常ですから、そこに供給余力を見出すことはできるでしょう。このあたりはJR北海道からの資料提供が必要です。
6.信号設備と運行管理システム
図6-1↓に、現状の函館付近を中心とした信号システムの概念図を示します。
「函館新幹線」は、関係する鉄道事業者と信号システムが複雑に絡み合っている点がプロジェクト実施上のネックになります。山形・秋田新幹線では、JR東日本の新幹線総合システムCOSMOSと、直通先の在来線のCTCおよびPRCとの連携のみを考えればよかったのですが、函館新幹線では、COSMOSとJR北海道のCYGNUS、道南いさりび鉄道(DIR)の江差線PRC(五稜郭駅は表示駅なので同駅の信号設備を改修するとPRCも改修対象となる)、JR北海道の函館本線PRCと函館駅(CTCの制御下に無い)、JR貨物が管轄する五稜郭機関区が関係してきます。
信号システムを「函館新幹線」に対応させるためには、これら新幹線運行管理システム、在来線のCTC・PRC、駅の連動装置・PRC等を全て改修しなければならず、これには莫大なコストと工期を要するわけですが、函館市の検討はこのあたりが非常に浅く、残念ながら実現性を欠いています。図6-2は「函館市案の線路配線で函館新幹線を実装するとすれば信号設備はこうなる」という概念を示したものですが、これは千代田コンサルの報告書には無く、筆者が起こしたものです。
図6-2 函館市案により想定される信号システムの概念図
ここから、現状の信号システムを、前述したA案・B案ではどのように改修していくのかを考察してみましょう。
A案では、桔梗駅の上り線を三線軌化して、在来線列車を現下り線で単線運転する際に必要になる交換駅を確保します(用地買収や既存設備の支障移転を最小限にする)。また、七飯~北斗(在)間を三線軌化します。このため、桔梗・七飯・北斗(在)駅では狭軌の在来線列車と標準軌のミニ新幹線列車を同一の連動装置で制御しなければならず、この3駅は現行の函館本線PRCの制御下に置きます。単線化後に必要になる、藤城線の双方向運転化の信号設備改良も施工します(すでにそうなっていると思われますが)。
函館駅・五稜郭駅にはミニ新幹線専用の連動装置を(在来線とは別個に)設け、JRHのCYGNUSと直接連携する在来線側の信号システムを1つのみにする観点から、この函館(幹)・五稜郭(幹)駅も函館本線PRCの制御下とします。
図6-3 A案により想定される信号システムの概念図(STEP1)
図6-4 A案により想定される信号システムの概念図(STEP2)
つまり、現状では函館本線PRCは七飯~森間を制御範囲としているのに対し、函館(幹)・五稜郭(幹)・桔梗の3駅を加えることになります。さらに、北斗(在)では、北斗(幹)との間でミニ新幹線列車を出入りさせるため、函館本線PRCに、CYGNUSの間で列車番号をやり取りする機能を追加しなければなりません。
また、函館~七飯間の各駅は、在来線を単線運転するため連動装置の改修が必要で、これが「函館新幹線」の工事工程の前半に来るため、単線運転に備えて、現在列車を運転しているJRH・JRF、将来の在来線経営移管の受け皿となるDIRの三社間の合意形成と、それに基づく連動会議の開催(これで連動装置の改修内容が決定される)を急がねばなりません。駅の連動装置の改修に伴い、その上位システムである江差線PRC(五稜郭(在)で関係する)と函館本線PRCの改修も必要になります。
すなわち、函館本線PRCは、函館~七飯間単線化・藤城線双方向運転化に伴う改修(STEP1)と、ミニ新幹線開業に備えた函館(幹)・五稜郭(幹)の被制御駅追加&CYGNUS連携機能追加 (STEP2)の2回の改修をすることになります。システム改修量が非常に大きく、おそらく中央装置を置き換えなければならないでしょう。このコストは大きく、工期も長くなります。
通常の運行管理の面でも、三線軌区間が存在する関係上、在来線列車とミニ新幹線の運行管理は相互に影響を与えることになるので、輸送指令は駅扱いの函館(在)・五稜郭(在)と電話連絡で運転整理を行いつつ、函館本線CTCを操作してミニ新幹線と在来線列車を制御するという複雑な仕事を強いられます。これがA案の欠点となります。
6-2 B案
B案は、函館~七飯間を下り線のみで単線運転すること、藤城線を双方向運転化することはA案と同じですが、
- 桔梗駅は下りホームを島式化して交換設備を新設(用地買収と支障移転工事が増)。上り線は一時使用停止して改軌
- 七飯~北斗間の配線を変更し、ミニ新幹線専用の標準軌線路を七飯駅の上り線に接続する形で新設。それに伴って七飯駅の配線を改良する(用地買収と支障移転工事が増)。
ということで、プロジェクト開始後真っ先に用地買収が必要になりますが、信号システムの改修量を最小限にし、三線軌区間を設けず、上り線(ミニ新幹線)の改軌工事の工期を短縮するなどの効果があります。
図6-5 B案により想定される信号システムの概念図(STEP1)
図6-6 B案により想定される信号システムの概念図(STEP2)
特に、信号システムとしては、まず、函館~七飯間単線化・藤城線双方向運転化に伴う連動改修を行い、桔梗駅を函館本線PRCの被制御駅として追加するところはA案と同様ですが、函館本線PRCに対する改修はこれだけです。
また、ミニ新幹線側では、北斗(幹)駅の隣接駅は(B案ではミニ新幹線の七飯駅は停留場であるから)五稜郭(幹)、その隣接は函館(幹)となり、両駅とも配線的には極めてシンプルですから、CYGNUSにこの両駅の連動装置を制御させることもできるでしょう。ただし、JRHの新幹線指令が両駅を統制下に置くことはあり得ず、あくまで輸送指令の統制権はミニ新幹線を運営するDIRにあるので、DIRの指令に両駅の進路制御のみができるCYGNUSの端末を配置しておくことになります。つまり、DIRの指令は両駅をCYGNUSを介して進路制御するわけです。
「函館新幹線プロジェクト」の最大のネックは、A・B案共に、五稜郭駅(在)と七飯駅の連動変更です。B案では七飯駅の線路配線を大きく変更しなければならないので工事量がさらに大きくなります。これはB案の難点と言えます。
現行ダイヤでは両駅の信号現時停止間合が皆無に近いので、信号機器室を新設し、新旧の連動装置を切り換えて現地設備との接続試験を繰り返す方法で施工せざるを得ないでしょう。函館駅は現時停止間合が長い(夜行列車や貨物列車が定期で来ないから)ので施工環境は比較的良好です。
「函館新幹線」プロジェクトで真っ先に手を付けるべきは、函館~七飯間単線化に伴う線路配線・連動図表の確定と、信号機器およびソフトウェアの製作であると言えます。
6-3 信号保安装置
今回の「函館新幹線」の妄想では、車両は「こまち」と共通化する前提ですので、在来線区間用の信号保安装置はATS-Pということになります。一方、函館本線函館~長万部間の(2025年11月)現在の信号保安装置はATS-Dnという、ATS-Snと車上データベースを組み合わせたパターン制御型ATSが使用されています。A案の場合、三線軌区間では、ATS-P搭載のミニ新幹線とATS-Dn搭載の在来線列車(DIRが運転するローカル列車と、JRFが運転する貨物列車)が同じ線路上を走るため、両方の地上子を設けなければならないでしょう。B案の場合は三線軌区間が無いので、在来線はATS-Dn、ミニ新幹線区間ではATS-Pと綺麗に分離できます。
なお、A・B両案とも、北斗(幹)新幹線との分界点において、車両側の保安装置をATS-PとDS-ATCで自動切換する装置を設けます。これも福島駅・盛岡駅にあるものと同じですから既存技術で対応できます。
6-4.踏切設備
函館~北斗間には現状で27か所存在します。上記のA案・B案は、いずれも複線用の踏切を単線並列対応にするため制御論理を改修しなければなりませんが、これにもかなりの手間とコストを要するでしょう。そのため、函館~北斗間の運転最高速度は変更せず、踏切の制御タイミングを変えないことで改修量を削減します。
山形新幹線では在来線区間の運転最高速度を130km/hに向上したことから、保安度向上のために踏切設備のグレードアップ(積雪時に目立つように門型化するなど)を行いましたが、函館新幹線ではそのようなコストアップ要素は排除します。
6-5.列車無線・防護無線
列車無線
A案・B案ともに、函館~北斗間においては、在来線・ミニ新幹線列車は同じチャンネルで輸送指令と通話する仕組みとします。ということは、ミニ新幹線車両にJR北海道の輸送指令と通話可能な列車無線装置を搭載しなければなりません。なお、ミニ新幹線列車は、七飯~北斗間の分界点を通過する際に自動的に在来線/新幹線の無線を切り換えられるようにします。
防護無線
「こまち」用のミニ新幹線車両にはすでに在来線用の防護無線が搭載されているので、特段の新規事項は発生しません。
6-6.指令
2025年11月現在で、道南いさりび鉄道(DIR)の指令設備はJR北海道の函館指令と共用しており、北海道新幹線札幌開業によって函館~長万部間がDIRに経営移管されれば指令設備も共用ではなく全面的に移管されます。函館新幹線の区間は、A案の場合は三線軌区間があるので、在来線とミニ新幹線の運行管理は一体で行わねばなりません。B案の場合は在来線とミニ新幹線の運行管理は分離できますが、き電回路・踏切は共用しているため、B案を採用する場合でも指令を分離することはあり得ません(運行管理は分離できても、統制権は分離できない、ということ)。
なお、指令内には、北海道新幹線の指令およびJR貨物の指令と直接通話が可能な通信回線やTV会議システムを整備します(JRHの函館指令にはすでに有るでしょうけどね)。
7.その他の設備
7-1.ホームドア
ミニ新幹線区間の函館・五稜郭・七飯の3駅にはホームドアを設けない方針です(山形・秋田新幹線の各駅にも無い)。また、今回の妄想案で、新たにミニ新幹線車両が走行することになるJR東日本のいわて沼宮内・二戸・八戸・七戸十和田・新青森、JR北海道の奥津軽いまべつ・木古内・北斗の既存各駅のホームドアを改修する必要が生じます。ただし、千代田コンサル案のフル規格10両編成直通案ならともかく、フル規格7+3両の分割編成を採用した場合にも同様のコストは発生します。
また、北海道新幹線札幌開業に向けて新設する新八雲(仮称)・長万部・倶知安・新小樽(仮称)・札幌の各駅のホームドアの設計も合わせて変更しなければなりません。函館新幹線に起因して追加的に必要になる設備は、当然ながら函館新幹線の整備費用から支出されるべきなのですが、同報告書はこの点にも触れていません。なお、
費用支出のスキームについては後述します。
各駅のホームドアの状況については表のとおりです。
既存各駅のホームドアは、ホーム柵とホーム端との間に1.5mの離隔を確保したタイプであり、多少の位置ズレを許容できるため、ミニ新幹線編成を停車させたときに車両の扉とホームドアの開口部が遠くなる箇所にのみドアを増設するという形で改修できます。
なお、各駅におけるフル規格新幹線電車(E5系またはE10系)とミニ新幹線電車(E6系またはE11系)の停車位置は、下り列車については頭合わせ、上り列車に対しては尻合わせとして「ミニ新幹線はホームの北側に停車する」という現状を維持します。
| 事業体 |
駅名 |
ホームドア改修数量 |
| JR東日本 |
いわて沼宮内 |
2線分 |
| 二戸 |
2線分 |
| 八戸 |
内側2線分(外側2線にはホームドアは無い) |
| 七戸十和田 |
2線分 |
| 新青森 |
4線分 |
| JR北海道 |
奥津軽いまべつ |
2線分 |
| 木古内 |
2線分 |
| 北斗 |
2線分(11番線は未成) |
| JRTT |
北斗 |
1線分(11番線:ホームドアを設けるか不明) |
| 新八雲(仮称) |
2線分 |
| 長万部 |
2線分(外側2線にはホームドアを設けない?) |
| 倶知安 |
2線分 |
| 新小樽(仮称) |
2線分 |
| 札幌 |
2線分 |
7-2.車両基地
函館車両基地をミニ新幹線車両の基地とします。山形・秋田新幹線ではそれぞれミニ新幹線区間内に車両配置箇所を確保するため既存車両基地(現山形・秋田新幹線車両センター)の大改造を行いましたが、函館新幹線ではその必要が無いので非常に有利と言えます。
ただし、検修庫にミニ新幹線車両に対応したパン点検台や列車停車位置目標を追加する等の工事は必要です。JR東日本の青森新幹線車両センターも同様です(函館新幹線用ミニ新幹線車両の入庫があり得るから。盛岡新幹線車両センター以南はミニ編成に対応済)。これから建設される札幌車両基地(札幌駅の旭川方)の設備もミニ新幹線対応の設備を追加する設計変更が必要になるでしょう。これらのコストも函館新幹線の整備費から支出されるべきものですが、この点も函館市の報告書からは抜けています。
7-3.保守用車
フル規格新幹線・ミニ新幹線の分界点のフル規格側は、フル規格寸法の保守用車を使用します。ミニ新幹線側は、在来線寸法の保守用車および軌陸車を使用します。なお、軌陸車については、車輪のゲージを現場で1435mm⇔1067mmで切り換えられるようにします(JREでそのような軌陸車を使用しています)。線路内に支障物が発生した際に、狭軌/標準軌のどちらの線路に載線させて復旧するか未確定な状況で軌陸車を出動させることが考えられるためです。
8.事業スキーム
北海道新幹線札幌延伸開業時(以下、DDayと呼びます)の並行在来線については、2025年11月時点では、函館~長万部間が「JR北海道から経営分離」したうえで、新函館北斗~長万部間が旅客営業廃止となる方向で関係者間協議が進んでいるそうです。以下、JRHから在来線の経営分離後の受け皿は「道南いさりび鉄道(DIR)」となるものとして、「函館新幹線」を新幹線札幌延伸と同時に開業する前提で、事業スキームをどのように構築すべきかを考察していきます。
8-1.登場する事業体
北海道新幹線札幌開業と同時に「函館新幹線」を開業する場合に、関連する事業体は以下のように想定されます。重要なのは、DDayまでは、函館新幹線のためのハードウェアを設計・施工するのは(資金の出し元は別として)JR北海道である、ということであり、これがJRHが本事業を「負担」としている大きな原因になっているのです。
| 事業者 |
本来の役割 |
函館新幹線の運営上の役割 |
| 道南いさりび鉄道(DIR) |
旧江差線、旧函館本線(函館~長万部間)の鉄道事業を行う |
函館新幹線の運転に必要な設備の保守、車両の保有・運用 |
| JR北海道(JRH) |
北海道新幹線の営業を行う |
開業前は、函館新幹線の運転に必要な設備を施工し、DIRへ引き渡す。開業後は函館新幹線と、ミニ新幹線列車の相互乗り入れを行う |
| JR貨物(JRF) |
JRHが営業する北海道新幹線の青函トンネル区間、およびDIRが営業する在来線区間に貨物列車を運転する |
函館新幹線の設備を施工するにあたり、五稜郭機関区および函館貨物駅の連動改修を行う。また、開業後は、DIRとのダイヤ調整等の利害関係者となる |
| JR東日本(JRE) |
東北新幹線の営業を行う |
開業前は、盛岡以北にミニ新幹線列車を走行させられるよう設備改修工事を施工する。開業後は、JRHを介して、DIRとミニ新幹線列車の相互直通運転を行う |
| 鉄道・運輸施設整備支援機構(JRTT) |
JREに東北新幹線 盛岡~新青森間、JRHに北海道新幹線 新青森~新函館北斗~札幌間の新幹線設備を貸し付ける |
北海道新幹線のなかで、函館新幹線に必要な設備を施工するにあたりDIRおよびJRHと設計協議を行う |
今回の検討では、「函館新幹線」は、北海道新幹線札幌開業(DDay)後に函館付近の在来線を営業するDIRを事業主体としています。つまり、DIRの株主の一人である函館市が八方手を尽くし資金をかき集め、DIRの株主総会で函館新幹線実現を目的とした増資が承認されなければなりません。それを原資として、DIRから本件に関係する各鉄道事業者に工事負担金・委託工事費(DIRから見れば「委託」になる)を支出する協定を締結することになります。「函館新幹線」は、この協定の仕組みが非常に複雑になるため、実現するには、十分な資金が手当てできたとしても、プロジェクト全体を見渡して管理できる体制を構築することが大きな課題となります。
その協定の仕組みを図式化したのが↓の図です。
8-2-1.DIR→JRHの工事負担金・受託工事費に関する協定
まず、函館新幹線を運営するDIRは、現に函館本線を運営しているJRHに対して負担金および委託金(JRHから見れば「受託金」になる)を支払う協定を結ばなければなりません。そのうえで、JRHが「函館新幹線」に必要な設備改修を施工します。その内容は↓のとおりで、番号は↑の図と一致しています。
- ①(受託金)在来線単線化工事費
- 函館~七飯間を現下り線のみで単線運転するために必要な、各駅の配線変更および連動改修の工事費。A案における三線軌道化の工事費も含む。この工事で完成した設備はDIR財産となり、使用開始後、DDayまでは、JRHはDIRの設備を借り受けて在来線を営業することになる。また、五稜郭駅の連動改修に伴い、同駅を表示駅としている津軽海峡線PRCを改修する。これはDIRの自社財産であるから改修工事は自社施工となる。
- ②(負担金)既存設備撤去費
- 上り線のレール取外し・枕木撤去工事費および函館駅1・2番線、五稜郭駅1~4番線、七飯駅1番線の線路・ホームの撤去工事費。これはJRHの財産の一部を撤去する工事であるから、DIRは負担金で撤去費を支出する。
- ③(受託金)ミニ新幹線設備新設費
- 函館~北斗間上り線の標準軌用枕木新設工事費とレール再敷設工事費、および函館・五稜郭・七飯駅のミニ新幹線用ホーム新設工事費・駅舎改修工事費。これらはDIRの財産となり、DDayの(目安として)半年ぐらい前に使用開始し、試運転や各種訓練を行い、DDayに営業の用に供することになる。つまり、DIRはDDay以前に、ミニ新幹線車両を運用できる体制を確立しなければならない。
- ④(負担金)北海道新幹線信号システム改修工事費
- 新函館北斗駅(幹)の信号設備および運行管理システムCYGNUSの改修に必要な工事費を、DIRが負担金を拠出しJRHが施工する。施工後は、整備新幹線設備に付属するJRHの自社増強設備として財産計上する。
- ⑤(負担金)北海道新幹線既存区間ミニ新幹線対応工事費
- 北海道新幹線の既開業区間である奥津軽いまべつ、木古内(幹)、北斗(幹)駅のミニ新幹線対応改修(ホームドアや停車位置目標など)、新幹線函館車両基地のミニ新幹線対応改修(パンタ点検台、各種治具、停車位置目標など)工事費。これらはJRTTの財産だが、すでにJRHが事業の用に供しているため、JRHがDIRからの負担金を受けて施工し、JRHの自社増強設備として財産計上する。
- ⑥(負担金)北海道新幹線新設区間ミニ新幹線対応工事費
- 北海道新幹線の未成部分である北斗駅11番線、未開業区間である新八雲(仮称)、長万部、倶知安、新小樽(仮称)、札幌駅および札幌車両基地をミニ新幹線に対応させるための設計変更と増強設備分(ホームドアや停車位置目標など)の追加工事費。現在JRTTが施工中の区間であり、今後必要になる追加工事費を、JRHがDIRからの負担金を原資としてJRTTに施工を委託する。追加的な設備はJRH財産として計上する。
このスキームの特徴は、DDayを境にJRHの在来線設備がDIRに移管(譲渡)されることを前提に、「函館新幹線」に直接関係するハードウェアを先行してDIR財産として構成することにあります。これは「(平成14年ごろの)函館駅改良工事で函館市がJRHへ負担金を支出したにも関わらず、その設備が並行在来線分離に伴ってJRHからDIRへ有償譲渡されることで、(DIRを介してではあるが)市が二重に金を払うという構図になる」という問題の二の舞を避けるためです。
この方法の欠点は、DDay以前に、函館~新函館北斗間で在来線をJRHが、ミニ新幹線をDIRが運転する、という状況が発生し、指令の統制権などの整理が必要になることです。DDay以後は、函館~北斗間は在来線・ミニ新幹線共にDIRの支配下となるので、DIR社内の実務上の問題となります。
8-2-2.DIR→JREの工事負担金に関する協定
- ⑦(負担金)東北新幹線ミニ新幹線対応工事費
- この協定は、JR東日本の いわて沼宮内・二戸・八戸・七戸十和田・新青森 の5駅(ホームドアと停車位置目標等)、および青森新幹線車両センターをミニ新幹線対応に改修(パン点検台、各種治具、停車位置目標等)する工事費に関するもの。整備新幹線区間であり本来はJRTTの設備だが、追加的設備はJREの財産として構成する。
8-2-3.DIR→JRFの工事負担金に関する協定
- ⑧(負担金)貨物設備改修工事費
- この協定は、JR貨物が函館貨物駅(=五稜郭駅構内のJR貨物財産部分)および五稜郭機関区構内のJRF財産部分の改修をJRHに委託する工事費の原資となる(財産はJRFに帰属)。JRFが自社で設計・施工・監理ができる場合はJRHへ委託する必要はないが、それだけのリソースを出すのはおそらくJRFには難しいと考えられる。
このスキームは、JRHおよびJREが盛岡以北でミニ新幹線車両を走らせるためのハードウェアの財産はそれぞれJRH・JREに帰属する、という考え方に拠っています。仮にミニ新幹線用の設備をDIR財産とした場合、「(盛岡以北で)函館直通以外の列車にミニ新幹線車両を充当するならDIRに設備使用料を支払え」といった面倒な話になるのを回避するためです。函館新幹線のために必要になるハードウェアではありますが、その機能維持に要するコストはJRH・JREがそれぞれ負担するわけで、「函館新幹線」を運営するDIRへの間接的な経営支援という形になります。
8-3.運転スキーム
DDay後は、北斗(幹)~函館間のミニ新幹線列車はDIRの運転士が操縦します。すなわち、函館直通のミニ新幹線列車は北斗(幹)駅で運転士が交代します。同区間は人件費削減のため車掌の乗務は省略したいところですが、ミニ新幹線列車にワンマン運転用の装備(各ドアの監視カメラのモニタ等が必要になる)を搭載するのはコスト増となるので、JREが「こまち」をワンマン運転化する(いずれ実施するだろう)際に乗っかるしかないでしょう。
なお、ミニ新幹線の運転士と在来線(ローカル列車)の運転士の行路は、それぞれ、ミニ新幹線のみ・在来線のみで完結するように組むべきでしょう。片方のダイヤ乱れでもう片方の乗務スケジュールまで巻き添えにする事態を避けるためです。
8-4.車両保有スキーム
ミニ新幹線の車両は、「函館新幹線に起因して追加的に必要になる編成」についてはDIR保有、それ以外の編成(北海道新幹線区間のみ運転する列車はミニ新幹線として、それに必要になる編成数)はJRH保有とします。DIR保有編成の運用・保守はJRHに委託し(函館車両基地で検査・修繕を行う)、JRHの編成と共通運用とします。よって、DIRの編成は東京まで乗り入れることが有り得ます。また、JREのミニ新幹線車両も函館に乗り入れ得るので、車両の使用料に関する契約はJRE・JRH・DIRの三者で締結します。このスキームにより、DIRは新幹線車両を運用する「JR以外の初の鉄道会社」ということになります(!)。かつて山形・秋田新幹線の車両をJREにリースする目的で保有していたペーパーカンパニーがありましたが、それとはわけが違います。
8-5.運賃・料金スキーム
北斗(幹)~函館間のミニ新幹線の運賃は、北斗(在)~函館間の在来線の運賃と同額にDIRが設定し、JR区間(すなわち新幹線区間)との通算はしません。グリーン料金は設定せず、ミニ新幹線は全車自由席の特急列車として運転し、DIR区間の指定券管理を行わないようにして座席をマルスに収容するコストを削減します。自由席特急料金は函館~北斗間で数百円程度と想定します。なお、グリーン車に乗車できるのは、北海道新幹線区間に跨って乗車する乗客のみです。
8-6.実務スキーム
実はこれが最も厄介です。DDayまでにミニ新幹線化の工事を施工するのは、安全管理上、現に設備を保有しているJRHでなければなりませんが、当のJRHは(函館新幹線について)「新たな負担」と言い放っているので、実現に向けた関係者間の超絶に煩雑な調整や管理業務を持ち出しで行うことはできません。
前述の建設資金スキームにおいて、DIRからJRHに支出する工事負担金・委託工事費には管理費が含まれており、管理費率を手厚くして、本来プロジェクトに意欲的でないJRHに対するインセンティブ(動機付け)とする等の配慮が必要でしょう。
9.施工方法
ここでは、函館新幹線を実現するまでの、在来線側に具体的な施工手順を検討します。北海道・東北新幹線の改修工事等はこれらと並行作業となります。
9-1.A案の施工手順
①単線化準備工事
函館~七飯間の上り線の改軌工事に備え、同区間を下り線のみで単線運転できるようにする準備工事を行います。具体的には
- (ア)函館・五稜郭・七飯駅の信号設備の改修施工 工事量が半端でないので、現行の連動装置の改修ではなく、別に新しい連動装置を設けて、現場機器側で切り換える方法を適用する。
- (イ)桔梗駅の上り線を三線軌化し、狭軌の上下わたり線を新設、同駅を連動駅化する準備
- (ウ)五稜郭機関区の連動改修(五稜郭駅の連動改修に伴うもの)
- (エ)海峡線PRCの改修準備(五稜郭駅の連動変更に伴うもの)
- (オ)函館本線PRCの改修準備(五稜郭駅の連動変更、桔梗駅の連動駅化に伴うもの)→PRC中央装置のリプレースを行う(この後に続く切換に対応させるため)
②藤城線双方向運転化切換、函館本線PRC改修
藤城線に上り列車も運転できるようにします(すでにそうなっているなら不要)。この段階で実施するのは、七飯~北斗間の線路の施工間合いを、上り列車を藤城線経由とすることで確保するためです。
③函館~七飯間単線運転化切換
函館~五稜郭~桔梗~七飯 を 区間を区切って単線化切換を行うと、区切りとなる駅が複数回の連動改修を行わねばならず、工期・コスト的に非常に不利になりますので、4駅を一撃で切り換えます。同区間内の踏切の改修もこの切換と同時施工となるので、多数の信号関係要員の確保が課題です。事実上、「函館新幹線」プロジェクト最大の山場となるでしょう。
④七飯~在来側分岐点間 三線軌化
この区間は線路を使用停止して施工できないため、夜間は、上りの貨物列車も藤城線経由として施工間合いを確保します。
⑤旧上り線の標準軌化(改軌)・駅改良
函館駅1・2番線、五稜郭駅3・4番線・七飯駅1番線をミニ新幹線専用に造り変えます。
⑥函館本線PRC改修
函館(幹)・五稜郭(幹)を被制御駅として追加します。
⑦北斗(幹)駅 連動改修・CYGNUS改修
ミニ新幹線用の到着・出発進路の追加、およびCYGNUSと函館本線PRCで列番情報をやりとりする機能の追加を行います。
⑧完成検査・試運転
運輸局による完成検査は、その時点で函館本線を営業運転しているJRHが受検します(北海道新幹線札幌開業の前に完成検査を受検しなければならないから)。試運転・訓練運転は、JRHからDIRへ出向or移籍する乗務員が行います。
⑨使用開始(DDay)
函館本線をJRHからDIRへ移管します。鉄道設備としての切換工事は発生しませんが、DDayの00:00をもって財産を移管し、指令の統制権を移譲するなどのセレモニアルなイベントは発生します。
9-2.B案の施工手順
B案では、七飯駅の配線改良工事が手順の前の方に発生する点がA案と異なってきます。
図9-2-1 B案における七飯駅線路配線改良の手順
①単線化準備工事
函館~七飯間の上り線の改軌工事に備え、同区間を下り線のみで単線運転できるようにする準備工事を行います。具体的には
- (ア)函館・五稜郭・七飯駅の信号設備の改修施工 工事量が半端でないので、現行の連動装置の改修ではなく、別に新しい連動装置を設けて、現場機器側で切り換える方法を適用する。
- (イ)桔梗駅の下りホームを島式化、ホームの西側に待避線(新下り本線)を新設し、下り線単線運転化後の交換駅とする準備をする。旧下り線は単線化後の上り本線とするが、下り本線・上り本線とも双方向に運転可能とする。
- (ウ)七飯駅の北部方の配線改良STEP1切換
- (エ)五稜郭機関区の連動改修(五稜郭駅の連動改修に伴うもの)
- (オ)海峡線PRCの改修準備(五稜郭駅の連動変更に伴うもの)
- (カ)函館本線PRC改修準備(五稜郭駅・七飯駅の連動変更、桔梗駅の連動駅化に伴うもの)
②藤城線双方向運転化切換、函館本線PRC改修
藤城線に上り列車も運転できるようにします(すでにそうなっているなら不要)。B案では、七飯~北斗(幹)間は新線を建設するので、この項目の重要性はA案よりも低いです。
③七飯駅の北部方の配線改良STEP2切換
STEP1切換で藤城線と本線が絞り込まれる配線となり、ダイヤ上の制約がキツくなるのでSTEP1から間を置かずに実施したいところです。
④函館~七飯間単線運転化切換、函館本線・江差線PRC改修
A案と同じ理由で、函館~五稜郭~桔梗~七飯 の4駅を一撃で切り換えます。同区間内の踏切の改修もこの切換と同時施工となるので、多数の信号関係要員の確保が課題です。このプロジェクトの最大の山場となります。
⑤七飯~北斗(幹)間 標準軌線路新設
ミニ新幹線用の線路を、在来線線路を跨ぎ越す形で新設します(これはプロジェクト開始直後から着手する)。この施工コストがB案の課題です。
⑥旧上り線の標準軌化(改軌)・駅改良
函館駅1・2番線、五稜郭駅3・4番線・七飯駅1番線をミニ新幹線専用に造り変えます。
⑦北斗(幹)駅 連動改修・CYGNUS改修
ミニ新幹線用の到着・出発進路を追加します。北斗(幹)駅の隣接駅は五稜郭(幹)、さらにその隣接駅は函館(幹)ですので、CYGNUSの中央装置で両駅を制御できるようにします。
⑧完成検査・試運転
運輸局による完成検査は、その時点で函館本線を営業運転しているJRHが受検します。試運転・訓練運転は、JRHからDIRへ出向or移籍する乗務員が行います。
⑨使用開始(DDay)
函館本線をJRHからDIRへ移管します。鉄道設備としての切換工事は発生しませんが、DDayの00:00をもって財産を移管し、指令の統制権を移譲するなどのセレモニアルなイベントは発生します。
今回の「函館新幹線」の実装に向けた検討の最大の山場が「函館新幹線直通用に上り線を使用停止して改軌している間、函館~七飯間を現下り線のみで単線化しても現行ダイヤと同等の輸送力・サービスを提供できるのか」という点です。冒頭で述べましたように、いわゆる函館市案は、この検討をあっさり放棄して、現上り線をちまちま三線軌化するという実現性の薄い案を提示しています。ここでは、2023年3月改正時点でのダイヤを基に、単線化した状況での想定ダイヤを構成してみました。
もちろん、素人がやっていることなので、各列車の速度種別や標準運転時分などの内部情報にはアクセスできませんから、駅間の所要時間や駅での停車時間など、時刻表やネット上の情報を基に検討しています。図版は、それぞれの上段が2023年3月改正ダイヤ、下段がそれを基に単線化を想定して再構成したダイヤです。ファイルサイズの関係上、4~16時と16~4時の2つの時間帯に分けています。最新ダイヤではないのが難ですが、これはあくまで「函館~七飯間を単線化しても、ダイヤは一応構成できる」ということを示す思考実験、ということでご理解ください。
図10-1 函館~七飯間単線化ダイヤ(4~16時)
図10-2 函館~七飯間単線化ダイヤ(16~4時)
検討上の基本的な考え方は以下のとおりです。
- 検討区間は函館本線函館~長万部間とDIR(津軽海峡線の旧江差線区間)木古内~五稜郭間。大沼以北の区間についてはローカル列車のみ記載した。
- 各列車(特に特急・貨物列車)は、長万部以北および木古内以南の時刻を変更しないようにした。
- 貨物列車の時刻変更と、函館~五稜郭間の単線化に伴い、津軽海峡線の旧江差線区間の見直しも行った。
- 新函館北斗で接続する新幹線の時刻も変更しない。
- 旧江差線区間のローカル列車の運転本数(全区間運転9往復、区間運転7往復)は変更しない。
- 函館本線の気動車ローカル列車は、函館の車両基地に出入りする都合のある列車以外は新函館北斗以北の運転とし、一部列車を廃止する(ダイヤ内で薄いオレンジになっているスジ)。
- はこだてライナーの運転時刻は、現ダイヤと同じ時間帯に同程度の輸送力を確保するが、運転時刻は全面的に見直す。単線区間に起因して所要時間が延びるのは致し方無し。
- 藤城線は上り列車も運転可能な信号設備に改修済みという前提。
- 函館~七飯間は同方向に続行運転が可能な自動信号方式とする(特殊自動閉塞等のグレードの低い設備では構成不可能)。
- 桔梗駅は交換駅化し、(A案・B案とも)上下線ともに両方向に発着可能とする。
- 五稜郭駅では、函館行列車は5番線発着、下り列車(函館→長万部方面)およびDIR旧江差線列車(函館→上磯・木古内方面)の列車は6番線発着、貨物列車は7・8番線発着とする。
…このように、検討結果では函館~七飯間は単線化しても一応ダイヤは成立し得ます。
しかし、問題はむしろ、単線化に至るまでの信号設備改修工事ができるのか?という点です。ダイヤを概観すると、五稜郭駅構内の信号現示停止間合は、01:55~02:30の35分程度しか無く、これでは何もできません。23~01時台の北行をもっと早い時間帯に、02~05時台の南行の貨物列車をもっと遅い時間帯にまとまって走るようにスジを動かして、施工間合を長く確保する必要があります。ただし、これは全国ネットの貨物ダイヤを激変させる話であり、影響はヘタすると東京・大阪・福岡にまで及びます(もちろん北海道・東北新幹線にも影響する)。
このように、函館新幹線というプロジェクトは、山形・秋田新幹線とは比較にならないほど難易度が高いのです。
五稜郭駅の信号現示停止間合の延長はなんとかして実現するにしても、函館新幹線を推進する側の自助努力、すなわち同駅の連動改修工事の施工量を極力低減する工夫が必要となります。
在来線を単線化した場合の検討で、改めて五稜郭駅の連動改修の困難さを認識したところで、さらなる改善を考えます。
五稜郭駅は、隣接駅が函館駅、JRF函館貨物駅(同駅構内扱い)・DIR七重浜駅・JRF五稜郭機関区(同駅構内扱い)・JRH七飯駅…と、信号設備的にはかなり複雑です。特に函館本線の長万部方を現下り線のみで単線化するとなると、上り線廃止に伴う到着進路・入換進路の廃止と、現下り線からの到着進路の新設(場内信号機の新設を含む)、それに伴う各進路のてっ鎖条件の変更…と、設備改修量が膨大になってしまうのが大きな課題でした。
それを考えると、上り本線を三線軌化する(つまり上り線に下り列車も走行できるようにする)函館市案の連動改修量は、それをさらにぶっちぎりに上回るものとなり、コスト・工期共に到底現実的な案とは言えません。

そこで、連動改修を小規模で済ませるには、
五稜郭駅の終点方については、函館本線を複線のままとして上り本線(4番線)を維持すれば、1~3番線の廃止に伴う進路廃止のみで済むようにできるであろう…というのがこのD案の狙いです。C案はフル規格新幹線乗り入れ案として検討していたものなので飛ばしています。D案のベースは、三線軌区間を完全排除する
B案がベースです(だからB’案と言った方が妥当かもしれない)。
D案では、上り本線(4番線)から函館方下り線に出発するためのわたり線を新設します。本当は函館~五稜郭間も複線を維持できれば良いのですが、さすがにこの区間は函館の市街地で、新たにミニ新幹線用の標準軌線を増設するのは無理が有り過ぎます。
問題は、五稜郭駅以北の函館本線をどこまで複線として維持するか、ですが…。五稜郭機関区の北側で上下線が絞り込まれる地点に、現下り線(単線化後の本線)から上り線に転線する分岐器を新設し、そこに昭和信号場という信号場を設けて、五稜郭駅の隣接駅とします(昭和とは付近の地名です)。そして、昭和信号場以北を単線化するわけです。
よって、五稜郭~昭和信号場間は、現上り線のさらに東側にミニ新幹線用の単線を増設しなければなりません。そのためには機関区以北で上り線をさらに西側に移設してスペースを確保する必要があります。さらに、ミニ新幹線用の線路が北側から五稜郭駅に入り込むところで用地幅が狭いところがあり、ごく短い区間ながら新たな用地買収が必要です。これがD案の欠点となります。
この案のB案との差異は、五稜郭駅をミニ新幹線の交換駅にするのが用地的に難しくなることから、桔梗駅を交換駅とする点です(だから正確には桔梗(信)になる)。在来線側も交換駅になるので、現状、ただの複線の棒線駅である桔梗駅が一挙に運転取扱上の重要駅となるわけです。この駅には融雪設備が4分岐器分できるので、そのためのエネルギー供給設備(電気融雪器なら受電設備と制御盤、ガス融雪器ならガス供給設備など…)も新設しなければなりません。
信号システム的には、図11-1のSTEP1で↓のような状況になります。五稜郭~昭和(信)間が複線、昭和(信)~七飯間が単線となり、函館本線PRCの制御下に昭和(信)と桔梗駅を追加します。
図11-2 D案により想定される信号システムの概念図(STEP1)
図11-1のSTEP2でミニ新幹線が開業(=試運転を開始)するわけですが、ミニ新幹線側の信号設備は連動駅が函館・桔梗(信)、単線棒線駅が五稜郭・七飯ということになり、D案では若干信号設備が増えます。これもこの案のデメリットと言えます。
図11-3 D案により想定される信号システムの概念図(STEP2)
なお、D案のき電系統はB案とほぼ同じになり、施工手順や事業スキームも同様です。
D案は、前述のようにB案よりさらに用地買収が増えるほか、既存の線路の移動も必要になり、土木工事のコスト増を招きます。しかし、現状、信号システムの改修コストは非常に大きなものとなっており、設備改修量を小さくするためには線路を弄った方がトータルとしてコスト低減になる可能性があります。たとえコスト低減にならずとも、現実的に五稜郭駅の連動改修が極めて困難であればこの案にならざるを得ないでしょう。
12.北海道新幹線札幌開業後に函館新幹線を施工する場合の検討
函館新幹線については、函館市が「北海道新幹線札幌開業と同時に開業」を希望しており、「8.事業スキーム」では、その開業日をDDayとして、それまでに関係機関がそれぞれ何をしなければならないのか、を考察し、それが非常に複雑なスキームとなることを示しました(これを「同時開業案」と仮称します)。
そこで、ここでは「北海道新幹線札幌開業の後に函館新幹線の関連工事を施工する場合(「逐次開業案」と仮称します)はどうなるか」を考えます。
まず「同時開業案」ではどうであったかを復習しましょう。路線図としては↓のようになります。
また、施工スキームは↓のようになります。
図8 函館新幹線の設備改修工事の施工スキーム(同時開業案:再掲)
このように複雑なものになる原因は、DDayまでJR北海道が函館付近の在来線を営業しているなかで、DIRが営業を継承した後に使用開始する(営業の用に供する)設備を施工する、という構図になることにあります。すなわち、函館新幹線に必要なハードウェアおよびソフトウェアは、在来線がJR北海道である間に整備するため、事業主体であるDIRが直接手を出せる部分が少なく、むしろ他人に動いてもらわねばならない項目ばかりになるわけです。これが、函館新幹線に関してJR北海道が冷淡にならざるを得ない主因です。
さらにDDay当日は、北海道新幹線札幌開業、在来線の経営移管、函館新幹線の開業という3つの大イベントが同時発生するので、関係者の業務負担も過大を極めるのは確実です。
これに対し、「逐次開業案」を採用した場合は、北海道新幹線札幌開業と在来線の経営移管(この2つは絶対に同時でなければならない)を果たした後、函館新幹線のプロジェクトを開始する、という流れになり、路線図的には↓のようになります(この図は、前述した
D案に基づいています)。
施工スキームは、↓のように簡単なものになります。在来線はすでにDIRの設備になっているので、函館新幹線のためのハード/ソフトは、自社で施工会社に工事を発注して、自社で監理し、自社で工事目的物の引き渡しを受けて使用開始します。
↑ミニ新幹線を乗り入れさせてもらうJR北海道・JR東日本に対しては、盛岡以北にミニ新幹線車両を走らせるための工事費を負担しなければならないのは変わりません。しかし「同時開業案」では、北斗~札幌間の未完成部分の工事費について、JR北海道を通じてJRTTに工事費を支払うという仕組みが必要であったのに対し、この「逐次開業案」では、奥津軽いまべつ~札幌間で取り扱いを統一できて、話がすっきりします。
五稜郭駅関係のJR貨物に対しても、DIRとJR貨物が直接協議をすれば良く、JR北海道を間に入れるという面倒くささが解消します。
このように、逐次開業案は、函館新幹線を営業開始できる時期が遅くなるという大きなデメリットはあるものの、施工スキームは簡単になり、また、負担金・受託金のやり取りが減ることで管理費(工事費の5%ぐらいが相場)の負担が減るというメリットがあります。
また、逐次開業案のもう一つのメリットは、在来線から特急「北斗」やDCローカル列車が消滅した後に施工することで、在来線単線化後のダイヤ構成がやりやすくなることが挙げられます(例えば、桔梗駅の交換駅化が必要無くなる可能性がある)。施工間合い確保のためのJR貨物とのダイヤ協議も、JR北海道を介さず、DIRが自社で行えるという点も有利に働くでしょう。
ただし、このスキームを実行するには、DIRが、JR北海道・JR東日本・JR貨物を相手取って、函館新幹線というプロジェクトを完全に掌握し制御できるだけの「鉄道事業者としての実力」を備えなければなりません。JR北海道から在来線を経営分離する際に、優秀な人材をDIRに大量に出向ないし転籍させなければならないでしょう。
同時開業案では、(JR北海道の意欲はともかく)DIRにとっては同社を相談相手にできるのですが、逐次開業案では、JR北海道は本プロジェクトに対して淡々とミニ新幹線乗り入れの協議に応じるたけの間柄になります。この点の難しさが、山形・秋田新幹線と根本的に異なります。
13.まとめ
以上、北海道新幹線の函館駅乗り入れプロジェクト、すなわち「函館新幹線」の技術面での検討を行いました。
- 車両
- 乗り入れるのは「こまち」と共通仕様のミニ新幹線車両とし、フル規格車両案は技術面で新規事項が多いことから採用しない。
- 駅
- 函館・五稜郭・七飯にミニ新幹線用ホームを新設。新函館北斗駅は北斗駅に改称。
- 線路配線
- 文中におけるD案がベスト。函館~七飯間は上り線を標準軌化し、下り線のみで単線運転を行う。七飯~北斗(幹)間は新たに標準軌の線路を増設。五稜郭駅の終点方に昭和(信)を設け、五稜郭駅~昭和(信)間は現上り線のさらに東側に標準軌の線路を増設する。標準軌線は「ミニ新幹線区間」と呼称する。三線軌区間は設けない。
- 運転形態
- 東京~北斗~函館便「はまなす(仮)」5往復、函館~北斗~札幌便「ニセコ」8往復を想定(列車本数は千代田コンサル案のまま)。「はまなす」は東京~盛岡間は「はやぶさ」に併結。
- 電力設備
- 架線形式は可動ブラケット支持で変更なし。ミニ新幹線区間は五稜郭変電所からATき電方式(架線電圧20kV)でき電し、七飯~北斗(幹)に25kV区間と区分する交交デッドセクションを設ける。
- 信号設備
- 函館・五稜郭・桔梗・七飯の各駅で連動改修およびCTC/PRC装置の改修が発生。ミニ新幹線区間の保安装置はATS-Pとする。函館~北斗(在)間に存在する踏切の改修も必要だが、線区最高速度は向上させないため始動点・終動点の位置は変えない。列車無線は在来線・ミニ新幹線共用で、車両側に対応する無線機を搭載
また、函館~七飯間の単線化に伴うダイヤ改変の実現性や、本プロジェクトを実行するにあたっての各種スキームについても検討しました。
工事費等のコスト面および工期については、筆者には見積もり能力がありませんので、本案をベースに、それぞれの技術分野の専門家の検討が望まれます。(以上)
最終更新:2026年03月03日 10:22