『本当の』電気アンマ
(で、さあ……今日ね………)
放課後の5の2でリョータとチカが何かナイショ話をしている。
クラスメートのコウジ達も気がついてはいたが、5の2随一の『夫婦』の内輪話に首を
突っ込むのは野暮なのであえてそっとしておいた。
が――。
「電気アンマ!? ……モゴモゴ!!」
「……バッカ! 誰かに聞かれたらどうするの!?」
タイミングが悪く、その時クラスは静まっていてリョータ達の声は仲間達にはっきりと
聞こえた。ボールを持って校庭に出ようとしたコウジとツバサとナツミ、お喋りをしていた
ユウキとメグミ、学級日誌をつけていたカズミが二人の方を振り返る。
「あ……」
チカとリョータはお互いの顔を見合わせた。
「……で? 白状する気になったか?」
8人での帰り道、コウジがリョータを問い詰める。二人は長年の悪友同士。可愛いタイプの
男の子のツバサも巻き込んで色々腕白なことをしてきた。
「その俺に隠し事とは穏やかじゃないねぇ」
「何の事だ?」
「とぼけんなよ、お前」
男二人が後ろで口の引っ張り合いや髪の掴み合いをしているのを馬鹿にしたように見ながら、
女の子達もチカを取り囲んで歩いている。
「チカ、何か夫婦間の危機になってるなら相談に乗るよ?」
「そうだよ。大人の人に相談が必要なら私たちも一緒に……」
「い、いや……あの、その……アハハ……」
ユウキとメグミが両サイドから心配そうに問いかけるのを、チカは困ったように苦笑する。
リョータと二人で帰ろうとすると、この6人は間を置くように付いて来た。たまりかねた
リョータが文句を言うと、逆にこうしてみんなに問い詰められてしまったのだ。
やがてチカの家の前に着いたが、6人は帰ろうとする気配が無い。
「……どうぞ上がって、みんな」
チカが仕方なく言うと、「おじゃましまーす!」と言いながら家に入っていった。
チカとリョータは顔を見合わせて溜め息をつく。
「『でんきあんま』勝負……? あの~『でんきあんま』って、なぁに?」
ナツミがキョトンとしてみんなに問いかける。問いかけられた面々は視線を逸らせたり、
咳払いをしたりした。ナツミとツバサだけが何の事かわからない様に顔を見合わせる。
平川ナツミは元気でボーイッシュな女の子。自分の事を「ボク」と言う。体は小さいのに
運動神経は抜群で、スポーツ勝負ならリョータ達男子にも負けない。
河合ツバサはリョータ達とつるんでいるとはいえ、普段は宇宙の神秘にトキメキを感じる
文系?の可愛らしい顔立ちの男の子。
二人とも男女の事や性的な事にはちょっと疎い。
「リョータ、教えてよ?」
二人はぐったりと床に転がっているリョータに問いかける。リョータはついさっきまで
コウジ達の『くすぐり拷問』で取調べを受けていたのだ。最初は懸命に抵抗していたが、
6人がかりの大拷問で体力の限界まで責められ、ついに口を割ってしまった。
その取調べで判明した事は――。
1.ひょんな事からチカと
鉄棒電気アンマ勝負になった事。
2.鉄棒電気アンマ勝負にチカが負けてリベンジを挑む事。
3.リベンジは本物の電気アンマで勝負する事。
4.電気アンマは女の子だけがされる事。
と、言う内容だった。
それを聞き、男子二人は顔を見合わせて目をパチクリさせ、女子4人は所在無げに
体をモジモジさせる。電気アンマは女の子だけがされる――その約束事を聞いた時に
自分も女の子だと言う事を思い出し、他人事の様に思えなかったのだ。
電気アンマが何かを知らないナツミでさえ、他の3人の様子から、それが女子にとって
とても困惑させられる事態である事は察した。
鉄棒でチカがリョータにされた事を語った時に、やや潔癖なメガネっ子の日高メグミは
思わず体を引き気味にした。しかし、チカの話に興味を失ったわけでなく、大きな瞳を
煌かせて更に深くまで聞き入っていた。
刺激的な話になり、思わず口元に両手を当てるたびに綺麗な黒髪ロングの髪が揺れる。
ショートカットで活発な女の子の浅野ユウキも同様で、くすぐり拷問で笑っているリョータ
(拷問はチカが全部白状するまで、リョータがくすぐりを受けると言う形式で行われた)
にうるさいとばかり時折蹴りを入れる以外は、息を呑んでチカの告白に耳を傾け
ていた。
外跳ね髪の女の子の相原カズミはいつも通り、感情を表さない様子でチカの告白を聞き
入っていた。彼女がどう思っていたかは誰にもわからない。ただ、頬が上気していたように
チカには思えた。
リョータの悪友の今井コウジも普段の饒舌とは違い、真顔で聞き入っていた。
奥手(と言うかバカ)のリョータがそんな事をするなんて、と思いながらくすぐり続けて
やる。女の事でちょっと先を越されて?悔しかったからかもしれない。
電気アンマの言葉の意味がわからなかったナツミとツバサもチカの告白の情景は目に
浮かんでいる。それがどういう事かも良く分かっていた。特に女の子のナツミの方は
太股をキュッと締めてモジモジさせていた。
「な、なぁ……」
チカとユウキが恥かしそうにナツミとツバサに電気アンマの事を教えている時(チカが
ユウキに実演した時、知らなかった二人は真っ赤になった)、コウジがおずおずと
みんなに話しかける。それぞれ物思いに耽っていた5の2のメンバーはドキッとして
彼を振り返った。
いつもはハキハキしているコウジがこんな切り口で話しかけるなんて――それだけでも
結構な事件である。
逆にコウジはみんなの反応を見てドキッとする。何となく、自分が言おうとしている事を
見抜かれたように感じたからだ。
だが、それでも言った。
「どうせなら、男子対女子でやってみないか――」
あたりはそのまま、シン……と静まり返った
「……でも、でも! どうして女の子だけがされるルールなの? そんなの変だよ。
理不尽すぎるじゃない……」
と声を上げるのは黒髪ロングのメガネっ子、メグミ。彼女はHなことに対する拒否反応が
この中で一番強い。
この場合、コウジの発言はある意味、神の啓示に近い効果があった。
誰もが言い出せなかったが、誰もが考えていた事――チカとリョータだけの話でなく、
女子と男子でやってみたらどうなるのか――それを実現するのに、コウジの言葉は絶妙の
タイミングで発せられたのだ。
それを止める子は、男子女子共にいない。ただ、メグミが納得できない、と言う表情で
ルールに異論を唱えた。
確かにこれはチカとリョータの間だけで決めたルールなので、女子勢が強く反対すれば
変更する事は可能だろう。今ここにいるのは男子3人女子5人。単純に多数決でも女子が
勝つ。しかし――。
「それ、ちょっといいかも……」
と、クール系のカズミがぼそっと呟いたので、女子たちは一斉に彼女を振り返った。
「どこがいいのッ!? 女の子だけがそんな事されるなんて、変だよ!」
メグミが悲鳴に近い声を上げそうになるが、辛うじて自分を押さえながら反論する。
しかし、カズミは自分の胸に手をあて、目を閉じながら静かに言った。
「それがいいの。他の女の子がされているのを見て、自分も女の子だからされちゃう……
そう想像するのが。――男の子だったらされないで済んだのに……って、切なくて、ちょっと
悔しい気持ち――でも、これって女の子に生まれたからこそ味わえるんだ――って」
「そ……そんな……」
メグミは尚も反論しようとするが、何故か俯いてしまう。カズミの半ば陶酔した表情は
他の女の子達に息を飲ませる。
「ボク……なんだかもじもじしてきちゃった……」
ボーイッシュなナツミもショートスパッツの下半身を内股にしている。
「…………。私も……」
カズミ達に釣られたのか、ユウキまでもが頬を紅潮させている。
「ふ、二人とも……ヘン……だよ」
メグミがその二人を見て言うが、もはや言葉に力がなくなっている。
(本当に……女の子だけがされちゃうんだ――)
提案者であるチカ以外の4人の女の子の心臓がドキドキと高鳴っていく――。
もしかしたら、通常の5の2でこんな話題になったら、結局それは冗談で「そんな事を
言うエッチな男子にお仕置き~~!」とか言って、チカやユウキ達が要領の悪いリョータ
あたりを捕まえて電気アンマの刑にしていたかもしれない。女の子にするのと違って、
男の子にする電気アンマは、所詮ただのお遊びに過ぎない。そうやってヘンな雰囲気を
ごまかす事も出来たのだ。
だけど、今、このチカの部屋で――8人いるにはちょっと狭く、お互いの息遣いが聞こえる
ぐらい密着してしまってるチカの部屋で、そんな話をすると、何か受け入れざるを得ない
雰囲気にもなってくる。
5の2であれば働く抑止力――例えば先生の登場や他のクラスメートの目などもここには
ない。誰かが始めたら止め処もなくエスカレートしてしまわないとも限らない妖しい雰囲気。
禁断の技とも言える『女の子への電気アンマ』でも簡単にされてしまう――それが今の
チカの部屋と言う空間であった。
居合わせた女子達がそれに気づき、身に迫る危機を感じている静寂がチカの部屋を支配する。
その静寂を破ったのはこの部屋の主、チカであった。
「どうする? 男女対決……する?」
リョータに電気アンマ対決を挑んだチカでさえ、言葉が震えがちになる。
男子を含めたみんなが一瞬反応したのを見て言葉を切った後、思い切ったように続ける。
「私はいいよ……しても」
チカらしくない、ボソリとした話し方だったが、それは全員の耳にしっかり聞こえていた。
「私も……」
カズミもチカと同様、ボソリと言う。こちらは普段と同じだが。
女子二人が同意したので、内心では反対しようと考えていたユウキとメグミは思わず顔を
見合わせる。
「ナツミは?」
チカは残る三人を見渡し、端から声を掛けていく。
「ボクもいいよ」
快活な声でボーイッシュなナツミが返事した。
「いつもリョータ達には勝ってばかりだから、今日ぐらい負けてあげても……アハハ」
無邪気に笑うナツミだが、これには男子の――特にリョータとコウジのこめかみがピクッと
震えた。ナツミは全然気がついていない様子だが。
「ユウキたちはどうする?」
「う……」
チカに訊かれてユウキは一瞬コウジの方を見る。コウジはさっきのナツミの言葉でリョータと
謀議中?だ。そして思い切ったように言った。
「……してもいいかな」
「う……ユウキちゃん――」
呟くように同意するユウキを見て最後に残ったメグミが返事に詰まる。
メグミとしては同じく積極的でなかったユウキと一度相談したかった。しかし、彼女は
その前に賛同してしまった。残るは自分ひとり……。
(ど、どうしよう……)
残る一人、メグミに注目が集まる。その視線には気づいていたが、すぐに決断はしかねる。
だが、困っているメグミに救いの手を差し伸べたのは言いだしっぺのチカだった。
「メグミ、無理だったらいいからね?」
チカはメグミに優しく言う。彼女がこういう事が極端に苦手なのは知っていたからだ。
「え? う……うん……」
メグミは流れ上、自分も同意を求められると思っていたので逆に戸惑ったが、チカの言葉を
嬉しく感じて少し気持ちを落ち着かせた。そして、ちょっと考えていたが――。
(やっぱり、断ろう――)
自分には無理だ、と思って断って立ち上がろうとした。チカの気持ちに甘えさせてもらおう、
そう思ったのだ。
しかし――。
「日高もやろうよ」
え――? と誰もが振り返った意外な声を発したのはツバサだった。
メグミが見ると彼はにっこりと屈託のない笑顔を返した。もともと可愛い顔立ちの彼の
笑顔が向けられ、メグミはドキッと胸が高鳴る。
「あ、うん……」
すとん、と立ち上がりかけていたメグミは元の場所に腰を下ろす。自分でも驚くほど
自然に――。意外な説得者?と、その組み合わせに、メグミとツバサ以外のメンバーが
お互いの顔を思わず見合わせる。
かくして――。
ここに、男子対女子・3対5の変則電気アンママッチの開催が決定した。
その後――。
一旦やる事が決まると、ルールがテキパキと決められていった。
・電気アンマは2回行う。一回の時間は5分。
・勝敗はギブアップで女の子の負け。規定時間(5分)をクリアすれば女の子の勝ち。
・ギブアップしても5分は続けられる。理由は自分の意志でやめてもらえないのが
電気アンマの醍醐味だからである。
「五分は……長くない?」
ユウキが不安そうに言うとメグミも頷く。二人とも頬を赤らめている。早くも自分がされて
いる事を想像してしまったのだろうか……?
「でも、あんまり短いと男子側に不利だしね」
カズミが相変わらずボソッとつぶやく。今度は男子が頷いた。
結局、勝負バランスと言うことでこの時間になった。
(ギブアップしてもやめてもらえないんだ……)
このルールはチカの提案だった。女子たちはそれに反対したが、何故か主催者の?チカが
これだけは譲らなかったので、結局押し切られる形になった。
「やってみれば、みんなにもわかるよ……きっと」
チカがウィンクするが、勿論他の子達には何の事かわからない。ただ、リョータだけが
わかったように顔を赤らめる。
・痛くするのは無効。キックは急所攻撃とみなし、反則者への報復行為が罰として認め
られる。
・女の子→女の子の場合は0.5ポイント。
・女の子→女の子の場合は電気アンマ返しあり。
「男子達、わかった? 優しくしないとどんな報復をされるか、理解してるでしょうね?」
チカがニヤリと笑いながら男子たちを見る。その視線は心なしかいつもより下、半ズボンの
あたりに向いていた。男だけがわかる恐怖に晒され、思わず股間を守ってしまう3人――
女の子達はその情けなそうな格好を見てクスクスと忍び笑いした。
実際にそこを責められるのは私達の方なのに、男子って度胸無いんだ――と。
。
「ねぇ、『電気アンマ返し』って、なに?」
これはユウキあたりでも流石にわからなかった。おそらくチカだけしか知らないだろう。
カズミは何となくわかっているようだが。
「電気アンマ返しってのは……こうやって……今度はユウキがやってみて」
「う、うん……こう?」
チカはナツミとツバサに教えた時の様にユウキを相手に電気アンマの実演をする。実演と
言っても寸止めなのだが、相手をするユウキにとっては相当に緊張する事態であった。
なぜならチカが気まぐれを起こせばそのまま電気アンマされてしまうからだ。
だが、今回はユウキが掛ける方だという事で、緊張感はかなり減っていた。ユウキはチカの
両足を掴むと自分の右足を足の間に割り入れ、ショートパンツの股間に当たる直前で止めた。
「それで……どうするの?」
ナツミがワクワクした瞳で聞く。『電気アンマ返し』と言ういかにも秘密めいた技の様な
ネーミングに期待するものがあったらしい。ユウキとチカの絡みを瞳をキラキラさせて
見ている。
「こうやってね……こうするの!」
「え? ……あっ!?」
いきなりチカがむっくりと起きると自分の股間近くにあったユウキの右足を掴んで体を
引き寄せ、左足もつかんでしまう。そしてつかまれてた自分の右足を振りほどき、ユウキの
ミニスカートの中に割って入った。一瞬にして電気アンマの攻防が逆転したのだ。
「わっ! すごぉ~い! チカちゃん、早業だね!」
「フフン♪ どんなものです?」
「チ……チカ……」
(当たってるよぉ~~……)
とはユウキは口には出せなかった。チカはナツミの賛辞に上機嫌だが、勢いが良すぎて、
実際にユウキのミニスカートの中のブルマで覆われた部分にしっかりと足先が食い込んで
いたのだ。デモンストレーションのはずなのに……。
「ち、チカ……あ、足を……」
「あ? ご、ゴメン。スカートの中に入れたままだったね」
いかにも忘れていたかのように言うと、チカはユウキの股間から足を抜いたが――。
「ひゃあん!?」
今度はみんなに聞こえる声でユウキが悲鳴を上げた。
「ユウキ、どうかしたの?」
カズミが無表情で聞く。
「え……あ……、な、なんでもないの! 全然……」
ユウキは慌てて立ち上がる。チカを見ると足を伸ばしたまま座っていて、自分の方を
見ていた。うっすらと悪戯っぽく笑いながら。
(やっぱり、ワザとやったんだね――)
チカが足を抜く時、素直に引くのでなく、一旦自分の股間をグリグリ……と刺激してから
抜いたのだ。チカの悪戯(と言うより意地悪に近いが)に対してちょっと拗ねた表情を
見せるユウキだが、今から自分達がされる事はこんなものではない事を改めて思い出した。
(男子達、優しくしてくれるよね――?)
ユウキは目が合ったコウジに訴えかけるような視線を向けた。見つめられたコウジは
困ったように何度か視線を逸らす。ユウキはその視線の先が自分のスカートである事に
気づき、慌ててスカートを押さえた。ちょっと怒ったように頬を染めて。
気づかれた事を悟ったコウジは、照れくさそうに反対側を向いた。
(あの二人、いい感じになると思わない?)
ユウキとコウジの様子を見てチカがリョータに囁く。いつも自分達が『夫婦』とからかわ
れているので、他に同様のネタが見つけられて嬉しい様子だ。リョータも曖昧に頷いたが、
ユウキとコウジがなかなかいい感じなのはうっすらと感じていた。
「じゃあ、始めよっか。まずは一回戦からね」
すっかり仕切り屋状態のチカが立ち上がって開会宣言をした。
最終更新:2010年04月22日 19:37