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ルーラ・キャラット

ここは平和な田舎の村、トラスタ。
少女の旅路はここから始まる。

「こらーっ待ちなさいリック!!必殺――猫パァアアアンチ!!!」
……けたたましい怒声とパンチと共に。

「い、痛っ~~……!?」

……ゲンコツを入れられた彼は頭を抑え、声にならない悲鳴を上げた。
少し可哀想だけど自業自得よ!私はフンと鼻息を一つ。村のいじめっ子、リックを見下ろした。

「リック!あんたまたアニーをいじめてたでしょ!私ちゃんと見てたんだからね!?」
「しっ、しらねーよそんなもん!!」
「とぼけたってダーメ!……いいリック、アニーは女の子なのよ。リックみたいな悪ガキとは体のつくりが違うんだから!」


腰に手を当てたまま、リックに説教を始める。

男の子が女の子に手を上げちゃダメ。男の子は女の子を守るものだもの。
たとえ意見がこじれたとしても話し合いで解決するべき。どんな理由があっても暴力を振るうなんて事は絶っ対にしちゃいけない!!
私はそれらをゆっくり、小さなリックにもわかりやすいように言い聞かせようと思ったんだけど……


「うっ……うわあああん!!母ちゃんーー!!!」
「…………へっ?」

突如わめき出すリック。……と、その泣き声に駆けつけてくるリックのお母さん。
……えーと。この展開は。もしかして。

「リック!どうしたんだいそんな悲しそうな顔をして――はっ!?まさか」
「ぐすっ、ぐすっ……オレ何も悪いことしてないのに、ルーラのやつが……!」

しゃっくりをあげるリックの言葉を聞くなり、リックのお母さんはギロリと私をにらみつけた。
私、まさにヘビに睨まれたカエル状態。

「あ……あはは…えーと。わ、私はリックをいじめてたワケじゃなくて」
「じゃあどうしてリックが泣いてるっていうのよ!?」
「あ、あの、それは」

この展開を私はよーーーく知ってる。
鉄槌を下した後賢い子ども達がいつも使う手段だ。


(悪ガキに愛の鉄槌を下すつもりが…逆に追い詰められてるっ!?)


怒り出す母親の隣でリックは涙(目薬)をふきながら「ばーか」と口パクしてた。

「ルーラ!あんたって子はまた問題を起こして!!」
「ご、ごめんなさいっ!!」

家に帰った私を真っ先に迎えたのはお母さんの怒声。

「でも誤解なの!私はリックがまたアニーをいじめてたから!!」
「鉄槌としてリックを打ったのよね??」
「う、うんっ」
「で、その現場をリックのお母さんが発見した、と」
「そ、そうだけど……」

声が小さくなっていってるのが自分でもわかる。お母さんはそんな私を見るなり「はぁ」と溜息を吐く。
玄関からチラリと見えるリビングではお父さんとリックの両親がなんだか難しい話をしていた。

「あのねぇルーラ。あんたは『正しい事』をしてるんだろうけどいっつも空回ってるのよ。それは自覚してるでしょ?」
「うん……」

そんなことくらい私がいちばんよく分かってる。
私はバカで猪突猛進だから要領が悪い。今回みたいに誤解されて逆に怒られちゃう事だって何度もあった。

「だけど…目の前に『間違い』があったら見逃せないの!だってリックは男の子で、アニーは女の子なんだよ??」

「……そうね、どんな事情があっても相手に手を上げるのはよくないわね」
「でしょ!?だからっ」
「でもねルーラ、それをいうならリックを打った時点であなたもリックと同じなのよ」
「!!」

…言い返す言葉がなかった。
黙り込む私を傍目にお母さんは説教を続けた。


お母さんが言うに、私の悪いところは正義感が強すぎて周りが見えないこと。
女の子なのに格闘技を習っていて乱暴なこと。
だから村で『変わり者』として評価されてるんだってこと。
そして、

「友達がいるのは結構だけどさすがにフィーナさんの家の子と関わるのは…」
「!!シリウスちゃんは関係ないでしょ!?」

親友のシリウス・フィーナちゃんのことを言われた瞬間、頭に血が上っていくのが分かった。

「あんたはただでさえ評判が悪いっていうのにあの子と関わるから余計に変な目で見られてるのよ」
「ひどい、お母さんまで村の人たちみたいなこと…!シリウスちゃんは悪い子じゃないのに!」
「ルーラ、私はただ」
「……もういいっ!」

お母さんの言葉を遮って、私は家を飛び出した。
私のこと、友達のこと――全部を否定されたみたいで、ただひたすら、悔しかった。

家から飛び出した私は目的もなく、ただがむしゃらに走り続けていた。

お母さんの言うことはたぶん…全部間違ってない。
大人の意見だもの。きっと全部正しいんだと思う。
だけど、私は。
大人になりきれない私は。


(何も考えず飛び出しちゃったワケだけど、これからどうしよう……?)


気がつけば私は村の入口まで来ていた。
家族とケンカするのは今日が初めてじゃない。いつもさっきみたいに説教されて、正論を聞かされて、それで――結局いつもシリウスちゃんの家までプチ家出してたっけ。

(……でも)

バカな私のことはさておき、親友のシリウスちゃんまで否定されたのが悔しかった。
『大いなる力』を持つシリウスちゃんは村の人たちから忌み嫌われていた。
私が説得して村の人たちの誤解はとりあえず解いたんだけど…それでもまだ彼女を偏見する人たちがいる。
そして私のお母さんもそのうちの一人だったことが……悲しかった。

(家、帰りたくないよぉ……お父さんにもお母さんにも顔、合わせたくない。かと言ってまたシリウスちゃん家まで行ったら、こんな私のせいでシリウスちゃんにまた良くない噂が流れちゃうじゃ……うううっ!)

進む事も戻る事もできなくて、力なくその場に座り込む。
はぁ…ほんとこれからどうしよう。溜息を吐こうとした瞬間。


「――こんな所で何してるのよ、バカ」
「へっ?」
聞き慣れた聞こえて、私は慌てて顔を上げた。


スカイブルーの色をした、ウェーブがかったロングヘアー。
少しだけ冷たい印象を与えるつり目がちな『蒼』の瞳。


「シリウスちゃん!?」


そこにいたのはまさに今思い浮かべていたシリウス・フィーナちゃん本人だった。

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最終更新:2011年07月25日 01:09