文才無いけどキーボード叩く
お題:根こそぎ
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お題:根こそぎ
この学校には『根こそぎ魔人』と呼ばれる男がいる。
先月この学校に転向してきた日、前の席の奴にそんな事を教えてもらった。分かりやすいようで意味が分からないニックネーム。何の聞き間違いだろうと呆けている様は、我ながら間抜けな顔をしていた事だろう。
そんな僕に前の席の奴は、魔人に関わる様々な伝説を語ってくれた。
曰く、UFOキャッチャーの人形を根こそぎ取り尽くしたとか、レンタルビデオショップのアダルトビデオを根こそぎ借り尽くしたとか、牛丼屋の紅しょうがを根こそぎ食い尽くしたとか。
なんともほのぼのローカル臭のする魔人だなと、嘆息した記憶がある。要するに、この学校は暇なのだ。
そんな魔人に新たな伝説が付け加えられるのは、月曜日の一時間目と二時間目の間の休み時間である。
チャイムが鳴り、波紋のように喧騒が教室に広がっていく。そんな音の中にばたばたという足音が混じると、皆一様に教室の後ろのドアへと視線を向ける。立ち上がってた奴も何故か席に座り、その扉が勢いよく開かれるのを待っている。まるでコンサートが始まるのを待つ観客のように。
そんな沈黙を打ち破る報告者の第一声は、決まってこうだ。
「おい、根こそぎ魔人がまたやらかしたらしいぜ!」
「マジかよ!」
「今度は何やったんだ?」
闖入者にクラスメイトの何人かが駆け寄って、そんな合いの手を入れる。なんでこうもノリがいいのだろうとため息をついて窓に視線をやるが、教室のどこにいてもその報告は耳に入ってしまう。
「魔人の奴、図書室の雑誌のクロスワードを根こそぎ埋め尽くしちまったらしいぜ」
「マジかよ!」
「クロスワードやりたくなったらどうするんだよ!」
クロスワードどころか本すら読まないような奴が、頭を抱えて膝をついている。板張りの床を両手で叩いて悔しがる奴や、黒板にクロスワードの絵を書いて泣いている奴もいた。回を増す毎にリアクションが派手になっている気がする。
僕といえば、こめかめを親指と中指で抑えながら、前の席で笑っている奴に前々からの疑問をぶつけていた。
「なあ、その根こそぎ魔人って誰なんだ?」
「ん、ほら、今入ってきて報告してるあいつだよ」
自己申告の伝説だった。
椅子からずり落ちそうになるのを堪えながら、それにしてはリアクションがおかしくないかと質問を続ける。そいつ曰く、誰の事か知らずにノリで参加しているのが大半で、それを気にする奴自体少数派なのだそうだ。
「……で、結局あいつは誰なんだ?」
「二組の小杉だよ」
「ああ、そう……」
「猫好きなんだ、小杉」
聞いてもいないプチプロフィールを続ける前の席の奴を見ながら、こめかみに添えた指に力を入れる。根こそぎ猫好き小杉。くだらな過ぎて、座っているのに立ちくらみがする。
転校先を間違えたかな、そんな僕の葛藤など露知らず、魔人は新しい伝説を予告する。
「魔人の奴、次はこの学校のバレンタインチョコを根こそぎ頂き尽くすらしいぜ!」
「マジかよ!」
「俺らの希望まで根こそぎ奪い尽くすつもりかよ!」
あまりのショックのためか、床を転がる奴がいる。両手を組んで何かに祈りだす奴や、黒板に遺書を書き出す奴までいた。『前略おふくろ様』とか『P.S』がついているあたりが、その錯乱ぶりを物語っている。
こんな風に、この男子校には『根こそぎ魔人』と呼ばれる男がいる。魔人だけど、さして実害はない男が。
<了>
先月この学校に転向してきた日、前の席の奴にそんな事を教えてもらった。分かりやすいようで意味が分からないニックネーム。何の聞き間違いだろうと呆けている様は、我ながら間抜けな顔をしていた事だろう。
そんな僕に前の席の奴は、魔人に関わる様々な伝説を語ってくれた。
曰く、UFOキャッチャーの人形を根こそぎ取り尽くしたとか、レンタルビデオショップのアダルトビデオを根こそぎ借り尽くしたとか、牛丼屋の紅しょうがを根こそぎ食い尽くしたとか。
なんともほのぼのローカル臭のする魔人だなと、嘆息した記憶がある。要するに、この学校は暇なのだ。
そんな魔人に新たな伝説が付け加えられるのは、月曜日の一時間目と二時間目の間の休み時間である。
チャイムが鳴り、波紋のように喧騒が教室に広がっていく。そんな音の中にばたばたという足音が混じると、皆一様に教室の後ろのドアへと視線を向ける。立ち上がってた奴も何故か席に座り、その扉が勢いよく開かれるのを待っている。まるでコンサートが始まるのを待つ観客のように。
そんな沈黙を打ち破る報告者の第一声は、決まってこうだ。
「おい、根こそぎ魔人がまたやらかしたらしいぜ!」
「マジかよ!」
「今度は何やったんだ?」
闖入者にクラスメイトの何人かが駆け寄って、そんな合いの手を入れる。なんでこうもノリがいいのだろうとため息をついて窓に視線をやるが、教室のどこにいてもその報告は耳に入ってしまう。
「魔人の奴、図書室の雑誌のクロスワードを根こそぎ埋め尽くしちまったらしいぜ」
「マジかよ!」
「クロスワードやりたくなったらどうするんだよ!」
クロスワードどころか本すら読まないような奴が、頭を抱えて膝をついている。板張りの床を両手で叩いて悔しがる奴や、黒板にクロスワードの絵を書いて泣いている奴もいた。回を増す毎にリアクションが派手になっている気がする。
僕といえば、こめかめを親指と中指で抑えながら、前の席で笑っている奴に前々からの疑問をぶつけていた。
「なあ、その根こそぎ魔人って誰なんだ?」
「ん、ほら、今入ってきて報告してるあいつだよ」
自己申告の伝説だった。
椅子からずり落ちそうになるのを堪えながら、それにしてはリアクションがおかしくないかと質問を続ける。そいつ曰く、誰の事か知らずにノリで参加しているのが大半で、それを気にする奴自体少数派なのだそうだ。
「……で、結局あいつは誰なんだ?」
「二組の小杉だよ」
「ああ、そう……」
「猫好きなんだ、小杉」
聞いてもいないプチプロフィールを続ける前の席の奴を見ながら、こめかみに添えた指に力を入れる。根こそぎ猫好き小杉。くだらな過ぎて、座っているのに立ちくらみがする。
転校先を間違えたかな、そんな僕の葛藤など露知らず、魔人は新しい伝説を予告する。
「魔人の奴、次はこの学校のバレンタインチョコを根こそぎ頂き尽くすらしいぜ!」
「マジかよ!」
「俺らの希望まで根こそぎ奪い尽くすつもりかよ!」
あまりのショックのためか、床を転がる奴がいる。両手を組んで何かに祈りだす奴や、黒板に遺書を書き出す奴までいた。『前略おふくろ様』とか『P.S』がついているあたりが、その錯乱ぶりを物語っている。
こんな風に、この男子校には『根こそぎ魔人』と呼ばれる男がいる。魔人だけど、さして実害はない男が。
<了>