――お前の光は、何処にある
ウィリアム・シェイクスピア
◆◆
わたしの家族は、いわゆる見ていて苛つく部類の人間ばかりだ。
度を越して能天気でお人好しな父と、それを窘めもしない母。二人の血を色濃く受け継いだことがちょっと話しただけで解る、同じくお人好しで善性に満ちた姉。
わたしだけが、例外だった。わたしだけが人を疑い、訝り、自分を第一に考えるということを知っていた。何故かは解らない。多分生来のそれであるのだろう。そんなわたしだから、両親や姉の"良い人"ぶりにはいつも辟易させられてきた。どうしてそうなのと、やり場のないやきもきした感情に頭を抱えたことは十や二十では利かない。
けれど、家族が嫌いだったわけじゃない。世間のご多分に漏れず両親への感謝の気持ちと愛情はちゃんとあったし、優しく賢い姉のことはいつだって尊敬していた。この人のようになりたいと、思っては諦める毎日。それを悲観することはなかったが、それでも、自分と姉のあまりの違いに溜息をこぼすことは度々あった。
もしもわたしが、目の前で大好きな姉を殺されたなら。
わたしはきっと、外面を取り繕うことも忘れて怒り狂うだろう。
絶対に殺してやると歯を砕けんばかりに軋らせて、姉の未来を奪った相手に憎しみの炎を燃やす筈だ。
しかし姉は、目の前でわたしが殺されたとしても、悲しみはすれど復讐なんてことは考えないと断言出来る。
姉が冷たい人間なのではない。寧ろその逆。温かすぎるから――優しすぎるから、あの人は自分や自分の周りの誰かを害した人に対しても、悪意を向けられないのだ。ひとえにそこが、わたしと姉の、"お姉ちゃん"の一番の違い。どちらが良い悪いは一概には言えないだろうけど、わたしの主観で言うなら、"良い"のはお姉ちゃんの方だった。
罪を憎み人を憎まず。
それを地で行く、"良い人"。
わたしもそうなりたいと常々思っていたけど、同時になれるわけがないと悟っていた。
そして今――わたしは、そのことを改めて実感している。
「……や、め……やめで、くれぇ……もぅ、許し……」
大の男が涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、小便まで漏らしながら許しを請っていた。
三十以上は歳が離れているだろう、自分の娘ほどの年齢であるわたしに対してだ。
最初はあれだけ鼻持ちならない高慢な物言いを繰り返していたのに、やはり人間、死の淵に瀕すると本質が明らかになるものらしい。魔術師の大義だとか何だとか偉そうに言っていても、自分の命が一番可愛いのはわたし達市井の人間と何も変わらないのだ。抉れた両足では前に進むことも出来ず、両腕は変な方向に曲がり、擦り付けた額は擦り剥けてグロテスク。
誰が見ても目を背けるか同情して然るべきだろうそれを、わたしは今、どんな顔で見つめているのだろう。どうしても、解らなかった。でも、推理する材料はある。魔術師は、絶望に満ちた顔でわたしを見ていた。まるで、先の見えない暗闇を前に怯える子どもみたいに。……その顔を見て、わたしは、今自分がどんな顔をしているのかを悟った。
「……冷たい人ね、わたし」
その声が目の前のボロ雑巾に聞こえたのかどうか、わたしには判別がつかない。
けど、一秒前にも増して青くなった顔と震えの激しくなった顎を見るに、多分聞こえてしまったんだろう。
そう。わたしは、冷たい人間だ。お姉ちゃんのようにもお父さんのようにもお母さんのようにもなれない、酷い子だ。
「やりなさい、バーサーカー」
ぐちゅ。
水っぽい音がして、哀れな雑巾が布切れの集まりになった。
端正だった顔は頭から踏み潰されてアスファルトに埋まり、もう人相の確認さえ出来ない。
滑稽な体勢に体を歪めて死後痙攣するそれから目を背けたわたしは、ちゃんと苦虫を噛み潰したみたいな顔を浮かべられているだろうか。見る人も居ないしどうでもいい自己満足だけど、最低限中学生の顔はしておきたい。聖杯戦争の中で変な慣れに足を引っ張られることがないとも限らないのだし。
「お姉ちゃん、あのね。わたし、死ななくてもよくなったのよ」
この世界に来た人には、多分色んな人がいる。
来たくて来た人、来たくなかった人、自分の状況をそもそも理解出来ていない人。
この世界に来て幸福な人も、そうでない人も、当たり前のように両方いるだろう。
わたしは、圧倒的に前者だった。この世界に招かれていなければ、わたしは今頃、死んでいた筈なのだから。
――ジアース。地球を滅ぼさんと都市に降りては暴れ回る異形の怪物と唯一戦闘を行える、正体不明の巨大ロボット。
あの夏、自然学校に参加した十五人の子ども達が、そのパイロットに選ばれた。
それは地球を救うための戦い。大切なものを守るための、戦い。
自分の命を代金として得る、死ぬことが約束された一度きりの"操縦権"。
わたしこと本田千鶴もまた、そのパイロットに選ばれた人間だ。
つまり、わたしは近い内に死ぬ筈だった。世界を守って、それでおしまい。
十年ちょっとの人生を振り返る暇も与えられずに、機械の電源を落とすみたいに死ぬ。
わたしが拒めば世界が滅び。
世界が救われればわたしが死ぬ。
そんな状況に、ちょっと前まで立たされていたのだ、わたしは。
でも聖杯戦争という横槍が入ったことで、運良くその袋小路を抜け出せた……というのが、わたしが幸運である理由。
「わたしだけじゃない。この子もね、きっと産める」
そう言って、わたしはお腹を撫でる。
まだ張りのようなものはなくて、この中に一人の新しい命があるなんてとても解らない。
でも、確かにわたしの子宮(なか)には今、わたしじゃない誰かの命がある。
わたしの子ども。かわいそうな、呪われた子どもの命が漂っている。
「安心して。わたしはあなたを殺さない」
殺せるわけがない。
誰の子どもか解らないとしても。
欲しくて作った子どもじゃないとしても。
憎くて憎くてたまらない男達の■■で孕まされた、汚れた命だとしても。
わたしにはこの子を堕ろせない。
「一緒に救おう、わたしたちの世界を」
撫でる。
愛おしく、撫でる。
世界はまだ救われていない。
わたしがいない間に、ひょっとすると滅んでいるかもしれない。
それほどの薄氷の上に存在するのが、わたしの暮らしていた地球。この子の生まれてくる地球。
そして――それを救えるのは、全人類で唯一人。本田千鶴という、中学一年生だけなのだ。
「聖杯を手に入れれば、どんな願いも叶うのよね。バーサーカー」
わたしは、自分の剣である狂った男に話を振る。
三メートルに達しかけた巨躯に、深淵のような蒼い瞳。
血腥さと死の気配を振りまく彼は、マスターであるわたしの目から見ても、縁起の欠片もない存在だった。
死神。災害。そんな言葉ばかりが浮かんでくるのは、この聖杯戦争という戦いが殺し合いであることを鑑みると、良いことなのか悪いことなのか。
「――王家に、死を」
閑話休題。
わたしの問いに対して、返ってきたのは答えになっていない回答だった。
「輝くものに終わりを。全ての王に死を。支配に幕を。民に自由を。国に、平和を」
「バーサーカー、聞いているの」
「死を。死を。死を。死を。――死を、死を、死を、死を、死を、死を!
遍く光に理性ある死を齎そう! 百合の散華した荒野こそ、人民の住まうべき楽土であるのだから!!」
駄目ね。わたしは溜息をついて、バーサーカーとの意思疎通を改めて諦める。この流れ自体が、もう何度目か解らない。
わたしの喚んだサーヴァントはこの通り、理性が完全に飛んでしまっている。
たまに会話が成立することもあるが、その逆の方が圧倒的に多い。
人語を解する、但し伝わっているとは言っていない。
そんな、奇妙奇天烈でとにかく厄介なサーヴァント。
でも、強い。
人間は社会という枠組みを作り、法と倫理という規範を整備することで、概ね平和と呼べる世界を作り上げた。
ただ、それも言ってしまえば薄氷だ。
ルールだのセオリーだの、そんなものは一人の例外の存在で一気に崩れ去る。
銃やナイフを持った通り魔の凶行で、未だに多くの犠牲が出るように。
システムの整備された世界にそれから乖離したものを混ぜ込めば、強さ弱さ正しさ悪さの観念は途端に意味をなくす。
「――弁舌を回せ、我が右腕。天使長アントワーヌ」
彼は、ひとえにそういうサーヴァント。
神話の王様が強いとか、偉大な支配者が絶対だとか、古いことは偉いとか。
そういう"当たり前"に、真っ向から喧嘩を売った異端者。
或いは、それも含めて"彼らしい"と納得すべきか。
「――恐怖を整備せよ、我が魂。山岳皇ジョルジュ」
巨体の腕から刃が伸びた。わたしの使うナイフなんかとは比べ物にならない、長くて奇妙な形の刃物。
人の首を刈り取ることだけを目的に設計されたみたいな、撓った形状のそれはバーサーカーの腕から生えている。
断頭刃の切っ先は今しがた殺したばかりの魔術師の首へと伸び、それをバターでも切るみたいな滑らかさで切断した。
「コンコルドに人を集めよ! 断頭台を磨き上げよ! 処刑の時は近く、我が革命は未だ途上である!
おお、祖国万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)! 正しき秩序と正しき自由を求め、我は全ての絢爛を地に落とそう!!」
とにかくそんな奴だから、わたしにもこれが何を考えているのかはよく解らない。
ただ、共感できる部分もあった。それは、このサーヴァントが生前にやったこと。
彼は昔、自分が悪者と断じた人達や、自分に逆らった人達を、次々と見境なく処刑台に送った独裁者だ。
誰でも殺す。いくらでも殺す。――"それが自由の妨げになるなら"、あらゆる情は無視される。
彼はきっと、まだ殺し足りないのだろう。
彼の夢見る革命は、まだ叶っていないのだ。
少なくとも、彼の中では。
そしてわたしも、世界を救う傍らで、人を殺そうとしている。
淡々と、処刑台に追いやってギロチンを落とすみたいに機械的に、復讐の殺人をやろうとしている。
……それこそ、世界を救うことなんかよりずっと、わたしがジアースを操縦してやりたかったことだ。
大きな、止めようもないレベルの力で、"お腹の子"の父親かもしれない男達を皆殺しにする。
都市を破壊する怪物の矛先が自分一人に向く恐怖を味わいながら、原型も留めない死体に変える。
その過程で他の人が死んだとしても、構わない――どうせわたしも死ぬんだから。
でも、わたしが死ぬことはなくなった。
――力がない頃は、復讐を諦めていた。
――力があるけど未来はない頃は、生を諦めていた。
――今は力もあるし、未来もある。憎い奴らを殺した上で、この子やお姉ちゃんと一緒に生きることが出来る。
バーサーカーはわたしにとってのジアースだ。
彼を操縦すれば、わたしは神様にだってなることが出来る。
「……ごめんなさいね。わたし、やっぱりあなたのことはよく解らない」
「理解など不要。王は悪であり、輝きは民を狂わす毒である。頭に入れるべきはそれだけだ」
……話が通じた。珍しい。
「でも、ひとつだけ解るかも。あなた、優しいのね。バーサーカー」
「…………」
バーサーカーが押し黙った。
これがおべっかなら大したものだと自分でも思うけど、残念ながらそうではない。
心からの感想だ。だって彼はこんなに物騒なセリフばかり吐いているのに、一度だって欲や不満を口にしたことはない。
彼は独裁者で、国を腐らせた……魔術師の世界で言うところの、反英雄とかいうやつ。
でもその裏には常に民を想い、導かんとする心がある。わたしみたいに、自分のために殺そうとしてるわけじゃない。
「殺したい人がいるの。学校の先生と、その友達何人か。
わたしを騙して、犯して、辱めた奴ら。全員殺したい。でも、世界も救いたい。
お姉ちゃんがいて、お父さんとお母さんがいて、これから死ぬしかない皆が生きてる……わたしたちの地球。
そのために、わたしは聖杯がほしい」
「…………」
「一緒に勝ちましょう、バーサーカー」
暫く黙ったバーサーカーは、やがて厳かに口を開いた。
その時彼の瞳には狂気ならぬ正気の光が確かに見えて、口から出た言葉には理性の片鱗が宿っていた。
「――違う。俺は、優しくなどない」
「バーサーカー?」
「優しさなど統治者には不要だ。冷たい理性と錆び付いた闇で統べなければ、民の眼を奪ってしまう」
ギリ、と彼が歯を噛み締めた音は……まるで、大きな岩をすり潰したみたいに激しいものだった。
王権に死を。光に災いを。陶酔に冷水を。絢爛に没落を。蒼血に天還を。盲信に理性を。
信仰に正気を。民に自由を。国に平穏を。支配に闇を。羨望に嫌悪を。夢想に、現実を。
お経を唱えるみたいにまたぶつぶつと狂気の世界へ入ってしまった彼を、わたしは暫く茫然と見つめていた。
……この男がわたしに、あんな一面を見せるのは初めてだったからだ。
まるで、忌まわしい記憶でも読み返すみたいな顔と声。らしくない。余りにも、今の姿は狂人のそれから逸していた。
自己に没頭する哲学者。そんな表現が脳裏に浮かんだ。とはいえ、これ以上何かを訊いても藪から蛇を出すだけだろう。
忘れちゃいけない。彼はバーサーカー、ケダモノだ。ジアースのように、物言わず力だけ寄越すわけじゃない。
一歩間違えれば、マスターのわたしだって彼の言う革命の礎にされてしまいかねない。
背筋に寒いものを感じながら、わたしは会話を打ち切ってバーサーカーから視線を外した。
――けれど。どうしても訊いてみたかったことがあって、危険だと解っていながらもわたしは口を開いてしまう。
「バーサーカー」
バーサーカーは意味ある答えを返さない。
「ねえ」
バーサーカーは意味ある答えを返さない。
「マリー・アントワネットは綺麗だった?」
バーサーカーは意味ある答えを――
「――ああ、綺麗だったよ」
万感の想いと執念が詰まった声で、絞り出した。
◆◆
その光を見た時、俺は悟った
この世に生まれた意味を。為すべき全てを、理解した
輝きは毒だ。眩しいものは人の心を冒し、貶める
人には誰しも隠したいものがある 見られたくない陰我がある
……あの子は、それを全て詳らかにしてしまう
悪意の有無など関係ない。ヒトが直視するには、あの子は眩しすぎた
故に、全ての王を滅ぼそう。存在するだけで人心を狂わせる光が正義ならば、誰かが是正せねばならぬ
――徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力であるのだから
征こう、アントワーヌ。征こう、ジョルジュ。……征こう、千鶴。我がマスター
今こそ、ヒトに正しい恐怖と庇護を。光なき世界こそ、自由の満つる楽園である
【クラス】バーサーカー
【真名】マクシミリアン・ロベスピエール
【出典】史実 フランス革命
【性別】男性
【身長・体重】290cm、115kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:A++ 耐久:A++ 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:EX
【クラス別スキル】
狂化:A
筋力と耐久を2ランク、その他のパラメーターを1ランクアップさせるが、理性の全てを奪われる。
ロベスピエールは人語をある程度解するが、彼の信念、行動は如何なる声によっても揺るがせない。
【固有スキル】
対英雄:EX
彼のこのスキルは「対王族」に限定されている。
汎用性に欠けた特化型。それゆえに無二の性能。
彼の場合、特に「王・支配者・それに与する存在に対する殺傷力」を示すものとなっており、格の高い王族が相手であればある程各種ステータスが際限なく上昇、その革命を罷り通らせる。
市井から生まれ出た人間由来の英霊でしかないロベスピエールをどこまでも強靭にさせるスキルのランクは規格外。狂おしき革命王を象徴する権力殺しのスキル。
鋼鉄の決意:A+
革命を成し遂げ民に自由を齎すという血塗れの決意と行動力がスキルとなったもの。
痛覚の完全遮断、超高速行動にさえ耐えうる超人的な心身などが効果となる。
複合スキルであり、本来は勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。その為、ロベスピエールはバーサーカーでありながら、時に異常なほど聡明な一面を覗かせる。
また、ロベスピエールの場合は前述の二つに加え、同ランクの戦闘続行スキルも含んでいる。
最高存在崇拝:B
ロベスピエールは霊魂の不滅を信じながら、人の理性を絶対視しないキリスト教の道徳を迫害し、破壊した。
このことからかの宗派に由来する能力・攻撃に対して一定値の耐性を持つ。
それと同時に、神性スキルを持つサーヴァントへの特攻効果としても機能する。
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
後述の宝具と組み合わさることで効力をランク以上に増幅させる。
【宝具】
『死は民への福音なり(ヴァントーズ・ラ・ジャコバン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~15 最大補足:10人
フランス革命の代名詞である処刑具――ギロチン。
ロベスピエールは正義と自由の名の下に、自身に仇成す者を次々と断頭台へと送っていった。
刃状に加工されたギロチンを自身の腕から自在に生やし、戦闘を行う。仮に破壊されても次から次へと刃を生成してのけるその異様な絵面は、さながら彼が祖国で執り行った血の粛清劇のカリカチュアのよう。ボウガンのように射出したり盾のように生じさせたりと応用の幅は広めである。
真名解放時には敵手の頭上からギロチンが生じ、攻性・防性事象及び対象の耐久力を無視した斬撃ダメージを与える。これは彼の革命が不滅の王家を地に落とし、ただの人間として殺生した逸話に由来する性質である。即ち、回避以外に対処の手段が存在しない。また直撃時には即死判定も行われ、幸運値が低ければ低いほど、理不尽な死滅の可能性が高まる。
『永遠なる革命譚は散華する白百合と共に(パンデミック・ギロチニズム)』
ランク:EX 種別:対人民宝具 レンジ:1~600 最大補足:1~3000人
革命期のフランスで民の心に灯った革命の火は、感染爆発(パンデミック)が如く国全体へと拡大した。
フランス革命の主導者であるロベスピエールが持つ第二宝具は、直接的な破壊力を持たず、また彼自身を強化するものでもない。この宝具は謂わば、革命病とでも言うべき人々の狂的な熱意を自身の姿や声、齎した破壊を介して周囲へと拡散させる「対人民宝具」である。
宝具の効果を受けた対象は精神抵抗判定を行い、失敗した場合、形はどうあれ(ロベスピエール以外への)戦意を著しく鼓舞される。それは時に根拠のない自信であり、時に抑え込んだ衝動の爆発であり、時に自己の死亡すら厭わない鋼の覚悟となる。共通しているのは一歩間違えば確実に破滅する状態になるということ。無論、サーヴァントの手綱を引くマスターがこれにあてられればどうなるかは想像に難くない。
加え、国家の絶対者である王家を滅ぼした逸話から、この宝具の効果を受けた全ての存在は全てのステータスが1ランク上昇し、サーヴァントを傷付けられる神秘を効果適用中得ることが出来る。宝具の効果はロベスピエールとの距離が離れれば離れるほど薄れ、近付けば近付くほど濃くなる。
但し、この効果はマスターにだけは通じない。
【weapon】
『死は民への福音なり(ヴァントーズ・ジャコバン)』
【解説】
フランス革命期の政治家にして、史上初のテロリスト。人類史の代表的な革命指導者である。
貧しい家に生まれながらも秀才として喝采を浴びていたロベスピエールは、三十歳の頃に政界へと身を投じる。
この頃は死刑廃止法案を提出したり、犯罪者親族への刑罰を禁止する法案に関わるなど、後の彼からは想像も出来ない活動方針を掲げていた。
――然しロベスピエールは突如として革命の病に取り憑かれる。左派の論客として頭角を現し、共和主義が勢力をマシた8月10日事件から権勢を強め、遂には国民公会の権力を掌握して恐怖政治を断行するに至る。
その革命は瞬く間にフランス全土を覆い尽くし、王家を駆逐し、次々と尊き血筋の者達や、それをかばう者、自分達の革命に反対する者さえも断頭台へ送った。
殺し、殺し、殺し、殺した。彼の手によってフランスは地獄になった。支配する者もされる者も、平等に怯えるしか無い正真の地獄が具現していた。世論がロベスピエールを狂人であると看做し始めるまでに時間は掛からなかった。やがて彼は反ロベスピエール派の起こしたクーデターによって逮捕され、彼自身も葬ってきた王家の者達と同じようにギロチンの刃で裁かれることになる。
マクシミリアン・ロベスピエール。何が彼を革命の衝動に駆り立てたのかには諸説ある。
だが、その真実は後世には伝わらぬまま闇へと消えた。それを知っていた彼の賛同者のごく一部も、彼と同じくクーデターにて露と消えたのだから無理もない話だろう。
ロベスピエールは虚無的な男だった。泥の味を知り贅沢を知らぬ、独裁思想とは縁の遠い空洞の男であった。
そんな彼がある時目にしたのは――絢爛にして優美。可憐にして秀麗。唯一にして無二。慈母が如き優しさと、紛れもない蒼色血統(ブルーブラッド)の気高さを兼ね備えた、麗しい一人の女の姿。
その顔を、髪を、姿を身なりを声を微笑みを……目視した瞬間、ロベスピエールは悟ってしまったのだ。
――ああ。こんな存在は、この世にあってはならない。
――こんな存在を生み出す王家もまた、あってはならない。
だって彼女は余りにも眩しすぎたから。眩しくて、眩しくて、自分の愚かしさが詳らかに暴かれるような錯覚を自然と民に与えてしまう、そういう類の人間だったから。ロベスピエールは当たり前のように彼女と、それを生み出した王家の打倒を掲げ、実行し、成し遂げた。
白百合の王妃マリー・アントワネット。
空洞の男が初めて目を奪われ、憎み、執着し、妬み、嫉み、恐れ、そしてただ一人心の底から恋焦がれた女。
フランス革命という大革命虐殺はひとえに、彼女という光を天へ還す為に行われた、大いなる儀式であった。
【特徴】
蒼白の肌に銀の髪を持つ、三メートル近い長身を持つ異様な男。
深淵のようと称される蒼瞳。常に嗤いながら戦い、光輝なる王に赫怒する狂人。
漆黒のジュストコールを纏い、血で錆び付いた具足を軋ませ歩く。
百人が見れば百人が"不吉"という印象を抱く、死の象徴めいたサーヴァント。
【聖杯にかける願い】
王権打倒――フランスのみならず、人類史に存在する全ての王権を無に還す。
王に死を、光に昇天を、民に自由を世に万年の平穏を!
"そんな滅茶苦茶な歴史改竄を押し付けられた人類がどうなるか"など、ロベスピエールは一切斟酌しない。
【マスター】
本田千鶴@ぼくらの
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ、ジアースに纏わる一連の戦いを消滅させる。
その過程で自分を裏切り辱めた、畑飼守弘を殺す。
【weapon】
ナイフ
【能力・技能】
ジアース(Zearth)と呼ばれる全長500メートルもの巨大ロボットを操縦する"契約"を交わしている。
マッハに達するほどの速度で移動可能な巨大機であるが、操縦の代償としてパイロットは必ず死亡する。
千鶴もひょんなことから死の運命を決定付けられた子どもたちの一人だが、異界である冬木には戦闘へ導く啓示も届かない以上、本企画では基本的に直接関係することのない単なるフレーバー。
【人物背景】
中学一年生。人並み外れてお人好しな三人の家族を持ち、家族の中では唯一現実的な思考回路を有している。
自分の通う中学校の教師である畑飼と性的関係を持つが、裏切られ、彼の友人である好事家達に性的暴行を受けた上でその模様をビデオに撮られるという辱めを受ける。畑飼を殺して自分も死のうと決意したが、その直後に妊娠していることを知り、生まれてくる子どもの為に一度は殺害を諦める。
しかし、ココペリによってジアースのパイロットとさせられたことで未来が消滅、再び畑飼への復讐を決意する。
ある種後がなくなったことで倫理観が飛んでおり、死にたくないと戦いを拒んで暴れる友人を躊躇なく刺殺し、多くの犠牲を出しながら復讐に向けて突き進む冷徹さを有している。
原作の特定エピソード(加古功編、本田千鶴編)のみで把握可能。
一巻とこのタイトルが付いている箇所のみ読めば書けると思われる。
【方針】
バーサーカーを"操縦"して、聖杯戦争に勝つ。人殺しに躊躇いはない。
最終更新:2017年08月02日 19:52