わたしはあっちゃんの幼馴染だ。
ちっちゃい頃からあっちゃんのそばに居たし、毎日のように一緒だった。
ツキの悪いあっちゃんは、目を離せばいっつも何か怪我をしたり、物を無くしたりと、不幸な目に遭ってた。
すごくすごく辛そうで、可哀想な男の子だった。
そんなあっちゃんを見てね、わたしはこう思ったの。
『どれだけあっちゃんがツイてなくたって、わたしがあっちゃんを守ってあげなきゃ』って。
だからわたしは、いつだってあっちゃんのそばに居たし、これからもそうなるだろうと思っていた。
そう、思っていた――エルさんがやって来るまでは。
あの人がやって来てから、あっちゃんは変わってしまった。
いつもより笑う事が多くなったし、口癖のように言っていた『ツイてない』も全然言わなくなった。
それは良い事なんだろう――多分。
あっちゃんが成長した証だ。
だけど、それは同時に、あっちゃんがわたしから離れてしまった証でもある。
このまま、エルさんのおかげであっちゃんが幸せになって、あっちゃんにとって、わたしがいなくてもいい存在になってしまったらどうしよう?
そんなのは絶対に嫌だ。
考えるだけで、背筋が凍りそうなくらいに、嫌な想像だ。
あっちゃんの隣には頼れるわたし、わたしの後ろには守られるあっちゃん。これまでそうして来た関係が崩れてしまうのは――怖い。
とても、怖い。
だからわたしは、何としてでもあっちゃんを元のあっちゃんに戻すしかないのだ。
そう、何としてでも――どんな手を使ってでも。
わたしにここまでの決意をさせる感情は、きっと『幼馴染の友情』なんかでは表しきれない感情なのだろう。
そう、きっと、この感情の名は――恋だ。
わたしはあっちゃんが好きだ。
大好きだ。
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(『いwwwやwwwいwwwやwwwそれは違うっしょ(笑) キミはただ誰かに頼られる事に依存していただけで、その依存という感情を『好き♡ 』だとか『恋♡ 』だとか、あるいは『友情!』とかいう耳障りの良い言葉に変換してただけなんだぜ?』――もしあの半巨人野郎がこの場にいれば、そんな事を言ってたんだろうな)
自分のマスターの願いを知った時、アーチャー――北欧神話における神々の大英雄、トールは、眉を顰めつつ、自分の悪友が言いそうな台詞を脳内で流していた。
彼のマスターである葵みことは、幼馴染に恋する、普通の女子高生である――ただしこの『普通』は、彼女が家庭に問題を抱えており、怪しげなオカルト通販サイトの常連である事を除けば、だが。
そんな彼女が聖杯戦争に参加するにあたって、聖杯に託そうとしている願いは、件の幼馴染を守れる力を手に入れて、彼をずっと守れるようになりたいというものであった。
「はっ、たかだか野郎一人の為に聖杯戦争を勝ち抜きたいだなんてねぇ……、随分と健気じゃねえかマスター。多少魔力の残滓みてーのが体に擦り付いてるとはいえ、所詮は一般人であるお前は、聖杯戦争なんかに参加するのが怖くねえのかい?」
「そりゃあ、勿論怖いけど……、これもあっちゃんを守る為だもん。そう思えば、全然へっちゃらだよ!」
それに――と、みことは言葉を続ける。
「あっちゃんがわたしのそばから離れてしまう事の方が、よっぽど怖いよ」
「…………ふぅん」
この時のトールは、目の前の普通の少女が放つ、普通ではない思いを目の当たりにし、軽く驚いていた。
何かと恋愛絡みの騒動が多い神話体系出身の英霊であるトールでも、驚く程の想いの強さ――それがどれほど恐るべきものであるかは、お判りいただけるだろう。
「まあ、いいさ。オレも北欧神話に名高い英雄神として、聖杯戦争なんつぅ催しでは勝ちを取りに行きてえしな。なーに、あのクソッタレの所為で起きちまった神々の黄昏に比べりゃあ、聖杯戦争なんて全然楽勝な戦争だろうよ。それに――」
そう言って、トールは自分の服の裾――スカートの裾を摘んだ。
「こんな姿で戦って、もし負けでもすれば、人理に大きく刻まれるレベルの大恥だろ? この聖杯戦争、色んな意味で負けられねえぜ――いや、こんな格好で勝っても、その場合はその場合でかなり恥ずかしいんだろうけどよ」
雷雷トールの服装は、神話で語られるような雄々しい姿や、絵画で描かれるような勇ましい姿とは真逆の、若い少女のそれであった。
アニメに出てくる魔法少女が着ているような華美なアレンジを加えられたレインコートを身に纏った少女である。レインコートの裾はスカートみたいにヒラヒラでフワフワだ。
柔らかそうで可愛らしい肉体の何処に、巨人たちから神々を守る力があるのだろうか――そう不思議に思うくらいであった。
(そういや、大分前に女装した事はあったが……、まさか、そのエピソードが元になってこんなファンシーでキュートでラブリーな格好で召喚されちまったっていうのか? 聖杯はいったい何を考えてんだよ。馬鹿じゃねえのか?)
トールのエピソードの一つに、奪われたミョルニルを取り返す為に、巨人のアジトに女装して侵入したものがある。
そのエピソードが元になり、トールは女装――魔法少女の格好をした姿で召喚されたのだろう。
最早服装だけでなく、骨格や体つきまで少女のそれにしか見えない女装は、流石神の女装と言った所だろうか。
(そん時に取り戻した槌も、今となっては杖になっちまってるけどな)
トールは懐にしまってある物体に意識を向けた。
そこにあるのは、トールの代名詞とも言える武器――雷を操る槌、ミョルニルである。当然ながら、これはトールの宝具だ。
北欧神話最強と言っても過言ではないその宝具は、今現在、トールのマジックガールな服装に合わせるかのように、魔法少女のステッキ風の形状へと変化していた。
有する神秘と破壊力は変化前から変わっていないものの、もう何だか与太話みたいな馬鹿げた変形である。
(いや、そもそもどうして魔法少女の姿でオレは召喚されてんだ? まだ、実際に女装した花嫁衣装で呼ばれるなら分かる――が、何故魔法少女? どうして魔法少女なんだ?)
あまりに理解不能に頭を悩ませるトール。
頭の中の火打石の欠片が痛むまでもなく、思考がぐるぐると混濁しそうであった。
そんな彼(彼女?)は後で知る事になる。
自分のマスター、葵みことが魔法少女のような力に憧れ、普段からそんな格好をしていた事に。
そのあまりに強い少女の想いが、召喚される英霊の姿までも変えてしまった事に。
【クラス】
アーチャー
【真名】
トール
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力A+ 耐久B 敏捷A+ 魔力EX 幸運C 宝具A++
【クラススキル】
単独行動:A
対魔力:B−
毒系統の魔術に対して、このスキルの効果は半減される。
【保有スキル】
神性:A+(EX)
神の息子であり、また自身も神であるトールは純粋なる神霊である。
その為、サーヴァントとしての召喚は不可能なはず――なのだが。
しかし、トールには『元々はオーディンをも上回る信仰を集めており最高神に位置していたが、時が経つにつれオーディンを最高神とする信仰へと民衆が変化し、トールはオーディンに次ぐ地位へと落ちた』という逸話がある。つまり、神霊としての格が落ちたエピソードがあるのだ。
一度神霊としての格が下がった事があるトールは、このエピソードが利用され、神性ランクがギリギリ召喚可能なレベルまで下がり、サーヴァントとして召喚された。
魔力放出(雷):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
いわば魔力によるジェット噴射。
雷の神であるアーチャーは魔力を雷として放出する。
巨獣狩り:A+
アーチャーは神々と人間を巨人から守る象徴でもあり、また、ラグナロクでは巨大蛇ヨルムンガンドと相討ちになったという逸話を持つ。
巨大な敵性生物、特に巨人に属するものとの戦闘経験に長けている事を示すスキルであり、アーチャーの攻撃はそれらに対して特攻効果を発揮する。
【宝具】
【悉く打ち砕く雷神の杖(ミョルニル)】
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1
槌の宝具――のはずだが、此度の召喚にあたり、魔法少女が持つステッキのような形へと変形している。
真名解放して強力な電撃を放つ他、投げて使用することも可能。 この投擲も可能な使用法から、トールはアーチャーとしての適正を獲得した。
また、屋外では雷を呼び込むことで出力を向上させることができる。
【万雷打ち轟く雷神の嵐(ミョルニル)】
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:1000
上記の杖に雷を上乗せし、質量を持った雷柱を全方位に放出して周囲の全てをなぎ払う広範囲攻撃。
世界蛇にも致命傷を負わせる程の威力を持ったこの宝具を受けて無事でいるのは、まず無理だろう。
本来ならば、更にこれ以上の使用法がミョルニルにはあるらしいが、サーヴァントとして召喚の際に生じたスペックダウンにより、その技は使用不能になっている。
【weapon】
ミョルニルを扱うのに必要とされている鉄の籠手。
今回の召喚では、魔法少女風の衣装に合わせた銀色の手袋に変形している。エロ漫画でSっ気のある女の子が野郎の前立腺を弄る時によく手にはめてる、あの布地がツルツルスベスベしてるエッチな感じの手袋です。
ミョルニルを振るうのに必要とされる力の帯。装備した者の力を倍加させる効果を持っており、アーチャーの筋力ステータスに+が一つ振られているのも、この道具によるもの。
今回の召喚では、魔法少女のコスチュームに合わせた感じの白いエナメル質のベルトに変形しており、腰回りに巻かれている。
トールの戦車を牽く二頭の山羊。
今回の召喚では、それらの敏捷性や機動力が概念礼装の飛行能力・速度に変換されており、まあ、つまるところ、サーヴァント・トールが着ているレインコートを魔改造したかのような魔法少女風のコスチュームの正体は、この二頭である。フードに生えてる山羊の角から、その事が伺えるだろう。
元は山羊のレインコート――レインコートならぬレインゴートと言ったところか。
ちなみにレインコートのような衣装になっている理由は、上記の駄洒落じみた理由ではなく、トールが天候を司る神だからである。
【人物背景】
ガチの神霊、トールが色々と理由あってサーヴァントとして召喚された姿。
魔法少女風とかいう巫山戯た姿で召喚されたのは、マスターが魔法少女の力を望んでいたからでもあるが、トールのエピソードの一つに花嫁衣装で――女装して敵のアジトに侵入したというものがあるからでもある。
つまり、見た目は可愛い少女そのものであるが、性別は――?
その真相はさておくとして、此度の召喚にあたり、トールは『あんな作戦で侵入するなんてやめときゃ良かった……』とめちゃめちゃ後悔している。
【特徴】
レインコートを魔改造したかのような、魔法少女風の灰色のコスチューム(フードに山羊の角が生えており、裾の部分がフリフリのフワフワになっている)。手には銀色の手袋をはめ、腰回りにはレインコートの上から白いベルトを巻いている。
髪は赤いストレートの長髪(普段はフードの内側に仕舞われている。再臨でもすればフードが脱げる感じなんじゃないですかね? 再臨ってどうやるんすかね?)。
怒りっぽい性格であり、その上今は実に屈辱的な服装になっている為、常に顔が怒りで真っ赤っかのかである。可愛い。
こんな童貞の妄想を詰め込んだ性癖のカツカレーチャーハンみたいなサーヴァントだが、流石は神霊クラス。その実力は並の英霊なら瞬殺できるほどのものである。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。
【マスター】
葵みこと@かみさまドロップ
【能力・技能】
特になし。キケリキーのグッズは元の世界に置いてきてしまった。
【人物背景】
『かみさまドロップ』の主人公である野分あすなろの幼馴染で、独り暮らしの野分の世話を色々と焼いている。
生まれながらにツキのない野分に思いを寄せている彼女は、野分とエルの同居生活を快く思わず、次第に大きくなる嫉妬心に悩んでいた。
そんな時、クラスメートのリノがオカルト通販サイト・キケリキーの特設サイトにみことを招待する。そこで入手したグッズで不思議な力を手に入れたみことは、嫉妬心が暴走。
エルを亡き者としようとするが――?
原作コミック3巻11話あたりから参戦。
【マスターとしての願い】
ずっとあっちゃんを守れるようになりたい。
最終更新:2017年08月03日 11:58