冬樹を囲む山の一角、町を一望できる場所から夜の街を見下ろす。
多分、みんなはこれを綺麗だとか、素敵だなんて言うんだろうな。
私がまだ苦しいとかつらいとか、そういうのを何も知らなかったなら。きっと大声上げてはしゃぎだしてしまったと思う。
見たこともないぐらいの光があって、瑠璃や翡翠や黄金なんかよりも輝いて。腹立たしいぐらいに綺麗だから。
―――――――――"恨めしい"
きっと、みんな、幸せなのだろう。"私達を殺したくせに"。
きっと、みんな、忘れてる。"私の名前を忘れてる"。
ああ、嗚呼―――――――"恨めしい"
まずはお父さんを殺された。
仕方のないことだとみんな言うのだろう。戦争を起こしたのは父であるし、戦いの中で命を落とすのは当然なのだから。
"知ったことか"
理屈なんて知らない。だって帰ってこないじゃないか。もう会えないじゃないか。どうしようもないじゃないか。
受け入れられる人が居ると言うのなら、きっとその人に心はないのだろう。
それでも、これで終わったのならば、いつかは折り合いを付けることができたかもしれない。
いつしか別れはくるものだから。それがあまりに早く来てしまっただけだと思えたかもしれない。けど
最期は全てを奪われた。家族はみんな殺された。父の首は壁にさらされ、誇りすらも踏みにじられた。
悲しいも辛いも思えなくて、涙が出る前にただただ恨んだ。憎んだ。復讐を誓った。
あいつらはみんなもう死んだ。だったら誰も彼も死んでしまえばいい。私達を殺しておいて、こんなに世界が綺麗になるなんて許せるものか。
だから、この、きらきら光る輝きも全部途絶えてしまえ。私達を殺したんだから、死んでしまったっていいだろう。
742 名前:恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw[sage] 投稿日:2017/08/01(火) 19:47:13 ID:cMdo2H9s0 [3/8]
「…………話がよーわからんのだが」
冬木市を囲む山の一角、町を一望できるその場所にて。
くたびれた上着を纏う跳ねた髪の男―――――"凧葉 務"がそうつぶやく。
彼の視線の先には、家屋の一階程度の大きさはありそうな巨大な髑髏。その上に真っ赤な着物を着たおかっぱ頭の少女が腰掛けている。
「戦争が始まるの。願いを懸けた殺し合い。」
その少女は男に背を向けて、町の夜景を眺めたままに言い放つ。
聖杯戦争。一応だが、凧は一度その説明を受けていた。この地に集まった主従が聖杯を懸けて殺しあうという。
だが余りにも突飛な話で頭がついていかない。ついさっきまで自分は本物の怪異屋敷に居た訳で、脈絡のない話には慣れたと思ったが。
気がつけばここは屋敷の外らしい。あそこに満ちる悪意は感じられず、"屋敷の中なら行かせてやる"と言われた自分の能力―――――
――――"黒い腕"が、どれだけ念じても出てこない。
「難しいなら、これだけ覚えておいて。
オマエは私の願いを叶える為の駒でしかないの。」
巨大な髑髏の傍から、同じく巨大な腕骨が生える。少女はその手に乗り、エレベーターを使うように地面に降りた。
凧葉と少女が相対する。凧葉は初めて、少女の瞳を見た。刀の切っ先を思わせるような、鋭い眼を。そこには確かな"憎悪"が籠っていて。
少女は首から鏡を下げていた。そして、背後の巨大な人骨。彼女がさっき話された英霊と言う存在―――――かつて死んだ人であるならば。
「アンタは、何を願うんだ?」
それを確かめるために凧葉は問う。
「この世界を殺す。」
答は一瞬で帰ってきた。それを口にしたとたんに、少女の口元に熱が帯びていく。
「お父さんを――――私達を殺した世界なんて、死んでしまえばいい!!」
思い切り、叫びとして放たれた少女の願い。それはきっと、口にするほどに積もっていく憎しみなのだろう。
父親を殺されたというなら。歌川国芳とも楊洲周延とも少し違う姿をしているけど、彼女の名前はきっと。
"滝夜叉姫"
凧葉は売れない画家である。故に、絵の知識であればかなりのものを持っている。
その名前は、一族を殺された復讐鬼として何度も描かれている女の名前であった。
「………安心して。オマエだけは生きてても良いわよ。
それぐらいはしてあげる。けど―――――"オマエも"、復讐なんて意味がないって言うなら……」
荒げた息のまま、顔を赤く染めたまま少女は言葉を続ける。
その背後で、巨大な腕骨が拳を握る。それが振り下ろされたのならば、人間程度はあっさりとつぶれてしまうのだろう。
凧葉に選択肢は用意されていなかった。あるのは少女への隷属の一つだけ。だから
「……そんなこと言えねぇよ。」
復讐。その言葉で思い出す顔がある。
立木緑郎。怪異屋敷に父親を食われて、その屋敷に復讐する、壊すと決意したあの少年。
始めてあった時は普通の男の子だった。それが、復讐すると決め手からはひどく顔つきが変わっていた。
この少女もそうなのだろうか。血涙を流すかのように赤黒く淀んだ眼、憎悪を顔の皮に塗りたくったみたいな顔をしているこの少女も。
きっと、そこは同じなのだろう。だけどあの少年とこの少女は、すこし違う気がする。
「俺は普通のヤツだからよ……
アンタみたいな、あんまりスゴい過去を持ってたら何も言えねぇよ……」
その言葉を聞く少女は、呆けていた。
恐怖に顔をゆがませて命を乞うか、復讐の片棒なんて担げないとわめきだすか。そのどちらかだと思っていたから。
なのに凧葉は、少し同情したような顔で、穏やかに声を紡いで行く。
「気持ちがわかるとか、そんなことも言わねぇ
……でもさ、これだけ思うんだよ。
"アンタの願いは本当にそれで良いのかよ"」
―――――それが引き金だった。
悲鳴を上げるように少女が叫んだ瞬間、あの拳が振り下ろされた。
少女の精神を反映するように、狙いのぶれたそれは凧葉に直撃することはなかった。が、それでもその余波だけで人を吹き飛ばすには十分であり
凧葉は背後の樹木に叩きつけられる事になった。
「……結局、わかったような事言って!
わからないんでしょ!?黙っててよもう!!!」
叫びはいつしか、泣き声に変わる。擦れた声はぬれ始めて、瞳からはしずくがこぼれる。
自分のマスターを殺しかけたことにも気づかないで、ただただ凧葉に感情をぶつけるしかしない。
「イテテ……」
強打した背中をさすりながらも、凧葉務は立ち上がる。言いたいことはまだ、終わってない。
「アンタが憎い奴等はもう死んでるじゃねぇか!」
「五月蝿い!!!」
今一度振り上げられた拳が落とされる。今度は覚悟の上。前方へ、少女の方へ飛び込んで回避する。
「それでも憎いのよ!!私達を殺したくせに、こんなに綺麗な世界が全部!!!」
彼女が言うからには、きっとその通り。どうしようもなく憎くて憎くて仕方がないのだろう。
だから、その思い自体には何も言えやしない。だから、凧葉が伝えたい言葉はその先だ。
「願いが何でも叶うんだろ?だったら――――」
次は間髪入れず、振り下ろされた拳がなぎ払われ―――――これでいい。この角度ならば、"少女の方へ飛ばされる。"
吹き飛ばされた体は地面に何度も打ち付けられて、凄まじい痛みを抱えながらも凧葉たどり着いた。
立ち上がり、伸ばした手で、少女の体を掴む。
「オマエ、何を……」
「………訊きたいだけだよ。
"本当に願い事がそれなのか"って。」
少女の体は震えていた。それが怒りによるものか、それとも別の何かか。
「……だって、どうしようもないじゃない!
恨むしかないのよ!だって、もう会えない……か、ら……」
そこで言葉を詰まらせた少女に、凧葉は優しく微笑みかける。
緑朗のお父さんは帰ってこないかもしれない。でも、彼女なら。
願いが何でも叶うというのなら、彼女の奪われたものは帰ってくるはずなんだ。
「あ、わ、私、は………ぁぁあああああああぁああああ!!!」
「ちょ、ちょっとアンタ……」
大声を上げて泣き始める少女。これはちょっと、凧葉も想定外だったようで。
「ほ、ほら!アンタ、絵は好きか?」
泣き止んでもらえなきゃどうしようもならない。凧葉は鞄からスケッチブックを取り出す。
何枚もページを捲っていろいろな絵を見せるけど、少女の鳴き声は止まない。
なるべく愉快な絵を書いているつもりだが、少女の鳴き声も止められないとは―――なんて、ちょっと自信をなくしながら捲った最期のページ
そこに描かれた猫の絵を見て、少しずつ少女の鳴き声が収まっていく。
「……ね、こ?」
「……やっぱ、子供ってぇのは皆ネコが好きなのね……」
少女は凧葉の手からスケッチブックを取り上げて、まじまじと猫の絵を見つめる。
そのうち自分でページを捲り始めて
「ねぇ、これは?」
「お、おお。これは―――――」
――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――――
「ちょ、ちょっと!なんてひどい話なの!?
この子が可愛そうよ!このお話、書き直しなさい!」
「ま、まだ最後まで読んでねぇだろォ~~」
小一時間ほどたったのだろうか。いつしか二人はその場で座り込んで、絵について語り合っていた。
スケッチブックのページは捲り終えて、今見ているのは絵本の原稿。凧葉が出版社に持ち込み、かつて没を喰らったものである。
ひどい話だ、なんて言われたけど。自分の書いた絵本にこれだけ夢中になってもらえて気を良くしないはずもなく。
全身の体の痛みなんかも忘れて、少女も自分のやったことを忘れて、二人は絵本を語らいあった。
「……う、うぅ……」
「な?良い話だったろ。」
またこぼれだす少女の涙を、今度は落ち着いて眺める凧葉。自分の絵本で泣いてくれているのだ、作家冥利に尽きるというもので。
「……落ち着いたか?」
それでも、進めなければいけない話もある。
「……ええ。憎い憎いってばかり思って、簡単なことに気づかなかったものね。
私はまた家族に会いたい。……恨みは忘れられないけど、それでも願いが叶うならそうしたい。」
「やっと答えてくれたな。
今度はオレの話を聞いてもらってもいいか?」
そう言って立ち上がろうとした凧葉に、忘れていた痛みが走る。
「イッ……てぇ……」
「あ……ご、ごめんな――――」
そうして少女もやっと自分のしたことを思い出す。一度は明るくなった顔を俯かせて、謝罪を口にしようと
「オレも、やらきゃならんことがあるんだ。」
けれど凧葉は言い切る前に。自分の話を始めてしまった。
「"双亡亭"っていう酷い屋敷があってよ……仲間がそこで戦ってんだ。
だからさ、アンタの願いが叶ったら手伝ってほしいんだよ。
それまでは駒にでも何でもなるからさ。」
お前は自分の駒でしかない。そういえば、そんなことも言ってしまっていたと思い出して、少女の顔が赤くなる。
男の中では、まだ自分はあの傲慢な女のままなのだろうか。自分の中では、男は最初とはまったく違う姿で居るのに。
と、そんな考えのせいだろうか。
「え、ええ。勿論!」
少々食い気味に申し出を受け入れた。
「だから貴方の……"マスター"のためにも、共に頑張りましょう!」
"マスター"。最後に少女はそう呼び直した。
最初はただの駒だなんていってしまったけれど。今なら自分が従者でもいいと思える。
謝罪の代わりに、これからは自分が貴方の従者となる。そんな思いの、少々回りくどい表れである。
「……アンタそんなに素直だっけ?」
「い、今までは冷静じゃなかっただけなのよ……」
【クラス】キャスター
【真名】滝夜叉姫
【ステータス】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
道具作成:D
キャスターのクラススキル。
道具に関する逸話は持たず、また知に長けたという事もない。
結果として並以下のランクであり、一応持っているという程度。
陣地作成:C
キャスターのクラススキル。
上記と同じ理由でこちらも並。一応持っている程度。
【保有スキル】
妖術:A+
貴船神社の荒神より授かった妖術。
幾百の人を勾引かし、無数の妖を従え、屍より大妖を創造した。
滝夜叉姫については出自不明の様々な伝説が残されており、出来ることは無数ともいえる。
鬼種の魔:B
鬼の異能および魔性を表す、天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
復讐劇の果てに鬼に成り果てたという逸話により、滝夜叉姫はこのスキルを保持している。
魔力放出は特定の形をとらず、ただ純粋な膂力の強化として現れる。
【宝具】
『天葬天滅河砂髑髏』
ランク:B++ 種別:対軍宝具
滝夜叉姫、五月姫、如蔵尼。彼女にまつわる数多くの逸話が重なり一つの宝具と化したもの。
彼女は"屍の軍勢を率いて天を堕とさんと暗躍した"
彼女は"百鬼夜行を従えて、巨大な骸骨を操り迫る勇士を押しつぶした"
彼女は"復讐の果てに自らを鬼と化し、両の手に刀と薙刀を握り舞い狂った"
そしてこの宝具は彼女が率いる屍の軍勢であり、彼女が従えた百鬼夜行であり、復讐の果てに纏う彼女の鬼である。
無数の屍が巨大な骸骨となり、彼女はそれを纏うことで"鬼"と化す。言わば屍で組み上げた巨大な装甲を纏う宝具。
その地に死した人が居る限り、骸骨はその屍を用いることで再生する。実質魔力が尽きぬ限り再生を繰り返すのである。
巨大な質量による攻撃力は当然として、鬼種の魔による魔力放出のバフを受けることで破壊力はさらにましていく。
ただし、万全の性能を発揮するには真名開放が必要となる。
真名を開放せずこの宝具を使用する場合は、一部のみを召喚する、巨大な装甲の変わりに通常の鎧のようにして纏うなどして使用する。
【人物背景】
平将門の遺児であり、三女。嘗ての名は五月姫であったが、妖術を授かった際に名を変えた。
朝廷に一族を滅ぼされ、その恨みから貴船神社へ"丑の刻参り"をし、荒神より妖術を授かったとされる。
その後の彼女は将門山に篭り、公明な妖怪を含む軍勢を結成。朝廷転覆を図るが、大宅中将光圀と山城光成に打ち倒される。
その最期に、彼女は今までの罪を悔いて改心したと――――ここまでが彼女の物語。
しかしそれは将門が庶民の英雄として喧伝されていくうちに、庶民に望まれた救済でしかない。家族を殺された女が、無念も晴らせず死ねるものだろうか。
答えは否であり、故に彼女は世界を憎む。仇敵が作り上げたこの世界を憎む。
願うは復讐であり、何もかもなくなってしまえばいいという。けれど、その願いの意味は"幸せを取り戻したい"というだけ。
同じく将門の三女であるとされる"如蔵尼"という女性が存在しており、彼女と同一視されている。
滝夜叉姫が朝廷転覆を企んだ悪とされているのに対し、如蔵尼は美しく清らかな女性であったという伝説が数多く残る。
きっとそれはどちらもが真実。無垢で穢れが無かった故に、深く深く怨讐に囚われたのだろう。
両者共に、非常に美しい女性であったという点は共通している。
【特徴】
真っ赤な着物を纏い、腰には護刀、首からは丸鏡を提げて薙刀を構える"少女"
目つきは鋭く、常に世界を恨んでいるよう。でもたまに素の顔を見せると、明るいただの女の子の顔。
若くして復讐に囚われ、そのまま何も育たなかったのかもしれない。精神性は非常に幼く、また当時の時代背景もあり、戦い人を殺す事になんの頓着も無い。
そこを除けば純粋無垢で人懐っこい、見た目相応の少女。マスターとのやりとりもあって、多少はその素の部分を取り戻しつつある。
キャスタークラスでありながら近接戦闘に向くステータスであり、宝具も前線で使用するもの。
バリバリの近接サーヴァントである代わりに、キャスター本来の役割は苦手。
【サーヴァントとしての願い】
もう一度、幸せな家族とすごしたい。
【マスター】
凧葉 務@双亡亭壊すべし
【能力・技能】
特になし
【人物背景】
参戦時期は原作5巻終了後から。
双亡亭という怪物屋敷に挑む異能者軍団のなかで一人、一般人として双亡亭に乗り込む売れない画家。
特殊な能力などは持ち合わせていないが、非常に強靭な精神を持つ。
過去の傷を抉る精神攻撃に対し、過去の傷を受け入れることで跳ね除け
またその精神攻撃を受けたほかの人間にたいしても、その精神を立ち上がらせることで救うなど。
【星座のカード】
牡牛座
【マスターとしての願い】
生還し、双亡亭を破壊する。
最終更新:2017年08月04日 23:15