吹きつける風の翼に乗って雲がゆったりと動く。
亥の刻────。
漆黒の世界に溶け込む銀月。真っ暗闇に青々と伸びた竹藪。
その闇に紛れて静寂の空間に佇む一人きりの影法師。
落とされる銀の斜光が差し込んで、穴の空いた雲から垣間見える月明かりが正体を暴きだす。
煌々と冴えている月光を背景にしたその正体は袴と腰に差した刀が良く似合う女だった。きっと武家屋敷の姫に違いない。
所謂、別式女といえば、厳つい男のような女武芸者というのが相場。
しかし彼女は羚羊のような華奢な躰をしている。結った長い髪。その顔は実に端麗であった。
口を真一文字に結び、呼吸を鎮める女は微動だにせず、時間だけが過ぎる。
月明かりだけを頼りに腰を落とし周囲を見透かした。
自然と半眼。────動かない。
音が急速に無くなっていった……。
鏡のように澄み渡る。────静の時間。
────風が動く猛烈な気配。 ────その刻。
すっと、自然に彼女の躰が沈み────。
ゴォォと、天空《そら》で風が吠える。 ────月が雲に隠れ、風が吹き抜け、また現れる。 月が再び翳る……。 ────雲が流れ去るその一瞬。
「────ッ!」 ────眼をカッと開き、
腰の刀が鞘走り、右手が白光とともに閃いた。
……雲が晴れ、夜の闇が暴かれる。
抜き手を見せず、真横に疾《はし》るそれはまるで稲光のような刃鳴一閃。
文字通りそれは目にも止まらぬ早業。太刀筋、力、伎倆、是申し分なし。
笹の葉がハラハラと舞って、辺り一面の竹は瞬く間に割れて倒れていく。
しかし、彼女はそのことを嬉しいとも、凄いとも思わない。
只、刀をそっと鞘に戻し、 彼女は牙を剥いて、悔しそうな表情を浮かべた。
「……くッ!」
────彼女の名は風鳴翼。現代に遺された数少ない本物の戦士の一人だ。
そのまま彼女は柳洞寺へと静かな足取りで立去った……。
■
翌朝────。
「常在戦場」そう彼女は口にした。
────天の杯《さかずき》。聖杯。無限の願望機。その伝説は真実《まこと》であった……ッ!
風鳴翼が〝サーヴァント〟や〝マスター〟などと言う言葉を初めて訊いたのはつい先日。 ひょんな事から訪れた戦慄が漲る刻を超えたこの小旅行。その期待と不安が彼女の胸にマーチを鳴り響かせているのだった。
四面楚歌のこの戦場から生きて帰れるかどうかも定かでない現状。
逃れようのない生命《いのち》を賭した負けられない戦い。
そんなものなど、彼女にはとうの昔に出来ている。しかし、
(ここでの剣《つるぎ》は誰かを救うための正義の剣ではない。全てをそのことごとくを葬り去る修羅の剣でなければならない)
それは、風鳴翼の声。心の声であった。
(英霊《サーヴァント》は再び黄泉の国にへと送り帰すまでの事、でもその人間《マスター》まで道ずれになってもらわねばならないのか……ッ!?)
(この剣《つるぎ》がこれほどにまで重うなろうとは……)
(皆斬らねば成らぬのかッ!?皆死なねば成らぬのかッ!?こんな事は絶対に間違っているッ!)
しかし、翼は頭を振ってその疑問を打ち消した。
(これ以上慮るの今は止《よ》そう。無聊を託つのもここまでだ。その前に……)
風鳴翼は作務衣姿に口をへの字に結んで、黒々とした長い歩廊を歩き、本堂へ向かった。
柳洞寺の奥の院────。
風鳴翼は大きく頭を下げた。
「ご免」
高い天井に太い庫裡の柱。偶像に囲まれたこの伽藍で座禅を組む女。
今でも身体の神経に生々しく残る初めて出会った時のような冷たく燃え上がるような剣気《オーラ》は感じられない。その存在感も路傍の石仏に等しい。ただ、そこにいるだけ
その服装《いでたち》も似つかわしくないTシャツにジーンズ姿という有り様の彼女が風鳴翼のサーヴァント。 剣《セイバー》だ。
瞑目中のセイバーは振り向いて会釈した。
『あら?』
サーヴァントの顔が向いて背後の翼に視線を投げ、素っ気なくそう応えた。
能面を連想させる無機質な顔立ちがほんのりとほぐれた。
左右に分けた髪を後ろで結んだ化粧っ気のない細い面。鋭いが笑うと優しくなる美しい眼。
その姿には風鳴翼などには窺い知ることもできない、多くの人間を殺戮した過去を持つ悪鬼羅刹としての血腥い闘争の歴史が控えている。
古より破邪調伏する地天の戦鬼《いくさがみ》────。
文字通り菩薩にも羅刹にも成れる彼の伝説の────鬼だ。
肝心な角は今は生えていないが……。
背丈は翼と並ぶ。対極の位置にある。
翼の胸に緊張と不安が蘇る。
暫しの無言。沈黙。そして────。
二人は憮然とした表情で言い放った。
『裏の草むしりは?』──────「終わりました」
『トイレ掃除は?』───────「終わりました」
『あの部屋は?』────────「…………(ギクッ)」
翼はセイバーに詫びると、セイバーは有無を言わさず手荒く翼の腕を掴み部屋へと引っ立てていった。
■
────その他諸々掃除が終わったら、昼を過ぎてしまった……。
柳桐寺の山門。
箒とバケツをぶら下げてセイバーと翼、二人つるんで石垣の石段を登り歩く。
『時間をかけ過ぎです。何やってたんですか、あなた?』
セイバーは水の入ったポリバケツへ柄杓を突っ込む。
「……すみません」
青臭さが恥ずかしくてうつむいたままの風鳴翼。
『だらしがない。見ず知らずの我々を疑いもせず、招いてくださったここの住職殿の御厚意に失礼でして?』
「……はい」
そのまま目を伏せて、とぼとぼと歩く。
『顔を上げなさい。まったく……仕様がない人ですね。あなたは戦うことしか知らないのですか?』
これじゃまるで戦国時代の豪傑じゃないか。
────人類を守護する風鳴翼は幼き頃より研鑽され、鍛え抜かれた戦闘技術のエキスパート。特異災害・ノイズと戦い続けながら、今なお世界を飛翔《と》ぶトップアーティストでもある。
────そんな彼女は洗濯洗剤と柔軟剤の区別もつかない。
────これでは一体どっちがサーヴァントか分からない……。
『一体何故あなたのような者が来たのか……?』
と呆れたセイバーは息と一緒に吐いた。
「……この若輩者などに不承不承ながら、一体何故貴女様のような御方が首輪をはめられて飼われるような真似を……?」
翼は袖に隠された左腕の令呪を痛むように押さえる。
『元々守護者であるこの私が権現された時点でこの戦いには何かある。これには翼さんとは一切関係がない事と思いますが……』
守護者と、言う単語に疑問符がついた翼。
何処《どこ》かの場所。何時《いつ》かの未来。人類史の節目に自分が現れると母神様は言った。
「では、やはり私を招き入れたその聖杯とやらは邪なもので、天に意があって貴女様を地上に降されたと?」
『それはまだ解りません。が、剣を突き通せば解りましょう』
上る翼の足が停まった。
「それなら私も同じです」
遅れて振り向いたセイバーはむっと、眼を剥いて目尻を険しくする。
「この戦場《いくさば》に何かあるのなら、それを見極めるの事が防人の運命《さだめ》。問題ありません。血を吐き、骨を削る覚悟はできています」
『聖杯は求める者へとやってくる……。翼さん。貴方の聖杯に掛ける願いは?何故そこまでして剣を取るのです?』
「望み……ですか?私が聖杯へ祈る願いはありません。だから何故私が招かれたのか……」
『別に口に出しても罰は当たりませんよ?』
翼は首にぶら下げた一つのペンダントを取り出し掲げた。
それをセイバーはちらと見た。
「この天羽々斬に誓って第一義。私に聖杯など必要ありません」
『どうして?』
二人の目と目がからむ。
「私の願いは……夢は、誰かに叶えて貰うものではない」
揺るぎない深い蒼空《そら》のような色の視線。
それが生まれながらのものであるのか、修練の賜物であるかはセイバーにも解らなかった。
「私の夢はトップアーティストとしてもっと高く羽翔《とぶ》事。けど、それは私自身の力でつかみ取らなければならない。手に入れなければならならない……」
その魂を言葉に乗せて雄弁に語りかける。
「でも、いつか……いつかこの剣がどこか遠くに置ける争いのない平和な世界に……私の歌を戦場で奏でる鉄血ではなく、ただ傷ついた人たちを癒やす為だけに使いたいんです」
「だけどそれも、叶えて貰う物では無い。それは人類全ての力で手に入れなければならない……」
セイバーのパチパチとした拍手が聞こえた。
『あのような部屋を見なければ満点の演説でしたのに……』
「貴女様の側に無粋とは知りつつ、馳せ参じさせてもらいたい。例えこの身が人でなくなったとしても戦わなければ……。 一体何が待っていようとも赴〈い〉かなければ────『駄目です』
次の瞬間、翼の肩を風を切った。
「────え?」
一刹那。翼は振り向いたがそれでも遅すぎた……。もうあんなに遠くにいる。
『────と、まぁこの通り……』
翼は我に返る。
「ギアを……ッ!?」
セイバーの掌にあるそれは大蛇薙と伝えられる素戔男尊の振るいし剣の欠片より造られたその異端技術《ブラック・アート》の結晶体。
ひとたび纏えば人のならざる者。英霊恐るる、その名は────絶刀・天羽々斬。
しかしそれは装者の手を離れ、サーヴァントの手の中にあった。
あっという間にギアをかすめ盗られてしまったのだ。
『押っ死《ち》んでしまっては元も子もないでしょう?』
『この懐刀は暫く預からさせて貰います。今夜は
町の巡回に参りますので…… それではご容赦を』
そう言い放つと凩を巻き起こしてセイバーは何処かへと消え失せてしまった。
全身の血を凍りつかせながらも慌てて石段を駆け降りると身体を一回転させて四方を確認する。
気配も一切感じられない。それでも翼は叫んだ。
「私は是が非でも戦場に馳せ参じなければならないッ!この残酷な仕打ちは一体ッ!?母神様ッ!どうかお願いしますッ!私に剣を抜かせて欲しい。私の天羽々斬を返してくださいッ!母神様────ッ!」
返事はない。 今はただ風の音を聴く。
纏わりつくのは近づきつつ闘争の予感。頬を一筋の汗が流れる。
────この異境の地・冬木は、既にこの世ながらの修羅地獄。
────他のマスターたちは殺そうと謀り、画策しているかも知れない……。どんな豪強や英俊が潜んでいるか知れない……。
さぁ、この先に、どのような風雲が旋《めぐ》るのかか?
■
【出典】仏教
【SAESS】セイバー 【身長】166㎝【体重】59㎏
【性別】女性
【真名】鬼子母神
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力B 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以上の魔術を完全に無効化する。
女神の神核との強固な守り。
神性:A
角を折っているためランクダウンしている。それでも高い。
【保有スキル】
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、自己改造等の複合スキル。魔力放出の形態は『蒼い焔』と『刃』。
吸血衝動を常に抑えているためランクダウンしている。鬼子母神は戦闘時に段階的に上昇させる。
鬼種の魔を完全解放すると髪は白く染まる。毛髪の操作や神通力などの超能力の行使が可。
女神として果たすあらゆる呪いに対する守護。しかし、鬼種の魔がランクアップすると相対的にランクダウンしてしまう。
霊体に対して+補正を加える。サーヴァントも例外ではない。魔性属性に有効打を加える。
このサーヴァントのもっとも嫌悪している飢餓衝動、食人鬼衝動。人間や人型サーヴァントを補食する事で魔力に還元、そのサーヴァントスキルの獲得する。また対象者は若ければ若いほど回復量が上がり、そのサーヴァントのスキルを獲得する確率も上がる。セイバーの強い精神力・自制心で常に抑えるため使用不可。
【人物背景】
釈迦の説法を受け、改心した元・人喰い鬼。
子供と安産の守神となった夜叉の一尊。
家事でも何でもこいの文字通りのオカンサーヴァントだ。
元々は子供を攫い、食べる悪鬼だった彼女。改心後の彼女は人喰いを完全に断ち、同志・十羅刹女を率い人喰いを繰り返す同族や教えを広める事を妨げる仏敵を『処断』し、戦場に立てば何千何万を葬る破壊神と人間の擁護をする仏法の守護神。死後、その両方の側面を持つサーヴァントとなった。生前多くの人間の子供を食べてしまった贖罪を背負ったまま、それよりも多くの朋輩を手に掛け、霊長側の守護者にまでとなった鬼殺しの鬼。現在の鬼子母神の評価は彼女自身の並々ならぬ努力・献身の結果でもある。
贖罪に苦しむ彼女は赦されたいのか?赦してほしいのか?答はどちらでもない。彼女を一番赦していないの彼女自身だった。
因みに人間の代わりに食べ始めた最初はカレーである。好みは香辛料を多様せず、野菜多めの甘口の万人向け。しかし、最近近所のスーパーで目の当たりにした食料品コーナーによって、彼女のカレー感は絶賛イノベーション中。
764 名前:客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6[sage] 投稿日:2017/08/02(水) 04:00:47 ID:bd0flGts0 [7/7]
【宝具】
『角剣・一切衆精《かっけん・いっさいしゅじょう》』
ランク:A+ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:1~1000
自分の角で造られた双剣。
この宝具の真名解放時、鬼種の魔はランクアップする。能力は鬼炎による溶断とセイバーの魔力による刀身の延長。 最大延長距離は約七.ニキロ。しかし、この宝具の本質はスキル:魔力吸収により吸収した魔力属性・特性を転写させる無色の妖刀。相手の力を吸収し、自身の魔力を上乗せして跳ね返す。
基本運用は次の通り。
『刃《ヴァジュラ》』
対人仕様。
対の『角剣・一切衆精』を連結して振るわれる無音殺戮術は悪属性サーヴァントに特効ダメージを与える。
『槍《インドラ》』
対軍仕様。
対の『角剣・一切衆精』を連結して放たれる全力投擲。
魔力放出を帯びた着弾点は熱で溶解・蒸発する。
投げた剣は神通力で回収する。
『護法刃圏・十華羅刹天(ごほうぜんじん・じゅっからせつてん)』
ランク:A+ 種別:対陣宝具 レンジ:500 最大補足:レンジ内全て
地面に刺した『角剣・一切衆精』を起点とした結界宝具。この宝具を発動中、角剣・一切衆精を一箇所につき一本消失する。宝具発動中の結界の中では彼女の女神の神核をランクアップさせ、気配察知スキルを獲得する。宝具内では悪属性・魔性サーヴァントを束縛する黒縄を張り巡らせ、洗礼詠唱十層からなるレンジ内の天と地総てを覆う防護結界を展開する。レイ・ラインに接続にすれば地脈からの魔力供給を受け続け、結界の維持の魔力はほぼゼロに等しい拠点防衛特化宝具。
『兜跋疾行・十牙羅刹天(とばつしっこう・じゅうがらせつてん)』
ランク:A++ 種別:終局宝具 レンジ:1~999 最大補足:約160000
角剣・一切衆精と接続したレイ・ラインをセイバーが暴走させて十五キロ四方を跡形もなく破壊する自爆宝具。
破壊と滅亡《カタストロフィー》の顕現させる。
【 weapon】
伸縮自在の二刀流を敵に護符を刻みつける。魔性特攻有り。
結界内で展開させて、相手を拘束させる自立防御。洗礼詠唱込みなので、サーヴァントの拘束に有効。
魔力放出を剣に纏わせたり、防護壁にする、戦輪状にして投射するなど攻防一体に使いこなす。
彼女の戦装束。
鉤爪が仕込まれており、宝具を受け止めるほどの強度がある。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を見極め、人間を護る為に戦う。
【出展】戦姫絶唱シンフォギアXD
【マスター】風鳴翼
【人物背景】
みんなアニメ観て、ゲームやろ!
聖遺物・ギャランホルンの転送事故により舞い下りる。年齢19歳。 聖遺物第1号・天羽々斬の適合者。護国の系譜、風鳴家の一人。国連直轄となる超常災害対策本部タクスフォースS.O.N.Gに所属しながら、 表向きには歌手として活動している。
幼い頃から、人々を守る〝防人〟として鍛え続けてきた〝剣〟であり、責任感は強い。
地の口調は普通の女の子言葉なのだが、先輩としての風を吹かすようになって以降、堅苦しく男性的な武士言葉や少し様子のおかしい言動が目立つ。
彼女は戦うことしか知らない為、それ以外のことには極めて疎く、生活能力は壊滅的。
【能力・技能】
- FG式回天特機装束・シンフォギア神話の遺産・聖遺物の欠片を口ずさむ歌の力で解放する事によって現代兵器を凌駕する戦闘能力を生み出す異端技術《ブラックアート》の結晶。
そのバリアコーティングは銃弾を弾き、宇宙空間の活動を可能とする。
彼女のマネージャー・緒川から学び教わった現代流にアレンジされた忍術。今のところ影縫いや火遁術を習得しているようだ。
【 weapon 】
日本刀型のアームドギアが武器。 可変・変形ギミックを内蔵し、行使する技や使用法に応じて特性や形態を変化させる。更に両脚部にもブレードを仕込んでおり、全身を使った、アクロバティックな高速空中戦闘を得意とする。
現在没収中。
【 マスター 願い】
天羽々斬を取り返す。
状況の解決。元の世界に帰りたい。
最終更新:2017年08月03日 21:57