冬木市に何時からか語られだした噂。
─────飛び切り良い女がタダでヤラセてくれる。
時間も場所も人数も問わない、只々出逢うことができれば、飛び切りの美女とこの世のものとは思えぬ悦楽の時を過ごせるのだという。
但し、その女と出会った者は、皆全て腎虚となるか、法悦のうちに死んだという。
その噂の発生とほぼ同時期に起こり出した突如として人々が狂乱し乱行を行う怪異と、謎の集団死事件。
乱行に加わった者達は、皆昏睡状態になる程衰弱し、死亡した人々は皆一様に何の原因もなく生体活動が停止していたという。
深山町にある寂れた洋館。幽霊屋敷とも囁かれる広壮な邸宅の地下に、一人の女の姿が有った。
雪花石膏を掘り上げて作られた彫像の様な白皙の肌、背中まで伸ばした最上級の黒絹を思わせる黒髪、磨き抜かれた黒曜石も及ばない輝きの黒瞳。吸い付けば極上の感触を約束するだろう紅い唇。
女性美というものを最上のレベルで体現した容姿を持つ女だった。
身につけているの白絹のワンピースはしっとりと濡れて、布地に覆われた体のラインを浮かび上がらせている。
テラテラと濡れ光る肌、全身から漂う精臭と相まって、この場に人が居合わせれば、淫らな空想に耽る事を抑えきれまい。
嬉しげに女は鼻歌混じりに首を鳴らすと、照明の無い地下室を女は真っ直ぐに歩きだし、地下室の中央辺りで足を止めた。
恐ろしく淫乱で、冷酷悪辣な人格を有しているのだろうと、一目で分かる眼差しを、足元に向ける。
「不能(ゴミ)」
声を聞いただけで、恍惚となる程の美声。侮蔑と悪意と嘲りがたっぷりと篭った冷たい声。マゾの気があるなら、それだけで達してしまいそうな声だった。
呼び掛けに応じる声は無い。
女は舌打ちすると、足元に転がっていたモノを蹴り上げた。
「グアッ」
呻き声を石床に残して、宙を舞ったのは白髪の男。左半顔が潰れた白髪の男。
頭部を鷲掴みにすると、己で立つ事も出来ぬ男は、女の手に吊り下げられる形となった。
「お前みたいな不能(ゴミ)、ましてやこんな 顔の潰れた不能(ゴミ)が、女に口をきいてもらえるだけでも御の字なのに、よりにもよってこんな良い女を無視するとか何様のつもり?」
男は答えない。答えられない。
己がサーヴァントに罵倒され、襤褸屑のように扱われても、何も出来ない。
男の姿を見れば誰もが当然と言うだろう。
水気を失い、ひび割れた皮膚。破壊され尽くして固形物を二度と口にできなくなった喉。
膨張しきった血管の所為で、全身に赤いラインが走っているように見える。
しかも右手首から先は在るべき右手が無く、赤黒い断面が覗いていた。
男の顔には死相が浮かんでいる。
通常ならば死んでいる。それ程の重篤にあって、驚異的な事に男は意識を保っていた。
「また………食って……きたのか………」
「仕方が無いでしょう?何しろこんな不能(ゴミ)な死に損ないがマスターだもの。他から補わなければやってられないわ。そうでしょ?雁夜君」
「その…顔で……その声で……俺の名を呼ぶな…」
鈍い音がした。女が手を離した為、雁夜が顔面から石床に落ちたのだ。
「クラウディウスにも劣る不能(ゴミ)がよく吠えるわ」
道を歩いていてつい踏んでしまった、虫の死骸を見るのと変わらぬ眼差し。
真っ向から睨み返す雁夜の瞳には、真性の憎悪と殺意が宿っていた。
「あらあら、そんな眼を私に向けるの?最初に妾の顔を見た時、『アオイさん』なんて鳴いて、発情した犬よろしくだったのに」
「黙─────」
叫び声は中途で途切れた。女が雁夜の腹に足を落としたのだ。
「黙るのはそっち、魔力は一応あるけれど、精製するたびに死にかける様な全身火傷を負った死に損ないに、何を言う資格もない」
冷酷に告げる女の顔は、雁夜の良く知る顔─────遠坂葵のそれと同じだったが、その性質は逆。
良妻賢母を絵に描いたような遠坂葵に対し、この女は悪妻愚女の見本そのもの。
初めて現れた時、差し伸べた雁夜の右手を、令呪ごと破裂させた女だった。
「クラウディウスといい、お前といい、不能(ゴミ)につくづく縁がある事。」
足で雁夜の腹を踏み躙り、たっぷりと雁夜から苦痛と苦鳴を引き出してから、身を屈めて、雁夜の眼前に右手を突き出す。
「今日の餌よ」
突き出された右手が裂け、白い寒天状のものてくる。
凄まじく生臭い匂いに雁夜が顔を顰める。
だがそれ以上に不快なのは、サーヴァントの手から臭う臭いだった。
ついさっきまで、複数の男を相手にした判るむせ返る様な濃密な臭い。
サーヴァントの容姿と併せて、雁夜の怒りを─────殺意を呼び起こすには充分過ぎるものだった。
おかまい無しに口に突っ込まれた物体の感触に吐きそうになるのを堪えて、何とか飲み干すと、肉体に感覚が戻ってくるのを実感した。
二度ともとには戻らぬと思っていた肉体が、健常だった頃へと戻っていく。
この女サーヴァントは、廃人そのものだった肉体を、何らかの方法で治せるらしかった。
一体何を食わせているのか、前に訊いてみたが鼻で笑われたけだった。
「不能(ゴミ)とはいえ、まだ死なれるのは困るしね」
嘲弄まじりに呟くサーヴァントに、親愛の情は全く見えない。
雁夜は己がサーヴァントを忌々しげに睨みつけた。
「何かしら?お前の様な不能(ゴミ)を 見捨てない奇特なサーヴァントなんて妾くらいのものよ。それを弁えているのかしら」
「もう…魔力を集めるのは………」
「やめても良いけど、身体を回復させられないわよ。今のなりでトキオミに勝てるのかしらぁ?
いい?マスター。妾にも殺したい相手はいるの、妾が君臨すべき場所を奪ったアグリッピーナを、
妾から皇后の地位を奪い、妾がなるはずだったローマの国母になったアグリッピーナを殺すまで、妾は死ねないの。ほらねマスター、妾達は同じでしょう?」
雁夜は砕けそうな程に力を込めて歯軋りする。確かにそうだ、現状では時臣に勝てない。
それ以前にこの事態を脱することすら不可能だ。
─────だが、そう判っていても、この女の行為は許せない。
足りなければ他所から持って来れば良いという魔術師的な思考が気に入らないというのもある。
だが、最大の理由は、このサーヴァントの魔力の集め方と、何よりもその顔が問題だった。
「葵…さん」
魂を絞り出す様な呼び掛けにも女は冷笑を返すだけ。
このサーヴァントは、悪妻、毒婦として歴史にその名を刻んだ愚女。その魔力の集め方は、性行による精気の収奪。
この女が魔力を集めるという事は、多くの男女と交わり快楽を貪るということ。
雁夜の身体など只の口実、例え健常な身体であってもこの女は快楽を貪る事だろう。
そして雁夜には、この女を止める術は無い。
遠坂葵と誤認して近付き、いきなり令呪を宿した右手を破裂させられた雁夜には、この女を御する術は無い。
「さあて、これから始まるイベントでどんな男と出会えるのやら。まあどんな男であれ、この不能(ゴミ)よりはマシでしょうけど」
遠坂葵と同じ顔をしたサーヴァントは、雁夜を侮蔑と嘲りの視線で見下ろしていた。
崩れていく─────黒い影達が。
倒れていく─────冬木に生きる人々が。
ボロボロと、風に吹かれた砂の城のように。
向かって来る者も、逃げようとする者も。
皆等しく崩れ倒れていく。
無辜の民も、シャドウサーヴァントも、亡霊も、使い魔も、全て全て例外はない。
やがて動くものが居なくなった場所に、女が立っていた。
我が前で立つは不遜と言わんがばかりに、倒れ伏した人々の真ん中で。
「ローマの皇后であった妾に、相応しい世界だ事。この世界ならローマのそれを越える悦楽がある事でしょう
その淫蕩さで歴史に名を刻んだ毒婦、廃后メッサリーナ。
それがこの聖杯戦争にライダーとして顕れた女の真名だった。
【クラス】
ライダー
【真名】
メッサリーナ@一世紀ローマ
【身長・体重】
160cm 52kg
【ステータス】
筋力:E 耐久: E 敏捷:E 魔力:C 幸運: D 宝具:C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:E+++++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
ライダークラスにはあり得ない低さだが、男に乗る事に 関してなら最高ランク。
【保有スキル】
妖女(性):A
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。所有者は能力や姿が変貌してしまう。「無辜の怪物」とは似て非なるスキル。
尤もライダーは生前からこんなんだったが。
その姿、立ち居振る舞い、果ては声や視線に至るまで性的な魅了効果を帯びる。
また、Bランクの天性の美の効果を発揮し、身体が傷つかない限り、ライダーがどのような状況にあろうとも肉体的な『美しさ』を維持する。
妖女(性)スキルにより獲得したスキル。
精神力もしくは精神耐性系スキルでしか無効化或いは減衰できない。
抵抗できなければ、敵と認識していても、性的な衝動をライダーに対して抱く。
このランクになれば性別を問わず通じる。
ライダーを意識しない程に誰かを愛しているものには効果が無い。
人体理解(性):A
性の技術。
メッサリーナは人体のどこを刺激すれば快感を得られるのか、達する事なく快感を得られるのか、などを熟知している。性行の際にはどこを愛撫すばいいのかが理解できるという事。
頑健:C
異常に疲れにくい身体を持つ。
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。ただし、ライダーの場合媚薬の類にしか効果を発揮しない
【宝具】
汝等 姦淫せよ
ランク:D 種別: 対人宝具 レンジ:1-50 最大補足:400人
自身の周囲に存在する“性交に依って増える生物を発情させる”能力。
対魔力や魔力のランク、精神力に行って抵抗可能。
この宝具に嵌った者達が蕩尽した生命力は、そのままライダーに魔力として徴収される。
発情したものは例え相手が親や子であっても行為に及ぶ様になるが、ライダーを認識していた場合はライダーへと欲情を向ける、
この場合は欲情の度合いに応じてライダーに魔力を奪われる。
完全に嵌まれば、ライダーを視認した時点で魔力を奪い尽くされての衰弱死が確定する。
法悦搾取 随喜の果てに枯れ落ちよ
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0~1 最大補足:10人
直接の交わりによって魔力を搾り取る。
使用中は騎乗スキルが最高ランクに上昇。ライダーとしての本領を発揮する。
この宝具の真価は、男女を問わず搾取した者の肉体的精神的性質を、搾取の度合いに応じて獲得できるという事。
ステータスを向上させるのみならず、天性の肉体や、心眼(偽)、勇猛といったスキルを獲得可能。
さらに獲得した資質を他者に分け与える事も可能で、健康体の肉体的性質を与えて怪我や病気を治す事も可能。
男の性質は白い粘塊、女の資質は透明な粘液として、掌から出てくる。
搾り殺せば命をすら奪い取り、死亡した際にストックとして消費する事で蘇生する。
ストックの消費具合はその攻撃の最大補足に応じて決まる為、天地を打ち砕く威力でも一人しか屠れぬ対人宝具ならば一つしかストックを減らせない。
屹立せよ 裂け爆ぜるまで
ランク:C 種別:対人性技 レンジ:0-1 最大補足:2人
ライダーが生前身につけた技巧。
手で触れた対象に強力な性的刺激を与えて硬直させる。
魔力や呪いやの類ではなく、物理的拘束や痛みによるものではない為に、抵抗は困難。
精神力若しくは特殊な肉体的声質に依らねば抵抗不能。
また、抵抗に成功しても数ターン身体の動きが鈍る。
しかし、この効果は副次的なもので、宝具の本来の効果は、血流操作。
刺激した部分に血を過剰に集めて、内側から破裂させる事が可能。
生前に無数の男達の精を搾り尽くした技。
【weapon】
無し
【人物背景】
ローマの神君アウグストゥスに連なる名家ね出、第四代皇帝クラウディウスの三番目の妻。
その強欲と冷酷さと淫蕩で歴史に名を残す。
スキッラという名前で一晩中男たちと交わり続け、ある時には夜明けまでに25人もの男を相手にしてもまだ物足りなかった、すなわちメッサリナは疲れてはいたが、満たされてはいなかったらしい。
何らかの肉体的障害があり、趣味を聞かれれば「歴史の研究と政務」と言いそうなクラウディウスに不満に思ったのだろうが、明らかにやり過ぎである。
また彼女はクラウディウスをそそのかし、彼女を不快にさせた者や彼女の敵対者を処刑させたりもした。強欲さ、冷酷さの代名詞として彼女の名「メッサリナ」が使われたと言う
その最後は、愛人の元老議員と結託してクラウディウス帝を暗殺しようとして、事もあろうに愛人と結婚式を挙げる。
当然発覚して愛人は処刑。メッサリーナも自害を命ぜられるが、自害出来なかったので殺害される。
メッサリーナの死を知ったクラウディウスの言葉は、もっとワインが欲しいというものだった
クラウディウスとの間には息子と娘が居たが、共にネロ帝により殺害されている。
クラウディウス帝は、生来病弱で身体的な障害も持っていたが、皇帝としては有能で、カリグラが破綻させたローマの財政を立て直していた。
この様な賢明な皇帝に、クーデターを起こして、元老院の支持を得られると思っていたのはどういう根拠なのだろうか?
更には杜撰な行動計画と、事前に結婚式挙げるという愚挙。
元老院との繋がりが薄く、解放奴隷を政治の中枢につけている事から支持を得られると思ったのだろう。
なおかつ一個の男としては水準を大きく下回るクラウディウスを侮蔑しきっていたのだろうが、愚かとしか言いようがない。
【容姿・特徴】
見た目はアイリスフィールの身体に遠坂葵の頭を乗せた感じ。
雁夜に向ける眼差しはアニメ版23話のアレがデフォ。
雁夜以外には締まりのないニヤケ面か、ゲス顔。
テンション上がり過ぎるとアヘ顔になる。
一人称は「妾」
性格は短絡的な快楽主義者で、思考の全てが『自分が楽しむ』ことに向いている。
大局的に物を考えることは出来ない。
アグリッピーナに対して憎悪を募らせているが、二人の子供の死因であるネロをガン無視している辺りお察しというやつである。
現代にでもワゴンセールできるくらい幾らでも居る頭と尻の軽い女。
すーぱーろーまびっち。
【方針】
聖杯を取る
【聖杯にかける願い】
アグリッピーナに死を
受肉してこの世界で欲望を貪る。
【星座のカード】
蟹座
【マスター】
間桐雁夜@Fate/Zero
【能力・技能】
一年間の付け焼き刃で、寿命を削り潰して習得した魔術。
蟲を使役する魔術を使う。切り札は牛骨すら噛み砕く肉食虫「翅刃虫」の大群使役。ただし蟲は炎に弱い。
参戦時期の都合上、壊滅状態。
【weapon】
【人物背景】
第四次聖杯戦争の11年前に出奔。
聖杯戦争の1年前、遠坂葵のもとに顔を出したある日、彼女の口から娘の桜が間桐へ養子に出されたと知る。
桜を間桐から解放すべく、寿命を削り潰して魔術を習得し聖杯戦争に望む。
【方針】
聖杯を散る
【聖杯にかける願い】
葵と凛と桜が笑って暮らせる事
【参戦時期】
時臣と戦って敗北後、言峰に拾われる前。
最終更新:2017年08月08日 14:30