急進的な革命を志向する勢力がいる。
彼らは時代が下るにつれて支持を失っていったが、その火は消えたわけではない。
表立って活動はしていないが様々な組織に手を伸ばし、勢力を広げようとしているのだ。
冬木市の一角にある民家。
3階建てのビルヂングの一階部分が剣道場、それより上が道場主の住居だ。
板張りの道場内では現在、20数名の会員達が稽古で汗を流している。
姿見で構えを確かめつつ素振りをする者を見ながら、道場主の五島公夫――ゴトウは焦燥に身を焦がしていた。
――千年王国。
彼が本来いるべき東京で、神の名のもとに進む陰謀。
選ばれし民以外のすべてを排除する、地獄。
ゴトウは企みを察知した時、自衛隊一等陸佐として、日本人として行動を開始した。
(もはや一刻の猶予もないのだ…!)
アメリカ…いや、西欧文明はICBMを東京に撃ち込み、大虐殺を行わんとしている。
日本の未来を奪わんとする彼らに、速やかに鉄槌を食らわせねばならない。
その為に、ゴトウは古の神々と契約を結んだ。
(かくなるうえは聖杯だ…)
人間を家畜のように働かせる西洋の神々の遺物を借りる…その点に対しては、忸怩たる思いがある。
――しかし、真の願望器だというのなら。
恥を忍んで手を伸ばそう。
上官に歯向かい、クーデターまで行ったこの身だ。
理想の為なら、幾らでも手を汚そう。
悪魔/神の力を使い、人間の理想郷を作るために。
教え子達を全員帰した後、ゴトウは3階に設けられた書斎に向かった。
ここは現在、サーヴァントの陣地として運用されている。
「お疲れ様です。マスター」
「あぁ、首尾はどうかな?キャスター」
部屋にいたのは面長の男。
彼――キャスターは年季の入ったナラ材の書斎机に座ったまま、こちらを振り返った。
天板の上には、鞘に収まった日本刀が置かれている。
キャスターは日本刀を手に取り、ゴトウに見えるように掲げると、口を開いた。
「強度が向上し、魔力を帯びています。ですが、三騎士との打ち合いには耐えられないでしょう」
「そうか…」
サーヴァントが直接戦闘に不得手な以上、自分が前線に出るしかない。
魔術による強化を受ければ、勝機を狙うこともできるだろう。
ひとまず、愛刀に強化を施してもらっていたのだが。
ゴトウは嘆息を顔に出す事無く、思考を切り替える。
「刀身を清めるなら、辛うじて宝具の域に入ることも可能かと」
「清める?」
生前のキャスターは、魔術に一切縁が無かった。
しかしその死後、英霊となったことで多彩な魔術を扱うことができるようになった。
彼自身が行使するのではなく、宝具が展開するのだが結果は同じ。
"刀身を清める"なら、より高い効果を保証する。
「必要な物は?」
「ある程度大型の動物。豚、羊、鹿。兎や鶏程度では難しいですね」
「……」
悪魔に盗ませるにしても、その大きさの動物を盗むとなると簡単には運ばない。
そもそも、この街で豚や羊など手に入るのだろうか?
「どこへ行く?」
キャスターが席を立ち、つかつかと横を通る。
考え込んでいたゴトウが声を掛けると、戸口に手をかけたまま答えた。
「アイスクリームが切れたので、買いに行ってきます」
3秒ほど、2人は無言で見つめ合った。
ゴトウは目の前の男に、数万円を小遣いとして与えている。
彼は反抗的なサーヴァントではないが、好き嫌いの激しい男であった。
日本の街並み、機能的なデスク。それらは物珍しくはあれど、好む所ではないらしい。
「……一昨日、山のように買ってきただろう?」
「もう食べきりました」
ゴトウは大きく息を吐くと、「何かあったら念話で知らせろ」とだけ言った。
承ったキャスターは、今度こそ出て行った。
★
聖杯戦争…面白い事になった。
つけておいた「枝」は、彼の死後も無事に残ったらしい。
我々に生だの死だのといった概念は存在していないがね。
――果たして、僕の出番は来るのかしら?
数多くの願望ぶつかり合う、蟲毒の祭。
低俗だが、暇潰しとしては上等だ。
時間はいくらでもある。気長に待つとしましょうか。
【クラス】キャスター
【真名】ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
【出典】20世紀初頭、アメリカ
【性別】男
【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具A
【属性】
中立・悪(混沌・悪)
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
小規模な工房に匹敵する"書斎"の形成が可能。
道具作成:-
魔力を帯びた器具を作成できる。下記スキルを得た代償に喪失している。
【保有スキル】
エンチャント:A+
概念付与。
他者や他者の持つ大切な物品に、強力な機能を追加する。
基本的にはマスターを戦わせるための強化能力。
キャスターのそれは、知識の付与や魔術の習得に優れる。
自己保存:B
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
探索者:A-
恐るべき事実に接しながらも、在るべき日常に帰還した者の事。
偉大なる宇宙の怪異から生還したキャスターは、高ランクでこのスキルを獲得している。
同ランクの仕切り直しの効果に加え、ランク相応の精神耐性を保証する。
ただし、生前は神経症を患っていた為、精神判定においてマイナス修正を受けざるを得ない。
神性:-(EX)
このスキルの存在を、キャスターは認識していない。
扇動:-(A)
このスキルの存在を、キャスターは認識していない。
【宝具】
『魔物は夜啼く(アル・アジフ)』
ランク:A+~C 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人
キャスターが自身の作品群で存在を仄めかした、禁忌の魔書。
人知の埒外にある情報が記されており、宝具に昇華された現在は術者の技量を無視して、大魔術・儀礼呪法を行使させる。
数多くの人の手によって訳された結果、この本はキャスター以外でも扱うことができる。
所有者との相性によってランクが変動し、キャスターの場合はA+ランク。
キャスターは所有者として最高の適性を持つ。彼以上の所有者などいないのだ。
『苦難に別れを、これから始まるのは(コール・オブ・クトゥルフ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
大洋の底に眠る「何か」が発する思念波をレンジ内に放つ。
捕捉対象が魔術師や霊感体質といった神秘に対してチャンネルの開かれた人物であるほど精神ショックの威力が増し、高位の魔術師の場合は最悪、発狂する。
サーヴァントはランク以上の対魔力スキルによってのみこれを無効化可能。
それが無くとも精神判定に成功すれば倦怠感や目眩、吐き気だけで症状を済ませられる。
『偏在する黒き使者(ザ・ブラックマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
かつて遭遇した上位存在が、彼の魂に残していった「置き土産」。
キャスターの霊核が破壊された時点で発動。負傷を完全に癒し、神性スキル、扇動スキルをカッコ内のランクに修正したうえで、属性を改竄する。
キャスター自身はこの宝具を認識していない。
自らの意思で発動させることはできず、上記以外の恩恵を受ける事もない。
【weapon】
なし。
【人物背景】
アメリカ・プロヴィデンスで産声を上げた作家。
コズミック・ホラーと分類されるSFホラー作品を数多く執筆、それらは彼の死後にクトゥルフ神話として体系化された。
海産物を嫌っており、異人種に対する偏見も強い気まぐれな人物であったといわれている。
幼少から悪夢に悩まされていた彼は、夢を通じて外宇宙の遠大さを直に認識する。
旅行で向かったケベックやニューオーリンズにおいて、彼は「形容しがたい何か」の痕跡を発見。
無貌の神の干渉を受けるも、正気の世界に辛うじて生還。
自身が遭遇した数々の怪奇体験を、執筆する小説に反映させていった。
【聖杯にかける願い】
無し/クトゥルフの復活。
【マスター名】ゴトウ(五島公夫)
【出典】真・女神転生シリーズ
【性別】男
【Weapon】
「銘刀虎鉄」
ゴトウの愛刀。
特異な能力はないが、悪魔との打ち合いにも耐えうる強靭さを誇る。男性専用装備。
キャスターの強化を受け、その性能は僅かだが向上している。
「召喚悪魔」
キャスターが従えている悪魔達。
使い魔の如く使用でき、自前の魔力で長時間現界を維持できる。
マスターから見れば脅威だが、サーヴァントなら十分対処可能。
召喚可能悪魔は以下の通り。
妖獣:ヌエ
悪霊:ピシャーチャ
幽鬼:ベイコク
悪霊:シェイド
【能力・技能】
「超人」
限界を突破した人間。
生身で悪魔と斬り合う強者だが、武闘派サーヴァントと打ち合う力はないだろう。
【人物背景】
神の名のもとに千年王国を築こうとするトールマンの計画を察知した陸上自衛隊一等陸佐。
アメリカによるICBM投下を防ぐべく、悪魔との契約により超人となった五島は市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こすと、東京を戒厳令下に置いた。
本名はSS版デビルサマナーを参考にしました。
【聖杯にかける願い】
199x年の東京に戻り、大破壊を阻止する。
最終更新:2017年05月20日 21:24