月喰らう獣

太古の昔。
人間が誕生する前、言語化不可能の行為により誕生した清浄と不浄があった。
不浄は当然ながら清浄を憎んだ。

何故ならば、不浄が不浄を誇る事があるだろうか。
不浄が清浄より勝る事があるだろうか。
人間が不浄であったのならば、狂いなく清浄に嫉妬するように。
不浄は清浄を憎悪していた。

だというのに。
清浄に生きるもの全てが、清浄であることに誇りや有難味を覚えず。
さも、自分らが清浄であることを理解していない。
傲慢な態度を見て、不浄が恨みを抱かない訳がなかった。







少年は悲鳴を上げていた。
聖杯戦争なる戦場へ唐突に、前兆も無く放りこまれればパニック状態になるのは当然である。
しかし、それ以上に。
彼は、少なくとも生命の危機を感じ取っていた。
体を震わせて、情けない事に木の上まで昇って恐怖する金髪の少年にとって


吐き気を催す不定形の『獣』が自らのサーヴァント・ランサーだとは俄かに受け入れ難い事実なのだ。


マスターである金髪の少年でなくとも。
普通に視認した人間は悪臭を漂わす冒涜的な『オオカミ』と認識しなくもない。
実際、そうじゃないが。
正気で再確認したり、記憶を辿れば『オオカミ』じゃなかった。
翼のある、例えるなら『コウモリ』だったかも?
と記憶を改める事もあれば、ひょっとすれば四つん這いの新種の『獣』。
第一、獣なのかも怪しい。不定形な霊的存在と称するべきだろう。
単純に邪悪で破壊的な容姿だ。


『貴様、我から逃れると思うな。我ら「ティンダロス」のものは匂いを辿り、永久に追いかけるぞ』


一体全体、どのように言語を発しているか怪しいが。
不定形な怪物はマスターに語りかける。
少年は錯乱していた。
こんなものが、相方でありパートナーとなるサーヴァントなのが最悪ではあるものの。


「待って下さい! お願いですから、ちょっと待って!!」

『人間。貴様の代わりを見つけ次第。直ぐ様そちらに移る事も視野に入れるぞ』

「違うの! 整理させてくれよ!! 頼むから、お願い!! いきなり全部受け入れろって無理があるよ!
俺だって状況とか立場は分かるんだよ! 必死になって頑張ってる最中だから!
ああもお!! お前、人間じゃないから分からないんだろうけどさ! 人間、そういう生き物なの!!」

『………』

「戦争ってなに!? 変な札、拾っただけで訳わかんないのに巻き込まれるって
一体どういうことなの!! 知らない場所に連れて来られてるし。なんで俺が選ばれるの、納得してないから!」

金髪の少年・我妻善逸は、これでも『鬼』を殺す剣士の端くれだ。
真の意味で端くれなのだが………
『鬼』なる怪物は、勿論、ランサーに匹敵する伝説的な生物だったりする。
そんなモノを相手している筈の彼は、酷く臆病で。
その上、女に騙されるし、雷に打たれて髪の色が変わっている。
未熟さやどうしようもなさは、善逸本人が理解していた。

だからこそ聖杯戦争に巻き込まれたのに釈然ではない。
願いが無い訳ではないが、不運につきる結果だ。
『鬼』相手だけでも生死を彷徨う。そんな自分が戦争やサーヴァントなんて。
無理だ。怖い。勝てっこない。
今後の展開を連想するだけでも自分の死に怯える。


「しかも、俺のさーばんと?オオカミじゃない、なんだかよく分かんない姿だし!
服に染みつくぐらいくっさいし!! 最悪だよ! どうせなら美人のさーばんとが良かったよ!!」

『五月蠅い奴だ。人間の姿ならば不満がないか』

「―――え? 人になれるの」


蝉の如く騒がしい善逸がピタリと静まった。
人間ながら、全く以て喧しいマスターにランサーは答える。


『できなくはない』

「じゃあ、女の子になって」

『は』

「女の子になって!! そしたら俺、協力する! ランサーと一緒に戦えるから!!
女の子が一緒に行動してくれるだけで、普通に幸せじゃん! これ気持ちの問題!
人間、気持ちが一番! 女の子の姿だったらその匂いも良い匂いになる!!」


迫真の勢いで語る善逸の傍ら、聖杯を獲得したならば即座に捕食してやるかと憎悪を抱くランサー。
まだ生憎、善逸以外のマスターに目ぼしいものを発見していない。
確固たる聖杯への願いがある以上、憎悪しても、マスターを殺してはならない。

仕方なしにランサーが変化したのは、どこかオオカミ染みた獣を残した女性の姿。
だが、全てが『角ばっており』肉体は不安定で、角ばり続けていた。
女性の風貌を目撃した善逸は、数秒前の臆病な態度とは別人の如く華麗に着地を決め、迅速に手を差し伸べる。


「一緒に頑張りましょう!」


明白な掌返しにランサーは僅かに沈黙をするが、即座に。


「触るな」

「え!? さわ、触っちゃ駄目……?」

「我が肉体の毒で死にたいならば別だがな」

「そういうの早く言って!!!」


嗚呼でも、毒があるって教えてくれたんだから、なんだかんだ良い人?かもしれない。
と、ランサーが女性の姿なだけで善逸は前向きになれた。






【クラス】ランサー

【真名】ミゼーア@クトゥルフ神話

【ステータス】筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:- 幸運:- 宝具:B

【属性】秩序・悪

【クラススキル】

対魔力:E
申し訳程度のスキル。無効化は出来ないが、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
千貌:C
ティンダロスに棲む者達の姿は明確されていない。
何故ならば目撃者が生存していないからである。
不定形及び、生命のあるものに己を変化可能。故にステータスは宝具以外変身対象に調律される。

超視力:B
4次元を見渡せるような視界を獲得している。
全ての方向、壁の向こう側。ミゼーアは半径16km程度圏内ならば、全てを見通せる。
ただし、丸い球体内部は見通せない。

吸血(偽):A
吸血行為。ただし吸血種が行う吸血とは異なる。
舌による吸血を受けたサーヴァントは永続的に幸運が1ランクダウン。
マスターの場合は、魔力及び生命力を失う。これによりミゼーアは魔力を回復する。

対毒:A
毒への耐性。
何よりミゼーア自身が毒を纏っており、触れた対象にダメージを与える。
平凡なマスターなら、ミゼーアに接触しただけで生命の危機に関わる。

神性:E
ティンダロスに棲む者は神格に値しないが、ミゼーアは個体の中でも強大な力を有し、神に近しい力を持つ。

【宝具】
『螺旋を巡れ鋭の準え』
ランク:B++ 種別:対界宝具 レンジ:300 最大捕捉:-
ティンダロスに棲む者達持つ時空間特性。効果範囲内にいる対象を鋭角に潜み、狙う。
鋭角に潜んでいる間は、角より吹き出す煙の後に出現するまで気配遮断Aのスキルを獲得。
また範囲内の時空間を歪める事が可能。
効果を受けた対象は、精神攻撃を受け、攻撃の命中率が低下し、幸運判定に成功しなくては行動不可となる。

『月を喰らいし獣(フェンリル)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~200 最大捕捉:300人
北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物に、ミゼーア自身が変身し、神話を体現する。
彼/彼女の伝説的表現としてフェンリルは尤も適したものであり。それが宝具として昇華された。
彼/彼女が体現するのはフェンリルの偽物に過ぎず、ランクは低い。
しかしながら、ティンダロス特有の悪臭が消失し、球体に接触が可能となる。

【解説】
狂気と悪夢のような時間の角より来るティンダロスの都市に棲むもの。
有名な『ティンダロスの猟犬』とは異なる独立種族『ティンダロスの王』。
その中でも最も強力かつ神格を得た個体がミゼーア。
ミゼーアとは彼/彼女の列記とした個体名であり、ティンダロスの猟犬にも個体名はあったりする。

ミゼーアは原始から『曲がった時間』を司るヨグ=ソトースを憎む。
故に『曲がった時間』に生きる人間も、捕食対象でしかないが、マスターに関しては仕方なく生かしている。
きっとそれ以外の人間などは無関心で捕食、殺害するだろう。

通常『とがった時間』に棲むものは『曲がった時間』に干渉する事は不可能。
ただし、サーヴァントとしてマスターに召喚された以上。
『曲がった時間』に存在するマスターとの繋がりを有する為、それを手繰り、実体を顕現させる。
ミゼーア自身、実体化するにも魔力の消耗をそれなりに必要とされるので。
無暗に実体化し続けられない。慎重な運用が求められる。

【特徴】
『千貌』のスキルで説明されている通り、基本的な容姿はない。常に不定形である。
人間には彼/彼女が捕食者であると認知し、自然とオオカミに近しい姿に見える。
現在はマスターの要望で、角ばった獣耳女性の姿っぽくなっている。

【聖杯にかける願い】
ヨグ=ソトースとの決着。『曲がった時間』の消滅。



【マスター】

我妻善逸@鬼滅の刃

【weapon】

『日輪刀』
日光が蓄えられた鋼で造られた刀。
持ち主によって色が変化する。

『「雷」の呼吸法』
鬼を倒す術『呼吸法』の流派の一つ。身体能力を上昇させる。
善逸の場合は『壱ノ型 霹靂一閃』という居合の技しか習得していない。
だが『霹靂一閃』に磨きをかけた為、『六連』奥義を取得した。

【人物背景】
『鬼』を殺す鬼殺隊剣士。
臆病かつ情緒不安定な面があり、美人には弱い。
優れた聴覚により音で感情を読みとれる。(サーヴァントに通用するかは怪しい)
気絶する事で覚醒する。

【聖杯にかける願い】
戦争とか、よく分からない理由で命をかけるとか嫌で堪らないが。
自分なりに頑張りたい。

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最終更新:2017年05月20日 21:30