その出会は夜に

――――夜が、其処にはあった。

闇夜がその幽霊の味方をしていた。黒い雲が幽霊を覆い隠していた。
呑み込まれるようなその夜闇こそが、それにとっての大海だった。青く澄み渡る空ではなく、凡そ恐怖の塊であるような夜天こそが渡るべき空だった。
ほんの一瞬だけ、その両翼から炎が噴き出した。穴だらけになった敵機は、ほんの僅かな間だけ空を照らし出した後、星のように墜ちていく。
サン・トロンに輝ける星はいらなかった。ラウンデルは最早幽霊にとって戯れに放り投げる矢が吸い込まれるダーツ盤程度でしかなかった。

そしてまた、エンジン音だけを轟かせながら幽霊は夜へと溶けていく。――――永遠に、素晴らしき夜を飛び続けていたいと願いながら。

「ねぇアルフォウ、ここはどこ? このカードは何? これもセレクターバトルの一貫なの?」

少女、黒澤ゆらぎは夜の臨海公園のベンチに座って両手に一枚ずつ持ったカードの内の片方にそう問い掛けた。
白地に『WIXOSS』と刻まれていたカードの表面には少女の絵が描かれていた……否、其処には少女が『閉じ込められ』ていた。

「いいえゆらぎ。私、こんなの知らないわ……それに、ウィクロスにそんなカードは無かったと思う」

漆黒のウェディングドレスを身に纏ったような、カードの中の少女は、ゆらぎに話しかけられた事による昂揚と現状への不可解を交えながらそう言った。
アルフォウは数多のセレクターの願いを反転させながらゆらぎの下へと辿り着いた。
繭の部屋の不可解な構造から数多のセレクターに送られながら、長い時間をかけてゆらぎの下へとたどり着いたが……こんなことは、一度だって経験したことはなかった。
まさかセレクターごとどこかもわからない場所へと……『冬木』などという、見たことも聞いたこともない街へ飛ばされるなど。

「……こんなところで足踏みしてる場合じゃないのに、こんなことをしている間に、真子がセレクターバトルをしてしまったら」
「こんなことをしている間に、真子が願いを叶えてしまったら……真子は私だけのものなのに、真子は……」

「ゆらぎ……」

無論ゆらぎも動揺していた。だが、それは唐突に見知らぬ土地へと放り出された現状よりも、親友たる尽白真子と遠くはなれてしまったことのほうが大きかった。
黒澤ゆらぎの願いは反転していた。尽白真子の願いを奪い、その感情を……怨恨を全て自分へと向けさせて、彼女の中を自分で占めようとしていた。
だが、こんなことをしている間にも真子はセレクターバトルによって願いを叶えているかもしれない。そうなれば、今までのセレクター狩りも水の泡だ。


『――――であれば、夜に立ち上がるが良い、我がマスター』


何処からか声が響き渡った。それは黒澤ゆらぎとアルフォウの耳を貫くかのように、或いは直接鼓膜を揺るがすかのように。
ゆらぎの持っていたウィクロスの物ではない、もう一枚のカードが光り輝いた――――それはゆらぎの手を離れると、眼前で光を発しながら回転を始める。
光は三つの輪を構築し、そして一気に収束する――――強い輝きがゆらぎ達の視界を塗り潰した直後に、それはプロセスを完了した。


「……誰?」


黒澤ゆらぎは他人の顔を認識できない。正確には、尽白真子とその幼馴染以外の顔を認識することが出来ない。
故にその問い掛けはある意味で滑稽ですらあったが……そのゆらぎから見てすら、目の前に現れた人物は全く以て異常極まりなかった。
それは当初"黒い靄"であった。夜闇を凝縮したかのような靄であった。そしてそれは、幾許か揺らめいてから、ようやくその形状を整え終えた。

「何、私はただの『幽霊』だ。夜の闇をこそ愛し、夜の空をこそ愛したただの『幽霊』だ」

「サーヴァント、"ライダー"――――これより君の夜を往く翼と成る者だ」

それは、黒い軍装を身に纏った男だった。瞬きをスレば揺らぐような、消え入るような。
顔の判別ができない、人の判別が出来ないゆらぎすらそう思えたくらいだった。それは正しく、"人ではない"と確信できた。
然しそれでいて、ルリグとはまた異なる存在であることも。それは――――ある意味では、"ルリグよりも遥かに強大で悲しい存在"なのだろうと。

「ちょ、ちょっと! ゆらぎのルリグは私だけよ、突然何なの!?」

真っ先に喰らいついたのがアルフォウだった。
最愛の主人の従者は自分だけであり、自分だけでいいと思っているアルフォウにサーヴァントという言葉は聞き逃せないものだった。

「いや、マスターと君の仲を裂こうなどとは思っていないとも」
「だが、この"聖杯戦争"においては君達の力では勝ち残れない――――そうとも、これはセレクターバトルとはまた違う過酷な蠱毒壺」

然し、ライダーと名乗った男は、全く気にもとめていない様子で受け流しながら、言葉を続ける。
対してアルフォウにゆらぎは突如として提示された聖杯戦争という単語に、只々混乱していた。
セレクターバトルではない、聖杯戦争、蠱毒壺。何か酷く嫌な予感がゆらぎの背を伝っていた。それでも、その予感を食い縛りながら一歩前へと踏み出した。

「サーヴァントって何、聖杯戦争って何……蠱毒壺って何」
「これはセレクターバトルじゃないなら、貴方がルリグじゃないのならば……これは何、ここは、何?」

ゆらぎはこの状況に早々に決着をつけたかった。
これだけ理解不能な現状をこれ以上続けたくはなかった。何か面倒なことの渦中に在るのならば、早々に片付けたかった。
そんなゆらぎを見て、ライダーはまた薄く笑っていた。この現状に怖気づかないのであればマスターとしては上等だと笑い。

「これは聖杯戦争。英雄の分身たるサーヴァントを使役し、万能の願望機に願いを賭けて殺し合う戦争」
「願いが願いを喰らい、願いが願いを殺す蠱毒壺――――さて、"夜統べる闇のセレクター"よ。今度は此方から君に問いたい」


「――――君に、誰かを踏み躙ってでも叶えたい夢があるか?」

そして、ライダーは彼女に問い掛けた。
ゆらぎの背筋を伝っていた怖気は、その時点で納まってしまった。恐怖ではない、何だこんなものかという感情に抑え込まれてしまっていた。
誰かを踏み躙ってでも叶えたい願いが、誰かを殺してでも叶えたい願いがあるか。当然の話だった。だからこそ、セレクターバトルを勝ち抜いてきた。
であればその問い掛けへの返答は変わらなかった。聖杯とやらの存在に関しては半信半疑だったが、ここでも勝ち抜かなければならないならば同じことをやるだけだった。


「――――私は、尽白真子を、私だけの物にしたい」


それは誰よりも真白で、それは誰よりも美しい、それは誰よりも愛おしい人――――彼女を、手に入れられるのあれば。
ゆらぎの願いを垣間見て、ライダーは満足気に笑っていた。ただこの場において、アルフォウだけが平常の思考を有していたのであろう。
だが、それを止める術は持たなかった。いつものように、黒澤ゆらぎは、黒い花嫁の手の届かない彼方へと。


「であれば、私は夜の亡霊となろう。その願いの為に、私こそが君の翼と成る。嗚呼そうだ、私はまた夜を駆ける事ができる」
「夜天の空に瞬く星を、私の砲火がきっと墜とそう。今宵、此処こそが、私のサン・トロンだ――――」


ライダーは夜闇に消えていった。だが、その首元に刻まれた痛み――――"令呪"が、その願いが聖杯戦争に振るわれることを約束した。
アルフォウは、ただゆらぎを見上げていた。この場においてアルフォウは、デス・ブーケトスもジェラシー・ゲイズも意味が無い。
故に只々、それは祈るのみであった。この聖杯戦争に参加する、最愛の主人と――――その、願いを。


(どうか、無事に。そして、忘れないで)

(ゆらぎの、本当の願いを)






【クラス】ライダー
【真名】ハインツ=ヴォルフガング・シュナウファー

【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:B 宝具:C+++

【属性】混沌・善

【クラススキル】

騎乗:B+++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
ただし航空機に類する乗り物に対して補正値が与えられる。

対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

気配遮断:C+
サーヴァントとしての気配を断つ。
攻撃態勢に映るとランクは大きく下がる。
但し、夜間においてはその限りではない。

【保有スキル】

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

二重召喚:D
二つのクラス別スキルを保有することができる。極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。
シュナウファーはライダーとしてのクラススキルの他、アサシンとしてのスキルを会得している。

【宝具】

『深淵闇夜の撃墜記録(ツァシュトゥーラー・メッサーシュミット・シュナウファー)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:10~100 最大捕捉:121
ハインツ=ヴォルフガング・シュナウファーの愛機であるBf110G-4が宝具と化したもの。尾翼には凄絶たる121のキルマークが刻まれている。
第二次世界大戦において大戦を通して戦場を共にし続けた愛機であり、夜を駆けた翼であり、欠けることの出来ないものである。
即ちそれは一体であり、シュナウファーの意思によって自由に実体化出来る他、シュナウファーの霊基によって状態が変化する。
シュナウファー本体が回復すればBf110G-4も回復し、傷つけばBf110G-4も損傷する。また、その逆も同様である。

『夜を謳いて、亡霊と消える(ディ・ナハト・ゴースト・オブ・サントロン)』
ランク:C+++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:7
その『サントロンの亡霊』とすら謳われたシュナウファーの夜間戦闘の逸話による複合宝具。
121機の全てを夜間に撃墜し、19分の間で7機を撃墜した逸話から、『敵対存在が7人まで』且つ『夜間』である場合のみどんな状態でも互角以上の戦闘を行える。
更に夜間における絶対先制権を会得し、因果律逆転等の手段を講じない限りは、戦闘の開始に際して必ずシュナウファーが先攻を取ることが出来る。

但し、夜間以外の撃墜記録が無い為に、夜以外の状況においては一切の戦闘行動を行うことが出来ない。
常時におけるサーヴァントとしての実体化すらもまともに行うことは出来ず、夜間以外に実体化した場合は人型の黒い靄のような形状となる。
この状態においてはスキルは機能するものの、全ステータスはワンランクダウンする。

【weapon】

『ルガーP08』
戦闘機乗りのラストウェポン
ドイツ製の自動拳銃であり、装弾数は8+1発

【人物背景】

夜間戦闘において、121機の世界最多記録を樹立したドイツ軍の戦闘機パイロット。
ドイツ全軍21番目の柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与され、航空司令としてはドイツ空軍最年少22歳で第4夜間戦闘航空団司令に任ぜられる。
重爆撃機の撃墜数から世界最高の撃墜王エーリッヒ・ハルトマンをすら上回り、最もイギリス空軍兵を死傷させたドイツ空軍パイロットではないかとも言われている。
その戦果の全てが夜間に打ち立てられたものであり、イギリス人からは「サントロンの幽霊」と恐れられるようになっていた。
第二次世界大戦を生き残り、戦後の1950年にボルドーの自動車事故で28歳の若さで死亡した。

【聖杯にかける願い】

夜の空を駆ける
それさえ出来れば後はなんでも良い



【マスター】

黒澤ゆらぎ@WIXOSS -Re/verse-

【マスターとしての願い】

尽白真子を自分の物にしたい

【weapon】

『アルフォウ』
ゆらぎのルリグ。ゆらぎ大好き。
セレクターバトルでは強かったがおそらく戦闘の役には立たない。

【人物背景】

カードゲーム、ウィクロスを用いて願いを賭けて戦う「セレクターバトル」に巻き込まれた女子中学生。マジでガチでサイコなレズ。
過去の事件の影響で幼馴染の尽白真子と無藤樹以外の顔を覚えることが出来ない。
真子が思いを寄せる樹を奪うことで真子の感情を自分自身に向けさせようとしたり色々とアレな子だが、行動の根本は大体真白の為で一貫している
今回の参戦時期は真子の願いが叶わないようにセレクター狩りをしているところから。

【方針】
聖杯戦争には積極的に参加する
具体的にどうするかはまだこれから考える

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最終更新:2017年05月20日 21:35