夜の新都の街角。
所在なげに一人佇む女に、30代くらいの男が声を掛ける。
二人は短い相談を済ませると、ホテル街に消えていった。
それからおよそ2時間経ち、2人はホテルを退出。そそくさと男は去っていった。
――さて、どこにいこうかしら。
女――相馬光子は微笑を消し、気だるげな表情で歩き出した。
通りですれ違う男の幾らかが、光子に視線を投げていく。
アイドルもかくやと言わんばかりの美しい顔立ちの若い女が、ふらふらと歩いているのだからそれも当然。
形の良い唇の両端をキュッとつり上げてやれば、呆けた顔でその場に釘付けにされてしまう。
光子は厳密にいうと、日本人ではない。
――大東亜共和国。
地理的には日本と同じだが、総統の名のもとに全体主義が敷かれる東洋の島国。
生活水準において両国に差は無いが、日本の方が様々な点において自由だ。
大東亜の異常さをよく示すものが、プログラム。
毎年50クラス、全国の中学3年生の間で行われる殺し合い。
生き残れるのは、その中の一人だけ。
光子は最終盤まで生き残ったが、惜しくも脱落……次に目を覚ましたのはここだった。
《馬鹿か、貴様》
《あら、いたの。アーチャー》
声変わりを済ませていない少年の声が、呆れたように言った。
《何をするのかと思って見ていれば、娼婦の真似事とはな》
《真似じゃないでしょ…それよりどう、興奮した?家に帰ったら、相手してあげてもいいけど》
《黙れ。霊体が腐乱するから口を開くな。一時とはいえ、貴様のような淫売が主になるとは…!》
声に含まれる怒気が濃くなる。
《ごめんなさい、もうしないわ。だから機嫌直して、アーチャー》
《……》
しゅんとした様子の光子は念話で謝罪するが、返事は無い。
最初のやり取りで泣きついた時に、何を間違えたのか警戒されてしまった。
それ以来、二人はこんな調子だった。
ああやって仲のいい男をつくっておくと色々便利なのだが、それを言っても理解はしてくれまい。
《…私だって、好きでこんな風に生きてるんじゃない。皆が皆、あなたほど強いわけじゃないのよ?》
《……》
《どんな敵でも一撃で倒せるなら、こんな生き方してないわ》
《ならば、人間を止めるか?》
今度は光子が口を閉じる番だった。
《……》
《人の身体に未練を感じる心などあるまい?聖杯の力で魑魅魍魎を受け入れ、一騎当千の力を得る。そうすれば媚びを売って生きる必要もなくなる》
《あなた、聖杯が欲しいんじゃないの?》
《俺の夢はひょっとしたら……、貴様に話す謂れは無い!話は終わりだ》
懐かしむような声を発したアーチャーは、一方的に話を打ち切った。
光子が何度念を飛ばしても、無視を決め込む。
そのうち彼女も諦めて、静かに家路を辿った。
《あ、ひょっとして気を遣ってくれたのかな》
自宅についてふと、光子はそんなことを考えた。
不機嫌そうな物言いだったが、あれは自分への励ましか、慰めだったのではないか。
単独行動のスキルを持つ以上、自分と仲良くする必要はないのだ。
一般人でしかない光子の代わりなど、探せばすぐに見つかるだろう。
最初に見たアーチャーの姿を思い出す。
筋肉質と呼ぶ程ではない、しなやかな体。
そして顔。まるで女の様だった。
男相手に嫉妬などしないが、美形と認めざるを得ない整った容姿。
――案外甘いのね、彼。
自分に何かを与えようとした誰かは、これで2人目だ。
1人目は同じクラスにいた、内気な少年。
覚えている限りでは、彼以前にそんな人物はいなかった。
震えるような心など、彼女には残っていない。
9歳の時、自分を売った母親。
古びたアパートで自分を組み敷いてきた3人の男、資料室で襲ってきた小学校の先生。
それを噂にした当時の親友、事故で死ぬまでいじめてきた遠縁の子。
様々な人間がいて、その悉くが光子から、大事なものを奪っていった。
――しかし、どうでもいい。
大事なことはたった一つ。自分は絶対に負けない。
★
『奪われるのは、己が弱いからだ』
彼は先帝神農の温情無くては、生きていく事が出来なかった。
肉のつかない重い体に、濁った血液。
それをどうにかしたいから、アーチャーは不自由な体を引きずって、魑魅魍魎と合一した。
(軒轅…)
自分が就くはずだった帝位を奪い去った仇敵。
それはまだ良い。
しかし、彼は勝利しただけでは飽き足らず、己の姿を描いた旗を威勢の象徴とした。
まるで繰り返し繰り返し、全体重をかけて踏みにじるように。
敗れはしたが、俺はお前に膝をついてなどいない。
殺すしかない。
聖杯の力を持って再戦し、絶対の武を以て軒轅を仕留める。
しかし、必ずしも聖杯を使う必要はないのではないか。
もしかしたら、奴も招かれているかもしれない。
――その時は、マスターにでもくれてやる。
あれは別の道を辿った自分ではないか?
倫理や愛を排除し、手練手管を弄して世を渡る非力な少女。
彼女がどう振舞おうが関係ないはずだが、見ていると癇に障る。
軒轅とこの場でまみえたなら、もはや聖杯など不要。彼女をその内面に相応しい、魔人に変えてやろう。
【クラス】アーチャー
【真名】蚩尤
【出典】中国神話
【性別】男
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具A+
羌角 筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
勇猛;A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
自己改造:A
様々な獣が混じり合った、キメラのように描かれたその姿。
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
病弱:-
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。
上記スキルにより喪失している。
神性:E-
魔物としての属性を得た為に殆ど退化してしまっている。
【宝具】
『天帝羌角(ちみもうりょう)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
受け容れた魑魅魍魎を身体に顕す。
宝具を展開したアーチャーは4つの目、6本の腕、牛の頭と鳥の蹄を持つ半獣半人となる。
この形態をとった時点でステータスを専用のものに修正。
展開中は風・雨・煙・霧を巻き起こして、敵勢力を苦しめる事が可能。
霧を吐き出して視界を悪くし、豪雨や突風を敵陣に浴びせる。
さらに「兵器による負傷ダメージ値」を、必ず1/10に減らしてしまう。
携行武器だろうと、大量破壊兵器だろうと、兵器である限りは削減の対象となる。
その為肉体による打撃や、爪や牙による攻撃はこれに該当しない。
『魔帝五兵(まおうのちえ)』
ランク:A 種別:対軍、対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
生前にアーチャーが作成したとされる兵器を取り出す。
そのうちの剣、弓矢、盾、戦斧、弩を扱うことができる。
これらを操ることで、アーチャーは戦局を瞬く間に変える。
――剣の強度は底知れず、いくら斬っても刃毀れしない。
――弓は番える矢を独りでに用意する。放たれた矢は流星となり、軍団も城壁も射貫いてしまう。
――盾はあらゆる攻撃を三度、完全に防ぐ。魔術だろうと物理だろうと問題にしない。
――戦斧は空間を無視して敵を両断する。補足できてさえいれば、その刃は必ず届く。
――弩から放たれた矢は爆炎を放ち、一撃で櫓を崩す。
破壊された場合でも、令呪一画に相当する魔力を消費すれば再生可能。
盾は三回攻撃を防いだ時点で、破壊された時と同じ扱いになる。
【weapon】
なし。
【人物背景】
古代中国において、黄帝と覇を争った人物。
魑魅魍魎や数多くの兄弟を味方につけた彼だったが激闘の末、タク鹿の野で敗れ去った。
彼に味方した九黎族は、三苗と名を変えて歴代の王と戦い続けたという。
戦斧、楯、弓矢、弩など優れた武器を発明したことから、軍神として扱われる。
しかし、その正体は魔道に堕ちた少年。
生まれつき虚弱であった彼は、玉座に耐える体ではなかった。
丈夫な体を手に入れるために鉄や石を喰らい、魑魅魍魎を受け容れた。
そして、彼が掲げたのは「武」。
大陸を治めるのに必要なのは、絶対的な力であると彼は考えた。
しかし阪泉の野において、軒轅が父祖たる神農を敗った。
その時、自分が次の帝になるものと信じ切っていた彼は、天地がひっくり返ったように感じたのである。
後に軒轅に敗れ去った際、その血の付いた枷が楓に姿を変えたという。
見かけは13~15歳のアジア系の少年。
ただし、髪は老人のような白髪。
うっすらと筋肉がつき、腰にはくびれがある。
秀麗な顔立ちをしており、その瞳は蛍のように輝く。
これは魑魅魍魎を受け容れた後の姿。
本来は老人のような痩身をしており、ひび割れた肌は土色。
髪は魔人となるまで生えてこず、両眼は黄色く濁っていた。
【聖杯にかける願い】
軒轅(黄帝)と再戦。帝位ではなく、純粋に屈辱を晴らしたい。
【マスター名
相馬光子
【出典】
バトル・ロワイアル(小説版)
【性別】
女
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「演技力」
嘘泣き程度はお手の物。
中学3年でありながら、男を魅了する手管に長ける。
男を使って、喧嘩相手を轢き逃げさせる程度の能力を持つ。
「抜け殻の心」
幼少から続く壮絶な体験により、精神を病んでいる。
マスターの身ながら、E~Cランク相当の精神汚染スキルを所持。
クラスメイトだろうと、グループの部下だろうと躊躇いなく殺害できる。
【人物背景】
城岩中学校3年B組の女子不良グループのリーダー。
中学生離れした美貌の持ち主だが、母親を含む周囲の人間に虐げられ続けた結果、精神は歪み冷え切っている。
窃盗・売春・恐喝など、様々な犯罪行為に手を出しており、人脈も豊富。
大東亜共和国が定めた殺人ゲーム「プログラム」において終盤まで生き残るも、桐山和雄によって殺害された。
死亡直後から参戦。
【聖杯にかける願い】
生還。「奪う側」に回る。
最終更新:2017年05月20日 21:55