平凡な日常。聖杯戦争の舞台として設置された冬木市は、無縁の人々が住処通う場所でもある。
これより始まる非日常など知る由も無く。
または、自分たちが巻き込まれる事を夢にも思わず。
普通の。
ありふれた。
いつも通りの生活を。
朝も、昼も、夜も。学校も職場も道楽も食事も、家事も会話も、勉強も犯罪ですら。
幾度も、何度も、何篇だって繰り返す。
彼らは知らないから。
知らなくとも、強烈に違和感を与えてくる。
狂ってる。
彼らはきっと狂ってる。少女は思う。
だから少女が「こんにちは」と誰かに声をかけてみるのだ。
そして、誰に対したって少女が真剣な、それでいて、どこか遠くを眺める眼差しで口を開く。
「突然、ごめんなさい。大事なお話しがあります。ここで聖杯戦争が行われるんです。だから早く逃げて下さい」
◆
―――からん、からん。
ここは冬木市の一角にある喫茶店。年季の入った独特の趣を漂わすここは、夜間はバーとして経営されている。
正直、あまり景気の良い感じはしない。
むしろ、バーの方が評判で、折角手伝いをしている少女が哀れに思える。
扉が開かれたベルに、少女が「いらっしゃいませ」と大人しい声色で挨拶をした。
歓迎するべきお客様かと、少女も内心期待を秘めて居たが。
実際に現れたのは、金髪に青い瞳の外国人。
青いワンピースに白のエプロンドレスという現代では奇抜ながらも、違和感なく着こなす少女。
丁度、店番をしていた少女と同い年くらいだろう彼女は。
何を隠そう、聖杯戦争で召喚されるサーヴァント・バーサーカーである。
疲れ切った様子で近くの席に腰掛けるバーサーカーを、ポカンと眺めるはマスターの
香風智乃だ。
「バーサーカーさん、どうしましたか」
「ねえ。マスター。私、今日も色んな人に声をかけたの。聖杯戦争のことを教えたくって」
でも、とバーサーカーが異国ならではのオーバーリアクションの素振りで嘆く。
「やっぱり誰にも信じて貰えなかった。それどころか、お巡りさんを呼ばれて質問攻めされたわ!
酷いわ。私の事、頭のおかしい子って……変な病院に連れて行かれそうになったの!!」
「えっと……」
「私は嘘を言っていないし、ちゃんと真実を伝えたつもりなのに」
気を紛らわせようと、智乃がカプチーノをバーサーカーに差し出しつつ。
平静に答えた。
「無理に頑張らないでください。聖杯戦争なんて、現実じゃありえないことですから」
「だけど。どうして誰も私の話を聞いてくれないのかしら。
ねえ、マスター。この世界は――思ったのだけど、大分おかしいわ! 絶対に変よ。
ここに居る人たちは悪口を平気で言いふらすし、暴力だってそう。狂ってるのよ」
バーサーカーは決めつける。
皆、狂っている。
だけど、一番に狂っているのは、やっぱりバーサーカーだった。
彼女は勇敢で、礼儀正しく、真実を語るが、要は現代の世界を理解せず。
典型的な「空気の読めない人間」と化している。
「マスター。もし、戦う事になったらどうすればいいのかしら。誰も町から避難してくれなかったら……
いくら頭のおかしな人達でも、誰も巻き添えにしたくないの………」
「……そうですね」
だけど、バーサーカーの言葉に正解もあった。
聖杯戦争が逃れられないと知った智乃は、バーサーカーと同じ考えだった。
一体どうやって町の被害を抑えれば……自分が、ここから離れれば良いかもしれない。
それは簡単な方法だが、智乃は一人孤独。当ても無い放浪をするのに不安を覚えた。
情けない、少女らしい恐怖だ。
しかし、当然のことで恥じることはない。
「私は聖杯が欲しい。これは確かなことなの、マスター」
「はい。分かっています……」
「ごめんなさい、マスター。こうでもしないと……パパやママ
ううん。お父さんとお母さんのところに帰れないみたい。どうしても帰りたいわ」
「私も同じです」
智乃は人知れず頷いた。
元居る世界に。家族や友人たちの、平凡な世界へ帰る為に。
バーサーカーの心情は、どこか悲しげな表情を浮かべる少女と自分は同じだと思う。
「帰る為に頑張りましょう、バーサーカーさん」
「ええ。ありがとうマスター。一緒に帰りましょう」
◇
ここはどこ? 帰れない。
帰りたいの、帰れなくなってしまったの。
体も痛い。さっき、首を切られたせいで、痛くて痛くて痛い痛い痛い。
こわいよう。つらいよう。たすけて。
パパ、ママ、お姉ちゃん…………
だけども、私はこの狂った世界から逃れたいの!!
【クラス】バーサーカー
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:E 宝具:A
【属性】秩序・狂
【クラススキル】
狂化:EX
狂ってない!狂ってない! 狂っているのは私じゃあなくって、お前らだ。
アリスは相手を狂っていると思いこんで、自身は正常だと訴える。
相手が狂人の場合は、不思議とアリスは正常になる。
【保有スキル】
戦闘続行:A++
往生際の悪さ。ハートの女王に首を刎ねられてもなお、元の世界に帰りたい一心で
彷徨い続けている、最早屍。死に底ないの魂。
反骨の相:C
権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
同ランクのカリスマなどのスキルを無効化する。
【宝具】
『大なり小なりは掌で踊る』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~300 最大捕捉:500人
不思議の国で拾った様々なアイテムで巨大化したり、逆に豆粒程度になったりと体を変化するもの。
アイテムはマスターも使用可能なのだが、一度使ったアイテムは今聖杯戦争において使用不可となる。
『言語の秩序を齎す剣(ソード・オブ・ヴォーパル)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~300 最大捕捉:500人
理解不能の怪物・ジャバウォックを葬ったとされるヴォーパルの剣。
アリス曰く、いかれた世界を彷徨う最中に発見したらしい。
超巨大の特攻を持っており、宝具名開放と共にセイバーの剣定番の強大なビームを放つ。
【人物背景】
不思議の国のアリスの主人公。
彼女は所謂、平行世界の存在であり。現実に帰れなかったIFのアリス。
ハートの女王に首をはねられ、永遠に不思議の国を徘徊する怨霊に近い。
礼儀正しく、良くも悪くも秩序的。確かに正論を言うのだが、いつも空回りする。
【特徴】
外見は絵本でも有名なアリスの容姿。智乃程度まで成長している。
【聖杯にかける願い】
家族のところに帰りたい
【マスター】
香風智乃@ご注文はうさぎですか?
【weapon】
コーヒーに詳しい程度の能力
【人物背景】
感情表現が乏しい、クールで大人しい中学生。
ごくごく普通の少女で、喋る兎が身近にいる以外は何らおかしいなことはない。
平凡な日常を謳歌していた。
不思議の国のアリスのように、ある日突然、聖杯戦争へ巻き込まれる。
【聖杯にかける願い】
生きて帰りたい。
最終更新:2017年05月20日 22:45