放蕩無頼漢

────このバーサーカーの生前の記憶は、永劫に封鎖されたものである。


夜の浜辺で月光がその凹凸を溶かしている。
しかし、この夜の浜辺には心地よい外気などない。在るのは殺気ただ一つ。

浜は一面赤色。血の朱《あか》。彼ら二人が流した流血で海まで真っ赤に滲ませる。
撒き散らされる血と肉を、たかりに魚がやって来る。海面を跳ね、また一匹、また一匹と陸《おか》へとうち揚がった。
岩や石ころだらけの砂の上に、まるで銀貨か宝石を敷き詰めたような鯵や鯖の魚たち。
それらは総て生きながらにして既に腐っている。
それを裸足が踏み潰すと泥屑へと変わった────。
残骸から立ち昇る言いようもない臭い。彼らはそれを攪拌した。
入り乱れる足跡たちに混じって、裸に近い格好のまま二人が獣のように闘っていた。

鋭く剥き出し、全身の筋肉を緊張させ、突っ込んで迫る、殺気塊。背後の海が割れる。

────力強く。光のように速い。信じられないほど強い。
この世の者とは思えない、骨を震わすような遠吠え。
煌めく残忍な破片が、音もなく吹きつけてきた。
ひとりが跳躍しざま、次の瞬間。
────側頭部にブチ込まれた。頭部に食い込み、強烈に炸裂して左半分から頭骨と脳を吹き飛ばす。

バーサーカーの全身から、狂暴さが音を立てて退いていった。
凄まじい化物の力を前にして、彼は崩れ落ち、昏迷の淵へ沈みかける。

────頭を上げろ。起きろ、立て、その眼を見ろ。

彼は身震いしながら立ち上がった。
闇が意識を包む寸前、僅かに残った光が急速に広がった。血が目に入って視界が赤い。
止まりかけていた呼吸を尋常に回復させつつ、
あいつを正面から見つめる。眼が合った。光る眼と眼の対決。
誰も、こんな眼には見つめられたいとは思うまい。
微かな息づかいだけが聞こえて空気が澱む。
彼のその血にまみれた拳は屈辱を晴らすべく、再び握り締められる。

「………………」

よろける足を踏み締め、フラフラと前に歩きだす。

────負けて死ぬなら、それなら……それでいい────。

足取りが突然乱れ、その場にしゃがみこむ。
立ち上がろうとした。しかし……瞳の焦点が合わなくなってきた。

『……おっさん……名は?オレの銘《な》は、────』

答える相手の表情は虚ろであった。眼にも光もない。

バーサーカーの頭の中で、言葉が風鈴のように揺れていた。

あ、駄目だ、気が……抜ける────。
意識を失い、顎から浅瀬に落ちた。
海水に全身を浸して、体の奥で熱く火照っているエネルギーが急激に冷えていく……。

「──────」

最期の声は潮風にさらわれる。
バーサーカーはそのまま引きずりこまれるような眠りに落ちた。







  ▲      ▲      ▲      ▲



空気まで蒼色を滲ませている。雲が生まれては散り、小波〈さざなみ〉が岸に打ち寄せる。
浜辺のベンチに掛けていた少年はもう三十分以上、それを見つめていた。

体を丸めて寒そうに首を縮こませて口元を隠す。

海面からぬらりと顔が浮かび上がるバーサーカーが全裸で海から揚がってきた。 背負うのは巨大な鮪〈マグロ〉である。
長い息を吐息〈はき〉ざま、
『お前も食べる?鮪?』
と訊いた。

「……いりません」

五分刈り頭の人懐っこい魅力的な笑顔。
鎧のような骨格が張り出す岩乗な体つき、逆三角形の胸板に見事なウエスト……。そして──。

額にかかる髪を撫でつけると、マスターは指で頬を掻きながら眼を落とし、女のような細い眉を寄せた。

「あの……え……その……ここでそんな格好……やめた方がいいですよ。警察が来ます」

解放感を満身に漂わせたバーサーカーは下半身をさらけ出していた。この歳でいっちょ前に剥けてる。ズル剥けだ。壮漢であった。

『あぁ!ゴメンゴメン!忘れてた、ハハハ……』

木の根みたいな指で頭を掻いた。左腕に黄金《きん》の腕輪が光っている。傷だらけだった。

茫洋とした大きな眼のサーヴァントは狼のような笑いを浮かべた。

「いい加減あなた誰なんです?」

『────あんたこそ一体何なんだ?人間〈ひと〉の匂いがしない。今まで何人殺した?』

冴々とした不気味さを隠し切れない眼。声まで氷のようであった。
それでも、マスターは平然と突っ立ったまま落ち着いていた。
冬の夜みたいに冷たく静かな声。邪気のない表情。輝いていた。

「バレました?凄い」

この美少年の無邪気に見える笑みの真意は今のところこのサーヴァントにしか掴めないだろう。





  ▲      ▲      ▲      ▲





────十になったばかりの私は忘れない。



────打ち下ろした石の感触を。砕ける骨。潰れる肉。あの音を……。




青い光が差す中庭で罵倒の叫びが駆け巡った。
母を呪うように猛り狂っている姿。罵る声。
数度、打撃音と悲鳴が上がり、母の嗚咽と押し殺した泣き声。
掴んでいた母の髪がゴソッと抜け落ちる。
這いつくばって石畳に頭を擦り付ける母に奴は、何故蹴りを浴びせる?滅茶苦茶に踏んづけ、いたぶり続ける?

赤い筋が青痣に変わる頃、それでも治まり切らない父のところに、私は母家の柱の影から歩み出た。

「母さんを打〈ぶ〉つな」そう吐き捨てた。

半分泣きべそをかきながら父を睨む。

「希夷……」母の口の中から血が滴る。

涙を湛えた抗議にも、皺深い相は有無を言わせぬ威圧感。そしてその立ち姿。
心から震える。心底縮みあがった。

だけど────。

押し殺した泣き声。身体が勝手に熱くなっていく。
三メートルまで近づいた時、見つけた手ごろな大きさの小石。鳥の足を思わせる白い指が掴んだ。
それを見るや父は「投げろ。母に当たるがな」腕を引き、父と私との間に立たせた。
それでも、ただ激情にかられたまま歯を食いしばって、その一瞬の見抜いたかのように手にした石塊《いしくれ》を投げ放つ。
母のこめかみを傷つける事なく通り過ぎると、投擲した石礫が父の顔の右眼を的中した 。彼は喘ぎ、よろめき下がった。

────殺したか?

だが、すぐにその表情が、驚愕に強張った。
地鳴りのような声。
紫色の眼孔から滴り落ちる血潮は眼球を潰したことを証明していた。
だが、しかし。真っ赤に充血した左眼で幼子を睨みつけた。

「この────鬼子〈グィズ〉」

殺意のみの声であった。
灼きつくように吹きつけられた殺気の悽愴さが全細胞の核を針で刺し貫き、幼子は小さく身震いした。
さっきまでの勢いもなくして、すっかり萎縮してしまった。

『やめて!』

止める母は成す術もなく、また突き飛ばされた。
血潮を拭おうともせず、傷の痛みも忘れて、興奮した父は言葉にならぬ唸り声をあげながら希夷の身体を蹴りつける。
口端から滴る二本の線は涎だった。
ヒュッ、と風が鳴る。
頭を狙われている。避ける。その鼻先を掠めると、後につづく二連撃目の父のつま先が頬を掠める。毛髪を逆立てていく。
その破れた皮膚から赤い筋が布のように流れ、幾条もの糸となって肩と胸に滴り落ちた。
その眼には凄まじい光と吐息。只の怒りか、只ならぬものを見たためか、父の半顔は朱に染まったまま、再び襲いかかる。拳を叩き下ろす。間一髪で躱す。
威力は知っている。右のこめかみにえぐり取られた風が流される。

────怖い。

あどけない姿が今、目の前で天禀を眼醒〈めざ〉めさせる。
二人の間に電流のようなものが流れて眼から眼へと、流れこみ、心臓を激しく叩いた。
脅えと激情が等しい。全てを忘却させる。
全身がわなないた。
全身が熱を帯びる。
熱い震え。
内心の炎は炙られ、ついに発火する。狂相の花が咲いた────。
次の瞬間だった。 
蹴りの瞬間を見計らってステップを踏み、中へ一歩踏み入れる。軸足に脚払いをかけた。
数歩よろめいて脚をすくわれると腰から石畳に転落し、 転がされている父の姿態は、今まで見たことない新鮮な印象すら覚える。

────怖い。

重い塊が一瞬溜まり、拳骨を握りしめて、左手で下から顎へと一発かました。 骨が軋む衝撃。故に絶妙の一撃だった。
父は仰向けに倒れた。

────これならどうだ?

まだ生きていた。起き上がり闘志の充〈み〉ちる眼でねめつける悪鬼の相。

────怖い。

駄目だ……。

────怖い。


────殺せない。こんな業〈わざ〉じゃあいつを殺せない。

眼を落とすと、幼子のすぐ脇に庭石が目に着いた。

────ならば。

泣き出していた母が、身を起こそうとする父にすがりついて哀願する。

「もうやめて! 希夷には手を出さないで!」

それを搦め取られまいとする。また、母の顔を靴底で蹴り抜く。
だか、視界を一瞬、暗く閉ざされた時、上を見上げすぐに父の体は口を半開きにしたまま、金縛りにあったように硬直する。
そして次の瞬間、叫びだけの留まる空間を流れる影が駆け抜けた。

────────これなら!?

────父に向かって石を振り上げた時。
────空を切り、打ち下ろした時。
────地に墜ち、頭を叩き割る時。
────白く美しい貌〈かお〉は最後まで泣いていた?歓〈よろこ〉んでいた?怒っていた?それは母すら見ていない。それを見た者は死んでしまった。


それが私の最初の殺人。あの日、私はそれを本能的に悟る。私を駆〈か〉り立てる朱色の衝動を────。





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【出典】ケルト・アルスター伝説

【SAESS】 バーサーカー

【身長】155㎝

【体重】42㌔

【性別】男性

【真名】コンラ

【属性】中立・善

【ステータス】《赤潮の浅瀬発動時》筋力A《++》 耐久A《++》 敏捷A《++》 魔力C《++》 幸運E 宝具E~A+

【クラス別スキル】

神性:A
光の御子クー・フーリンと女神アイフェとの息子。
そのため高い神性を有する。

放蕩無頼:A+
狂化スキル。 完全に思春期のアレ。
いかなる精神制約下でも、十全の戦闘ができる。
意志の疎通・会話は可能。
但し戦闘時は、マスターからの命令を完全に無視する。困った奴だ。
単独行動:A+相当を付与する。勝手にどっか行く。手がつけられない。

【保有スキル】

紅顔の美少年:B+
人を惹きつける美少年としての性質を示すスキル。
男女問わずに対して魅了の魔術的効果を持つ。
両親遺伝の天性のジゴロ。黙っていれば、かっこいい。

原初のルーン
父と同じ師・スカサハ直伝のルーン魔術。
対魔力:Bランクに相当する。頭部以外を守る硬化のルーン。 宝具でもそう簡単には彼の身体に傷を付けることは出来ない。

戦闘続行:A+
挑まれれば戦わなければいけない不退の誓約《ゲッシュ》。そして、父から子へと受け継がれるケルト魂。

赤潮の浅瀬:A++
母から譲り受けた腕輪の加護。水辺を認識した場合、ステータスを上昇させる。

【宝具】
『大神刻韻・蹴殴投《アルスター・グレイシー》』
ランク:E-~A+ 種別:対人宝具 レンジ:0~2000 最大補足:1人
赤枝の騎士たちを返り討ちにした逸話。
天性のバトルセンスから操る十八のルーン魔術による身体強化《フィジカルエンチャント》からの我流喧嘩殺法。殴ったり、蹴ったものにルーンを刻み、燃焼・凍結・電撃などを直接相手に叩き込む技。
他にも女の子の読心、口の中に必中の犬の糞、因果逆転の急所蹴りなど……ルーン魔術の使い方を完全に間違った方向に運用している。

【 weapon 】

  • 徒手空拳
武器もなしにこの少年は数多の戦士と渡り合った。

  • 投石
その辺の石とかゴミとか適当に投げつけるだけ。それでも飛行機だって撃ち落とせるし、英霊だって殺せるアンダースロー。球速は時速約2430キロ。

【人物背景】
誓約《ゲッシュ》によって真名を絶対に名乗れない英霊。
父にクー・フーリン、母を影の国の隣国の女王アイフェを親に生まれ、父の師・スカサハの下で育つ。ちなみに彼女は彼の叔母にあたる。
生まれた彼だがアイフェからスカサハに無理やり押し付けられ形で彼はスカサハの下で修行をへて、アイルランドへ向かうが彼の言動と行動のせいでとうとう討伐軍まで出るゴメンじゃ済まない一大事となってしまう。ついにクー・フーリンが赴く事となってしまった。
クー・フーリンとの死合の末、頭部にゲイボルグを受けて敗れさった。

このサーヴァントの死の前後の記憶は消失している。
そのため座の記憶があっても、自分を殺した相手が父であることを知らないし、思い出してもせいぜい凄く強い奴だったという記憶だけが残っている。
そして今もまだ、覚えていないあの父の背中を追い続け、走りつづけ、戦いつづける。いつか、聖杯戦争で出会える事を信じて……。
歳は9歳。
女の子に優しいマセガキ。貧乳派。 因みに非童貞。
戦闘に入ると、普段の言動がなりを潜め、冷静かつ大胆な行動をする。
死なずに生きていれば父を超え、アルスター伝説史上最強になれたかもしれない本当の天才。

【サーヴァントとしての願い】
戦うために参戦。




【出展】修羅の門 第弐門

【マスター】 高長恭(ガオ・チャン・ゴン) あるいは蘭陵王〈らんりょうおう〉そう呼ばれている

【身長】170㎝

【体重】65㌔

【性別】男性

【人物背景】

日本人を母に持つ19歳。気弱な性格、を演じ続けている……殺し屋。女性のような顔立ちと小柄な体格ながら、戮家当代最強と言われる伎倆と疾さを持つ。不可触〈アンタッチャブル〉とも呼ばれる。
本編での〝ジ・エイペックス〟参戦前とし、今もその本性を隠している。後の戮家歴代三人目となる姜子牙 ────。

【Weapon】

  • 暗殺術
四門を開けた陸奥九十九と引けをとらないスピードとテクニック。暗器、忍釘、鉛玉などの不意打ち。

  • 発勁
正式名称ではなく、劇中での仮称。
掌打から、蹴りから、ガードから放たれる正体不明の攻撃。
まともに食らえば一撃で人間を殺害できる。

【マスターとしての願い】

不明。

【方針】

バーサーカーがひたすら戦う。

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最終更新:2017年05月20日 23:07