予告状

『マスターよ。君に問おう。
君の言う日本や世界は明るいものか?』



「ええ……比較的明るい方じゃないかしら」



『では、戦争もない。ありふれた平和が日常である世界に間違いは無いと?』



「それは、違うわね。だって戦争はなくならない。少なくとも、日本は違う。犯罪がない訳ではないけど」



『なんと嘆かわしい! だが、そうか。君は戦争を知らないと。それは『良い』ことだ。素晴らしい』



「どうして? 戦争が悲惨なものだと後世に語り継がれるべきじゃないの」



『まさか! 『あんなおぞましいもの』(戦争)を聞かされてどうしろと!!
アレ(戦争)が悲惨で残忍でこの世で最も非常な大犯罪であることは、説明されるまでもないだろう!
そう理解すればいい。理解があればいいのだよ。
利益もない。世界において、途方も無い大損失を起こすだけの行為だと……』



「そう」



冬木市内にある小学校の図書館。

先ほどから受け答え続けた声の主、一人の少女が一息ついて一冊の本を閉じた。
彼女は、小学生ながら不自然にも大人びた雰囲気の、クールな印象を抱かされる存在で。
活発で駆けまわる子供達の中で、一際目立つ。
格別、注目されている訳ではない。先生や近所の住人からも「ちょっと大人しい、しっかりした子」
という扱いで、怪しまれた経験は皆無だ。


彼女――灰原哀の抱える巨大な秘密を知る者は、現在において彼女のサーヴァント・アサシンを除いていない。


誰も助けを乞えない状況下。
聖杯戦争。非現実的な現状に巻き込まれたにも関わらず、冷静を保つのは。
相応の精神力。否、実年齢が小学生ではない経験からによるものか。

彼女は毒によって肉体が縮まった。
毒を開発していた組織から抜け出す為に、毒で命を断とうとしたのだが……
少なくとも『この英霊/アサシン』には説明しない方がいいだろう。
哀は、あくまで謎の力で子供の姿になったとアサシンには説明してある。
念話で会話をしていた哀が、続けた。


「でも。貴方の事だから、誰も殺さないで聖杯を――『盗み』出すつもりなんでしょう?」


不敵に微笑みながらも、期待する風な哀に答えるかの如く。
アサシンが返事をするのだった。


『如何にも。手始めに聖杯戦争の主催者に関して探り、予告状を出さねばなるまい。
だが、私も冬木市内に部下を配備するのも時間がかかってね……ああ、そうだ。
君の要望通りの物資を家に運んでおいたよ。マスター』

「ありがとう。でも、貴方ね……私の所にいた怪盗キッドと違って、無暗に予告状をバラ撒かないで頂戴?」

『いや、それは駄目だ。私の癖なのでね』


呆れた哀は、一冊の本を受け付けまで持って行き。
貸し出し手続きを行ってから、ランドセルへ本を仕舞って、それを背負った。
流れるような作業をしつつ、哀は念の為、周辺の様子を確かめる。

冬木市は彼女とは無縁の街だ。
自然と近代が入り混じった。古来と現代の境目を現すかのような……
哀は、都心より離れた森林地帯にはアサシンが『宝具』を下準備が行われている隠れ家があるとは
耳にしているものの。お目にかかったことはない。


「貴方の場合、真名がバレたら駄目だって自分が一番分かっている筈だけど?
アサシン………いえ、怪人二十面相?」


『はははは! そうでなくては、私らしくないではないか。マスター』



二十の顔を持ち、四十の瞳を持つ怪人は得意げに語った。




□    □    □    □



二十面相は『怪人』と呼ばれるが、人智を超えた怪物ではなく人の子。
即ち『怪盗』である。
盗賊、という表現が当時不適切であって。
時代が時代であれば、灰原哀の知るキザな泥棒よろしく『怪盗』二十面相と親しまれていただろう。

よく知られているが怪盗である二十面相は、殺人を、そして戦争を非難していた。
自らの犯行が、戦争や殺人行為と同等にされるのを非常に嫌った。
そもそも、彼は戦後の日本を盛り上げるため。
戦争という忌まわしい大犯罪を、記憶から失くすために派手に奮闘し続ける。

最期が果たして、名探偵との決着で終わるとしても。


「いつの時代も探偵と怪盗はキザな人が多いのね」


他の探偵や怪盗を知る灰原哀の感想は、そのようなものだった。
「ところで」アサシンがまるで日常の挨拶をするかの如く、外見が少女のマスターに尋ねる。


「マスター。現代の賜物、質の良いノートパソコンはともかく、他は何に使うつもりかな?」


催涙スプレーやスタンガン……
現代社会で、最低限収集できそうな物。
冬木市においての、哀の室内に小学生には不釣り合いな物資だ。


「これは念の為よ。子供の私なんてサーヴァントは愚か、大人のマスターにだって分が悪いわ」

「戦う訳でもないのだから、不安になる心配は不要だというのに……用心に越した事は無いがね」


怪盗に過ぎない。
戦闘特化したサーヴァント相手では、時間稼ぎも出来るか怪しい。
だからこそ、勝利が叶わなそうな英霊である。
怪人以下の怪盗は、どうして自信ありげなのかと問われれば。


「『盗む』ことで私が英霊に成ったのならば、聖杯を盗まなくてはならない訳だよ。
私が何故、二十面相の道を歩んだか? それが私の天職だっただけさ」


天職、ね。
哀はそれを関心や共感よりも、どこか見守るように一息ついたのだった。






【クラス】アサシン

【真名】怪人二十面相@少年探偵シリーズ

【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:EX 宝具:E

【属性】秩序・悪

【クラススキル】

気配遮断:C
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】

カリスマ:B-
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
悪に対してランク以上の効力を発揮する。
二人以上の人が顔を合わせれば、挨拶のように二十面相の噂をする。
世界中に賛同者がおり、ある者は彼を敬い。ある者は彼を恐れた。

専科百般:C
あらゆる人間を変装する為、習得したスキル。彼個人が既に所有する催眠術や武術など除いた他は
洗礼された熟練のものではないが、一時的に低ランク程度の効果を発揮させられる。

自己保存:A
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れる。
二十面相の場合は『必ず』無事である呪いに近い。
例え霊核を破壊されても、膨大な魔力を消費し、復活を遂げる。
ただしこれは『誰も二十面相の死に様を確認出来なかった』場合に限る。

不殺:EX
怪人にして怪盗である彼は殺人だけは手をかけず。
また本人自身、殺人という行為そのものを嫌悪していた。
二十面相が関与したものに絶対に死者はない。
逆に言えば、どんな無謀な事をしでかしても死者に関して問題ないという事。

【宝具】

『偽造魔術劇場』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:1~200
彼が化けた怪人たち、怪奇現象、それらを再現する大魔術。
『初見ならば如何なる英霊でも一度だけ騙される』特性を兼ね備えている。
宝具発動時。必要であれば、彼の部下を召喚し、魔術の発動など雑務に協力する。
ただし、部下らは二十面相に妄信的で、彼が危機的状況に陥れば命を投げ出してでも彼を救出しようと凶行する。
(つまり二十面相は完全に部下をコントロール出来ない)
『逸話や奇術のタネを把握されている相手』には宝具が発動すらしないと、欠点が大きい。
つまり、真名が暴かれてはかなり不利になる英霊であり宝具。
残念ながら、彼の困った癖が自らを追い詰めている。

【人物背景】

かつて、あらゆる世間を騒がせた怪人二十面相。
正真正銘の真名は『遠藤平吉』。
サーカス団の団長に成れなかった彼は、様々なものに挑戦するも二流三流止まり。
最終的に『怪盗』が彼にとっての天職だった。

戦争及び殺人を嫌悪し、戦後の日本や世界を奮起させようと自らの技術を用いて駆け巡る。
世界中を宝を集めた博物館を完成させようとしていた。
怪盗ならぬ、怪人に劣る愉快犯。
そんな彼の思想に賛同する人々もおり、当然ながら協力者たる部下を志願する者も後を絶えなかった。

しかしながら、彼の快進撃は少年探偵団及び名探偵・明智小五郎によりストップがかかる。
徐々に二十面相は、明智小五郎との決着に拘るようになった。

最終的に彼はある事件の逃亡の果て、死亡する。
二十面相なりに怪盗と探偵。二つの決着をつけたと自己満足しているが。
彼の死後もなお、二十面相という存在は世間をしばらく賑わせた。
恐らく二十面相の死を受け入れられなかった妄信者の誰かが、第二、第三の二十面相を演じていたのだろう。

【特徴】

どこか若く見えるが、具体的な年齢は不詳な男性。
何かを盗む際、予告状をわざわざ差し出す癖がある。


【聖杯にかける願い】
聖杯を盗む。



【マスター】

灰原哀@名探偵コナン

【weapon】

黒の組織で培った知識。
現在は子供だが、何らかの要因で元の大人の姿に戻れるかも……?

【人物背景】

とある組織から抜け出す際、毒薬を飲み、肉体が子供まで縮む。
組織の影に怯えながら、平凡な日常を謳歌している。

【聖杯にかける願い】

不明。
少なくとも、元の世界への帰還を優先する。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年06月06日 08:51