冬木市において、古くからの町並みが残る深山町。
骨董品店や寺などが門を構えており、和風の民家や洋館があちこちに建っている。
その風景の中、正志郎の屋敷はよく馴染んでいた。
複雑に凹凸を繰り返す二階建て。
石造りの外壁に囲まれたその姿は、城塞と呼ぶに相応しい。
窓が少ないことから、採光性が極端に低いその屋敷の書斎で、正志郎は己のサーヴァントと向かい合っていた。
「改めまして、アーチャーです!真名はザミエル、よろしくね」
「ザミエル……ウェーバーですか」
アーチャー、と名乗って少女が笑った。
外見12、13歳くらいの華奢な体躯。
地味な色の装束に、革のベストを着込んだ様は狩人を思わせる。
彫りの深い欧州系の顔立ちとは似ても似つかないが、その幼い姿は自分が頭を垂れた人外の少女を思い出させた。
そして、正志郎はアーチャーが名乗った真名に心当たりがあった。
歌劇に描かれる、魔法の弾丸を作る悪魔が、そんな名前だったはずだ。
…となると。
「私の命を取りに来たのですか」
「ハッハッハ――!気が早ーい!あと人聞きが悪いなぁ。イカサマを働く者には、それなりの報いが下るものだろう?」
「カスパールのようにですか…」
「そうそう!ま、顔は見たことないんだけどさ」
正志郎は首を傾げた。
彼女がザミエルなら、顔を見た事がないのは可笑しい。
アーチャーは了解している、といった風に口を開いた。
「僕はねぇ、ザミエル本人じゃないんだよ。ザミエルを演じるに相応しい、無銘の悪魔さ」
「詳しく聞かせてくれますか?」
「勿論!」
アーチャー…狩りの悪魔は、獲物を狙う人々を誘惑する。
狩り、というのは狩猟のみを指すのではない。
――あの子の心が欲しい。
――このくじが一等でありますように。
――受験に受かりますように。
"宝を狙う"なら、それ全て狩り。
私が祝福しよう。私がその欲望を抱き締める。
眩い栄光を貴方に捧げるから、貴方の全てを私に頂戴?
狩人を愛する彼女が、「聖杯」という極上の宝を狙う者の前に現れるのは、当然であった。
ただし、そのままでは英霊には届かない。
「格式のある場には、ドレスコードがあるだろう?要はそれだよ」
「結局、私の命の保証はしかねるのですね…」
「心配しないで~♪サーヴァントの契約が切れても、僕との縁は切れないからさ」
アーチャーはけらけらと笑った。
この戦いの間は殺さない、ということか。ポジティブにとるなら。
「話は変わりますが、アーチャー?随分とステータスが低いように思いますが、それで戦えるのですか?」
「いや?戦えないよう」
「……」
「闘うのは僕じゃなくて、ア・ナ・タ♥僕の宝具でマスターを強化してあげるから、自分で戦って」
アーチャーは自身の宝具について説明する。
それを聞き終えた正志郎は、深い息を吐いた。
やや間を置いてから、口を開く。
「仕方ありませんね…、宝具を使ってくれますか?」
「ンもぅ!カッコつけちゃって!」
「どうしました?」
正志郎は戸惑った。
何か不味いやり取りがあったのだろうか?
「仕方ない…じゃなくて!!興味あるんでしょう!?人知を超えた力ってやつに惹かれてるんでしょ、マスター?」
「意味が分からない。突然なんですか?」
「うふふふふ…とぼけちゃってぇ♥」
正志郎は顔には出さないが、内心かなり動揺していた。
彼女の言うとおりだったから。
正志郎はこの場に招かれる以前に、魂を既に売リ払っている。
悪魔ではない。屍鬼という、不死の怪物達に。
人間を憎み、蔑む彼は人類の敵に加わった。
――だが、正志郎は人間だ。
自らもまた蔑むべき人間である、という矛盾が彼の心を常に苛んでいる。
――聖杯の力を使えば、人の範疇を脱する事ができるかもしれない。
正志郎は己を虐げた人間社会を破壊したかった。
人を喰って生きる屍鬼になる事を望んだが、残念ながら見込みは薄い。
だからこそ、人間として彼らに服従したのだが。
だがサーヴァントの力を手に入れれば。聖杯を屍鬼の首魁――沙子に捧げれば。
「…認めましょう。私は人間を止めたい」
「いいの―?寿命が縮むよ?」
「貴方の呪い…乗り越えて見せます」
「よく言った!じゃあ、始めるよ」
椅子に座る正志郎に、アーチャーはゆっくり近づいてくる。
正志郎は目を閉じて、彼女の成すがままに任せた。
【クラス】アーチャー
【真名】ザミエル(狩りの悪魔)
【出典】歌劇「魔弾の射手」
【性別】不明(今回は女)
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運B 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
自己保存:A
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
道具作成:-(EX)
下記宝具と引き換えに、喪失している。
【宝具】
『魔弾の射手(デア・フライシュッツ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
契約を結んだ相手を疑似サーヴァントに変化させる。
サーヴァント化した人物はアーチャーのクラスを獲得し、身体能力が大きく向上。
神秘を纏う事で、英霊と正面から打ち合えるようになる。
宝具を除くステータスは、総合値200からランダムで割り振られる。
強化された人物は天才的な射撃術が身につくことに加え、下記宝具が使用可能になる。
スキルも当然得られるが、功績を打ち立てた超人でもない限り、複合スキルやユニークスキルが発現することは無い。
『最後の一発は僕のもの(タスラム・トゥーフェイス)』
ランク:B+++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1人
魔弾の射手に授けられる、百発百中の祝福。
その手から射出した物体は変幻自在の軌道を描き、時には空間に穴を開けて瞬間移動し、あらゆる角度から敵を射抜く。
また、標的を射抜くまで推進力を失う事がない。
弓矢や銃など射撃兵装だけでなく、礫や手裏剣など投擲武器でも効果を発揮させられる。
アーチャー自身がこの宝具を用いて戦うことは無く、専ら疑似サーヴァントとなったマスターが扱う事になる。
発射された弾丸は、通常の手段では回避できない。
魔弾は破壊された場合を除くと、別空間に逃亡されるかアーチャーが標的を変更しない限り、的を決して外さない。
この宝具は「魔弾の射手」を射抜く際に、ランクを大きく向上させる。
射手を標的にした際はあらゆる防御、回避手段を素通りして命中。射手の魂を、座に記録された本体の元に送る。
【weapon】
なし。
キャスタークラスなら、魔弾を作成する事ができた。
【人物背景】
17世紀中頃、ボヘミアの射撃手達の前に現れた悪魔。
契約と引き換えに、絶対に的に当たる魔法の弾丸を与える。
ただし、今回招きを受けたのは、ザミエル本人ではない。
戯曲に描かれた存在の殻を被った、無銘の悪魔である。
アーチャーのクラスを得た彼あるいは彼女は、実体非実体問わず「獲物を狙う狩人」に手を差し伸べる、人間が思い描いた悪魔なのだ。
外見は12、3くらいの欧州人の女性。
地味な配色の猟師風の装束に身を包んでいる。
契約主を揺さぶる外見を取って現れる存在であり、今回は桐敷沙子と歌劇のイメージを混ぜた姿をとった。
【聖杯にかける願い】
聖杯に用はない。聖杯を狙う狩人を祝福する/呪う為だけにやってきた。
【マスター名】桐敷正志郎
【出典】屍鬼(小説版)
【性別】男
【Weapon】
「猟銃」
疑似サーヴァントとなったことで得た狩猟用のライフル銃。
魔力で構成されており、修復は容易。
「貯金」
新築一戸建てを数件、一括で購入できる額。
【能力・技能】
「元会社社長」
玉座から退いた、悠々自適の若隠居。
聖杯戦争に招かれる前は、財力や権力で屍鬼をサポートしてきた。
また表向き中学生の娘を持つ中年男性ながら、俗っぽさの無いナイスミドルである。
「疑似サーヴァント」
アーチャーの施術により、現在の正志郎は受肉したサーヴァントに等しい。
魔力によって宝具やスキルを発動し、急激に消費すれば体調を崩す。
ただし、通常の英霊とは異なりマスターを必要とせず、休息や食事をとれば魔力は回復していく。
能力値は以下の通り。
【ステータス:筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具B/スキル:対魔力E 単独行動A+ 黄金律B 精神汚染D/宝具:『最後の一発は僕のもの(タスラム・トゥーフェイス)』】
【人物背景】
人の生き血を吸う人外「屍鬼」を援助している人間。
幼い頃から家庭にも社会にも居場所が無く、寄る辺ない自分を救い出してくれた沙子達に自分が受け継いだもの全てを差し出した。
正志郎自身、屍鬼になりたがっているが、体質的に起き上がれる見込みは薄い。
その為、人の身で屍鬼の活動をサポートしている。
千鶴の死を知った後から参戦。
【聖杯にかける願い】
自分を虐げた秩序を破壊する。
最終更新:2017年06月02日 20:00