けものふれんず

〜冬木市深山町にある剣術道場〜


振り下ろされる木剣を身を側めて躱す、横薙ぎに変化した斬撃を、変化する前にバックステップすることで回避。
着地した時には既に喉元に迫っている切っ先を、首を横に振って躱しながら踏み込み、胸に肘を入れる。
巧い。柄で受けながら後ろに飛びやがった。
改めて睨み合う。
凄まじい男だった。俺を殺した彼奴に匹敵する強さだった。
剣を持っているとはいえ、間合いを詰める事が出来ない。こんな相手は初めてだ。
剣の腹を叩いて、パーリングする事も出来ない。そんな事をすれば手を斬られる。
この身が生身だったならば……の話だが。

強い男だった。死んだ日のことを思い出すほどに。






見上げれば落ちていくと錯覚する程深い蒼穹の下、夏の太陽を受け、地に二つの濃い影を落とし、争力する二人の男がいた。
繰り出した拳の数など最早知れず、互いの身体に食い込んだ蹴りの数など最早知れず、
全身至る所で皮膚が裂け、肉が潰れ、骨が軋む。何箇所かは折れているだろう。痣と出血で体の色も変わっている。

だが─────それがどうした?左足で踏み込み、右脚で渾身の前蹴りを放つ。繰り出された拳を躱し、両腕で伸びてきた
腕を搦め捕りにゆく。
俺の五体はまだ動く、俺の意思は消えちゃいない、俺の意志はまだ闘うと吼えている。
奴の顔を見る。すごい顔だった。倍以上に膨れ上がった顔は真っ赤に染まり、所々紫色になっている。
口の中を散々に切って、歯も抜けたのだろう。口内は真っ赤に染まっていた。鼻なんてとうに潰れて泥みたいな血を垂らし
続けている。
まるで人を食った直後の鬼みたいな顔だった。
恐かった。俺もそのうち臓腑を引きずり出されて食われるんじゃないかと思ってしまうくらい、凄まじい形相だった。
俺も似た様なもんなんだろう。
周りを見回す。周囲の偉いさん達は顔面蒼白だった。それは良いが警護の兵まで血の気が無くなってるとは。
まあ仕方あるまい。何しろ俺と彼奴、地上に一人居れば奇跡という位の力人(ちからびと)同士だ。
そんな俺と彼奴が戦っているんだ。そりゃ理解が追いつかないよな。
そんな事を考えている間に、奴が踏み込んで蹴りを入れてくる。
他は互角─────いや、劣っていても良いが、蹴り(コレ)だけ譲れない。
渾身の力で蹴り返す。
良いぞ、後ずさった。これでこの勝負俺が負けても。奴は俺が古今無双の蹴り技の主だと覚えているだろう。
いや、“負けても”なんて考えてどうする。勝つ事を考えないと。
いや、勝敗なんてどうでも良い。周りで見ている偉い奴等の思惑も知ったこっちゃない。
唯、闘う。
唯、頓(ひたぶる)に争力(ちからくらべ)せむ。
唯それだけ、唯それだけを考えていれば良い。
漸く巡り逢えた敵だ。
四方(よも)を見渡しても見つからなかった、俺と闘える男だ。
死生(しにいくこと)を期(い)はず頓に争力せむと願った相手だ。
嬉しい
唯、嬉しい。
恐怖は歓喜を生み、歓喜が争力する力を生む。
唯、五体が動くままに。唯、心の猛るままに。唯、魂の吼えるままに。
打つ。打たれる。蹴る。蹴られる。投げる。投げられる。極める。極められる。
ああ、気持ち良い。愉しい。


気がついた時には、視界一面に広がる蒼穹。
何があったのか、すぐには理解できなかった、
ああ、俺は、負けたのか。
眼を動かす、彼奴を視界に収める。

なんだ、酷い顔じゃないか。何でそんな顔してやがる。お前は俺に勝ったんだぞ。嬉しそうにしろよ。
まあ、お前の気持ちは分かるさ。これで終わりだもんな。
満足したまま死ねる俺と違って、お前はこのまま生き続けなきゃならないからな。
周りを見渡しても同じ奴なんていなかった。
俺達は今まで一人ぼっちだった。孤独だった、それがこうして出逢えて、それでまたお前は一人で。
分かる。分かるとも。
そうやって泣いていたのは俺だったかも知れないんだがら。
だが、俺にはもうどうする事も出来ない。済まん。本当に済まん。

そうして、俺の意識は途絶えた。




「いや、強いよなあ、おっさんは、俺を殺した奴の位しか比較にならないか」

此の地に顕れて最初に戦ったのが己がマスター。という、何とも変わった初戦を経て、主従は向かい合って酒を飲んでいた。
1m程の距離を置いて、地面に胡座をかき、中間に焼酎の入った一升瓶、両者の前には鮎の塩焼きが乗った皿が置いてある。
手酌で湯呑み茶碗に酒を注いで一気に煽る。


「なあ、おっさんには、『聖杯』で叶えたい願いなんて無いんだろう?」

「うむ」

おっさんと、己がサーヴァントに呼ばれても気にしないマスターは、平然と酒を飲み干す。

「だろうなあ…おっさんは俺を殺した彼奴と同じ眼をしているからなあ……」

「同じ眼?」

鮎を頭から一息に丸齧りにして呑み込む。

「哀しい眼をしているよ。命を燃やせる相手を、魂が吼える相手を……失くしちまったんだろう……」

マスターが一息に酒を飲み干した。

「ああ…斬った。この手で」

「つまりおっさんにとっては、聖杯戦争こそが願いだったんだろう?また、魂が吼える程の相手を望んでいたんだろう?」

「そうだな……そういうお主はどうなのだ。何を願って現れた。再戦か?」

「そいつも悪くは無いんだよなあ」

言って、鮎を口にする。

「いや、再戦か。再戦と言えば再戦なんだが、俺を殺した時の彼奴の眼がなあ……あれが心残りでなあ」

「そうか」

己と真実対等。全てを賭けて戦える敵。それは紛れもなく得難い無二の知己だ。
探し求めて恋い焦がれて、漸く巡り合った唯一の存在だ。
それを喪失することは耐え難かろう。
このサーヴァントが己を殺した相手に向ける想いは、マスターである男にも理解できる。
共に同類ならば当然だ。

「それで、どうする?」

短く問う。

「そうさなあ…最初は、殺して終わらせてやろうかと思ってたんだが……おっさんが彼奴に付き合ってやってくれないか?」

「わしがか?」

「いやおっさんなら、充分彼奴に付き合えるからな。死人が生者に何時迄も纏わりつくよりマシだろうよ」

残りが少なくなった酒を互いの湯呑み茶碗に注ぐ。

「おっさんにも相手が出来るぜ、まあ片方が死んだらどうにもならんが…まあ全てはこの聖杯戦争に勝ち残ってからの話だ」

「そうだな……獲ってもおらぬ杯の話などしても仕方あるまい」

互いに最後の鮎を胃に収める。

「なあおっさん………笑ってるな…アンタ」

「お主もな」

愉しい、昂ぶる、心が猛る。魂が吼える。
招かれて最初にこれ程の兵(つわもの)と出逢ったのだ。この先どれ程の強者が犇いているか想像もつかぬ。
常人ならば身の竦む想いをしているだろう。されど主従は共に世の常の者に非ず。
その身の内に修羅を宿した化物(けもの)なれば、抱いた恐怖は歓喜を生み、歓喜は無限の闘う力を生む。


何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓るに争力せむ。
只々魂が吼える刹那を求める化物(けもの)達は、同時に酒を飲み干した。




Q・サーヴァントろガチれるとかおっさん強すぎね?
A・そういう生き物なんです



【クラス】
バーサーカー

【真名】
当麻蹴速@史実

【ステータス】
筋力: D 耐久: D 敏捷:D 魔力: E 幸運: B 宝具:EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
狂化:E++++
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
相手が強い程、魂が吼える程、ステータスが向上し、“闘う”ことしか考えられなくなる。


【保有スキル】

化物(ケモノ):A
人の極峰を踏破し、人の域を超える者が持つ資質。
Aランクの勇猛、Bランクの戦闘続行・直感を併せ持つ複合スキル。
敵の宝具を除く全ステータスが、己のものよりも高ければ 。全ステータスが一段階上昇する。
更に敵がステータスのみならず技巧や経験においても優れていた場合。更に全ステータスが一段階向上し、魂が吼える。
魂が吼える事で狂化スキルの+補正が段階的に作用しだす、
この状態でも思考を保ち、会話が可能だが、意志が“闘う”という事で固定されてしまう。


力人:A
力士の事である。相撲とは邪気を払い、五穀豊穣を願う神事に由来する。
力士はその威を以って、病魔や旱魃といった自然災害から衆人を護る存在である。
高ランクの怪力と頑健を発揮する複合スキル。
魔に属するもの、災厄を齎すものを寄せ付けず、特攻の効果を発揮する。


神性:D
神霊適性を持つかどうか。
死後、相撲神としてとして祀られた。


心眼(真):C+
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
魂が吼える時+補正がかかる。


透化:C+++
精神面への干渉を無効化する精神防御。
暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、
武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。
魂が吼える時+++補正がかかる。


無窮の武練:B 
いついかなる状況においても体得した武技が劣化しない。


【宝具】
蹴速
ランク:E 種別:対人宝具レンジ: 1 最大補足:1人
残像すら存在しない程の超高速の蹴り。
見て回避するというのは事実上不可能であり、起こりを察知するほかない。
あくまでもただの蹴りでしかない為、威力は筋力に準拠する。



何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓るに争力せむ。
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 2~15 最大補足:1人


固有結界。バーサーカーが強者と認めた相手に対し、一対一の決闘を挑み、相手が承諾すると発動する。
その効果は、第三者の介入が不可能な、己が力のみで行う完全決着式デスマッチ。
心眼や勇猛や無窮の武練といった、己が力に依るスキル以外は使用不能となり、令呪にーよる強化はキャンセルされる。
宝具は只の武器となり、真名解放及び、己が力に依らぬ常時発動能力の発揮は不可能となる。
更にこの中では如何なる不死性があっても斃れればそこで死ぬ。



【weapon】
己が肉体。

【人物背景】
大和国当麻邑(たいまのむら、現、奈良県葛城市當麻)に住み、強力を誇って生死を問わない勝負をする者を欲していたため、これを聞いた垂仁天皇が出雲国から勇士であると評判の野見宿禰を召し寄せ、相撲で対戦させたところ、互いに蹴り合った後に、腰を踏み折られて死んだといい、蹴速の土地は没収されて、勝者の野見宿禰の土地となったという。


この一件は当麻蹴速を暗殺し、その土地を奪う朝廷の陰謀のもとに行われたものだが、当人は全く気にしていない。
寧ろ野見宿禰という力人と闘えて感謝しているくらいである。
ただ一つの心残りは、己を殺した時の宿禰の泣き顔で─────。
あの哀しい泣き顔は己が浮かべていたかもしれないと思うとどうにもやりきれないのだ。

【方針】
優勝狙い。強者を選んで闘う。
当面はネットとか本で現代の格闘術を学ぶ。

【聖杯にかける願い】
野見宿禰と再戦して殺そうと思っていたが、おっさん送り込めば済みそうな気がしてきた。


【マスター】
トゥバン・サノオ@海皇紀

【能力・技能】
その名を聞いただけで兵達が震え、その存在だけで軍を止められるほどの武人。
その戦闘能力は比類する者がなく、人以上の力を持つ“森守”をすら遂に仕留める程。
残像が出るほどの速さで動ける。

【weapon】
ディアブラスの剣:
トゥバン・サノオの業に耐えられる強度。

木剣:
道場にあった代物。琵琶製。

【人物背景】
大陸最強とされる兵法者。過去唯一テラトーの森守と闘い、撃退した武人。
実際には森守の守備範囲外にトゥバン・サノオが追い出されただけなのだが。
トゥバン・サノオ以外の者は皆死んでいることからも、その強さは明らかである。
テラトーの森守を倒すべく剣を求めるが、基準は切れ味ではなく、“己が業に耐えられる強度”だった。
後に人としては唯一トゥバン・サノオに本気を出させたディアブラスを斬った際、彼から剣を贈られる。
このディアブラスの剣こそが、唯一トゥバン・サノオの業に耐えられる剣だった。
これを用いて、トゥバン・サノオは森守を撃破している。

【方針】
魂が吼える相手を探す。

【聖杯にかける願い】
今のところは無い

【参戦時期】
原作終了後。

【ロール】
剣術道場の主人。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年05月23日 20:38