佐々木排世&アーチャー?

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僕の中にいる。『白い子供』。
とても、恐ろしい。無視してはならない。油断すれば自分に語りかけて来る。
子供は―――徐々に僕を侵食している。居場所がなくなる。消えそうだ。

ごくたまに真意を突いてくる。
あるいは、余計な情報を提供してきたり。
流されそうにも。

だから……








都内にある某喫茶店にてコーヒーを啜る青年。
彼は、至って静かに本を片手で平静を保っているが、実際は騒がしい。
見た目が白黒混じりの、パンダみたいな髪型で浮いた存在にも関わらず。残念ながら彼は聖杯戦争のマスター。
手の甲に刻まれた令呪は、手袋で誤魔化し。
周囲を密かに警戒していた。
真剣な青年の脳裏に、能天気な念話が響いた。


『なぁ~~~マスターさん。その年だったら好きな女の子居るんじゃねーの?』


唐突な話題に、緊迫していた青年の顔が緩む。


「え……えと、なんで?(そんな話題に)」

『気になるじゃん。で、どうよ』

「どう、って。あはは……まあ」


青年は顎に触れながら誤魔化す。
彼―――佐々木排世は元居た世界、かつて存在を置いた世界を回想した。
この冬木市。
排世のいた『東京23区』とは異なり、平和だ。
人喰いの怪物――喰種すらいない。
本来、喰種のような都市伝説的なモノすら認知されていない。
平穏で平凡な、刺激が皆無の日常であって……故に、彼らは一体何を生きがいに感じているのか。
ぽっかりと空虚すら抱く程だった。


「僕は……帰らなくちゃいけない」


ポツリ、と。呟くように排世が言う。
穏やかな曲調のBGMに溶け込みそうなセリフは、自らのサーヴァントに対する返答ではなく。
自問自答に近い。
彼の所属している組織の仲間達。
自分の居場所。みんなが待っている。温かい光だと安堵すら感じるもの。
脳裏に響く念話が軽く唸り、話を続けた。


『それって要するにマスターさんは、願いがないの? 贅沢だなぁ』

「いや……それは…………実は、アーチャーの事を少し調べたんだ。逸話というか」


ようやく切り出せたと言わんばかりの様子で、排世が語る。
アーチャー。
弓兵のクラスを象徴するよう、弓矢を携えた排世のサーヴァントの真名は―――


『天若日子』


読みは『アメノワカヒコ』。日本神話に登場する恋に溺れ、反逆をした青年。
遣いの役割を全うしなかった末路には相応しい最期。
彼の宝具こそ、彼の最期を招いた矢。排世は恐る恐る問う。


「アーチャーの方こそ聖杯が欲しいのかなって」

『んーまー「よく分かんないまま矢で殺された」って情けない英霊だもんなぁー。
 でもオレ、全然後悔とかしてないからさ! 気にしなくて全然平気!!』


違和感あるアーチャーの発言はさておき。
明るい様子のサーヴァントに、どこか排世は安堵した。
彼には、少なくとも願いはないのだ。




そう『アメノワカヒコ』には。







『日本神話』における葦原中国平定。
アメノワカヒコはその遣いに出され、そこで下照姫命に一目ぼれする。
彼は下照姫命と結婚し、高天原に帰還せずにいた。恋で反逆した者として今日まで語り継がれている。
しかし、決してアメノワカヒコは使命を放棄したのを後悔していなかった。
己の責務を承知しているが
下照姫命に対する想いは本物であり

つまるところ。それら双方の重圧に苦しんでいたのが事実だった。
だが、そう語り継がれていないのは『表面上』アメノワカヒコが使命を放棄し、反逆したと認識されているから。
何故。アメノワカヒコが恋に転じてしまい。天照大神と高皇産霊神の雉を討ち落としたか。


それは自らの使命を『忘却』したのである。


「よく分かんないまま矢で殺された」
というのは。
アメノワカヒコが、高皇産霊神に矢で報復される意味が理解できなかったから。
心当たりがまるでなかったから。
神話において、邪心を持ったアメノワカヒコが矢で射抜かれたと伝えられるものの。
死ぬ間際までアメノワカヒコは邪心なんて『無かった』。


どうして、そのようなことが。
大事な使命を『忘却』してしまう所業をしたのか?


単純だ。
人間でいう「精神的に追い詰められた状況」に立たされたが故に、である。
人が都合の悪い記憶に蓋をするよう。
アメノワカヒコも都合の悪い、使命に関する記憶に蓋をしてしまった。
同じくして、アメノワカヒコは一つの存在を産み出したのだった。








(さて、どうしようかな)


佐々木排世は食事が不要だ。正しくは『人間としての食事が不要』である。
彼は喰種を狩る側ながら喰種である、特例な存在だった。
組織内で、排世に対する評価は様々なのだが、少なくとも彼が担当する『クインクス』のメンバーや
親しい捜査官たちとの日常は、彼の中を満たす、充実したものだ。

だからこそ、スーパーで買い物など不必要な行為だが。
とはいえ。
食料を買い込まない生活は周囲・近隣住人に怪しまれそうで、日常に溶け込む為には必須な過程だ。

それと、排世の料理は上手いと評判なので、アーチャーの方も味をお気に召したらしい。
サーヴァントも食事は不要だが。
一応魔力回復の足しになるらしい。……魔力消費するような真似は、今までなかったが。


(今日はハンバーグにしよう。挽肉が安いし)


呑気に、警戒心もない排世が帰路へ入る。
しばらく都心から、一通りの少ない郊外に出ると気配を感じられた。
ピリと針を刺すような――排世が振り返ると、実体化したアーチャーの姿がある。
女性ならば一目置きそうな美男子で、現代社会には不釣り合いな平安貴族の衣装を連想させる身なり。
念話でのマイペース口調とは一変。
張りつめた空気を醸すアーチャーは別人だった。


否、本当に別人なのだ。



「アーチャー……それとも呼び方を変えた方が――」

「どうでもいい」



『今の』アーチャーはぶっきらぼうに答える。


「貴様、どうするつもりだ」


アーチャーの質問は、大分前から排世に対して投げかけられていた。
真顔で排世はアーチャーと向き合う。


「聖杯は、求めません」


「叶うなら……出来る限りの命を、助けたい」


だが、アーチャーは即座に



「違う」



と否定した。
覗きこむ体勢で排世を睨みあげるアーチャーは、並々ならぬ私怨を漂わせている。


「貴様はあの『子供』を殺すつもりか?」


子供。
白い子供。
いや、なんのことだ……



「『私』の望みは分かるな。貴様に伝えた通りだ。『私』は聖杯でアメノワカヒコと『真の友』となるのだ。
 貴様なら、私の言葉を理解している筈。貴様が何をしようとしているか、自覚している筈だ」

「…………それは」


何と答えれば良いのだろう。
排世は『正解』を導けなかったから、でも。確かなことを告げた。
『其の』アーチャーの真名と共に。


「『アヂスキタカヒコネ』。とても辛い願いだよ」







不可思議なことにアメノワカヒコの妻・下照姫命。
彼女の兄に当たる『アヂスキタカヒコネ』はアメノワカヒコと「瓜二つ」だったと云う。
あまりにも酷似していた為。
アメノワカヒコの葬儀に現れたアヂスキタカヒコネを、親族はアメノワカヒコと勘違いし。

アメノワカヒコはここに居るではないか! と驚くほどだったという。
当然だ。それほど酷似していたし。
親族は『まだ』アメノワカヒコの遺体を目にしておらず。
何より『その肉体』は間違いなくアメノワカヒコであったからだ。



しかし、彼は『アヂスキタカヒコネ』である。
死者と見間違えるなと憤慨したアヂスキタカヒコネは、喪屋を剣で切り伏せ、蹴り飛ばした。



そうして誰にも『アメノワカヒコ』の遺体を確認させないようしたのだ。



解離性同一性障害。
簡潔に説明すればアメノワカヒコは二重人格だったのである。
精神を病んだ彼が産み出した親友なる『アヂスキタカヒコネ』。妻の兄である『アヂスキタカヒコネ』を。
勝手に作り上げてしまった。
彼に『都合の悪いこと』を記憶を全て押し付けた。
無論、下照姫命は当然、知っていただろう。承知していたに違いない。
ひょっとすれば、他の誰かも真相を把握していたかも……


唯一自覚していなかったのは、アメノワカヒコ本人だった。


―――同じ肉体ではなく。分離し、下照姫命の兄として、アメノワカヒコの親友として。
   もし、そう在れたら。私は何か為せたのかもしれない。



(いいんだろうか……)


排世は、白い子供の影を感じながら思う。


(僕は………)


何故、直ぐに答えを出せないのだろう。
漠然とした不安を抱え、佐々木排世は聖杯戦争の時を待つ。









【クラス】アーチャー
【真名】アメノワカヒコ&アヂスキタカヒコネ@日本神話


【ステータス】
<アメノワカヒコver>
筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:A

<アヂスキタカヒコネver>
筋力:A 耐久:D 敏捷:D 魔力:C 幸運:A 宝具:A


【属性】
中立・善/混沌・悪


【クラススキル】
対魔力:D(A)
 魔術に対する抵抗力。
 一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 アヂスキタカヒコネの場合は()のランクに変更される。


単独行動:B(-)
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクは、マスターを失ってからでも二日程度は現界可能。
 アメノワカヒコの人格のみ使用可能。


騎乗:-(B)
 乗り物を乗りこなす能力。
 「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
 Bランクは大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
 また、このスキルはアヂスキタカヒコネの人格のみ使用できる。


【保有スキル】
蔵知の司書:E
 多重人格による記憶の分散処理。
 アメノワカヒコは、未だにアヂスキタカヒコネを親友だと認知しており。
 アヂスキタカヒコネだけが二重人格を自覚している。
 今、聖杯戦争においてもアヂスキタカヒコネが共に召喚されていると誤認している。


二重召喚:D
 アーチャーとセイバー、両方の別スキルを獲得して限界する。
 この英霊の場合、人格が入れ換わる事で宝具やスキルが変化する。



【宝具】
『天之麻迦古弓(天羽々矢)』
ランク:A- 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大補足:1人
 高皇産霊神より与えられし弓矢。本来なら神秘性のある弓矢に過ぎないが
 アメノワカヒコが反逆した際、矢に呪いをかけたことにより、邪心を持ったアメノワカヒコが地上に落とされた
 矢で胸を射抜かれ、死に絶える。

 ……との逸話があるが、正確にはアメノワカヒコという存在を死した矢。
 これによりアメノワカヒコは死に絶えたものの。アヂスキタカヒコネが死ぬ事はなかった。

 矢の真価は『目標を必ず破壊する』こと。
 矢がアメノワカヒコの生命を断ったのではなく、アメノワカヒコの人格を破壊した。
 的確に相手へ命中すれば、霊核の破壊のみならず、宝具やスキル『のみ』を的確に破壊が可能。
 ただし、アメノワカヒコ自身は『邪心を持つ者に必中する』能力と勘違いしている。
 マスターなど無関係な者に誤射してはならないと使用を控えている。
 この宝具はアメノワカヒコのみ使用可能。


『神度剣』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1~500人
 逸話にある喪屋を切り倒したアヂスキタカヒコネの剣。
 真名を解放し強大な神秘性ある斬撃を繰り出す。簡単に言うとセイバー特有の斬撃ビーム。
 この宝具はアヂスキタカヒコネのみ使用不可能。



【人物背景】
下照姫命と恋に落ち、反逆により死に絶えた天若日子(アメノワカヒコ)。
実のところ、アメノワカヒコ自身も恋と使命に挟まれ、苦悩し続けていた。
精神的苦痛から逃れる為、下照姫命の兄であり己の親友という『アヂスキタカヒコネ』なる人格を産み出す。
所謂、典型的な二重人格者。

アヂスキタカヒコネがアメノワカヒコにとって不必要な情報――つまり使命に関する記憶など――を
引き継いでしまった為、高皇産霊神の遣いである雉を射抜いた際。
自身に覚えのない使命に関する戯言を語る不吉な鳥と、本当に思っていた。
つまり、アメノワカヒコに邪心はなかったのである。

一人、体に残されたアヂスキタカヒコネは
喪屋を調べられてアメノワカヒコの遺体が発見されない事を恐れて、喪屋を切り倒した。
アメノワカヒコの死を受け入れない親族たちに喜ばれたのを
アメノワカヒコが死したことを知るアヂスキタカヒコネは、心底憤慨したのだった。


【特徴】
短髪の黒髪。整った顔立ちの美青年。
日本特有の平安時代の貴族の服装に近いものを纏っている。両者の人格が変わっても顔立ちは変化せず。
マイペースで温厚なのが、アメノワカヒコ。
気性が荒く暴力的なのが、アヂスキタカヒコネ。


【聖杯にかける願い】
とくになし。マスターの願いを叶えたい/アメノワカヒコとの分離。別個人として共に生きたい。



【マスター】
佐々木排世@東京喰種:re


【weapon】
半喰種……人喰いの怪物『喰種』の臓器を移植された人間。
     人と同じ食事は口に出来ない。
     基礎的な身体能力は人間を上回り『赫子』と呼ばれる捕食器官を武器に戦闘をする。


【人物背景】
CCG・喰種捜査官の一人。組織に引き取られる前の記憶はない。
謎の子供の囁きを耳にするが、日に日に侵食されていく感覚に危機感を覚える。
家族のような、大切な仲間に恵まれ。
喰種との戦闘をしつつも、穏やかな生活を謳歌している。


【聖杯にかける願い】
元の世界に帰りたい?

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最終更新:2017年06月20日 08:59