『……これはこれは皆様、この奇怪/機械なサーカスへようこそおいでなさいました』
『今宵繰り広げられるショウは、一枚のカードに導かれたとある二つの太陽の戯曲にございます』
『太陽、と言ってもご注意を。この舞台に昇る太陽は暗黒。お客様方の心をを暖かくするとは限りません』
『それでも躊躇わず飛び込む、というのなら…この道化も喜んでお供いたましょう』
>飛び込む
飛び込まない
『これは光栄の至り。歓喜に打ち震えつつ――開幕ベルを鳴らさせて頂きます』
『それでは、どうぞ最後までお楽しみください』
■
「アンドロメダ星人だよ~ん!おっぺきょり~~ん」
「アハハハハハ!!」
豪奢な書斎に老人のおどけ声と、少女の笑い声が響く。
「おっ、いいねぇ。いいリアクションだよ、ランサー」
「ありがとうございます、マスター、ふっ、くく…」
美しい銀髪にサングラスをかけ、顔を横に縦に伸ばす老人と、肩まで伸ばした黒髪に黒一色の和服を纏った非常に背の小さな少女。
祖父と孫娘、と形容するには似ていない組み合わせであった。
彼らには血のつながりなど皆無であるのだから、当然と言ってしまえばそれまでだが。
しかし、全く赤の他人というわけではない。
ある意味、血のつながり以上に濃い縁で彼らは結ばれている。
聖杯戦争のマスターと、サーヴァントと言う縁で。
「で、君本当にランサーなのかい?肝心の槍が見えないけど」
「勿論です」
そう言って少女は窓から差し込む日差しに手をかざす。
すると、少女の長い黒髪の毛先が燃えるような赤へと色へと変わり、
空間が一瞬歪んだかと思えば、見る見るうちに光は姿を変えて長物の形を作った。
そうして出来たのは、鋭い穂先を晒した光槍。
それを見て老人はひゅう、と口笛を吹き、パチパチと拍手を送る。
「すっげえなぁ、随分可愛らしいサーヴァントだと思ったけど、太陽の光を操れるのかい?」
「はい」と少女が頷くと、満足げに老人は微笑み、それじゃあ今度は此方の番だと懐からある木組みを取り出した。
「これはね、地獄組みって言って、一度組み上げたら簡単には外せない作りになってる」
少女はその言葉を受け、目の前に出された木組みをマジマジと見つめた。
成程、確かにサーヴァントではなく人間の力ではこれを力技で外そうと思えばかなり骨が折れるだろう。
積み木などとは比べ物にならないほど緻密に組み合っているのだ。
それを老人は頭上へと放り投げる。
直後彼の腕が人間の動体視力を超えた速度で閃き、殆ど同時に木組がバラバラに外れ落ち、
木片へとなり果てた木組みの中から乙女の星座が描かれカードが現れ、少女が小さな歓声を上げる。
「これが僕の『分解』さ。僕は、三解のフェイスレスと呼ばれている」
機械だろうと人体だろうと何でも分解して見せるよ、と彼は手の中のカードを弄びながら自らを誇り、
そんな自分にも決して分解できぬものがあると悲しげに顔を伏せた。
どういうことかと少女が問うと、フェイスレスはサングラスを外し、まるで何かの演目の様に芝居がかった調子で語り出す。
200年間、恋を成就させようと計画してきた事。
それが漸く叶おうとした時、計画のほんの小さな歯車にすぎなかった子供のせいでそれが頓挫し、最早叶わなくなった事。
打ち上がったロケットの内部、半壊した義体で呆然としていた時にこのカードを見つけた事。
自分の運命は決して<分解>できぬ地獄の機械に支配されている事。
お前の夢は終わったと告げる少年の瞳の光の事。
全てを語り終えた狂人の瞳は淀み腐ったドブ川にも劣る昏さだった。
つつ、と頬を涙が伝う。体のほとんどを機械化されても涙は流れるらしい。
しかしその一筋の液体を拭うと、彼の様子が変わる。
先ほどよりも強い調子で、言葉を紡いで。
「……だが!僕は再びこうして自分の夢を叶えるチャンスを手に入れた
その時確信したんだ。自分を信じ、僕が諦めさえなければ――――夢は、必ず叶う」
語るフェイスレスの瞳には先ほどまでの昏さは無く、後光すら差し込んでいる錯覚してしまうほどの輝きを放っていて。
表情も後ろ暗さなど欠片も感じさせない”いい笑顔”だった。
ランサーは理解した、何故自分がこのマスターに呼ばれたのかを。
「仔細承服いたしました、マスター。素晴らしいです。
このランサー、貴方様の夢を成就させるお力添えを致しましょう」
ランサーは平伏し、笑みを返す。
その笑みは、主と同じ、ぞっとするほど無邪気で、無垢な”いい笑顔”だった。
仲良くやれそうだねぇと少女を撫で、ふと思いついたようにフェイスレスも問う。君は聖杯に願う願望はあるのかい?と。
「貴方様と同じですよ、マスター。私は太陽の妖として私を生み出してくれた愛する全ての者の道を照らしたい」
ゆら、と少女の輪郭がブレる。
緋色の色彩を放っていた光槍が、毛先が、炭の様な光沢を放つ黒へと変化していく。
静止しているにもかかわらず、伸びる彼女の影は揺らめく陽炎のように。
暖かな陽の光では無かった。全てを塗りつぶし、呑み込み、焼き尽くす形ある暗黒が、そこに居た。
フェイスレスは悟る。これこそが少女の正体である、と。
自分の引き当てたサーヴァントは疑う余地なく、妖(バケモノ)であった。
恐ろしさは不思議と感じない。奇妙な可笑しさを感じるくらいだ。
永い時に渡って全ての者を照らしてきた太陽に対する信仰を歪められて、陰の存在に貶められ、生まれたこの妖は人間を愛し、己の光で人々を照らしたいと言うのだから。
尤も、反転した存在である彼女に照らされれば、遍く人間は呑み込こまれ焼き尽くされるであろう事がより皮肉さを感じる。
ましてや、そんな歪な太陽と自分が一緒に戦うことになろうとは。
「………フッ、ハハハハハハ!そうかい。じゃあ一緒に頑張ろう。
何、物凄いマスターの僕に任せておきな。もう最初の手は打ってある」
笑う老人のマントの裾から銀の塵が舞うのを、ランサーは見る。
いや、風ではない。小さな一ミリにも満たない、小さな蟲だ。道化の様な顔をした蟲の群れ。
「これはアポリオンって言ってね。僕一人が今は作ってるからそこまで数はないけど…
カメラを仕込んでいて、いろんな場所を監視できる。それに―――もう一つ凄いことができるのさ」
「もう一つ?」
「それは後の……もっと数が増えてからのお楽しみだよーん」
「まぁ、早く教えていただきたいものですね」
飛んでいく蟲達を見送る二人の表情は、変わらず笑顔であった。
視線の先の銀の風は吹きすさび左右に散って行く。
それはまるで芝居の幕が開くようで。
――――開かれた舞台(ステージ)。その上に、冬木の街に、燃え盛る二つの漆黒の太陽が、昇ろうとしていた。
■
『……さて皆々様、大変名残惜しいですが、今宵は幕を下ろす時間がやって参りました』
『冬木という町を舞台に昇った二つの真っ黒な太陽はどのような演目を紡ぎ、最後に星々の喝采を得るのは誰なのか…と、これを語るにはまだ早すぎましょう』
『何せ物語はプロローグを迎えたばかり、聖杯戦争はまだ始まってすらいないのですから』
『皆様と共にこの道化も、この戯曲の続きを目にできることを機械仕掛けの神に祈らせて頂きます』
『それでは皆様御機嫌よう。またのご来場をお待ちしております……』
【クラス】ランサー
【真名】
空亡(そらなき)@真珠庵百鬼夜行絵巻、都市伝説
【属性】
中立・悪
【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:D 宝具:A++
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等をもってしても傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
無辜の怪物:A
本人の意思や姿とは関係無く、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を示す。
絵巻に描かれた日の出と言う不浄を祓う本来の在り方が捻じ曲げられた事で生まれ落ちた。
ランサーは言わば最新の妖怪にも拘わらず、伝承では最強と伝えられる矛盾存在である。
太陽は昇る:A+
日中、特に日の出の時間帯は全ステータスにボーナス補正、魔力の回復が発生し、同ランクまでの熱攻撃、精神干渉を無効化する。
また、このスキルを持つランサーがいる限り、自軍サーヴァントの太陽に関わるスキルは無効化されない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
百鬼夜行:B
夜間に限り使い魔として様々な妖怪を使い魔として召喚・使役することができる。
【宝具】
『天中殺』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:
高密度の太陽光を魔力によって収束、降り注がせる事で相対者を頭上から貫く。
補足範囲は狭いが一度補足されれば光速に匹敵する速度のため回避は困難。更に日中なら魔力が続く限り即座に追撃が可能。
また、集めた太陽光をそのまま槍として振るう事で白兵戦も可能とする。
しかし、夜間に放つには日中のうちに太陽光をチャージしておかなければならない。
『空亡(くうぼう)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:100
少女の外見からランサーの正体であるどす黒く燃える暗黒の太陽に変身する。
この状態のランサーは、マスター、サーヴァント問わず魔力を持つ者を吸い寄せ、対魔力、耐久値に関わらず呑み込み燃焼・自身の魔力に変換させてしまう。
但し、反転した太陽となるこの宝具の発動中はスキルの恩恵を受けることができない。
【人物背景】
百鬼夜行図の最後尾に描かれた日輪。
それは実は最終にして最強の妖怪であるという都市伝説(フォークロア)が、独り歩きしていく内に日本古来の太陽信仰と結びつき生まれたサーヴァント。
神秘が零落した現代日本が生んだ最新にして最強の妖怪という極めて矛盾した特異存在。
【weapon】
太陽光を集めて作成する光の槍。
【特徴】
肩まで伸ばされた毛先が緋色の黒髪に赤い瞳、漆黒の和服に身を包んだ非常に背の小さな童女。
【聖杯にかける願い】
全ての人間を己の暗黒の光で照らしたい。
【出典】からくりサーカス
【性別】男
【weapon】
しろがねの全身を機械化した事で得た超人的な身体能力と数々の武装。
また、変装や医療知識、特に自動人形の作成と人形繰りは天才的である。
【能力・技能】
自動人形を沈黙させる技能『三解』
『分解』体中に内蔵した工具であらゆる物質を分解する。人体ですら彼は目にもとまらぬ速度で分解して見せる。
『溶解』掌から放つ強酸の溶解液で対象をドロドロに溶かす。
『理解』自動人形たちに自分が造物主であることを理解させ沈黙させる。
【人物背景】
三解のフェイスレスの異名を持つ、人形破壊者しろがね達の総司令。
その正体は全ての自動人形誕生の元凶であり、ゾナハ病と呼ばれる奇病が全世界にバラまかれた諸悪の根源。
200年間フランシーヌと言う女性、そして彼女と瓜二つの女性達を手に入れようと画策したモテない男の人類代表の様な狂人である。
【マスターとしての願い】
フランシーヌの愛を手に入れる。
【方針】
優勝狙い。
最終更新:2017年05月31日 23:14