髑髏の夢

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     僕の青春は悲惨な嵐に終始した


     時たま明るい陽射しも見たが、雷雨にひどく荒らされて、


     赤い木の実は僅かしか僕の庭には残っていない

                               ――シャルル・ボオドレール、敵




.

 ◆

「すまない」

 数百mもあろうか、と言う奈落の穴に堕ち行く男女。
常日頃の、能天気で、空気の読めない気だるげな雰囲気からは想像もつかない声音で、男は、女の頭を抱きながら呻いた。

「いいのよ」

 自分にも、こんな、優しい声が出せるのか、と、女の方は心の何処かで驚いていた。
母親が子供に向けるような笑みを浮かべ、女は、自分でカットしたせいか左右がややアンバランスの髪を撫で、男を許した。

 ――刹那、二人の身体は、鋼鉄の槍衾に勢いよく叩き付けられた。
無数の尖った先端は、豆腐を針で突き刺すが如くに、二人の体を貫通し串刺しにした。滲み出した血が棘を伝い、床を濡らす。
こうして、暗殺組織、スケルトン・ナイツを足抜けしようとした事から、組織の制裁を『角南瑛子』は、頼りにしていた男である、黒贄礼太郎と共に受ける事になったのであった。
遥か頭上から、地面から生える鋼鉄の槍に総身を貫かれている事を、首領・神羅万将が眺めている事を、ついぞ瑛子は知る事はなかった。

 ◆

 冬木の新都で営業されている、国内でも有名な、弁当のFC店で、毎日朝の九時から午後五時まで。日によっては一、二時間程度の残業を行う。
それが、この街における角南瑛子の生活であった。毎日見慣れた弁当を折詰にしたり、おかずを調理したり。変化もない、刺激もない。
何処の誰もが送る、単調な労働を、この街で瑛子はずっと続けていた。――と言う事に、今はなっている。
実際には違う。瑛子がこの街にやって来たのは今から数えて五日前。一週間とまだ経過していないのだ。
それにも関わらず、瑛子は、己がこの街でどう言った生活をどれだけの年月送り続けて来たのか、何時の間にか身体と頭に刻み込まれていた。
瑛子は、この街で生活するフリーター。来年こそは就職をしようと決意し、軍資金をバイトで溜めようと頑張っているどこにでもいる一人の人間。
それが、彼女のロールであった。だが、本当の角南瑛子の来歴は、此処とは違う世界の日本で、暗殺組織スケルトン・ナイツに所属していた、
暗殺者(どうぐ)の一人であった。愛を知らず、恋も知らず、家族の暖かさにも友情の眩しさも、この女性には無い。
彼女にあるのは、殺しが上手いと言う事実。そして、壮絶な人生の故に殺された、死体と化した感受性だけだった。
そんな自分が嫌で、自分にいつまでも道具としての境遇を強い続ける組織が憎くて。瑛子は、裏切り者として処罰される事を覚悟して、組織を足抜けした。
食べた事のない自由と言う名の赤い果実を、その口で齧ってみたくて、彼女は、仕方がなかったのである。

 そしてその自由は皮肉にも元の世界で、角南瑛子が、落とし穴に仕掛けられた槍衾のトラップで命を落とした、と言う事実で叶えられた。
世間的に見れば、瑛子の生活は恵まれているとはおよそ言い難い。だが、彼女にとって今の生活は紛れもなく自由であった。
自分に殺しを強いる組織はない。仕事をサボタージュすれば自分を殺してくる者もいない。稼いだお金を、武器に使えと命令して来る上官もない。
好きな仕事を好きな時間だけ行え、稼いだ金を好きなものに使える。彼女にとってこれこそが、自由と言うものであった。嘗ては心の底から望んだ、人間の在り方。
それを今、瑛子は享受していた。だからこそ、彼女は幸福だった――と言う訳では、残念ながらない。
幸福を与えてやったのだから、その代償だ、と言わんばかりに、彼女は、あるイベントに従事しなければならない。それについての知識もまた、頭に刻み込まれている。

 聖杯戦争。それが、角南瑛子がこれから、自分の引き当てたアサシンのサーヴァント共に潜り抜けねばならない戦いである。
自分と同じく、サーヴァントを引き当てた所定数の主従を全員倒す事で現れる、どんな願いでも叶えられる魔法の杯。
それを巡っての、最後の一人になるまでの殺し合い。それが、聖杯戦争であった。その知識を理解した時、瑛子は、心底歯噛みした表情を浮かべた。
殺す自分が嫌だったからこそ、命のリスクを覚悟でスケルトン・ナイツを抜けたと言うのに。あの最悪の組織が存在しない世界にやって来れたと言うのに。
まるで、自由と言う借金を借りたのだから、時間と命を削って払えとでも言わんばかりに、実態も何も知らない聖杯戦争への参加を余儀なくされる。

 ――ふざけないでよ――

 何処まで、自分の時間を奪えば気が済むと言うのか。
逆さに振っても、瑛子からは最早何も出ない。金もない、スキルもない。処女すら過去に散らされた女から、命すら搾り取ろうと言うのか。
馬鹿げている。ふざけている。こんな戦い、乗りたくもない。潰し合うなら、潰しあえ。自分は一切関係がない。
サーヴァントだって、右手甲に刻まれた、三つの苦無(クナイ)が三角系に配置された意匠のトライバルタトゥー――令呪と言うらしい――で自殺させて、それで終わりだ。

 ――当初は、そうするつもりであったのだ。


「ただいま」

 言って瑛子は、この冬木での自分の住居である、安アパートの一室に帰宅した。
ただいま、とは言うが、この部屋には彼女以外の住民はいない。独り暮らしである。
擦り切れた畳の上に、家具量販店で買った、洋風の安いタイルマットを敷き、同じ店で購入した簡易ベッドと安テーブル、
そして、家電量販店で購入した小さい冷蔵庫、液晶テレビしかない、全体的にチープな部屋。此処が、角南瑛子の自室であった。

 瑛子の美しさにはそぐわぬ部屋だった。
身長は百七十センチ程で、モデルのように見事なプロポーションを薄手のコートで覆っている。
艶やかに光を反射するショートカットの髪に、うなじから喉元にかけて切り下げるように斜めに揃えられた髪。
理容については瑛子は詳しくない、自分好みの髪型にしたつもりなのだが、それが驚く程様になっていた。
何よりも、顔つきだ。すらりと通った鼻梁に隙のない目元、白い肌に対照的な真紅の唇は、ガラス細工のような美しさと脆さを内包している。
とてもではないが、弁当屋でアルバイトをしていて良い人間ではなかった。東京に出ていれば、一流誌のファッションモデルとして、食べていけそうな美貌の、完全なる無駄遣いとしか言いようがなかった。

「……アサシン」

 無感動そうに部屋を眺めながら、そう言った瑛子。刹那、彼女の前方一m先に、瑛子の引き当てたアサシンのサーヴァントが、片膝を付いた状態で現れた。
鳶色の忍装束に柿色の羽織を身に纏った、黒いショートカットの、精悍で整った顔立ちの青年である。
忍装束と言う特徴から、誰もが彼を見て、『忍者』と言うイメージを抱くだろう。事実それは、その通りであった。
アサシン――真名を『加藤段蔵』と言うこのアサシンは、日本国に於いて著名かつ伝説的な忍者の一人であるのだから。

「覚悟は、出来たのかな。主」

「駄目ね、てんで。そう簡単に、覚悟なんて固まる筈がないわ」

「……そうか」

 心底、残念そうな風な顔で、段蔵は言った。
忍である以上、滅多な事では己の生の感情は身体に出さないものであるが、今回ばかりは珍しい。素人目で見ても解る程、段蔵は消沈を隠せていなかった。

「幻滅、させちゃった?」

「ん?」

「蛇の道は蛇、あなたも気付いているでしょう? 私が、決して潔癖な人間じゃない事に」

「……ああ」

 コクリ、と。段蔵はややあって頷いた。
瑛子の言う通り。段蔵は一目己のマスターを見た時、思った事は自分と同類の人物であると言う事だった。
つまりは、暗殺者である。身体から香る、血の香りと、他者の死臭。何よりも、冷たく濁った、異様に感情の濃淡のない瞳。
それは、殺しを生業とする者のみが対外的にアピール出来る特徴であった。段蔵は角南瑛子を、暗殺者、それも、相当な手練だと認識していた。

「一杯殺して来たわ。両手の指じゃ足りない程。中には、尋常ない手段で抵抗をしてくる人もいたわ。運よく生き残って、殺し返しもした」

 自嘲気味な笑みを浮かべ、段蔵を眺める瑛子。
忍装束の上からでも解る。段蔵の肉体は、アスリートとは別次元、殺しや戦いを生業とする者にとっての理想形の一つ。
あらゆる部位が無駄なく鍛え上げられ、全局面で最大限の力を発揮出来る、完璧な人間凶器。それが、段蔵の身体であった。
きっとこの男もまた、自分と同じ、いや、それ以上の人間を血の海に沈め、自分が潜り抜けて来た修羅場以上の修羅場を、必死の思いで掻い潜って来たのだろう。その事を一目で解らせる、優れた暗殺者だった。

「滑稽よね。散々殺してきた人間が、自由を知った瞬間、もう殺したくない、今の生活を維持したいだなんて弱音を吐く何て」

「いいや」

 其処で段蔵は、片膝立ちの状態からスッと立ち上がり、瑛子の事を見下ろした。
当時の日本の平均身長を考えれば、段蔵の身長は、かなり恵まれている方に部類しても良い体躯であった。

「よく……解るよ。欲しいよな、自由って奴はさ」

 目を閉じ、段蔵は語り続ける。

「忍者って奴だったからな、共感出来る。命令があれば身一つで敵の国に入り込み、時には殺しだってしなくちゃいけない。俺達は皆、大名や棟梁にとって都合の良い苦無みたいなもんだった。その上、任務でドジ踏んで、うっかり自分がこの世から忍んじまう忍者なんて、ゴロゴロいた。皆……そんな生活が嫌だったよ」

「……」

「俺達は誰かに操られる道具じゃないが、道具に徹してなければ生活が出来ない。だからさ、よく解る。嫌だよな、殺しの道具なんて。欲しいよな、自由だって」

「……」

「俺……いや、俺『達』は、結局道具として死んだ。自分の家も土地もなく、好きな山野を駆け抜け、適当な川でイワナやヤマメを釣るような真似も、俺達は出来なかった」

 そこで段蔵は、瑛子の瞳をジッと見つめ、口を開く。

「折角手にした自由を主が失いたくないって言う気持ちは、俺達も解る。それを理解していて……自分達でも、馬鹿げた事を頼み込むって事を承知していても、頼む」

 ――瞬間の事だった。
瑛子が瞬きを終えた瞬間、段蔵と全く同じ背格好、全く同じ服装、全く同じ髪型をした男達が四人。いつの間にか彼女の目の前に現れているではないか。
五人の段蔵は、全く同じタイミングと全く同じ動きで、床に平伏。俗に『土下座』と呼ばれる姿勢を、恥も外聞もなく行い、こう言った。

「聖杯戦争に、少しでもいいから興味を抱いてくれ」

 やはり五人とも、全く同じ瞬間に、同じ言葉を一字一句違わず口にした。
それだけじゃない。声の方も、皆、同じもの。余りにもタイミングが完璧、発声に一秒のずれもなかった為に、アパートの薄い壁が震える程の声で、段蔵は懇願した。
哀願、とも言うのかも知れない。瑛子は、この五人の段蔵の声に、痛切とも言える程の、万感の思いを感じ取る事が出来た。

 ――ああ、と、瑛子は思った。
そうか。自分が、彼らを令呪で自害させようと思い、思い止まり、結局、そう出来なかったのは、彼らの在り方のせいだったのだ。
初めて段蔵の姿を見た時瑛子は、自分と同じ物を感じ取った。何処までも誰かの道具、何処までも人を不幸にする技術のみを磨く事を強要された非人間。
それは正しく、スケルトン・ナイツに所属していた自分と被って見え、それにシンパシーを感じてしまい……令呪と言う絶対命令権による自害を、敢行出来なかったのだ。
段蔵の口にしている事は共感出来る。瑛子もまた嘗て、自由が欲しかった一人の人物であったし、結局最期の瞬間までそれを手に入れる事が叶わなかった女だ。
彼は、自分の自由が眩しいのだ。何時でも仕事を辞められ、何時でも好きな仕事に就け、何時でも好きな所で野垂れ死に出来る角南瑛子の現状が、羨ましいのである。
彼女の現状も決して幸福なそれとは言い難いが、それでも、段蔵からすればこんな鈍色の自由ですら、光り輝く宝石のように映るのだろう。
今の段蔵の現状、瑛子は決して笑わない。いや、笑えない。そう――自分にも昔、そんな鈍色の自由を、焦がれる程欲していた時期があったのだから。
この五人は、性別も背格好も自分とは違うが、それでも、自分なのだ。今その事を、瑛子は心から理解してしまった。

 瑛子は、自分の持っている手提げ鞄、そこにしまっていた自分の郵貯の口座を取り出し、その残高を確認する。
百と十二万。それが、この世界における、角南瑛子と言う一人のフリーターの全財産だった。どうやら、物欲に頓着しないと言うキャラクターだったらしい。
最低限の生活を送れる分は全部貯金に回しているらしく、フリーターにしては、貯金がある方であった。尤も、瑛子は金銭面にそれ程重きを置かない女性だった。
口座の残高が一億あろうが、一兆あろうが、瑛子の生活は変わらない。変わらないが……この金について、瑛子は思う所があった。

 ――……彼は、どうしてるかしら?――

 スケルトン・ナイツの護衛に相応しい人物を探し求めていた頃、強いが危険と言う風の噂を聞き、頼りにした、探偵とは名ばかりの殺人鬼。
驚く程間が抜けているのに何処か鋭く、そして真実、鬼神の如く強いが、瑛子の見て来たどんな暗殺者がずっと可愛く見える殺人狂。
黒贄礼太郎は、死んだのだろうか? 首を断ち切られても死ななかったあの男は、結局今、何をどうしているのだろうか?
……死んでないとは思う。付き合って一ヶ月すら経過していないが、それでも解る。あの理不尽の権化のような男が、死ぬ筈がないと。

 あの理不尽の象徴たる男に、もう少しだけ、報酬を上乗せしてやりたかった。
あの男に支払った、七十三万と、自分の身体。足りない、と思った。七十三万円では利かない程の痛みを、あの男は味わった筈なのだ……その割には元気いっぱいだったが。
聖杯自体には、興味はない。興味はないが、お礼は言いたい。槍衾に貫かれる前に口にした、許しの一言では、足りなかった。
お金を送るだけでも良い、何か一言メッセージカードを手渡すだけでも良い。それでも何か、あの男に、感謝の印を送ってやりたかった。
……いや、もしかしたら、それこそが、聖杯についての願いなのかも知れない。そう、瑛子は思った。

「……アサシン」

「……」

 段蔵達の身体が、土下座のまま強張った。

「恐縮しなくても良いわ。聖杯戦争、私も乗る」

「本当か!?」

 ガバッ、と、五人一列に並んで土下座をしている段蔵。
その内真ん中の彼が、バッと顔を上げた。どうやら、彼がリーダー格らしい。

「だけど、マスターを殺すのは禁止。……私、なるべくもう殺しはしたくないの。葬るのなら、サーヴァントだけにして」

 無茶なオーダーだと言っていて瑛子は思う。
何せアサシンはその名の通り暗殺者……サーヴァントの暗殺ではなく、マスターの暗殺で成果を発揮する存在である。
それなのに、マスターの殺害は厳禁、サーヴァントのみを葬れと言うオーダーは、かなり無理な命令であろう。遠回しに、アサシンに死ねと言っているような物である。
だが、これは譲れないラインだった。瑛子はもう、誰も殺さない。勿論、自分に対して悪意をもって襲い掛かる存在となると、痛い目を見て貰う。
しかし、特に、悪い事もしていない無辜の人間を殺す事はしないと心に決めたのである。これを呑まないと言うのなら、仕方がない。段蔵には悪いが、聖杯戦争を諦めてもらうしかなかった。

「解った。難しい注文だとは思うが……手がない訳じゃない。ありがとう、主よ。この加藤段蔵……主を護る苦無となり、主に殺意を向ける者を穿つ手裏剣になろう」

 意外にも、段蔵は直に、瑛子の提案を受け入れた。
段蔵自身も、瑛子のオーダーが無茶を極るものだとは理解しているらしい。しかし、それでも彼は良かったと言うのだ。
聖杯戦争自体に興味を持ってくれた。それだけで、アサシンの悲願が、達成する可能性が上がるのだから、喜ばぬ筈がないのかも知れない。

「アサシン」

「何だ?」

「貴方も、自由が欲しいの?」

 そう瑛子は問いかける。今までの会話の文脈を判断するに、アサシンもまた、自由を欲している事は解る。

「欲しいな」

 「そう――」、残りの四人も、リーダー格の段蔵の言葉に続いた。

「『五人分の自由』が」

 そう口にする段蔵の瞳には、決然たるものがあった。
自由への渇望。それは、男女の垣根も関係なく、絶対的な物である事を、瑛子はこの瞬間に、再認させられたのであった。

 ◆

「いなくなってしまった」

 ポツリと、そう、黒贄は呟いた。
無数の裂け目と穴でズタボロになった黒礼服を身に纏い、総身から血を流し続けたまま呟いた。
頭にも首にも、胴体にも四肢にも、血色の風穴が刻まれ、そんな状態でも、言葉を発する事が出来た。

「どこを探しても、いないんだ」

 喜怒哀楽、どれにも該当しない無表情で、ただ黒贄は呟き続ける。
男の顎の先から、液体が滴り落ちて、床を濡らした。それは、透明な液体だった。

「もう、ご飯を作ってくれないよ。もう、キスもしてくれないよ。何も言ってくれないし、どこを探しても暗い空間だけなんだ」

 黒贄の口調は、怖い程静かであった。だが、彼を取り囲む男達の膝は、小刻みに震えていた。何を感じているのか、彼らの殆どは恐怖に顔を歪め、今にも悲鳴を上げて逃げ出しそうだった。

「僕は、泣いてはいないんだ。これは涙じゃないんだ。殺人鬼は、泣いてはいけないんだ」

 黒贄がゆらりと、右手の指を自分の顔の左側に突き立て、そのままメチメチと、力尽くで皮膚が剥いで行く。己の泣き顔を見られたくない。そんな風に。

「僕は別に、復讐をするんじゃないんだ。だって、殺人鬼は、私怨なんかで、人を殺しちゃいけないんだから。でもね、誰が、彼女を隠したんだろう」

 黒贄目掛けて、ライフルを構えていた鋭い目の男が、唾を呑んだ。

「だーれーかーなー」

 黒贄は左手も使い、、皮膚と肉の間に指を差し入れ、完全に自分の顔を、めちちっ、と、嫌な音を響かせながら引き剥がした。

「アケロパニャー」

 血みどろの人体標本と化した黒贄の口から、力の抜けるような声が洩れた。
――その後、スケルトン・ナイツと言う組織がどうなったのかは、敢えて記すまでもない。筆を、此処に置く事とする。





【クラス】アサシン
【真名】加藤段蔵
【出典】史実(日本:AC1503~AC1569)
【性別】男性
【身長・体重】175cm、66kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B

【クラス別スキル】

気配遮断:A+(A)
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見する事は不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。一のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

【固有スキル】

忍術:A+++(A++)
室町時代の日本で体系化された間諜の秘術。忍者八門と呼ばれる基本技術に加え、諜報術、変装術などで諸国の草莽に溶け込み、
空蝉の術、五遁の術、影縫いの術等の高度な逃走技術で、身一つで機密を入手する。しかし、相手の不意を突く技術のため、初見でない相手には効果が減少する。
鳶加藤と言う二つ名を持ち、上杉謙信、武田信玄と言った名だたる戦国大名にすら警戒を余儀なくさせる程のアサシンの忍術スキルは、最高クラスのそれ。
二のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

破壊工作:A(B)
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップの達人。ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。三のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

諜報:A(C)
気配そのものを敵対者だと感じさせない手練手管。
Aランクともなれば、余程優れた感知、直感スキルがない限り、アサシンが敵対者及びスパイだと気付く事は、困難を極る。
四のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

幻術:C+(-)
魔術系統の一種。偽装能力。個人を対象とした物から街ほどの大きさの大規模行使も可能。
忍術スキルと併合して使用する事によって、術の発動動作を隠蔽し、目の前で見ていても、いつ術が発動したのか認識する事を阻害する。
五のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

【宝具】

『不朽の跋扈精鋭(イモータル・ファイブ・フォーセス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
生前アサシンがあだ名つきの忍者として、戦国の大名達から大いに警戒されるに至った、アサシンの忍者としての本質が宝具となったもの。
アサシンは召喚時は彼一人だけ召喚されている風に見えるが、それは正しい物ではなく、厳密には、
『アサシンと全く同じ霊基とステータスを持った五つ子が、一つの肉体に統括された状態で召喚されている』、と言うのが事実である。
普段はアサシンは一人で召喚された状態になるが、マスターの命令や自らの意思で、任意の五つ子の誰か、或いは五つ子の全員を、別個に現界させる事が出来る。
五つ子は『全員同一のステータスと、同一の保有スキル』を持つが、決定的に違うのは、『後者の保有スキルの習熟度』。
一のアサシンは気配遮断に長け、二のアサシンは忍術、三のアサシンは破壊工作、四は諜報、五は幻術スキルに長けているが、それらのスキル以外は全部、
カッコ内のスキルランクである。五つ子が全員統括されている状態は、十全の状態、つまり、スキルランクは平時のランクで適用されるが、
それぞれの五つ子を個別に現界させた場合には、その一人が最も得意とするスキル以外のスキルランクはカッコ内の値で適用されてしまう。
五つ子の誰かが殺された場合、その五つ子の得意としていたスキルはカッコ内のランクに下方修正される。誰かが殺された状態で、残りの兄弟が統括されたとしても、
殺された兄弟のスキルランクはカッコ内の値に修正されたままになる。全員統括された状態でアサシンが殺された場合は、誰かがその殺される役を肩代わりする事で、
アサシンは殺された兄弟の一人と引きかえに、十全の状態でリレイズする事が可能。勿論その場合でも、殺された兄弟の得意とするスキルは下方修正される。
つまりアサシンを魔力切れ以外の方法で真に消滅させたいのであれば、計五回は、直接戦闘で葬らねばならない事を意味する。

【weapon】

【解説】

加藤段蔵とは、群雄割拠の戦国時代に存在し、活躍したとされる伝説的な忍者の一人である。その優れた技術を称して、飛び加藤(鳶加藤)と言うあだ名を持つ。
名の知れた忍者ではあるが、その半生、人物は不明。彼の遺した伝説と、驚愕的なエピソードのみが後世に伝わるだけである。
常陸出身と言われているが、これも不明。忍者としての技術に極めて優れ、最初は上杉謙信の配下として仕えた。
この時、謙信の命令で敵対している大名家からある名剣を奪ってくるように命じられた段蔵は、大名家の警戒の目を見事に掻い潜り名剣を奪い、更に、
大名に仕えていた童女までを生け捕りにして謙信の前に献上したとされる。だが逆に謙信から警戒され、暗殺を謀られる事になった。
この為、謙信の下から去って、武田信玄の家臣となる。信玄の下でも、忍者として優れた技術を見せた。だがその信玄からもやがて、
そのあまりに優れた忍者としての技術を警戒される事となる。一説には、段蔵が織田信長と内通した為とも。
そして時は流れて1569年、厠に入っていたところを、信玄の命令を受けた馬場信春または土屋昌次によって暗殺された。享年67とされる。

伝説的な忍とは言え、戦国時代の傑物である信玄と謙信の二名から簡単に逃げ果せた理由は、単純明快。
加藤段蔵とは、全く同じ背格好、全く同じ容姿、全く同じ声に全く同じ趣味趣向、全く同じ戦闘能力を持った、コピーの様な五つ子だったからである。
別名である『飛び加藤』とはこの五つ子に由来し、飛ぶように移動したり事実飛んだりしたから飛び加藤なのではなく、
五つ子全員が見事なまでの統率力で移動する様子を讃えて、飛び加藤と呼ばれるようになったのが実際の所。
風魔一族に存在する加藤家、その忍の一人はある年、五人もの子供を授かった。食い扶持が足りなくなるので何人かは口減らしにしようと当初は思ったらしいが、
段蔵の両親は、敢えてこの五人共々全く同じ食事、全く同じ修行内容、全く同じ生活リズムで育て上げつつ、
それぞれ突出した技を別々に設定させて育て上げてみよう、と画策。全ては風魔の一族の繁栄と、自分達の生活をよりよくさせようとする為である。
かくして両親の思惑通り、凄絶なトレーニング、自由のない生活の末に、遂に五つ子は、全く同じ身体的特徴を持ち、風魔一族でも突出した忍びとして育ちつつも、
それぞれ特に得意とする分野が違う、と言う五つ子の忍者へと成長。その凄まじい忍術の冴え、五つ子故の凄まじい連携力で、諸国で成果を上げた。
五つ子はそれぞれ交代で任務を請け負い、得意とする技術がそれぞれ違うと言う特徴、そして全く同じ容姿と言う特徴を活かした攪乱、陽動で戦果を発揮した。
謙信や信玄からも正にこの特徴を用いて逃げ果せた――のだが、実際にはこの二人の戦国の雄から逃げ果せるのは簡単ではなく、実際には彼らから逃げるのに、
それぞれ兄弟を二人づづ、計四人も失う形になってしまった。そうして最期に残った長男、即ち一の段蔵は、兄弟を失った事による喪失感から世を憂い、隠居しようとするのだが、追っ手である武田四天王の馬場信春との壮絶な死闘の末、討たれたのだった。

幼い頃から五つ子全員が、身長や体重にそれぞれ差異がでないよう、全く同じ食料を寸分の狂いもない分量で食べさせられる、
日中の運動も夜の睡眠時間もそれぞれ同じにし、自由な時間はなく、生理的に必要な時間を除いた全ての時間は鍛錬のみ、と言う、
気が狂う程に厳しい生活を送った事から、五人全員自由への渇望が恐ろしく高い。常に風魔の為、仕えていた武士の為の道具であった、
という意識が根底に根付いており、それが酷くコンプレックスになっている。聖杯に掛ける願いは、五人全員が別々に受肉。
そして、五人全員がそれぞれ別の人生を歩む、と言うもの。生前は五つ子全員が、別の趣味すら持つ事を許されず、画一的に育てられた事で、
別々に自由に生活する、と言う事への希求が強く、今も、この事については憧れているのであった。

【特徴】

鳶色の忍装束に柿色の羽織を身に纏った、黒いショートカットの、精悍で整った顔立ちの青年。
この服装は任務の際の物であり、諜報活動の際には、より目立たない、民草に溶け込むような普通の服装で活動する。

ちなみに段蔵の宝具名は、Fate/Grand Orderにおける風魔小太郎の宝具同様、忍として凄まじい実力であった段蔵の実力を認め、
当時の風魔の棟梁が直々に、段蔵に対して与えた名前に由来している。

【聖杯にかける願い】

五つ子全員が別々に受肉。そして、それぞれが別々の人生を辿る事。





【マスター】

角南瑛子@殺人鬼探偵

【マスターとしての願い】

黒贄礼太郎に礼をする事。但し、聖杯自体にはそれ程頓着していない

【weapon】

ポイズンテイル:
長さ十二センチ程の、菱形の薄い刃。刃先に接する二辺の縁は剃刀のように鋭く砥がれ、手前の二辺は角の近くを除いて砥がれておらず、その部分を掴んで操る。
言ってしまえば菱形の手裏剣であり、鋭い刃先の反対側には小さな丸い穴が開いており、釣り糸のような透明な糸が通してある。
ポイズンテイルの名前から解る通り、刃には毒が塗られており、殺傷力を大幅に高められている。

【能力・技能】

暗殺技術:
暗殺組織スケルトン・ナイツに所属していた為に、極めて優れた暗殺技術及び身体能力を持つ。
但し、作中に登場する魔人達の中では控えめなそれではあるが、それでも、一般人基準からすれば突出したものである事には変わりない。

【人物背景】

五歳の時に人身売買業者に攫われ、スケルトン・ナイツの暗殺者として血の滲む訓練をし続けて来た暗殺者。
組織に忠実なフリをしながら、ずっと抜け出すタイミングを窺い続け、ついに、相棒にして監視役であった男を殺し、八津崎市の殺人鬼探偵を頼り、
自由を獲得しようとした一人の女。そこで、探偵と束の間の自由を謳歌するも、遂には殺されてしまった女。享年、二十五、或いは六歳。

死亡後すぐの時間軸から参戦。

【方針】

基本的には戦わないし動かない。襲い掛かって来た物に対してのみ、本気を出す。

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最終更新:2017年06月10日 16:08