ルーラ&アサシン

 血を吐く。
 息が止まる。
 心臓が止まる。
 血流も止まる。
 脳に酸素が与えられず、思考が消える。消えてしまう。

(なぜ……どうして……)

 死のカウントダウンが既に1秒を切っているが、それでも頭の中を占めるのはその疑問だった。
 一体どうしてこうなったのか。
 一体どこで間違えてしまったのか。
 いいや、間違いなどなかった。自分は完璧だったはずだ。
 となると原因は部下の裏切り────双子の天使の口元に浮かぶいやらしい笑みがその証左。
 ならば何故、どんな裏切られをされたのか。
 分からないまま、死の闇黒へと落ちていく。

 その刹那。
 魔法の端末を手放した手が何かを触れた。
 しかし何に触れたかも分からず、意識は廃寺の闇と同化して消えていった。






 目が覚めたら木王早苗は魔法少女『ルーラ』の姿のまま、ビルの屋上に立っていた。
 何が起きたのか分からない。
 ここが天国……なんてくだらない幻想に浸るルーラではない。しかし、自分は確実に脱落したはずだ。
 一体何が起きているのか。
 もしや敗者復活戦か。
 いいや、土地の魔力が足りないから魔法少女を減らすという前提のデスゲームで敗者復活はあり得ない。
 そもそも見えている光景はN市とは異なるもの。N市の全容を知っているわけではないが、海や山の光景がまるで違う。

 その時、膨大な知識が流れ込んできた。
 英霊、聖杯戦争、カード、令呪、脱落、デスゲームなどなど。
 普通であれば荒唐無稽でありくだらないと一蹴するだろうが、魔法少女であるルーラにとって荒唐無稽な出来事は日常茶飯事と化していたし、そうでなければ脱落……死んだはずの自分がここにいる理由がつかない。
 となれば後すべきことは一つ。英霊の召喚だ。

(これは確か……『おとめ座』だったかしら?)

 ルーラに応えるようにカードが輝き始め、膨大な魔力が吹き荒れる。
 英霊が召喚されるのだ。
 魔法少女の変身とは違う。
 小型の台風が突如発生したかのような暴風。
 肌で感じる高魔力の奔流。
 増していく存在の圧力。
 間違いなく何かが現れた。はずなのだが。

「何もいないじゃない」

 そこに姿はなかった。
 誰だこんなシステム作った馬鹿はと悪態をついたその時。

「すまない……実はいるんだ」

 声がした。
 誰もいないはずの虚空から、申し訳なさそうにひっそりと。
 声だけの存在……ではないのだろう。先ほど自分が感じた圧力は間違いなく英霊のもの。

「問おう。君が俺のマスターか?」

 サーヴァントの問いかけにルーラは激怒した。
 姿を見せないまま主従関係を問う無礼を許すルーラではない。

「初対面の相手に姿を隠して挨拶をするのか」
「それもすまない。この卑しい姿を見せるのは気が引けるのだが見せていいだろうか」
「構わないわ。王の前に跪き、命を賜る。それが臣下と王の礼儀というものでしょう」
「そうか。了解した」

 光景が一瞬歪み、そこから指が、籠手が、鎧が現れ、サーヴァントの全容が明らかになった。
 凛々しい顔だった。
 逞しい体つきだった。
 魔法少女のルーラから見ても美丈夫と言っていいだろう。
 この男が卑しいというのならば世の男性の9割以上が虫けら以下になるに違いない。
 男はその巨体で少女の前に跪き、そして先ほどの問いを再び投げかけた。

「アサシンのサーヴァント『ジークフリート』。あなたが私のマスターか?」
「そうだ、私がお前の主よ」

 ジークフリート。ニーベルンゲンの歌に登場するネーデルラントの王子であり竜殺しの英雄だ。
 その凛とした覇気は見る者を圧倒する。
 しかし、ルーラは物怖じしない。なぜなら自分こそが王であるからだ。臣下に怯える王者など存在しない。

「アサシン。まずお前に一つ命ずるわ」
「何だ」
「自分を貶める表現はやめなさい。お前は私の部下なのよ。部下がみっともなくて上司の面目をどう立てるつもりなの?」

 ジークフリートは口元に手をやり、一瞬だけ考えた素振りをすると再びルーラに問いかけた。

「それは『命令』か?」
「『命令』よ」
「了解した」

 瞬間、令呪が一画消失する。
 無論、令呪を使っての命令をしたつもりはない。
 なのに令呪が消費されてしまった。

 は?
 なんで?
 どうして?
 ルーラが困惑するとアサシンは言った。

「すまない。実は俺の宝具の関係で『命令(オーダー)一つにつき、令呪一画か相当数の財産を報酬としてもらい受ける』ようになっているんだ」
「なっ────」

 絶句。
 絶句。
 絶句。
 そして湧き上がる怒り。

「報連相くらいちゃんとしなさいこの馬鹿ーーーーーー!!」

 ルーラの怒号が空に響いた。






 ジークフリートを働かせるには金が要る。
 令呪を使用するのは論外だ。聖杯を掴むには令呪の温存が必須条件である。

 だがルーラは無職だ。
 それどころか棲むべき家すらなく明日の食い扶持すらままならない。
 よって取るべきことはただ一つ。

「いらっしゃいませー」

 コンビニで日給の夜勤バイトを始めていた。
 魔法少女の容姿にルーラの知能であれば履歴書を適当にでっち上げても即採用だった。
 さらに昼間は同じく日給の工事整備員のアルバイト。
 夕方には新聞配達と即金になる仕事をしつつ聖杯戦争の情報を探る。
 幸い、魔法少女にスタミナと寝不足の心配はない。


 ルーラは勝つ。絶対に勝つ。
 そして証明するのだ。自分は何も間違えてなどいないことを。





【サーヴァント】
【クラス】
アサシン

【真名】
ジークフリート@ニーベルンゲンの歌

【属性】
混沌・善

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 アサシンのクラスにあるまじき低さだが生粋の暗殺者でないため致し方なし。
 攻撃時にはランクが大幅に下がり、たちどころに気配を察知されてしまうが、宝具の『侏儒王の外套』を使用中かつマスターの至近距離にいる場合はその限りではない。

単独行動:EX
 すまない……悪い意味でのEXですまない……。
 魔力供給に加えてマスターの傍から離れることができない。

【保有スキル】
黄金律:C-
 人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 ニーベルンゲンの財宝によって金銭面で困ることはないが、宝具の呪いにより金品を巻き上げる傾向がある。

仕切り直し:A
 戦線離脱、もしくは状況をリセットする。
 バッドステータスが付いていればいくつかを強制的に解除する。

竜殺し:A
 竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。
 竜種に対して攻撃力と防御力が大幅に向上する。

【宝具】
『侏儒王の外套』(タルンカッペ)
 ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 侏儒(小人・ドワーフ)の王アルプリヒから簒奪した魔法の隠れ蓑。所有者に応じてすっぽりと覆うように大きくなる。
 これを纏えば透明になれる他、筋力・耐久・敏捷などの身体ステータスが12倍になる。
 ガウェインも苦笑するほどの強化っぷりである。
 ただし、使うたびに報酬を要求した逸話からマスターの命令のたびに報酬を要求し、令呪一画もしくは相当の財産を消費する。
 この制限のせいで金持ちが引けば最強のサーヴァントであるが貧乏人が引けば三流サーヴァントと化すのだ。

『悪竜の血鎧』(アーマー・オブ・ファヴニール)
 ランク:B+ ⇒ D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 悪竜の血を浴びて不死身の肉体となった逸話を具現化した宝具。
 Dランク相当の物理攻撃及び魔術を無効化する。
 Cランク以上の攻撃も、Dランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上される。
 本来ならばBランク相当であり、正当な英雄からの攻撃に対してB+相当の防御数値となるはずが、背中の弱点を防護できない呪いを『侏儒王の外套』で打ち消すためランクが大幅に下がっている。
 まあ、それでも『侏儒王の外套』を着ていれば無傷なのだが……

【weapon】
素手(アサシンのクラスであるため幻想大剣は持っていない)

【人物背景】
ニーベルンゲンの歌に登場する英雄ジークフリートのアサシンとしての姿。
侏儒王アルプリヒからタルンカッペを得、ファヴニールを討ち取った後にクリームヒルトに婚約を迫るべくその兄であるブルグント王グンターを手伝ったことに由来する。
グンターがイースラントの処女王ブリュンヒルデと結婚するためには彼女より武芸に優れてはならないため、ジークフリートはタルンカッペを被りグンターがしたように見せてブリュンヒルデよりも優れた武芸を見せた。
名目上、グンターに負けたブリュンヒルデはグンターと結婚する。

しかし、その後もグンターから「ブリュンヒルデを組み敷けないから助けてほしい」という依頼を聞き届けて再びタルンカッペを被り、彼のふりをしてブリュンヒルデを組み敷いた(この時グンターに抱かれたことでブリュンヒルデは力を失ったとされる)
ジークフリートはこの時、去り際にブリュンヒルデの腰帯と金の指輪を奪い、クリームヒルトに与えてしまった。
ところが後日、クリームヒルトを通じてブリュンヒルデが秘密を知ってしまい、ジークフリートが言いふらしていると恨んだ彼女は夫グンターとその配下ハーゲンに嘆願してジークフリートを暗殺させた。
タルンカッペもなく、バルムンクも持っていなかったジークフリートは裏切りに為すすべもなく死んでしまったという。

【サーヴァントとしての願い】
無いが芽生えるかもしれない



【マスター】
ルーラ@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
『あの試験』のやり直し

【weapon】
王笏:
魔法の発動条件の一つ。正確には武器ではない。

【能力・技能】
魔法少女:
 人間である『木王早苗』から魔法少女『ルーラ』に変身できる。
 身体能力は最低ランクに位置するが、それでも岩石を破壊し、垂直な壁を走って上ることが可能な超人である。
 また疲労がなく何日も徹夜が可能。治癒力も優れているため、ルーラの身体能力ならば重傷でないかぎり1日程度で治る。

目の前の相手になんでも命令できるよ:
 魔法少女としての能力。目の前の相手に命令を従わせることが可能。
 ただし発動には以下の条件すべてを満たしていなければならない。
 ・「王笏」を持ったまま命令対象に向けてポーズを取る。
 ・命令が実行されている間はポーズを取り続ける。
 ・命令文の最初に「ルーラの名の下に命ずる」の句をつけなければならない
 ・命令対象とは距離五メートル以内を維持し続ける。

【人物背景】
魔法少女育成計画に登場する魔法少女。
N市(名深市)という街の魔法少女であり、完璧主義、効率主義、絶対の自信という支配者気質の持ち主。
暴力でとある魔法少女に敗北してからは次々と新人魔法少女達を捕まえては自分の部下とし、魔法少女達4人を引き連れて一勢力として君臨した。
しかし1週間に1人、マジカルキャンディー(票のようなもの)が少ないものから脱落=死ぬデスゲームが勃発。
部下と自分を守るべく魔法少女を襲いマジカルキャンディーを奪取する。
しかし、部下の裏切りにあってしまい第二の脱落者となった。

【方針】
金を稼ぎつつ聖杯戦争の動向を伺う。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年06月10日 16:12