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冬木市にも自然が点在する箇所は見受けられるが、あえて踏み入れようとする現代人は少ない。
そこへ赴くのに、よっぽどの理由を持たなければならない。
何故なら、自然豊かな場所に人間は退屈しているからだ。
決して、自然を嫌悪している訳ではない。
雄大で穏やかな風とせせらぎ、鳥の鳴き声を耳に傾け、都会の疲れを癒すに相応しい気分転換を味わえる。
だが、退屈だ。
刺激もないし、格別自然を愛する者のような変わり者だったら良いが。
現代。目に余るような情報と刺激を味わえる都会。
欲しいものは大体揃うし、不便が少ない。
自然界は不便だ。生活するのだって一苦労。
冬木よりも遠くにある田舎では、コンビニすらないし、バスだって三時間に一回来るか来ないか。
ちょっと昔まで、ここで遊ぶ子供の姿はあっただろう。
しかし、最早子供は愚か大人すらいない。
逆に大人が徘徊するのが、不審者として通報される時代なのだ。
世は残酷である。
けど、これが子供の場合であっても不信を抱かずにはいられない不可思議な状況だと、現代では判断される。
かつて日本のどこかしこもが、自然に溢れてたのが嘘か幻想に思える。
さて。
木々が自生する森林地帯に、独創的な歌を口ずさみながら歩む少女が一人。
葉の合い間から溢れる木漏れ日を浴びながら、適当に拾った木を一本、手にとって悠々と進んでいく。
かなり外で、虫を眺めたり。走りまわったり。
疲労を蓄積しているだろう少女だが、幼さとは裏腹に無表情で勤しんでいる。
「はっ」
興奮気味に少女がある植物に注目した。
『ヤツデ』と称される巨大な葉が特徴的なソレを、一つ。全身の力を込めて引っ張り、尻餅つきながら手に入れた。
少女は、急いでヤツデを握りしめ、森林を駆け抜けた。
その姿は、現代には似つかわしい光景である。
「すとくんの忘れ物、見つけたのー」
少女が呼びかけた、少女の視線の先に居るのはまさしく『天狗』だった。
◇
前日。
一人の田舎に住む少女・宮内れんげが聖杯戦争のマスターとして招かれたのは、不運か幸運か。
穢れ知らぬ少女が戦争に巻き込まれたのは不運で。
あらゆる願いを叶える願望機を手にする機会に恵まれたのは幸運なら。
見方によっては、どうとでも捉えられる。
そんな彼女が召喚したのはバーサーカーのサーヴァント。
バーサーカーは文字通りの狂戦士。
狂っている逸話が元で、意志疎通が困難となった英霊。
喋れたとしても全うではない連中を基本。
だが、ステータスの上昇を見込め、強さは保証される……らしい。実際のところは不明だ。
魔術師や歴戦の経験者などが召喚すれば良いものを、少女が、しかも無力な子供が召喚したのだ。
最悪、それだけで絶望を抱く状況だが。
れんげに関しては、最悪を理解する情報や知識が少なかった為に、至って冷静を保っている。
れんげが召喚したのは『天狗』だった。
妖怪の知識が豊富な者は、きっと『天狗』の真名へ至れるだろう。
しかし、無知なれんげにとって『天狗』を召喚した事実が十分過ぎた。
「凄いん! ウチ、本物の妖怪に出会ってしまいました!!」
子供らしく歓喜するれんげに対し、バーサーカーこと『天狗』は不気味な沈黙を続ける。
実のところ、ソレは本物の『天狗』ではない。
夜叉か鬼婆の如く伸びた黒髪の隙間から見え隠れする首元を確認すれば、顔は仮面であるのが明らかで。
ちゃんと表情が確認出来ない状態だが、バーサーカーらしいうめき声を漏らすこともない。
バーサーカーらしかぬ静寂を漂わせる。
落ち着きを取り戻したれんげが、しげしげと『天狗』を観察した。
「天狗、恥ずかしがり屋さんなんな」
沈黙を続けるバーサーカーをそう解釈したれんげは、片手を上げて挨拶する。
「宮内れんげです。尊敬している妖怪はサンタクロースです」
バーサーカーの視線が僅かにれんげへ注がれた気もする。
むうと唸ってかられんげは問う。
「天狗にも名前はあるのん?」
鋭利に尖った血にまみれたような手を差し出したバーサーカーは、地面に何か記す。
真剣な眼差しでれんげが見届けると、達筆に文字が書かれていた。
恐らくバーサーカーは狂ってない。理性があるのだ。何故か口ではなく文字で伝えようとした。
更に。
時代の古い、小難しい漢字だったので
「読めないん! これが妖怪の文字なんな……」
れんげが変に関心した矢先、ふっと脳裏に言葉が浮かびあがった。
「すとく? すとくって読むのん? おお、流石妖怪なんな。うちを妖怪語読めるようにしてくれたん!」
◆
自信に満ちたれんげが、ヤツデの葉をバーサーカーに差し出す場面に戻る。
「ウチ知ってるん。天狗は皆これ持ってるのん」
バーサーカーが所謂『天狗の団扇』を所持してないのに注目したらしく。
れんげは、無表情ながらバーサーカーの反応に期待する様子だった。
至って平静にバーサーカーは虚空から、真祖の団扇を出現させる。
葉ではない。不可思議な羽で構成された団扇は、神秘性を醸しだしている。
「すとくん、団扇持ってたんな」
残念そうなれんげを傍らに、バーサーカーが唐突に団扇の羽を一つ毟る。
あまりのことで、れんげは音が鳴るほど息を飲んだ。
「そんなことして大丈夫なん!?」
バーサーカーが手渡す羽を恐る恐る握ったれんげ。何故だか、不思議と自分は飛べるような気がした。
普通は、気が狂っている発想ではある。羽が急激に軽く変化し、そのままれんげの体を引っ張る。
同じく風に流され、乗る天狗のバーサーカーも飛び立ち。
彼らは日が落ちた夜空に漂い、七色に煌く都心の明かりを目にした。
宝石じみた美しさと目障りな眩しさを覚える輝きに、れんげは相変わらずののんびりした態度で言う。
「ここは夜も明るいのん」
ふわふわと夢のような飛行を続け、やがて冬木市にてれんげが住んでいる家に到着した。
これでもれんげは感動しており。
飛行を楽しみたい衝動はあったが、夜だから家に帰らなければならない常識は厳守する。
「これ、ウチにくれるん? ありがとうなんな、すとくん」
れんげは、何となくバーサーカーの想いが分かった。
きっと妖怪だから、で済まされている疑問だが、れんげは疑念を持っていない。
事実として、れんげから羽を返して貰おうとする素振りを、バーサーカーは見せてない。
家の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。
れんげは、遅れてポケットから鍵を取り出す。
「どうしてここに居るみんなは、家に鍵かけてるん?」
バーサーカーは何も答えず霊体化した。
◇
【クラス】バーサーカー
【真名】崇徳上皇@史実・保元物語
【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:E 宝具:B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
狂化:D-
ステータスの上昇は控えめであり、代わりに理性は保たれている。
【保有スキル】
無辜の怪物:A
怨霊伝説においては、舌を噛みちぎり、生きながら天狗へ変貌したと云うが。
全くの風評被害であり、彼は最期まで人間であった。
舌が無いのでバーサーカー特有の呻きすら出来ず、その影響か念話も叶わない。
この装備(スキル)は外せない。
妖術:B
基礎的なものから、呪詛に至るまで、高度な技術を有する。
バーサーカーはこれを用いて、マスターや相手に何となく自分の思いを伝えられている。
魔力放出(炎/風):A
天災に等しい規模の火災や嵐を発生させる。
威力が相当の為、魔力不足のマスターを持つ場合、迂闊に連発できない。
【宝具】
『羽団扇(テングノウチワ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~300 捕捉:1~500
大天狗が所持するとされる羽団扇。
これを所持するだけで飛行、縮地、分身、変身、風雨、火炎etcなど多くの奇跡を起こす。
団扇の羽一本所有するだけでも、精神干渉や呪術除けの作用がある。
『滝川に流るる我が血を以て』
ランク:A+ 種別:厄災宝具
血で書した写本が呪詛に込められていると嫌悪され、彼の棺から血が溢れ出たと噂された。
彼に纏わる『血』こそが、彼の死後に発生した厄災の原因と恐れられる。
崇徳上皇の『血』を浴びたあらゆるものは、呪いを受け、破滅へと導かれる。
『血』が滴り落ちた大地の霊脈は死に、神性な宝具も時が経つにつれ堕ちてゆく。
それらを解くには、崇徳上皇を倒す他ない。
【人物背景】
怨霊伝説の風評被害により近年まで日本三大怨霊と称された崇徳院。
政治から遠ざけられ続けた末、保元の乱を起こすが敗北。
出家すら叶わず、流刑を受け。京にも帰還を果たせず、生涯を終えた。
不運続きだが、本人は至って平和を願い続けた人間であり、晩年誰も恨むことなく息を引き取る。
これも自らの定めだと受け入れている。
【特徴】
天狗の仮面に天狗の格好をし、夜叉を彷彿させる黒の長髪。
仮面の下は、至って普通の40代後半の皺入った日本人男性。
バーサーカーの状態では舌がない。
【聖杯にかける願い】
平和
【マスター】
宮内れんげ@のんのんびより
【weapon】
小学生ながら賢い、奇才な面も見受けられる。
【人物背景】
独特な訛りで話す、田舎に住む小学一年生。
基本的に無表情だが、子供っぽい面もある。
【聖杯にかける願い】
???
まだ漠然としている
最終更新:2017年06月15日 07:56