男がいた。二人の男だ。
上等そうなスーツに身を包んだ恰幅のいい男と、黒を基調とした露出の多い服を来た痩身の男。
「俺が欲しいのは『栄光』だ」
葉巻に火を点けながら恰幅のいい男が口を開く。
無言で見つめる痩身の男を尻目に、葉巻を口にくわえ煙を吸い込んでゆっくりと吐き出す。
何気ない一連の仕草がやけに堂に入っていた。
「アルカトラズにぶちこまれたあたりからか。とにかく俺の末路ってのは悲惨なものだった。
これがまあ、商売敵に殺されるとか昔やったことのツケで復讐されたって言うんなら諦めもつくだろうけどよ、よりにもよって病気が原因で頭がおかしくなっちまったってんだから笑えねえ」
自分で笑えないと言っておきながらヒヒヒ、と恰幅のいい男は笑顔を浮かべる。
対する痩身の男の表情は笑みにも憐れみにも変化しない。
鉄面皮を貫く痩身の男を見て恰幅のいい男は肩を竦めて苦笑してみせた。
「別にあの頃に戻ろうとは思わねえ。過ぎちまった事をやり直せるとも思えねえしな。
だから受肉だったか? それでもう一度この世界に戻って、あの時と同じ、いやそれ以上の『栄光』を手にいれて、絶頂のままで堂々と終わりてえのさ」
重く濃い葉巻の煙を周囲に漂わせながら、恰幅のいい男ーー痩身の男が呼び出したアサシンのサーヴァントーーは自分の望みを己のマスターに明らかにした。
痩身の男は自身の願いを語るアサシンの目に、ギラギラとした欲望の光を見た。
マフィアの構成員であった彼にとっては、とても見慣れた光だった。
「さあ、これが俺の願いだ。で、お前さんは聖杯にかける望みってのはあるのかい? マスターさんよ」
「俺か……俺は……」
アサシンに促され痩身の男が微かに目を伏せる。
彼に対して、聖杯に望みがあるのかと切り出したのは痩身の男だった。
相手が答えたからには、自身も答えなければならぬのが筋というものだろう。
「俺も『栄光』を手に入れたい。ボスを殺し、奴の持っていた麻薬ルートを手に入れること、それが俺の考える『栄光』だ」
感情が希薄に見えた痩身の男の黒い瞳に激情の炎が灯る。アサシンの目に映った光と同種のものだ。
痩身の男の名はリゾット・ネエロ。
イタリアのマフィア"パッショーネ"の暗殺チームのリーダーだった男だ。
過去形である理由は、彼が仲間と共に組織を離反したからである。
もっとも彼と共に離反した部下はもう誰一人として残っていない。彼らが追うボスの娘を護衛していたパッショーネの構成員との戦闘によって全員が敗死してしまっているからだ。
「なんだ、聖杯にお願いしてそいつを殺して貰うのか? そりゃいい。手間もねえし疑われもしねえ。俺もモランのクソ野郎を襲おうとした時ゃそれに頼れば良かったぜ」
「いや、殺すのは俺の手でだ。聖杯は俺が奴を確実に殺すためのお膳立てをしてくれればいい」
アサシンの冗談混じりの問いかけにリゾットは笑み1つ浮かべずに首を左右に振って否定の意を見せる。
復讐の決着まで願望器任せにしないというのは一種の矜持であろう。
冗句に真面目な答えで返されるとは思っていなかったのか、アサシンは決まりが悪そうに視線を反らすとゴホン、と一度咳払いをした。
「ま、お前さんのスタンド……だったか? そいつを使えば暗殺にゃあ苦労しなさそうだしな。
重要なのは聖杯にかける望みがあるか、つまりこの戦争へのやる気があるかどうかって事だけだ。
そういう意味じゃあお互いに一先ずは及第点ってところだろうさ」
「そうだな、これであんたと俺はパートナーだ。それで、さしあたってはどうするつもりだ? あんたは直接戦闘に向かないんだろう」
リゾットの視界に映るアサシンの情報が彼の脳裏に浮かんでいる。
ステータスの値はDのオンパレード。リゾットはサーヴァントのステータスの基準値など知る由もないが、それでもアサシンのステータスがサーヴァント全体を見回しても最低値に近いであろうこと程度は推察できた。
「そりゃそうさ。俺は近代出身のありふれたチンピラだからな。
お伽噺に出てくるようなヒーローや化け物と真っ向から喧嘩したところでよちよち歩きの赤ん坊がプロボクサーに挑むようなもんよ。
ま、悪党は悪党らしく裏でせせこましく動き回るに限るって事だ」
「なるほど、アサシン、暗殺者という肩書き通りの動き方という訳か」
「その通り。だから必要なのは何よりも情報網と手駒だ。
脅迫・奇襲・騙し討ち・扇動、勝つためにはなんだってやる必要があるが、その為に一番重要なのが情報よ、武器にも取引材料にもなるからな。
魔術師って奴らだったら使い魔でも使えばいいんだろうがお前さんにはそれがねえ。
「だから今からここのNPCどもを手下にして即席の情報ネットワークを作る必要がある。手段を選ばねえ悪党が使えるならなお良しだ」
「なら、この舞台で俺に割り振られた役割が役に立つ筈だ。何の因果かこっちでも俺はチンピラどもの取り纏め役になっていたからな。そいつらを利用すればいい」
「OK、話が早いってのはいい。実にいいな」
リゾットの提案を受けてアサシンが満足げに頷いてみせる。
戦闘に向かないサーヴァントを引いたというのにリゾットには悲壮な感情の影すらも見えない。
リゾットは知っているからだ。戦闘向きでない事が即ち戦いを勝ち抜く力に乏しい訳ではない事を。
戦闘能力の高さは確かに勝敗にとって重要な要素の一つであるが必須という訳ではない。
例え戦闘能力が低いとしても確実な勝筋を持っているのであれば、後はいかにしてその勝筋まで持っていけるかが何よりも重要なのだ。
それはサーヴァントの戦いでもスタンド使いの戦いでも変わらない。
アサシンの宝具の説明を既に受けたリゾットにとって彼に対する評価は"直接戦闘に向かないが強力な勝筋を持ったサーヴァント"である。
で、あるならばその勝筋を作り出すために腐心することは当然の事だ。
「期待させてもらうぞ、大先輩(アル・カポネ)」
「ハッ、お前さんにもしっかり働いてもらうぜ後輩(マスター)」
リゾットがアサシンを真名で呼ぶ。
アル・カポネ。
暗黒街の顔役とも謳われたアメリカのギャングの首領は不敵に笑いながら再度葉巻の煙を吐き出した。
夜の闇にうっすらと消えていく煙の様に、ゴロツキ達が冬木の闇に溶け込んでいく。
冬木の裏にゆっくりと悪党達が根を下ろす。
全てはそれぞれの『栄光』を手にする為に。
【CLASS】アサシン
【真名】アルフォンス・ガブリエル・カポネ
【元ネタ】史実
【身長・体重】179cm、98kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:B 宝具:D
【クラス別スキル】
諜報:B
気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。
【固有スキル】
悪の華:A
脅迫、強請、密会、隠蔽工作、偽装工作、買収といった裏工作に関係する判定に対して有利な補正を得る。
自己保存:B
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
破壊工作:E
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
敵兵力に対する直接的な攻撃ではなく、相手の進軍を遅延させたり、偵察や諜報を混乱させる技術。
【宝具】
『聖なる日は血に染まる(ブラッディ・バレンタイン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:6人
第三者集団が特定の対象を襲撃する際に、その第三者に気配遮断Aランク相当の変装を施す。この効果を受けた第三者は例えそれがサーヴァントであろうとも攻撃を行うその瞬間まで襲撃対象には一般人と認識される。
またこの宝具の影響下にある襲撃者が襲撃の際に用いる武器類の全てはEランクの宝具相当として扱われる。
この宝具は下記条件に全て合致した場合のみ発動可能となる。
■条件
1:アサシンが襲撃対象と同じ場所に存在しない
2:襲撃対象の現在地または潜伏地をアサシンが把握している
聖バレンタインの日にアサシンが指示を出し敵対するマフィアに対して行った暗殺事件を基とした宝具。
当時の事件を再現する宝具である関係上、事件の再現度が高ければ高くなる程に敵対者の殺害成功率が上昇する。その逆もまた然り。
襲撃者そのものがアサシンの宝具となる為、例え神秘の通わぬ近代兵器であってもサーヴァントに対して有効打を放つ事が可能。
【weapon】
無銘:拳銃
【解説】
禁酒法時代のアメリカ、シカゴ地域の裏社会において一代で顔役まで上り詰めたギャングスター。
表向きは陽気で人当たりのいい中年オヤジだがその本性は冷酷かつ悪辣。
ギャングに必要な非人道的な価値観の持ち主だが、その反面家族や身内には甘いところがある。
酒の密売・敵対者の暗殺・官憲の買収などによって市長に等しい権力を手にするまでに至ったが、彼が計画したバレンタインデーの殺人事件によって世論を敵に回す事となる。
その後に別事件で検挙され、部下の裏切りにより有罪判決を受けることとなるが収監中に梅毒を発症。
精神にまで以上を来たし、長年の囚人生活の末に釈放された際には全盛期の彼が見る影もない程に衰弱していたという。
【特徴】
禿げあがった頭、気の良さそうな柔和な顔立ちと頬にナイフの傷跡。恰幅のいい体型。上物のダークカラーのスーツを着こなしている。
【聖杯にかける願い】
受肉し、再び栄光を手にする
【マスター】
リゾット・ネエロ@ジョジョの奇妙な冒険
【マスターとしての願い】
ボスを確実に殺害できる状況を作り出してもらう。手を下すのはあくまで自分自身
【weapon】
【能力・技能】
スタンド[メタリカ]:【破壊力:C / スピード:C / 射程距離:5~10m / 持続力:A / 精密動作性:C / 成長性:C】
鉄分を操るスタンド。自然界に存在するものから血液中のものまで鉄分であればなんでも自由に操作し物質化できる。
また砂鉄を体に纏うことで光学迷彩とし、視覚的に姿を隠すことも可能。
【人物背景】
イタリアマフィア、パッショーネの元構成員。
暗殺チームのリーダーを務めていたが「暗殺」という仕事内容ゆえに必要な時のみ利用されボスの信頼は得られず、冷遇を受けていた。
ボスの秘密を暴こうとした部下を見せしめとして惨殺された事から反逆する事を諦めていたが、ある筋からボスに娘いるという噂を聞きつけ、娘からボスへ繋がる手掛かりを暴いてボスを暗殺し自分達が組織と麻薬ルートを乗っ取るために蜂起、娘を護衛していたブチャラティ達と敵対する。
最終的にはボスの秘密に近づき、殺害にまで手をかけるもののボスのスタンドの能力によって敗北した。
【方針】
リゾット配下のNPCを用いて裏のネットワークを形成し、真っ向勝負を極力避ける立ち回りを行う。
【参戦時期】
ヴィネガー・ドッピオと遭遇する直前
最終更新:2017年06月16日 21:05