世界が白く燃えた。稲妻だ。
黄金の色のスパークがどす黒く沼に落ちた絵の具のように一瞬広がり、瞬く間に黒く塗りつぶされる。
虚空から鳴り響く怒号。 蠢く稲光の光彩が激しく交錯し、轟いた。
また一撃どこからともなく薄い光が差した。また近くに堕ちる。
その度、両眼が凄まじい光に輝く。美貌を、閃光が白く染めた。
雷鳴というより爆発したような轟音が響く。
自然現象というよりまるで空爆だ。
しかし、眉を僅かにひそめる以上の反応をその男は示さなかった
「面白い。これサーヴァントの宝具か……」
男はそう呟いた。
流れ落ちた直毛の銀髪。細く端正な美貌。
尖った耳は人あらざる者。マスターはエルフ族の男性だった。
黙々と歩くこの場所は黒ずんだ都邑の廃墟。
永の歳月に蚕食された石畳の上を革靴がカツーン、カツーンと鳴り渡る。
壁面には太古の種族の絵画らしきものの痕跡が認められる。
それを見た銀の瞳のエルフはセピア色に褪せた懐かしい写真を眺めるような気持ちであった。
「どうやら"混沌の我が君"は、この聖杯戦争への助力を惜しまないらしい。こいつは……」
とんでもないサーヴァントを引き当てたようだが……。
しかしまだそのサーヴァントは姿を現さない。
「ぬ?」
男の視界の色彩が軋む。
それは精神錯乱や麻薬による恐ろしい幻想の中でも出来ない体験だろう。
一端の魔術師でも精神失調をきたすがこの男は平然と立っている。
とうとう正体を現れたサーヴァント。
『……ッ、お前は何者だ!?』
皮脂のこびりついた金髪と、ブルーの瞳だ。少し充血しているが、奇妙なくらい鋭く爛々と輝く。狂信者特有の不気味な光を帯びている。
どのようなナリをしていたかについては殆ど文字にする事ができない。
ただ清潔感の欠如といったら、いいようもないほどだった。
「そんなもの……とうに見飽きた風景。それに嫌気がさして私は故郷を出、異境を旅している故」
『……ッ!だが、我が使えるのはただ一神のみ。断じて貴様ではない!』
「では、これを見てもか?我がサーヴァントよ。いや……これからは同朋〈とも〉と呼ばせてくれ」
キャスターが視線が受け止めたのは、彼の右腕に嵌められたら腕輪の宝玉。深緑色の猫目石だった。だが、それは────
「────我が名はラゼェル・ラファルガー。今は肩書きも何もない。ただの根無し草」
猫目石が煌めき、生あるもののようにびくつき、瞬く、躍らせる。
それは眼だ。本当に生きている眼球だ。
その正体が何なのか即座にキャスターは看破した。
それは令呪よりも強く重い。己が主〈マスター〉よりも崇拝し愛しむ存在。
そしてこのサーヴァントのマスターに相応しい証でもあった。
『それ……本物?』
「まさしく。それとも真贋を見誤るほど貴様の眸は腐っているのか!?」
突如右手が閃いて曲刀が現れる。
あからさまな怒気を面に出した。なんと、この男は返答次第ではすぐさま相手が自分のサーヴァントでも首を跳ねる気でいる。
『……なんと!』
そのサーヴァントは驚嘆と畏敬とを等しくひきおこす。
キャスターは跪いた。
『ご無礼を……お許し下さい!おおお……おおおおおっ!』
サーヴァントは突如泣き出した。
『僕……愛想尽かされたと……あぁ……これは奇跡だ……神はまだ見捨ててはいない……』
『エグッ……真名はグスッ……黒のヴェルハディスと……申します……グスッ』
掌の曲刀が消え失せると膝を着いたままぐずるサーヴァントにラゼェルは肩に手を置く。
「解ったから……もう泣くな、キャスター。お主もよくぞ参った。この神楽の狩場へ……ところでお主、クラスは一体何なんだ?よくわからん」
『……え?クラスは魔術師〈キャスター〉のはずですが……あれ?』
「キャスター?それはおかしい」
『まあ、クラスなど、どうとでも御座いません────グスッだって僕には……』
キャスターの背後の空間が波立ち、膨れ上がる。
『────ほぉ~ら。おいで、おいで、おいで~~この人恐くないから』
キャスターは闇の彼方へ手招きする。
漆黒を背景に蠢動する塊。
未知の燐光に照らされながら、中から折り畳まれていた蛇腹の胴体が反り返り現れる。
ガラスを引っ掻くような厭〈いや〉な音。
キリキリと打ち鳴らす顎。バスケットボールほどの複眼。眼で数えきれないほどのドス黒い触肢が蜿蜒と続く。
まるで鋼みたいに艶光る甲虫ような物が目の前に現れ出ただ。
その口がゆっくりと左右に開いて、不潔な半透明の汁が泥のように流れ出る。
それは見たものを骨の髄まで凍るような凶々しさがこもった悍しいシロモノだった。
『この可愛い可愛いルルハリルに一度憑かれれば、世界の果て、輪廻の届く限り追従し、如何なる者、たとえそれが最速の英霊だろうとも逃げおおせはしない、決して!何を恐れる事がありましょう、我が主よ』
「ほう。それはそれは頼もしい……」
その一匹の獣を品定めするように眺める。
『ラゼェル様。きっと満足な結果を差し上げられるでしょう……いや、それ以上!逃げ惑う贄たる者どもの阿鼻叫喚を我らが神が御覧ずることこそが我らの務め!!!!』
「その通りだ!キャスター!」
右腕を突き上げた。
「この素晴らしい贈り物〈ギフト〉を贈りたもうた"混沌の君"に満腔の感謝を!」
「 eia! ia! Gurgaia! evnーshubーghu Varazaia! 」
同じくキャスターも狂おしい章句を復誦する。
満面の笑みで一人と一騎が吠え謳〈うた〉う。その口から吐き出される言語は、他のだれにも理解できないだろう。
この孤高の伝道師ラゼェル・ラファルガーの右腕に潜む深緑色の神の隻眼。その眼光が忠実なる使徒たちの因果を超えた奇跡の出会いに無言の祝福をもって見届けていることだろう。
────彼等は混沌に魅入られた者。
────彼等は混沌の諸神を讃えし者。
────彼等は混沌の諸神を崇めし者。
────彼等は邪悪さを包み隠すことはない。
────ただ貢ぐのみ。この世界が灰燼に帰すさまを。生きとし生けるもの全てが潰えるさまを。一人でも多く、より凄惨に、そしてやがては一人遺さず余さず!
今ここに原初の恐怖の幕を開く。
千代の歴史に栄えた総ての英霊たちよ、絶望しろ!そして恐怖の悲鳴を上げろ!
全てを殺し、穢し、焼き尽くす。陽光に栄える者共に、闇の怨嗟を知らしめよう!
いざ、混沌の神を喜悦せしめる賛歌を奏でよう!
────そして彼等に"混沌の君"の加護が在らんことを……。
「我らの格好は目立つから今から衣装を見繕いに行く、お前も来い」
『え?』
「矢の当たらない所に居ては、矢を
当てられぬ。行くぞ、ヴァルハディス!ここから出るぞ!」
『えええええええ!?』
嫌がるキャスターの女々しい去声がこの始原領域都市に木霊した。
▲▲▲▲▲
【出典】クトゥルフ神話『万能溶解液・錬金術師エノイクラの物語』
【SAESS】 キャスター【身長】187cm【体重】78kg
【性別】男性
【真名】ヴェルハディス
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷EX 魔力A+++ 幸運B 宝具EX
【クラス別スキル】
召喚術:A
深淵の国から猟犬や隷を喚起・召集するスキル。
気配遮断:EX
キャスターは異空間に神殿を構えているため、この世界には存在しない。よって探知は不可能。
しかし、マスターが外に出ると外界から干渉もマスターからの魔力供給もできないため、聖杯を獲得するためにはキャスターも神殿から出なければならない。
【保有スキル】
二重召喚:B
ダブルサモン。
二つのクラス別スキルを保有する事が出来る。
ヴェルハディスはキャスターとアサシンの特性を併せ持つ。
信仰の加護:A+++
邪神に殉じた者のみ持つスキル。
精神耐性と呪いの耐性。A+ランク相当の精神汚染を有する。
邪授の智恵:A+
深淵の神々の智恵に触れ、たどり着いた秘伝中の秘伝。
魔術師クラスの様々なスキルをA~Bランクの習熟度で発揮可能。特にこのキャスターは肉体・精神操作、夢魔による悪夢、空間転移などに長けている。
【宝具】
『始原領域都市〈ジレルストーン・サークル〉』
ランク:C 種別:対界宝具 レンジ:自身 最大補足:1~
陣地作成スキルによって造られた異界に構えた魔術神殿。中には拷問部屋・実験室・マスターとの居住スペース・書庫・使役する隷の格納庫など。
『断罪し律する螺旋■■■■〈ルルハリル〉』
ランク:EX 種別:? レンジ:∞ 最大補足:一人
キャスターの命令のみ従う一頭の魔獣。キャスターが消滅しても現界し続けて命令を遂行する■■■■。ただし一度定めた標的の変更はできない。
撃退するには同じ深淵の神々の智恵が必要である。
【保有スキル】
ストーキング:EX
キャスターが目視した標的を空間を転移しながら、15次元を行き来し、捕食するまで永久的に追跡する。標的は一度に一人まで。 決して逃げられはしない。
神殺し:A+
神性・霊体にプラス補正を与える。サーヴァントも例外ではない。
変容:A+++
その注射針のような長い舌はサーヴァントでも治癒不可能の傷を与える。
人間がこれで傷を負うと幸運判定を行い、失敗すると混血種に変異して、キャスターの隷〈ドール〉となる。変異すると生物から逸脱し、三次元と超次元の狭間に幽閉され、普通の人間には目視出来ない霊体化した存在となる。
『もがき苦しむ面妖な隷〈ドールズ・オブ・リビングデッド〉』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:数に応じて 最大補足:一体につき三人
ルルハリルで負傷した人間が変異した疑似サーヴァント体。
単独行動:Eランク相当を所持するアンデッド・ゴースト。
ちなみにこの隷はルルハリルの通る穴となる。
ラゼェルの操躯兵は魂がないため、転化されず、隷も操躯兵には加工出来ない。
真名解放時は始原領域都市に閉じ込めた対象を大量の隷で圧殺する。
【 weapon 】
サーヴァントをしとめる猟犬。
隷に傷をおわされた者はまた隷となる。
対象の肉体を変化させる呪いや自身やマスターを空間転送させる事が出来る。
【人物背景】
遥か太古の昔……世界から排除されたある大陸の魔術師、その末裔。
人ならざる探求心と努力と勇気で深淵の神々にたどり着いた数少ない一人。
しかし、その結果は実らず地下組織の権力闘争に敗れ、伏した悲運の魔術師。
引きこもり体質。ビビりですぐ泣く。荒事には向かない性格。
事実生前ルルハリルを用いた暗殺も失敗している。
【サーヴァントとしての願い】
深淵への探求。
マスターの指示に従う。
戦いでは穴熊を決めたい。
でも、マスターがそれを許してくれない。
【出展】白貌の伝道師
【マスター】ラゼェル・ラファルガー
【人物背景】
地下世界の都市"深淵宮"統べるダークエルフでラファルガー家の出身。伝説の龍殺しにして骸繰りの匠。
儀式的殺戮を取り仕切る祀将であったが、地下世界に引きこもり権力闘争に明け暮れる同族を嫌悪し、グルガイア神像の片目を持ち去り出盆。
その後は混沌の神・グルガイアにただ捧げるためだけに流浪の殺戮を往く邪教の信奉者となった。
御伽噺の伝説となったその名は白貌の伝道師────混沌の闘士〈カオス・チャンピオン〉
【 weapon 】
『龍骸装』
これらは全て白銀龍の骸から造られた武具・魔導兵器である。
龍の第六肋骨を削りだした曲刀。
刀身には"鋭化""硬化""震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全長二十フィート余りだが、状況に応じて自在に収縮する。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。
白銀龍の肺胞。
超高温を帯びた金属すら融解させる瘴気の息吹を解き放つ。それは直撃せずとも骨まで腐らせる致死性の猛毒。
封印解除から発射まで約100秒を要する。
鱗で作られ、一撃のもとに必殺する。
鬣を編み上げられて作られ、同じ龍骸装を阻める防具。
いずれも鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者は、全て混沌神グルガイアに献上される。
『バイラリナ』
ハーフエルフの少女の死体から造られた操躯兵。
身の丈以上の"嘆きの鉈"を手に最大効率の手際で虐殺を遂行する。
キャスターの護衛も兼ねる。
【能力・技能】
コープスハンドラー。
元の死体の戦闘力をそのままに使役する秘奥の技。
生前の思考力をそのままに、自我・欲望・感情を剥落させた生体機械。
死体に魔力を充填されればあらゆる負傷を治癒させる。
断じてゾンビではない。
芸術の域にまで洗練されたダークエルフ流の肉体解体術。
【マスターとしての願い】
ここ冬木の人間すべてと英霊たちを混沌神グルガイアに捧げることそれのみ。
【方針】
英霊・人間、皆殺しに全身全霊を捧げる。
最終更新:2017年06月21日 12:26