Snake Eater

 越えてはならないライン、と言うものがある。
洋の東西であるとか、古今東西とかそう言うのを問わず、このラインと呼ばれるものは確実に存在する。
このラインの先に広がっているのが、奈落の谷底に繋がる崖であるとか、溶岩の中だとか、荒れて時化ている海原だと言うのなら、越えてはならない、
と言う言葉は使われない。そう言った所に繋がっているのであれば、其処に人が飛び込んだとて、所詮は自殺と言う結果に終わるに過ぎないからだ。

 越えてはならないライン、そう呼ばれる所以は、その線の先に広がるものが『侵害してはならない大権』であるからだ。
人間であるのならば、財産の所有権であったり、己の魂に触れるレベルの秘匿するべきタブー。神にあっては、己の存在を成す既得権。
越えてはならない、と言われる訳は、単純に越えたら自分が死ぬから、と言う事よりも、越えた先に君臨する誰かの怒りを大きく買ってしまうからなのだ。
既得権やタブーを掻き乱されて激憤するのは、人も神も同じ事。ただ自分だけがひっそりと死ぬのなら、誰も越えては云々、等とは言わないのだ。
越えた瞬間、殺し合いが起る。迷惑が、掛かる。それが火を見るより明らかであるからこそ、越えてはならないと言われるのだ。『己の欲さざる所、人に施す事なかれ』、の精神と言う訳だ。

 ――それを、僕は、自分のマスターに説明したんだけどなぁ。

「何で、昔出来た事が俺に対しては出来ないんだ?」

 心底疑問気な顔付きで、僕の目の前にいる少年が口にする。
勉強の出来ない教え子に対して向けてた、「こんな簡単な問題が、どうして解らないんだろう」と言う心境が見て取れる、ケイローン先生の顔つきを僕は思い出す。

「さっきも言ったろう? 僕はもう、死者を眠りから目覚めさせる事を止めたんだ。だけどそれ以上に……」

「それ以上に?」

「今の僕は死人を蘇らせられないんだよね。ホラ、サーヴァントだし……何よりも、ランサーだし?」

 アッハッハ、と笑いながら僕は、白い蛇が巻き付いた意匠の杖――これが槍に見えるんだから、根幹のシステムがガバガバだなぁ――を見せびらかす。
キャスターの時の僕であるのならば、生前アテナ様から賜った、死者の蘇生の秘儀をも可能とするゴルゴーンの血液があったのだろうが、ランサークラスではそれがない。
そもそも、サーヴァントとして格落ちされた僕では、死者蘇生何て夢のまた夢。つまり僕は、幸運にも越えちゃいけないラインを越えてしまう事は、間違っても無い訳だ。あぁ安心。

 そんな僕の態度を見て、目の前の少年――もとい、僕のマスターに当たる少年は、心底歯痒そうな表情で、僕を睨みつけて来る。
少し、胸が痛んだ。無論、この子供の威圧に気圧された訳ではない。こんな年端も行かない子供に、堂に入った殺意と殺気をぶつけられてしまった、と言う事実。
そして何よりも、そんな物を醸し出せるまでに至った、少年の足跡に。僕は、哀しみにも、同情にも似た思いを抱いていた。

「役立たずめ」

「そうだね。君は賢い。荒事もダメ、死者蘇生もダメ。何処にでもいる、人を治す事だけは人並みのお医者さんが、この僕『アスクレピオス』さ」

 ジロリ、と、目の前の少年は僕を睨みつける。変わらず、殺意は放たれ続けていた。

「ギリシャ神話における医療の神、現代では医学の象徴とも言うべき男……いや、『女』? そんな奴が、人並みか……。謙遜過ぎて嫌な奴だな最早」

「いやいや、遜る事も重要な処世術なんだよ。後、性別の事はあんまり口にしないでくれないかな。僕自身、凹むんだ……」

 と言って僕は、心底深い溜息を吐いた後に僕は、近場にあった姿見に映る自身の姿を見てみる。
白味がかった銀髪のロングヘアが眩しい、白磁のように白く艶やかな肌の美女がいる。
白衣を着流し、その下に白いカッターシャツ、タイトな黒いズボンを着こなす、眼鏡の女性。それが、この僕だ。生物学上の性別は男である、アスクレピオスだ。

 ゼウス様の雷霆から逃れようと、女性に性転換したのが行けなかった。その時の姿のまま、僕は座へと登録されてしまったのである。
自分の性転換した姿だと理解していても、その顔つきは僕から見ても美しかったし、無駄に大きなその巨乳は、ゼウス様の趣味を突く為に無理やり盛ったそれである。
完全完璧な自業自得だったとはいえ、サーヴァントの時はこの姿のまま固定化、しかも無駄に女性的魅力に溢れた今の姿で、この冬木で振る舞わねばならぬと思うと、
発狂しそうになる。何度だって言おう。僕は、男だ。男なんだ!! 男なんだよ!!

「フン……俺の旅路もこれで終わると思ってたのに……。結局、不甲斐ないサーヴァントのせいで、聖杯とやらを手にしなくちゃならない訳、か」

 そう言って少年は、平然とした様子でそんな言葉を紡ぐが、僕には解る。
心の奥底で、途方もない程の失望と落胆、そして哀しみを抱いている事が。そして、それらの感情が全て、僕の無力から来ているそれであると言う事も。

「死人を蘇らせて、なんとする? 少年」

 ちょっと苦手だけど、威圧感と威厳たっぷりに、僕はマスターに問い質す。

「お説教は聞きたくないね。ランサーの力に頼らず、お前が呼び出された本来の理由に則って蘇らせる。それなら、文句はないだろう?」

「君は、僕が何を司る存在なのかは解っているだろう。司る、と言う言い方は大上段な言い方で好きじゃないが、今回ばかりは、一人の医者として聞かせて貰う。死人をその眠りから起こして、何をするんだ君は」

「俺の運命を変える為だ」

「定め、か。僕らの時代でも、神意を変えるのは容易な事ではなかった。だが、やり方と言うものがあるだろう。死人を蘇らせてまで、変えたい運命があるとは、僕には思えない」

「家族と妹が、死んだんだ」

「他人事に聞こえたらすまないが、悲しい事だと思う。だけど、君にはそれを乗り越えるだけの強さがあるように、僕には見える」

「父さんが母さんの不倫相手を殺して、一緒に小さかった妹を殺したんだ」

 なれない威勢を張っていた僕だったが、その威勢が一気に雲散霧消した。
マスターの体験が、壮絶を極るものであったと言う事も勿論だ。だがそれ以上に、それだけの体験を経ながら、次の季節の変わり目に、
前の季節に起こった何でもない出来事を淡々と口にするような口ぶりで、僕に過去を語るそのマスターに、僕は驚いていたのだ。

 この国の人間にしては珍しい、ブロンドがかった麦色の髪が特徴的な、僕の目から見てもそうだと判断しても良い程の美少年だった。
十年後にはさぞや、様々な女性を誑し込むに足る、僕の父親さながらの美青年になるだろう。それは、保証しても良い。
だが、服装が珍奇だった。黒いマントを羽織り、その下にも黒い衣服。すっぽりと少年の身体に収まるシャツと、僕のものより動きやすそうなズボン。
革紐を編んで作ったブーツに、鞘に納めた小さなナイフのぶら下がる、腰のあたりの革バンド。
だが何よりも特徴的なのは、その杖か。僕のそれとは意匠が違うのは勿論だが、僕の目を引いたのは、杖の先端部に取り付けられた、宝玉(オーブ)だ。
宝玉は、最初は赤い色をしているのだが、次には薄緑色に、次には蒼く、そして次は琥珀色になり、そして最初の赤色に戻る。
一目見ただけで解った。これ自体が、途方もない魔力の集積体である事に。僕らのいた時代でも珍しい、まさに神に捧げる供物足り得る程の逸品である。
とてもではないが、彼の様な、魔術を行使するのに必要な回路の一本も持たない少年が持っていて良い代物ではない。
彼は恐らく、後天的に魔術師……に似た何かになったのだろう。そして、そうなるに至った理由こそが……彼の言う、運命、なのだろう。

「俺も、殺される予定だったらしいんだ。何かの偶然で、生き残ったけどな」

 皮肉気な笑みを浮かべて強がるが、それが、あまりにも見ていられなかった。 
僕の目には今のマスターは、他人から殴られ、斬られ、刺され、傷だらけになりながらも笑みを浮かべてなんて事ない顔して人を安心させようとする、一人の子供にしか見えなかった。

「人並みの家族、人並みの団欒、人並みの……幸福。そんなもの、俺にとってはなかった。気付いた時には、もう、自分の手から抜け落ちていた」

「それを、取り戻したいのかい、マスター」

 僕の言葉を聞いたマスターは、懐から一枚のカードを取り出す。
今回の聖杯戦争に参戦する為の資格であると言う、星座のカード。其処には、『へびつかい座』……つまりは、僕の星が刻まれていた。

「聡明なお前の事だ。死者を蘇らせば、運命が変わると思っている俺の事を、子供の発想だと笑うだろう。だがそれでも、蘇らせたい死者がいて、それで変わる運命があると俺は信じてるんだ」

 へびつかい座の星座を眺めるようにしながら、マスターは言葉を淡々と紡ぐ。

「……家族全員は無理でも、せめて、妹だけは、現世に呼び戻したい。アイツは本当に小さかった。自分の身に何が起こったのか、何で死ななくちゃいけなかったのかも解らなかっただろうからな」

 そこで、マスターは……『芦川美鶴』と言う名の、少年の姿をした戦士は、親の仇でも見る様な目つきで僕を睨みつけて、口を開く。

「死者を蘇らせて、大それた事をする訳じゃない。ただ、マイナスの幸福を、ゼロにまで戻すだけだ。それの、何が悪い。悪でもない、善でもない。たった一人の女の子を蘇らせる事が、罪なのか。ランサー!!」

「罪だね」

 それでも、僕は無慈悲にならねばならなかった。
ミツル少年の願いが尊いものだとは解っていても、これだけは、僕は曲げてはならない。
真っ向から即座に、自分の問いが間違っていると告げられたミツル少年は、普段の利発そうな態度が嘘のように、ポカンとした表情を隠せていなかった。

「ゼウス様もハデス様も、この世界にはいないし、当の昔にあの方々は世界の裏側にお隠れになってしまった。そんな世界で、死者蘇生の儀を成しても、僕にお咎めはないのかもしれない。君にも、嘗て僕が受けた様な罰を受ける事もないだろうね。だがそれでも、死者を蘇らせるのは駄目なのさ」

「何でだよ……。医者は、人を癒して治すのが仕事だろ!!」

「死者を蘇らせる事は、最早医者の仕事ではないからさ」

 ミツル少年の言葉に、またも僕は即答する。

「死人を蘇らせる事は、医術の究極点の一つ。嘗て僕の他にも、そんな境地に至った者は確かにいた事だろう。だがそれでも、この境地に至れる誰もが、死者の蘇生だけは決して行わなかったし、行ったとしても相応の報いを受けた。何故だか解るかい?」

「お前の言葉を借りるなら、冥府の神の大権を傷付ける行為だから、か?」

「勿論それも大きな理由の一つだが、それだけでは半分の五十点。其処にもう二つ、理由が加わる」

「それは?」

「一つ。不老でない者が不死を得たとて、幸福になれる筈がないからさ。人は短命だからこそ意味がある。人を蘇らせる事は、その意味を損なう事に等しい」

 「そして、もう一つ」

「『蘇生された人間は、蘇らせた人間の奴隷になってしまう事さ』」

「俺は、妹を奴隷になんかしない」

「ミツル。君がそうは思っても、妹はどう思うのだろうね。君に蘇らせて貰ったと知れば、妹は君についてどう思う? 感謝してもし足りない人間、そう思うだろう」

「それのなにが悪い」

「借金を肩代わりして貰った、怪我を治して貰った。そうする事で、生まれる感謝とは違うからさ。これらは人間の君達にも出来る事柄だが、死者の蘇生は奇跡だ。しかも、人間達には絶対成し得ない、ね」

 今度は僕が、ミツル少年に鋭い目つきを送る番だった。

「そんな奇跡を意図的に引き起こして得られた感謝、どうやって返せると思う? 況して君の妹は、あまりにも理不尽な理由で殺されたと言う。普通の人生では先ず返し切れない大恩だね」

「……」

「一生を掛かって、君の妹は、君に恩を返そうとするだろう。一生を、君に蘇らせて貰ったと言う負い目と引け目を背負って生きる事になるだろう。もう、解っただろう? 蘇らせた君の妹は、一生君の『運命の奴隷』になる。人として生まれながら、一生君に行動を、運命を掌握された、自由のない婢になる」

 其処まで言ってから僕は、一呼吸を置いて、とどめの一言を言い放つ。

「今一度言おう。それでも君は、死人を――」

「蘇らせるに決まってるだろ」

 僕が全てを言い切る前に、ミツル少年は、僕の言葉尻を奪い、遮るように即答。
負い目もない、全てを気負ったような強い言葉に、心底情けない話だが、僕の方が気圧される程だった。

「お前の言う通り、俺に一生を捧げるように妹がなってしまうかも知れない。だが、俺はそんな真似は許さないし……何よりも、『死んでいるよりは、生きている方が良い』。妹は、そんな境地に至るよりも早く、亡くなった。……もっと楽しい事も苦しい事も、理解する事もなく、だ」

 死んでいるよりは、生きていた方が良い。そう、それは世の摂理である。死んでしまえば、現世での不幸も、幸福も享受する事が出来なくなるのだから。
僕は、生前も、神の座に祀り上げられても、怪我や病と戦って来た。死の国の使者と格闘し続ける患者達に、癒しの光明で照らして来た。
僕が寝る間も惜しみ、休む時間も最小限に、傷病に苦しむ人々を助けて来たのは、ひとえに、死の悲しみから彼らを救いたいと言うその一心だけだった。
しかしそれでも、人は死ぬ。僕の医術が及ばない時も、そして、治ったとしても、また別の怪我や病で。どうしようもなく彼らは逝ってしまうのだ。
そして、周囲に悲しみを振り撒いて、ハデス様の懐に戻って行く。それが、あるべき自然の摂理。捻じ曲げてはならない神の法則である。

 神は元より、あらゆる超自然的な者達が世界の裏側に隠れたこの世界で、死者の蘇生……況して、異なる神の薫陶を受けた、聖杯なる代物で、
これを成そうとすれば、どうなるのか。僕自身にですら、それはよく解らない。ひょっとしたら、ミツル少年の成そうとしている事の方が、正しい結果になるのかも知れない。

「俺がやろうとしている事を、間違いと思うのなら構わない。だが、サーヴァントとして呼ばれたのなら、その責務は果たして貰うぞ、ランサー。俺のやろうとしている事に、お前は関係なかった。だから、お前が咎めを受ける必要性もない。それで、良いだろ」

「……解った。僕は君のサーヴァントだからね。それなりの分別は、つけるつもり、さ」

 だが、一つだけ、僕の頭でも理解出来る事があった。
死者の蘇生がこの世界で正しい事なのかは解らないが、ミツル少年のこれからの運命の旅路は、きっと、間違っている上に、過酷な物である事が。
僕の瞳には――芦川美鶴と言う少年は、傷だらけになりながら、泣くのを必死に堪えている、孤独で、哀れで、死にたがりな……。
僕が、一番無視出来ないタイプの病人にしか、映っていなかったから。きっと僕は、こんな彼を見棄てはしないのだろう、出来ないのだろうと。己のお人好しさに、辟易した。




【クラス】ランサー
【真名】アスクレピオス
【出典】ギリシャ神話
【性別】女
【身長・体重】173cm、57kg
【属性】
【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A+ 宝具:A

【クラス別スキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】

医術:A+++
神の領域にまで達した、医療の神の名に相応しいレベルの医術・魔術を保有。
復活等最早望めない程の重傷、及び人体の欠損ですら、このレベルであるのならば十全の状態まで即座に回復させる事が出来る。
人間だけでなく、サーヴァントにしても、それは同じ。この医療技術は、ランサー自身にも適用可能。
但し、過去に自分が死んだ原因ともなった、死者蘇生の技術は封印されており、その影響で規格外であった医術のスキルランクが微量ではあるが低下している。

人体理解:EX
人体、その理を完璧に理解している者。治癒系のスキルや魔術に、極めて有利な補正を掛ける事が出来る。
相手の急所を完璧に狙う事が可能となり、攻撃時のダメージにプラスの効果を与え、逆に自分に放たれた攻撃についてはそのダメージ量を低下させる事が可能。
ギリシャ世界に名高い大英雄達の大賢者・ケイローンから医術の手ほどきを受け、かつ自分でも多くの人間を救って来たランサーの人体理解スキルのランクは、規格外の値を誇る。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
太陽神アポロンの息子であり、死後神に迎えられたアスクレピオスの神霊適性は最高クラス。

事象の星:EX
一つの技術の象徴となった英雄に与えられる特殊スキル。 象徴となった技術を用いた判定を行う場合、その判定の成功を確約する。
ランサーの場合は医術であり、如何な重傷や呪いであろうとも、彼女が治療に及べば完治が約束される。但し、死者の蘇生だけは不可能であるし、仮に出来たとしても生前の最期から行う事はない。

【宝具】

『人よ、癒されて清らかにあれ(フォールス・ケリュケイオン・タイプ・アスクレピオス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1
ランサーが保有する、時としてヘルメス神が有する神杖・ケリュケイオン(カドゥケウス)と同一視される事もある杖。
実際には彼の神杖と、ランサーの保有するこの宝具は別物であるのだが、死後神の座に祀り上げられた際に、生前から持っていたこの杖の性能も向上。
結果として、ケリュケイオンに肉薄する性能にまで至ってしまった、と言うのが、この宝具の真相である。
この宝具は触れるだけで、所持者及び接触者に凄まじい回復効果を与える杖で、更に此処にランサーが魔力を込める事で、治癒性の光を放ち、
レンジ内及び、光を照射された遠方の者の傷を一瞬で回復させてしまう効果を持つ。そしてこれが、この宝具の第一の効果。
一見すると攻撃には全く向かないこの宝具の第二の効果は、相手に何の前触れもなく障害を確約させると言う効果。
ランサーはこの宝具の効果を『反転』させる事で、生命を治癒させる力を、生命を傷害させる力に変更させられる。
こうする事で、触れるだけで重傷を完治させる杖が、触れるだけで何らかの重傷を与える魔杖になり、浴びるだけで人体の欠損が時間の逆回しの如く完治させる杖が、
浴びるだけで何の前触れもなく四肢を身体から激痛の後に分離させる悪魔の杖へと変貌してしまう。勿論、その様な恐るべき杖になっている間、この宝具の持ち主であるランサーは全くその杖の影響を受ける事はない。

【weapon】

人よ、癒されて清らかにあれ:
宝具欄にもある聖杖。ランサーの身長程もある、凸凹とした古木に、白い蛇が巻き付いた様な意匠の凝らされた杖。
キャスターとしての召喚を許されないアスクレピオスだが、無理くり他クラスで呼べないか呼べないかと判断した聖杯戦争のシステムが、
「そうだ、この杖は槍っぽいからランサーで呼ぼうじゃん!!」と言うクソみてーな解釈をした結果、彼女はランサーで召喚された。
要するに今のクラスで呼ばれるに至った元凶。なお、ランサー曰く持ち難いデザインで、そんなに好きじゃないらしい。

【解説】

ギリシャ神話における最大の医者にして、死後へびつかい座として祀り上げられ、神の一柱として迎え入れられた人物。
太陽神アポロンと、人間の娘コロニスとの間に生まれた半神の人間で、アポロンの寵愛を受けていながら人間の男と浮気してしまっていたコロニスに、
激怒したアポロンが妹神であるアルテミスに制裁を依頼。アルテミスの矢を受けコロニスは亡くなるも、アポロンは美しく、愛らしかったコロニスに未練タラタラ。
制裁した後で、今更逸って殺してしまった事を後悔。せめてもの罪滅ぼしにと、コロニスの腹の中にいた子供だけはせめて救わねばと考えた。
その子供こそ、アスクレピオスだった。当時赤子であった彼は、アポロンの計らいで、大賢者ケイローンのもとに養子として預けられた。
彼の賢者の下で愛を以って育てられ、また狩猟の術を学んだアスクレピオスだったが、それ以上に薬学や医術に対して、ケイローンですら舌を巻く天稟を見せた。
その才能を買われ、イアソン率いるアルゴナウタイにも参加し、幾度もイアソンやヘラクレスらをサポート。
アルゴナウタイを終えた彼は、磨かれた医術を以ってギリシャ世界に名高い名医として、その名を轟かせていたが、ある日、叔母であり、
自分の母を殺した直接の原因であるアルテミスがやって来て、「お母さんの事は謝るし後でお礼もするからこの人蘇らせて!!」と、
お気に入りの人間であるヒッポリュテスの死体を見せて懇願。死者の蘇生は、冥府の大神ハデスの大権をも揺るがす赦されざる行為だとは理解しつつも、
叔母の必死さと、何よりも、嘗て死にゆく命だった自分を助けてくれた父神アポロンへの尊敬の念、何よりも、自分が医者として行動する原理は、
『病と怪我に苦しむ人間を救いたい』と言う思いであった事を思い出し、掟を破る行いだと知りつつも、アルテミスの嘆願を受け入れ、ヒッポリュテスを蘇生させる。
死者蘇生など行って無事に済む筈がないと予測していたアスクレピオスだったが、当然無事に済む筈がなく。ハデスは、冥府の住人であるところの死者を蘇らされた事で、
『己の権利を侵害された』と認識。弟であり主神であるゼウスに猛抗議を行い、事の重大さを理解したゼウスは、己の稲妻でアスクレピオスを制裁、焼き殺してしまう。
とは言え、生前のアスクレピオスの人格が善良だった事と、アポロンの息子と言う事実、そしてアルテミスのフォローの甲斐もあり、タルタロス堕ちだけは回避。
ゼウスはアスクレピオスをへびつかい座、つまり神の一柱として彼を迎え入れ、医術の神として恥かしくない働きぶりを見せるよう、彼に命令するのだった。

本来アスクレピオスは、どの文献を紐解いても、男性として伝えられている存在である。
それなのに女の姿をしているのは、Fate特有の「実は女性でしたーw」ではなく、アスクレピオス自身は元を正せばれっきとした男性。
聡明なアスクレピオスは、死者を蘇らせてしまった事でこの後下される裁きを認識しており、そしてこれはどう足掻いても防ぎようがない事も承知していた。
しかしそれでも生きたかった彼は、何とかならないものかと必死に考え――辿り着いた方策が、人間達にも知られる程の『ゼウスの好色漢』を利用する事だった。
とは言えゼウスの御眼鏡に叶う女性を今から探すのは現実的ではなく。そこで取った方法が、類稀なる美貌を誇るアポロンと、美しい娘であったコロニスとの子と言う、
これで美しい人間に育たなきゃおかしいだろと言う程の美形に育った自分が女性になる事だった。つまり、己の医術で現代で言う『性転換』を行ったのである。
アスクレピオスの目論見通り、TSした彼は滅茶苦茶な美女になり、一度はゼウスも、彼女の美しさに絆され雷霆をしまいこもうとするが、隣にいた兄ハデスと、
ハデス以上に殺意の籠った目線でこっちを睨みつける妻・ヘラが見張っていたので、やむなく神罰執行。女体化の甲斐なく、アスクレピオスは殺されてしまったのだった。

死後神の座に祀り上げられているアスクレピオスは、当然神霊としての姿で、聖杯戦争に召喚する事は不可能。
必然的に、半神の医者として活動していた生前の全盛期での召喚になるが、彼女は死ぬ寸前の若々しい時の姿が全盛期であった事、何よりも、
死んだ時の姿が女性であった為に女性として英霊の座に登録されてしまった。これには流石の彼女も、こんな事なら変に足掻かなければ良かったと後悔している。
神話の中でのエピソードの通り、公正明大で非常に心優しく、まさに人格者の見本のような性格。生前の行いから、死者の蘇生だけは絶対にやらないし、
夢見てもならないと言う考えを持つ。ちなみに、本来のアスクレピオスのスペックを十全に発揮出来るクラスはキャスターであり、
もしもこのクラスで召喚されていれば高ランクの道具作成や陣地作成スキル、そして宝具として女神アテナから譲り受けた怪物・ゴルゴーンの血液を所有していた筈だった。
だが、キャスターで召喚されると死者の蘇生が可能となってしまうので、神霊達、何よりもアスクレピオス自身の強い要望で、敢えて実力の劣るランサークラスで召喚されている。

【特徴】

白味がかった銀髪のロングヘアが眩しい、白磁のように白く艶やかな肌の、クール系の美女。
白衣を着流し、その下に白いカッターシャツ、タイトな黒いズボンを纏う、眼鏡の女性。
ゼウス本人の好みの女性を彼なりに考えた結果、胸を大きめに盛り、腰も括れさせ、足もスラッとさせるなど、女性的な美を強調させてしまった。

【聖杯にかける願い】

ない。だが、マスターであるミツルを、正しい方向に導いてやりたい




【マスター】

芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー(原作小説版)

【マスターとしての願い】

己の家族、もしくは、若くしてその命を散らした妹の蘇生。

【weapon】

杖:
現世の人間が、幻界を旅する旅人になる際に与えられる武器。個々人によって与えられる武器は違い、ミツルの場合は杖になっている。
杖の先端に、赤、薄緑、蒼、琥珀の順に色がグラデーションして行く宝玉が嵌められており、この宝玉のおかげで、魔術回路を一本も持たぬ人間でありながら、サーヴァントに匹敵、或いはこれを上回る程の魔力をミツルは有するに至っている。

【能力・技能】

魔術:
幻界に移動した事によって開花した、魔術の才能。型月世界で言う所の魔術回路をミツルは一本も持っていないが、それでも魔術を発動出来る。
対軍規模の大嵐を引き起こしたり、ワープ、空中の飛行など、多岐に渡る魔術を習得している。また、召喚術にも長けており、バルバローネと呼ばれる怪物などを召喚可能。

【人物背景】

容姿端麗、成績優秀と、絵に描いた様な天才美少年。原作における主人公のライバル。
小学5年生の身でありながら、酷く諦観の匂いの漂う、厭世的な性格の少年。実母の不倫に激昂した実父が、無理心中と言わんばかりに母親と実の妹を殺害し、
居合わせた妻の不倫相手も殺害し、当の父親も海に飛び込んで自殺した、と言う壮絶な過去を持ち、これが暗い翳を心に落としている。
この悲愴な過去が原因で、彼の人生観は大きく捻じ曲がり、そればかりか親族からも腫物扱いされ、大学を出たばかりの若い叔母の元に送られてしまう。
過去に投身自殺を図ろうとした事もあり、それが原因で叔母の方も精神的に参ってしまっている。
ある時、偶然幻界を旅する旅人としての資格を得た美鶴は、自分の運命を変える為、そして妹の運命を変えるべく“魔導士・ミツル”として幻界を旅し始める。
主人公のワタルと違い、ミツルの旅は周囲の被害を顧みず、目的の達成の為なら周りの人間をも不幸にすると言う旅の方針を掲げている。

原作下巻の時間軸から参戦

【星座のカード】

『へびつかい座』

【方針】

聖杯の獲得。

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最終更新:2017年06月28日 22:50