生の価値、死の価値

「……自信を失うね、こりゃ」

 草臥れている。枯れている。そんな、老人めいた男であった。
 彼が今前にしているのは、彼自身の呼び出したサーヴァントが形成した"工房"だ。
 だが、一般的な魔術師が思う所の工房と、目の前に有るそれは全く異なったそれである。
 あくまでも工房のままで、ともすれば神殿以上もの防御力と攻撃力を兼ね備えた至大の城。
 この男は、一つの世界で限りなく最上位に近い腕前を持つ錬金術師であったが、その彼をして自信を失いそうな程、工房の主であるサーヴァントの力量は頭抜けていた。

 常にサーヴァントとの戦闘すら可能な域に調整されたホムンクルスや装置が動き回り、其処かしこに一撃必殺の対人地雷めいた罠が張り巡らされている。荒唐無稽とは言い難い、綿密な理論と打算の上に組み上げられた超絶の工房。男は其処に、やや呆れたような顔をしながら足を踏み入れていく。
 ……サーヴァントもサーヴァントなら、マスターもマスターだ。
 彼は教えられてもいないのに、張り巡らされた致死級の罠を一つたりとも作動させない。最初から知っているみたいに踏破し、潜り抜け、歩くペースを一瞬として落とさずに工房内部を進んでいく。極めに極め、研鑽に研鑽を重ねた術師の実力は伊達ではない。それこそサーヴァントとして喚ばれていても可笑しくない程の卓越した技を、彼は持っていた。その彼だからこそ、聖杯はこれほどの拠点を構築出来るような弩級の術師をあてがったのか。

「然し本当、何で俺なんだろうなあ」

 面倒臭そうに、右手で摘んだ星座のカードをひらひらと動かして。錬金術師は奥へ、奥へと踏み入っていく。


  ◇  ◇


「生きるってのは、しんどいよなあ」

 人の一生は、凡そ二十五億秒程度と言われている。
 閏年やその他諸般の条件を除き、端数を切り捨てた単純計算の値ではあるが、これを長いと思うか短いと思うかは人によって意見の分かれる所だろう。誰にでも等しく訪れる死の刻限。或いは、人間という生命体の一般的な限界値。それが、二十五億秒。正確には、二十五億と数千万秒。もっと言うなら此処から睡眠等の時間が差し引かれ、実質的な寿命はこれより何億秒か削られる事になる。
 そも、何故人は死を恐れるのか。死は、取り返しが付かないからである。
 仮に自分が死んだとして、周りの人間が努力する事でその結果を覆す事が出来るというのなら、誰も死など恐れないだろう。然し現実には、そうではない。死んだ人間は蘇らない。残された者達がどれだけ願い、祈っても、失われた命は絶対に帰ってこない。故にこそ人は死を恐れ、忌み、限られた生を至上のものとして尊ぶのだ。

 だが――世の中には時折、そのルールから外れた存在が現れる事がある。
 即ち、死なない人間。何百年を生きても老いる事がなく、永遠に心臓が鼓動を刻み続ける冗談のような人間が。
 この男は、ひとえに"それ"だった。先天ではなく後天、望まずして手に入れた永遠ではあるが、彼は既に五百年以上もの時間を生きている。ただ肉体が劣化しないだけには留まらない。たとえ腹に大穴を空けられても瞬時に癒え、恐らくは首をぶった切られても生命活動を続行出来る。正真正銘、不死身の男。人生の酸いも甘いも噛み分けたのはとうの昔。今や人の一生をしゃぶり尽くし、味すら感じなくなってしまった哀れな男。
 その名を、ヴァン・ホーエンハイムと言った。……奇しくも冬木が存在する世界の歴史では、彼と同じ名を持つ男の逸話が語り継がれている。"ある分野"の、第一人者として。

「一般的な価値観の持ち主からは、まず出て来ない台詞ですね。魔術師に限らず、ヒトは時間を欲する生き物だ。老いも衰えもせず永遠を生きられるというのなら、殆どの者は羨望を口にするでしょう。かく言う私も、嘗てはそれを追い求めていた身だ。人類を死や病といった苦しみから永遠に解放する――世に言う、"不老不死"の実現を」

 ホーエンハイムが零した独り言に相槌を打つのは、如何にも頭脳明晰そうな、碩学然とした長髪の青年である。
 美男子という言葉ではまず足りない、人体の黄金律と呼んでも誤りではないだろう精微な顔面に穏やかな笑みを浮かべるその右瞳には、ピジョンブラッドを思わせる鮮烈な赤薔薇の紋様が刻まれていた。一目で只者ではないと解るのは当然として、信心深い者が見たなら、神域の者がこの世に触覚を遣わしているのだと本気で錯覚すらしよう。彼は、それ程の男だった。これがあくまで人間由来の英霊であると、一体誰が信じられるだろうか。

「まあ、色々便利なのは否定しないよ。この身体じゃなきゃ出来なかった事、解き明かせなかった事、行けなかった場所、挙げ始めたらキリがない」
「でしょうね。無限の時間に不滅の肉体。その二つが揃えば、人界を味わい尽くすには十分過ぎる」
「でも、皆俺を置いて先に逝っちまうんだ。良くしてくれた奴も、友達も、皆。こいつが、かなり堪える」

 不死者は当然、"死"と言う普遍の道理から解脱して世界を歩む事が出来る。
 ただ不死者が生きる世界の方は、決してそれに合わせてくれない。生命の物差しはいつだって同じ長さだ。人は死ぬ、必ず死ぬ。無限を生きる者にはそれがないから、彼らは消えていく命を見送るしかない。出会った時には子供だった者も、いつの間にか皺だらけの爺婆になって、自分より先に死んでいく。
 人の生は孤独からは成り立たない。されど、不死人の生はいつも孤独だ。ホーエンハイムはそんな世界を数百、数千年と生きてきた。純粋に生きた年月ならば、この度彼が召喚した薔薇瞳の英霊よりも、ホーエンハイムの方が圧倒的に年上である。
 にも関わらず、薔薇の彼はまるで教師のようにホーエンハイムと語らっていた。人として生き、人として死んだ。その筈なのに、ホーエンハイムと同じ超越者の視点を持っている。寿命、余命。そうした軛に縛られない、余人では辿り着けない領域の"眼"を、彼は持っているのだった。

「では――貴方にとって生きる事は退屈だったのですか、ホーエンハイム?」
「まさか」

 生きる事は疲れる。
 無限の時間なんて碌なものじゃない。
 これまで散々ホーエンハイムはそう語ってきたし、事実今もそう思っている。
 それなのに、彼は己のサーヴァントの問い掛けに笑いながら首を振った。

「そりゃ、いつもいつでも楽しかった訳じゃない。いや、多分楽しくなかった時間の方が圧倒的に長いだろうな。目的もなく歩いていた時間が殆どで、目的を見出すまでに人の一生分の時間を何十回と無駄にした。散々な人生だったよ。何で俺がこんな目に、と思った事は多分何万回の域だ」

 ……仏陀曰く、"無間地獄に死はない。長寿は無間地獄の最大の苦しみなり"。
 ホーエンハイムの話を聞きながら、薔薇の錬金術師が思い出したのはそんな文句だった。彼は仏教徒ではなかったが、一度、東洋の仏僧と語らう機会があったのだ。その際に、上の言を聞かされた。初めてこれを耳にした時に抱いた感想は、素直に"恐ろしい"と言うものであった。死と言う終末がない、只生かされ続けると言う苦痛。成程確かに、これほど人間の心を取り返しの付かない形にへし折る刑罰はないだろうと感嘆すらしたのを覚えている。
 ヴァン・ホーエンハイムと言う男にとって、生は地獄だった。孤独と無価値に彩られた、永遠の旅路。然しホーエンハイムは、「けどな」と続ける。

「最近……って言っても十何年前か。生まれて初めて、"生きてて良かった"と思えるようになったんだよ」

 心の底からだ、嘘じゃない。語るホーエンハイムの瞳には、快晴の空を思わせる晴れやかさが有った。生の苦しみを論じていた時の鬱屈としたそれはいつしか消え失せ、幸福の色彩が眼窩の中を満たしていた。

「キャスター。お前、子供は?」
「いえ」
「そうか。惜しいな、子供ってのはいいもんだぞ。後は妻もだ。……"家族"ってのは、本当に良い」

 人間には永すぎる、気の遠くなるような年月を過ごした事で、ホーエンハイムの人格は厭世的なそれへと変わっていった。生への失望、或いは絶望。いつ終わるとも解らない、孤独なだけの時間。とうに飽いていた。とうに意義を見失っていた。時の流れは彼の心を摩耗させ、老境のそれすら超えた達観を齎した。
 そんな時に、彼は何百人目かも解らない飲み友達の紹介で、ある女と知り合う事になる。――トリシャ・エルリック。超越者でも何でもない、普通の人間。彼女との出会いが、ホーエンハイムの生きる意味になった。枯れ果てていた心は水の潤いに震え、厭世は吹き飛び、彼は初めて生きる喜びを見出すに至る事が出来た。

「一目惚れだったよ。トリシャと出会って、子供が出来て、初めて生きる事が楽しいと思うようになった。
 ――でも、人生ってのはままならんものでなあ。俺はただ、家族と一緒に老いて死にたいって一心で研究を続けてたのに、とんでもない事に気付いちまったんだ。止めなきゃ大勢の人が死ぬし、最悪世界そのものがどうかしちまいかねない。俺はそれを止めなきゃならなかった。……俺にしか、止められないと解ったからだ。
 家を出る時、息子達の顔をまともに見れなかったよ。ホント、気を抜けば泣いちまいそうだった。足を止めたいと思った。今からでも、全部投げ捨てて元の家族に戻りたいと本気で思った」

「然し、貴方はそうしなかった」

「そりゃ、出来ないさ。出来るわけない。俺が逃げたら、とんでもない数の人が死ぬし――息子達の未来まで奪われてしまう。正直、俺が親の何たるかを語ると怒られそうなんだが……子が成長して、いい嫁さんを貰って、子供を作る。そういう明るい未来を護ってやるのも、親の努めってもんだろ」

 結局、トリシャの顔を見たのはそれが最期になっちゃったけど。
 そう付け足すホーエンハイムの顔は笑っているのに、今にも泣き出しそうなそれにも見えた。永遠を生き、この世のあらゆる悲しみを知り尽くした男を泣かせる程の女。さぞかし良い女だったのだろうと、キャスターは思う。男として、羨ましいとも思った。そして同時に、こう確信する。

「ヴァン・ホーエンハイム」

 名前を呼び、更に続けた。

「貴方は――幸福(しあわせ)だったのですね」

 改めてそう言われたホーエンハイムの顔が、狐につままれたようにぽかんとした空白を湛える。
 それは、すぐに苦笑へと変わった。老人のようでありながら、若者のようにも、子供のようにも見える笑顔。それが肯定の意を示している事は、誰の目から見ても明らかである。波瀾万丈の一言では足りないくらい散々な生涯を此処まで歩んで来た、孤独の錬金術師。それでも、彼は決して不幸ではなかったのだ。
 命とは終わるもの。そのルールから解き放たれた男は、死と断絶に満ちた世界の現実をありありと見せ付けられてきた。だがそれは、決してこの世の全てではない。その事を、ホーエンハイムは家族を持った事で初めて知った。死が彼らを分かつとも、残された男は最愛の女を忘れない。彼女から貰った喜びを胸に抱きながら、自分に残された最後の使命を、果たさねばならない目的を遂げる為に旅をする。
 今度こそは、確かな希望を胸に抱いて。

「……聖杯戦争は外法だ。東洋では蠱毒と言うのだったか――兎に角、こんな過程の上に成り立つ奇跡なんて物がまともな色をしているとは俺には到底思えない。
 人を創るべからず、金を創るべからず。俺の居た世界でよく言われてた禁忌だ。まあこれ、自由にやられると軍やら国やらが色んな不都合おっ被るからって理由だった筈だし、喩えとして合ってるかどうかは微妙だと自分でも思うけど、言いたい事は解るだろ」

「"人の手に余る利益へ手を伸ばせば、待ち受ける結末は破滅のみである"と。
 いや、全くもって同感です。もしも貴方が妻を蘇らせる為に聖杯を獲る等と口にしていたなら、私はマスターの鞍替えも視野に入れなければならなかった」

 貴方を侮った事を詫びましょう、ホーエンハイム。
 慇懃に一礼するキャスターの言葉は、誇張でも何でもない。
 彼は元より、聖杯戦争に対し否定的な考えの持ち主だった。……否、そんな生易しい物ではない。聖杯戦争は必ず挫かねばならず、降臨する聖杯も破壊されるべきであると、どんな説得をした所で小動もしない強い意思でそう確信していた。ホーエンハイム程の男でさえ切り捨てられる可能性が有ったと言うのも、決して脅かしではない。薔薇の彼は穏和で善性に満ちているが、それでも魔術師だ。自身に都合の悪いモノは、より利用価値の大きいモノに取り替える。探求者としてその姿勢は、ごく当然のものであるのだから。

「これが通常の形で行われる聖杯戦争だったなら、私はサーヴァントとしてマスターの願いを応援したでしょう。
 ……ですが、此度のそれは些か異様に過ぎる。ホーエンハイム、貴方は確か、星座の記されたカードを手にした事でこの世界へと転送された――のでしたね」

 ああ、とホーエンハイムが頷く。それに頷きを返して、キャスターは続けた。

「聖杯戦争とは基本、マスターの自由意思を尊重する物です。参戦然り、撤退然り。星座のカードを手にする事がトリガーとなって戦争への参加が決定付けられるのでは、単純に"迷い込んで"しまうマスターが複数出かねない。通常の聖杯戦争でも一般人が巻き込まれる可能性は勿論有りますが、この聖杯戦争は余りにも、その辺りに無頓着が過ぎる」

「……俺も、別に聖杯なんて望んでいた訳じゃないしな。いい迷惑だっての、本当に」

「単刀直入に言うとね、ホーエンハイム。私は、この聖杯戦争の裏に、何者かの思惑が存在するように思えてならない」

 薔薇の瞳が、鋭く細められる。
 それだけで空間を満たす緊張感が段違いに上昇した。常に余裕を保ち、柔和な表情を浮かべている薔薇の錬金術師が何かを訝っていると言うのはひとえに異常事態であり、彼を少しでも知った者ならば警戒せずにはいられない。また、それだけではない。この錬金術師は聖杯戦争を陰で糸引く何者かに対し、強い敵愾心を抱いているのだった。
 何故か。答えは単純だ。彼は、正義の人なのである。弱きを助け、人を憎まず、苦しみからの救済を希求した優しい賢人。彼は人間の輝きを尊ぶが、それを利用しようとする事は許さない。願いを抱く精神、救いを望む心。そうした概念を踏み台にしようとしている何かが有ることを、赤薔薇は堪らなく嫌悪する。

「何かを願う心は美しい。たとえそれが、即物的な欲望であってもね」
「俺にはお前の言う事は、正直全部は理解出来ないよ。けどまあ、こいつが続行させていい儀式じゃないってのは同感だ」
「ならば、話は早いですね」

 ――潰しましょう、聖杯戦争を。

 薔薇の瞳を紅く、紅く煌めかせて、錬金術師は酷薄にそう告げた。
 偉大なる魔術師である筈の薔薇を錬金術師として呼び出した当人である、永遠を生きる錬金術師もまた、底冷えするような声色で放たれた台詞に力強く頷く。彼らは、聖杯戦争と言う儀式に楔を打ち込まんとする者達だ。楔を以って陣を乱し、最後には儀式そのものを破綻させる。多くの願いを敵に回す事は覚悟の上だし、それがどれほど罪作りな事かも承知している。その上で、錬金術師達は星座の聖杯戦争を否定するのだ。全身全霊で潰すと、断言する。

「それにしても。……ホーエンハイム、ホーエンハイムですか。これはまた、何とも数奇な」
「……ああ、こっちじゃ俺と同姓同名の錬金術師が居るんだったっけ。どんな奴だったんだ、こっちの俺は」
「実際に顔を合わせた事は有りませんが、優秀な男だったそうですよ。私の組織――薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)にとっても彼は重要な人材だったようです。正しい志と、正しい技術を持つ、慈愛に満ちた男。そう聞いています」

 ――薔薇十字団。ホーエンハイムの世界には存在しなかった組織だが、此方の世界では、その名は広く知られていた。何かと陰謀論を囁かれる秘密結社・フリーメーソンの第十八階級にして、恒久的な不老不死の実現の為に人々を救い続けたという魔術結社。ある一人の魔術師によって創成された、根源への到達に興味を示さない異色の"魔術使い"達。
 嘗て中東の賢者より書物を授かり、其処から叡智を得て組織を創成したとされる魔術師こそが、不死者の下に舞い降りた薔薇瞳の彼に他ならない。神代を離れてから成立した人間由来の魔術師の中では、間違いなく最高位の一角に君臨するだろう大魔術師。人を愛し、希望を尊び、探究の末に真理へと到達した赤き薔薇。


 ――真名、クリスチャン・ローゼンクロイツ。至高の赤、正義の赤が今、遍く思惑の鎖を粉砕すべく動き出した。





【クラス】キャスター
【真名】クリスチャン・ローゼンクロイツ
【出典】薔薇十字団伝説
【性別】男性
【身長・体重】180cm、70kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:C+ 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX

【クラス別スキル】

陣地作成:A++
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 "工房"の形成が可能だが、キャスターのそれは薔薇十字団が生前会合を開いたという"聖霊の家"そのものである。
 彼の手がけた工房では、彼自身とその味方に分類される存在の魔力と各種ステータスにプラス補正が掛かる。特にキャスター自身が受ける恩恵は絶大であり、三騎士とすら近接戦が行えるレベルにまで各種能力値が向上する。

道具作成:EX
 魔力を帯びた道具を作成出来る。
 宝具級には及ばねど、限りなくそれに近い魔具の数々を創造する事が出来、特に錬金術方面での才覚は人類史の中でも最高クラスのそれを持つ。作成による魔力の消耗は比較的軽微。自身の工房の中であれば、消費は限りなく零に近付く。

【固有スキル】

錬金術:A+
 本来は後述する「賢者の智慧」スキルに組み込まれているが、今回の彼は錬金術師としての側面をクローズアップされて召喚されている為、独立したスキルに昇華されている。
 ホムンクルスの使役からそれ以上の力を持った使い魔の創造、五大元素を利用した魔術攻撃。更にはキャスタークラスの弱点を補う各種設備に罠の作成等、あくまでも魔術ではなく本領はこちら。一手間掛けて"錬成陣"を描く事が出来れば、このスキルによる攻撃ダメージは大きく跳ね上がる。

賢者の石:A+
 自ら精製した強力な魔力集積結晶、フォトニック結晶を操る技術。ランクは精製の度合いで大きく変動する。
 ランク次第で様々な効果を発揮するが、A+ランクともなれば擬似的な不死に加えてステータスのワンランク強化をも対象に与える。宝具が封印された状況での一時的な宝具解放、死亡した人間を動く死体として蘇生させる、等といった規格外の効果を持つ。これぞ、錬金術に於ける至高の物質である。

四精霊の加護:A
 「精霊の加護」スキルの亜種。
 地・水・風・火の四大元素の中に住まう四大精霊からの祝福により、危機的な局面に於いて自己の魔力量を増幅させる。
 彼が祝福されているそれらは理論に基づいた人工霊ではなく、正真正銘の四大元素を象徴する超自然存在である。
 一般的な精霊の加護とは異なり、幸運を呼び寄せる事は出来ないが、その分現実的なリターンが約束されているのが強み。但しスキルの発動は、キャスターが正しい目的の為に戦っている事が前提となる。

賢者の智慧:A
 聖地巡礼の最中に立ち寄った中東で、賢者から授かった魔術の知識。
 凡そ魔術の全分野を彼は治めており、攻撃、防御、転移に空間遮断と息を吐くように超級の神秘を行使する。
 どれを取っても技量は一級品だが、特に対人の治癒魔術に関しては神業としか言い様のない領域に到達している。

【宝具】

『基点の薔薇("M")』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
 キャスターが賢者達より魔術と共に授かったとされる魔術書、"Mの書"。
 中には自然魔術の奥義が記されていたというそれは、クリスチャン・ローゼンクロイツという魔術師の実質的な原点であり、後に魔術協会を震撼させた魔術結社"薔薇十字団"創成の基点となった始まりの書物である。だが、この宝具は既に殆どの効果を失っている。仮にこれが破壊されたとしても、キャスターには何の痛手も生まれない。
 "Mの書"はそれそのものが魔術行使の媒体となるのではなく、あくまでも開いた者に叡智を授ける宝具なのだ。キャスターは初めて書を開いた瞬間に、この宝具を自らの霊基と一体化させる形で取り込んでしまった。故に今や書物自体は完全に無用の長物。にも関わらずキャスターがいつも持ち歩いているのは"あの魔術書こそがこの男の急所である"と敵に思い込ませる為のブラフであり、後は何となく持っていると落ち着くから、程度の理由でしかない。
 然し、"Mの書"という宝具の最後の効果はキャスターの頭の中に今も残留している。それは、彼が心から認めた特定の誰かへの叡智継承。クリスチャン・ローゼンクロイツという魔術師を大成させた賢者の知識を受け継がせ、彼自身が偉大な魔術師の"基点"になるというもの。尤も、この能力を使用すればキャスターは自身の叡智(アイデンティティ)を失い、即座に此度の舞台より消滅する事になろう。

『真理の薔薇("CRC")』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1~150 最大補足:1人
 最低でもフォトニック結晶以上の高純度魔力結晶を用いて描き上げたセフィロト図を錬成陣として、"この世の向こう側"とでも呼ぶべき虚無の空間へ繋がる扉を開く。彼自身はこれを"真理とも根源とも程遠い、出来損ないの到達点"と侮蔑しているが、只の空想論理を昇華させただけの宝具にしては異常過ぎる出力を誇る。
 開かれた"扉"はキャスターが敵と看做す存在を宇宙現象級の吸引力で内部へ取り込まんとする。重ねて言うが、この吸引のエネルギーは極めて膨大。純粋な力のみで踏み留まるのは不可能に近く、回避するには何らかの搦め手を使わねばならない。尤も、逃れ得る手段が有ったとしても、相手がクリスチャン・ローゼンクロイツ程の大魔術師である以上それが成功する保証はないと英霊自身の性能も相俟って非常に凶悪。
 英霊一騎を取り込んだ時点で扉は閉じられ、取り込まれた英霊は聖杯戦争より消滅する。ほんの一瞬でも扉の向こうに入ってしまえば最後、どんな手段を用いても脱出する事は不可能である。キャスターは自身の実力に驕る事のない謙虚な人物だが、この一点に限っては、彼は頑として"もしも"の発生を認めない。
 "扉"の理屈は聖杯戦争の関係者なら誰でも解る程単純明快。要はこれは、"英霊の座"そのものに接続する扉なのである。故にほんの1ミリメートルでも扉を超えればその時点で英霊の座に送還された扱いとなり、サーヴァント自身がどんな力を持っていようと、マスターが何をしようと復活させる事は困難。例外は単独顕現スキルを持つサーヴァント――クラス・ビーストだが、逆に言えばそれ以外の全てのサーヴァントに対し、真理の薔薇は必殺の攻撃として機能する。
 因みに、キャスターはたとえマスターが相手だろうと扉の真実については語らない。ローゼンクロイツは間違いなく人格者であるが、彼も魔術師である事には違いないのだ。――手の内が割れる事なく、慢心しながら敗れてくれるならそれに越したことはない。だから薔薇の魔術師は、多くを語らないのだ。

【weapon】

 道具作成スキルにより創造した魔具、結晶、宝石類。

【解説】

 伝説の魔術結社、薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)の創始者とされる魔術師。
 聖地巡礼の最中に立ち寄った中東で賢者達から魔術と"Mの書"を授かった彼は、その後ドイツに戻り、無償での人助けに明け暮れたという。やがて彼は薔薇十字団を創成。科学を排斥せず、取り入れられる理論は全て取り入れ、根源に最も近付きながらも真理到達ではなく衆生の救済にその叡智を費やした。
 ローゼンクロイツは根源への興味を抱かない。彼が宝具として持つ"真理"への扉も、研究の一環として偶然発見した副産物であり、彼にとっては自慢出来るものという認識ですらない。取り込んだ英霊を確実に滅ぼす扉などより、ローゼンクロイツにとっては末期の患者を救える魔術の方が余程重要なのだ。
 時の協会は彼ら十字団を追ったが、ローゼンクロイツは只の一度として追っ手に不覚は取らなかった。逃げ延び、騙し、打ち勝ち、寿命を迎えて葬られるその時まで、魔術協会に得をさせることはなかったという。

 彼は当初、人々の苦しみからの解放――不老不死を求めて研究を重ね、その為に薔薇十字団を組織した。
 だが意外にも、英霊として召喚された彼は不老不死の実現にさしたる意欲を抱いていない。彼にその点を問い質せば、他の十字団メンバーも皆同じだと、そんな答えが返ってくるだろう。
 何故、ローゼンクロイツは不死を諦めたのか。何故、死からの解放は救いに非ずと彼らは気付いたのか。
 ――それは、英霊としてのローゼンクロイツと相対した者だけが直面する事の出来る、薔薇十字団最後の謎である。

【特徴】

 黒髪のロングヘアーに眼鏡が特徴的な、長身痩躯で色白の青年。
 薔薇の文様を刻んだエーテル結晶製の特殊装甲の上から白の外套を羽織っている。
 この装甲はかなり高い対物理・対魔防御力を持ち、特に呪詛の類に関してはAランク相当の対魔力スキルとして機能する。

 人の輝きを愛し、それを愚弄する者を嫌悪する。そんな、正義の人。

【聖杯にかける願い】

 願いはない。我が叡智は、愛すべきマスターの為に。



【マスター】

 ヴァン・ホーエンハイム@鋼の錬金術師

【マスターとしての願い】

 聖杯戦争を破壊する為に行動する。
 余裕があれば聖杯をこの手で検め、その構造を把握したい

【weapon】

【能力・技能】

錬金術:
 物質の構成や形を変えて別の物に作り変える技術と、それに伴う理論体系を扱う学問。
 現実世界の錬金術とは一部の用語が共通する以外は全く関係なく、寧ろ性質としては広義に知られる所の魔法に近い。
 錬成陣という魔法陣のような図形にエネルギーを流し込む事で術を発動させる事が可能だが、その基本はあくまでも等価交換。原材料を用意し、構成元素や特性を"理解"、物質を"分解"、そして"再構築"するという三つの段階を経る必要がある。――が、ホーエンハイムは後述する事情から体内に莫大な数の"賢者の石"を抱えている為、ノーコスト・ノーモーションでの錬成が可能。
 それ以前にそもそも錬金術師としての腕前自体が相当高く、作中でも一二を争う実力者に分類される。

不老不死:
 意図せずしてクセルクセス国民達から錬成された"賢者の石"を取り込んでしまった事で、ホーエンハイムは人間が当たり前に持ち合わせる死という概念とは無縁の"不老不死"を実現している。現に彼は既に最低でも四百六十年もの年月を生きており、傷を負っても体内の賢者の石が反応して即座にそれを回復出来る。
 但し、聖杯戦争に於いては世界間移動を行った事で体内の賢者の石が劣化、不死性に翳りが生まれている。急所を外した傷ならば今まで通り秒で修復出来るが、頭部と心臓、この二箇所の損傷だけは致命傷になり得る。

【人物背景】

 エドワード・エルリック及びアルフォンス・エルリックの実父。彼らの母であるトリシャ・エルリックとは籍を入れていない為、彼ら家族とは姓が異なる。
 元はクセルクセス王国の一奴隷で、実験用に抜かれた血から生まれた"ホムンクルス"こと"フラスコの中の小人"と意気投合。彼に気に入られ、奴隷にあるまじき知識を授かり、ホムンクルスと日に日に仲を深めていく。だがある時、年老いたクセルクセス国王が不老不死の法をホムンクルスに乞うた事で運命が狂い始める。
 ホムンクルスは不老不死の法として錬成された賢者の石を私欲で簒奪し、ホーエンハイムをそうとは知らせずに錬成陣の中心に立たせてそれを機動。ホーエンハイム以外のクセルクセス国民は"賢者の石"に変換され、ホーエンハイムは望まない不老不死の体を手に入れた上で同胞も故郷も全てを失ってしまう。
 一時は厭世的になった彼だが、前述したトリシャ・エルリックと出会い、彼女に一目惚れした事で変わり始める。息子を得た彼は"妻や息子と共に老いて死に体"という当たり前の願望を抱くようになり、その為の手段を研究する内に、皮肉にも彼は"フラスコの中の小人"のさらなる暗躍に気付いてしまう。
 始まりのホムンクルスを打倒する為に家族の下を離れ、妻の死に目には立ち会えず、只一つの目的の為に歩み続けた男。
 当企画ではエドワードと二度目の再会を果たす直前から参戦。聖杯戦争という多くの犠牲を払う儀式を否定しつつ、聖杯の構造を理解し、得た知識をホムンクルスの確実な打倒の糧にしたいと考えている。

【方針】

 キャスターと共に闘う。聖杯戦争は、あってはならぬものだ。

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最終更新:2017年07月11日 21:49