クリスちゃん、黄忠に会う

 ────混沌とのるつぼともいうこの冬木の町の外れ。
 枯れ枝の寂しげな雑木と、罅割れた黒いアスファルトとその間から芽吹いた雑草の緑。
 寂れているそこはかとなく廃墟っぽい雰囲気の工場。
 ────夜空の月は美しい満月。
 しかし、それは彼女の元いた世界では絶対に有り得ない光景だった。

「聖杯戦争ッ!?……どうなってやがるんだッ!?こりゃ一体何の秘密儀式だッ!?はぁぁッ!?」

 そう饒舌に愚痴をこぼした。平行世界から招かれると、いう今例の無い緊急事態に頭を抱える。
彼女の頭の中はもうぐちゃぐちゃ。急な展開と知恵熱に大弱りだ。

『状況は理解できたかのぅ?』

 そんな少女を守護する英霊は鼻毛を抜きながら、欠伸をこぼす。
 髪から顎まで、隙間なく白髯を蓄えていた。
 胴には鉄甲の鎧。脚には獣皮の靴を履き、腰に幅広い太刀を横たえている。

「引っ込んでな、爺さん。余計に頭が混乱する……(大体何であたしのサーヴァントがこんな爺さんなんだよッ!?こんなの絶対おかしいだろ……ッ!?)」

 しかし、ジタバタしてもはじまらない。腹、くくろう……。

「仕方がないな……付き合うよ。ただし、あの世までは遠慮させてもらうよ 。(おうよ、止めてやるさ……ッ!やってやるさ……ッ!)」

「 聖杯だの……サーヴァントだの……。立ちはだかるなら、このあたしが全部ぶっ壊してやる……ぶっ潰してやるッ!」

 掌にバシッ、バシッと拳を叩きつけている。

「これでも、年寄りは労るよ。背中を預けてよ、爺さん」

『ぬ……何をぬかすかぁッ!!この儂は死ぬまで最前線じゃッ!』

「もう死んでるだろッ!漫画で読んだ事あるよ、あんたッ!!」

「るせーなッ!大丈夫だって、無謀は承知。これでもあたしは常日頃から鉄火場のど真ん中ッ!」

 ヒラヒラと虫を払うように手を振る少女。
 満腔の自信に溢れたその態度。口ぶり。一体、彼女は幾たび死線を越したことかは知れない。

「大丈ーー夫ッ! 大丈ーー夫ッ! バッチ来い、ドンと来いッ!この雪音クリス様に任せろ、爺さんッ!」

 やおら拳を天に突き上げて叫ぶ彼女は胸に拳を当てた。

『じょーちゃんよ、これだけはハッキリ言わせてもらう……』

 好々爺然としているこのサーヴァントが会って初めて放った絶叫。それは……。

『否ッ!断じて否アァッーーッ!!』

 野彦して渡る大喝。今は夜だぞ、近所迷惑を考えろ。
 凄い声は打てば響くがごとく『ハッキリ言うぞ……戦場に女は不要ッ!』そう断言した。

 だが、それは一瞬、

「あ?手向かう気か」クリスは突っかかり、見上げ睨む。

『何をッ!青二才ッ!』

「その体中を風が吹くってことになりたくなかったら、あたしの言われたとおりにしなッ!絶対だッ!絶対だぞッ!」

 サーヴァントを指差し、きっちり啖呵をきる。

『嫌じゃ』腰に佩いている剣の帯革を解いて、引き抜いた。

『どんなもんか見てやる』手をこまねいて、"かかってこい"の仕草。

「言うじゃねーか……」クリスのやる気か沸々と湧いて出る。

「いいぜ……ギャフンと言わせてやるッ!」

 見得をきって返答し、彼女は胸の中の撃鉄をガチンと引き起こす。
                 ────その時、

『 Killter Ichaival tron…………』

                 ────歌が聞こえた。
 彼女をいざなう強く、儚い光。胸元のペンダントが励起、彼女を丸裸にする。
 次の瞬間、奇跡は形を成す。
 ────鎧《ギア》を纏って右銃(みぎ)と左銃(ひだり)に銃巴を握る……。既にその身は戦装束……。
 ────手にするのは彼女の心象で拳銃に変質した魔弓。銘はイチイバル。

 どこからともなく風が吹く。
 銀髪の細く長い後ろ髪をはためかせ、サーヴァントのマスター・雪音クリスが己がサーヴァントに西部のガンマンよろしく銃口を向ける。
 滑らかな連動。0.1秒で行われるその動作《アクション》。常人では対応さえできながった鳴り響く一発の乾いた銃声────。

 ────しかし、侮っていたのは雪音クリスの方だった。
 ────さて、ここから先は正直話にならない常識外の戦いを始めよう。

 手にする象鼻刀を使わず銃弾を指二本で摘まみ、キャッチした。どうやら彼には受ける必要も避ける必要もないらしい。
 指を弾くと、弾丸は何処かへと転がっていった。
 それを見て、おもしれぇ……ッ!と、クリスに笑みがこぼれる。

「それじゃあ、その本気印……もっと魅せてみなッ!斬ってこいよぉ爺さんッ!どうなっても知んねーぞッ!」

 クリスの体調はバッチグー。精神状態はやや興奮ぎみ。だが、この仕合には相応しいだろう。

「──────ッ!」

 彼女の口ずさむのは、ここでは誰も聴いた事がない唄。通常は話にならない物騒な歌詞だった。
 それをBGMにして飴を伸ばすように引き伸びて異様な膨張と収縮を繰り返し、次々と形を変えた双銃。
 その手のひらサイズが凄まじい変貌を遂げそれは現れる。
 躊躇わずに彼女は銃爪《トリガー》を引いた。
 けたたましい銃声が鼓膜を破った。
 高速で撃ち出す禍々しい回転機械《ガトリング》。廻る、廻る12本の銃身。

『カッコいいだとッ!?』
「食らいやがれッ!!」

 耳をつんざき囀る銃声。飛び出す銃火の狂い咲き。
 手加減知らずのその数……毎分16000発ッ!
 この技は、並みのサーヴァントを軽く一蹴する魔力ともいうべきものであった。
 しかし……ッ!

「おおおおおおおおお────ッ!……何ぃッ!?」

 クリスの熱い視線が、熱と猜疑心を伴って目の前の彼の全身に集中した。

「んなぁ、アホな……」

 クリスはひとりでに出たような声を洩らした。

 ────それは驚愕に値する。
 あの老人のサーヴァントがシンフォギアから浴びせられる無駄弾無しの号砲を迎え入れ、なお立ってからだッ!
 老人のサーヴァントのその巨体が唸るッ!躍るッ!
 右へ、続けて左に大きな孤を描いてその手の刃が走る。號ッ!と、槍を舞わして風が鳴く。
 それは弾よりも疾くッ!まるで稲妻のようにッ!

『 アタタタタタタタタタタ────ッ!』

 ────只ひたすらに前進ッ!前進ッ!前進ッ!
 まさしく破竹の勢いの快進撃ッ!もはやブレーキの壊れたトロッコみたいな存在ッ!

『やはり、ウルの銘は飾りであったかッ!恐るるにたりぬわ────ッ!!!』

 0.01《コンマゼロいち》秒の間隙。長柄の得物を両手に老兵は嘲笑う。
 手にする劍と銃弾が擦過して火花を散らす。
 見応えのある花火に似た情景。
 飛び交う曳光と跳弾は、まさに戦場の最前線。

『儂はこれっぽっちも錆びちゃいなんぞ────ッ!!』

 彼のその劍戟、無念無想の境地ッ!可憐炸裂ッ!純真無限ッ!
 発射された弾丸その総てを斬り払い、弾き返していく。

「……チッ!(この人、うちの指令《おっさん》と同じ類の人間かよッ!?)」

 クリスの鉛弾の雨が止んだ。
 その気迫に圧されるかのように全速で路面を蹴って後ろに跳ぶ。後方に跳び退き、間合いを離す。
 打ち下ろす彼の一撃が地面に罅を入れ、舗装がめくりあがる。
 刃の切れ味などの問題ではなく、ただの人間離れした凄まじい力の発現であった。

(意外と重い。それに速い……ッ!)

 クリスは人間のキャパシティを超えたサーヴァントという存在に納得しながら驚愕する。

(これがサーヴァント。これが、あたしのサーヴァントの実力《ちから》か……)

 両手を振りながら韋駄天と、クリスへ駆けてくるサーヴァント。それはまるで疾風。
 老人の生気に満ちすぎた眼。全身から漏洩するその覇気《オーラ》は文字通り一騎当千。
 一体なんという豪傑だろうか。

 ────しかしッ!それはこの雪音クリスもそうだッ!

「おだづなよぉ────ッ!!」

 彼女の地獄の炎のような感情が戻る。
 彼女のアクション映画で鍛えた剃刀のような思考が万全を期す。
 自棄《やけ》のヤンパチとばかりに、彼女はアームドギアのエネルギー充填率を120%まで引き上げられる。
 再び変形する武装。ガトリング砲が弩へと変化させた。
 今度は更に大きいぞ……ッ!

「とっておきだッ!!」

 稲妻を射る電信柱ほどの真っ赤な鋭い鏃。

『甘いッ!!とぅおッ!』

 だが、当たらない。
 老兵は一蹴りで大きく飛び上がり、ムーンサルトで上空を飛ぶ。雲が生じ、風が起る。
 弾頭の表面を走ると、そのまま老兵の背後へと流れる。

「そいつはどうかな?」

 躱わしたはずの長大の弾頭が背後で紅い華を散らしながら、夥しい数の楔へと生まれ変わり、夜空に起立する。
 その総てが向きを変え、方向を変えてあのサーヴァントへと集中した。

G I G A Z E P P E R I N

「四方の空から囲まれてどこに逃げるつもりだ?」

「今度は捌ききれるかよッ!?」

 これで詰みだとクリスは見た。
 それは確かに真実だ。
 上下左右前後。今度はさすがに腕二本では対応は困難。

『いやらしいエネルギーだな……しかし、効かんッ!』

 その窮地すら、ちゃぶ台返しするこのサーヴァントッ!

『 心折れるにはまだまだ速いッ! ────ご覧じるがいい……見よッ!この漢盛りの破壊力をッ!』

『全弾命中ッ!宝具解放ッ!"弓神無双《ゴッド・アロー》"────ッ!!』

「なん……だとッ!?」

 次の瞬間、夜空を染め上げ覆う紅の弓矢。血色の少雨。そのことごとくが煌めき咲いて散った────。


      ■


「────すいませーん。ドリンクバー2つ。ライス大2つ。 回鍋肉と青椒肉絲と八宝菜と超激辛麻婆豆腐。えーと……あと、ヤキソバ大盛り六人前をどれにしよう……堅焼き、あんかけ、ソースだく、あっさり塩味、エビ入り……う~ん……悩むなぁ……あっやっぱりソースだくで、よろしくッ!爺さんは何にする?」

『クリスちゃんの貰う』

 思わず半眼になるサーヴァントとは対照的に、

「しっかり食べろよ。働いて貰うんだから」と、メニュー表を睨んだままクリスは叱った。

「じゃあ、それとデザートに杏仁豆腐と……」

 のんびり椅子に腰をおろす雪音クリスは、テーブル人数と数の合わない注文を店員にしてから、店の窓の外をチラ見した。
 窓の向こう。ビルの狭間の遠くからはパトカーのサイレンと赤ランプ。
 おそらく銃声を聴いたという通報を受けて駆けつけた警察だろう。

『うまく撒いたようじゃな……』

 一息ついてボキボキ肩を鳴らす老兵。

「爺さん、やり過ぎたんだよ……」

 白熱した人ならざる者対サーヴァントの戦いは、両者の気合いと根性でギリギリ五分と五分の引き分けに持ち越した。
 今は深夜のチェーンレストラン"イルズベイル"で二人は暇と元気とゼイ肉を持て余している。

 大量消費時代の料理に舌鼓を打ちながら、
『飯は美味い。馬より速い乗り物、おまけに空を飛ぶ。大した時代じゃな……』

「さあ、どうだか……」

 やってきたヤキソバを頬張りながらクリスは言う。

『クリスちゃん』

「あ?何?」

 と、言いつつ早速ヤキソバ二皿目を平らげる。凄まじい健啖ぶりである。

『顔に付いてる』

 老人はウスターソースをナプキンで拭いてあげた。
 俯いたまま顔を真っ赤にするクリス。
 サーヴァントはクスリと笑った。

『愛いヤツじゃのう~~儂クリスちゃんみたいな孫が欲しかったな~~』

 クリスはそっぽを向いたまま、目を合わせられずに、
「…………あたしの先輩といい勝負できるよ。爺さんの……いや、劍というより槍か?」
 なんて事を言った。

『 グッハッハッハッハッ!違う。違う。違う。儂は"弓兵"を司るナイスガイじゃッ!』

 はい?と視線を向け、
「アーチャー?…………って、はぁぁぁぁッ!?あれ弓かよッ!?じゃあ、あの刃物《ヤッパ》はッ!?」
 立ち上がるクリス。

『儂の矢』

「わからない……」

 サーヴァントの力強いサムズアップに長いため息をクリスはついた。

 クリスは烏龍茶を飲み、
(しっかし、願望器を賭けたバトルロイヤル……何でも願いが叶う……か────)
 今後の展望を思考した。

 ────不意に、彼女の心に感情《ノイズ》が流れる。

『パパ……ママ……』

 クリスは、"その幻想"は馬鹿げた思いつきと、頭を振ってかき消した。


 かくして彼女は戦いをもって、戦いを塗り潰す。ここに群雄争覇のドラマが始まる。



    ■■■

【出典】三国志
【SAESS】 アーチャー【身長】187cm【体重】85kg
【性別】男性
【真名】黄忠
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力A+ 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運A+ 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などの大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
幻獣・神獣を除く全ての獣、乗り物を乗りこなせる。
本人は現在ハーレーダビッドソンを所望中。

単独行動:B+
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスター無しで四日間現界可能。

【保有スキル】
老当益壮:A
精神干渉を無効化する。格闘ダメージを向上させる。
生前の逸話と相まって、アーチャーにあるまじき近距離戦を得意し、死をいとわず常に先陣を駆ける丈夫。

乱世の武芸(弓):A+++
千里眼、弓矢作成、気配遮断の複合スキル。
これにより遠距離から初撃は相手に察知されない。更にこのアーチャーの千里眼には透視機能あり、壁抜きの狙撃が可能。
マスター暗殺向きのスキルだがサーヴァント本人は使わない。

好々爺然:A
防衛・集団戦において有利な補正を与える計略スキル。
相手の戦意を抑制し、話し合いや一騎打ちに持ち込む事ができる。

【宝具】
『弓神無双〈ゴッド・アロー〉』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~999 最大補足:レンジ内全て
弓矢作成スキルから放たれる全方位射撃、遠距離射爆。

無駄射ちなし。誤射なし。その矢は一時停止から後進まで可能な誘導弾。その放つ矢の数だけ命を捕るその攻撃範囲は冬木市全域をカバーできるほどのMAP兵器。
しかし、矢の数だけ魔力を消費するため、この宝具の乱用は禁物。

【 weapon 】
  • 象鼻刀
愛用の曲刀。変形して弓になる。

  • 弓矢
宝具によって生成された矛にも見えるほど長大な鏃。
射らずに相手を斬りつける象鼻刀との二刀流で白兵戦をこなす。
また放った矢に飛び乗って移動が可能。サーヴァントではなくクリスちゃんが移動できる。

【人物背景】
中国後漢末期、蜀漢の将軍。
三国志・五虎将軍の一人。
劉備に仕え、夏候淵を討ち取った征西将軍。
乱世の戦場を常に前線で駆け抜けながらも、天寿を全うした最強の老兵。 義に篤い壮士であった。
息子が早生したためか、何故かマスターのクリスを孫のように見ている…‥。傍目にはただの寂しいお爺ちゃん。

【サーヴァントとしての願い】
クリスちゃんを無事に元の世界へ帰す。
生前果たせなかった武人として死すこと。



【出展】戦姫絶唱シンフォギアXD
【マスター】雪音クリス
【人物背景】

みんなアニメ見て、ゲームやろ!

聖遺物・ギャランホルンの転送事故により舞い下りる。
年齢16歳 。聖遺物第2号・イチイバルの適合者。
政情不安の国バルベルデにて両親を失った天外孤独の少女。
現在はなんやかんやあったが、ちゃっかり良いポジションに着いて、国連直轄となる超常災害対策本部タクスフォースS.O.N.Gに所属しながら私立リディアン音楽院に通っている。
奏者の中でも特にバトルセンスに長けた、ツンツンしながらも困ってる人はついつい助けちゃう性格。

【能力・技能】 
  • FG式回天特機装束・シンフォギア
神話の遺産・聖遺物の欠片を口ずさむ歌の力で解放する事によって現代兵器を凌駕する戦闘能力を生み出す異端技術《ブラックアート》の結晶。
そのバリアコーティングは銃弾を弾き、宇宙空間の活動を可能とする。

【 weapon 】
  • アームドギア・イチイバル
可変・変形ギミックを内蔵し、行使する技や使用法に応じて特性や形態を変化させる。
クロスボウ、ライフル、3×4連装ガトリング砲やミサイルにより火器弾薬で広範囲の敵を殲滅する 。
その他近接戦闘のガン=カタなど近距離も遠距離もバリエーションは多彩。

  • リフレクター
腰のアーマーから展開されるリフレクタービットは、月への攻撃を阻止した。

  • アーマーパージ
奥の手。纏ったギアを強制解除する事で散弾のように射出する。
使用後は服が再構成されるまで全裸になる。

※限定解除後は追尾レーザーによる制圧射撃が可能なアームドギア一体型の飛翔支援ユニットに搭乗する。

【 マスター 願い】
状況の解決。元の世界に帰りたい。
聖杯に求める願いは今のところない……。

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最終更新:2017年07月14日 22:09