其処は、月だった。
管理の怪物。かつてその異名を持った、世界を記録し続ける月。
月。
つき。
ツキ。
そう、月。
空を見上げれば日常的に浮かんでいるであろう月は、今君たちの足の下なのだ。
奇想天外。
サイバーゴーストですら未知なる領域。
だが、しかし。
このような未知の場所でも常識はある。
太陽は一つ。
月は一つ。
星は沢山。
ああ、だが、何かがおかしい。
中空に浮かんでいるもの。
それが、一つ多い。
白くておおきな、"それ"。
よく見ると、不気味な顔がある。
誰かが言った。
「近づいている」、と。
誰もが笑った。
酒でも飲みすぎたんじゃないか、と背中を叩いている人もいた。
だが。

「KE HA HA HA HA HA」

―――地上に迫る、人面月。
月に迫る、人面月。
闇夜の中で仮面は笑う。
かたかたかたかた。
首を鳴らしながら、骨餓鬼は笑う。

ほらほら、あそぼう。
ほらほら、何がいい?
かくれんぼ?おにごっこ?
何でもいいよ―――楽しませて。

三度月が昇るまで。
いっしょに遊んで―――いっしょに死のう。

壊れた少女と魔人の仮面。
壊れた道具はただのゴミ。
世界もいっしょにくしゃっと丸めて、ゴミ箱に棄てましょう?



○ ●



広い暗い、蟲倉の中。
地を這うどころか、床を満たす蟲の上を這う蟲たちが蠢く場所。
キシキシと牙をならし、てらてらと体液で光るその大勢の蟲たちは、少女の身体を蹂躙する。
だが、その少女は嫌がる素振りすら見せない。
瞳には既に光はなく、閉ざされた口は苦痛に歪むこともない。
少女の許容量を超えた"鍛錬"と名のついた拷問は、既に少女の心を堅く閉ざしていた。
…そうでもしなければ、身体より心が先に壊れてしまっていたのだろう。
自衛手段として、少女は己の心に鍵を閉め、その奥底に沈めていった。
毎日。毎日。毎日。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日―――繰り返されるその凌辱が。
ふと、止んだのだ。

「……?」

嬉しい、とは思わない。
そのように感じる人間の心など、とうの昔に手放した。
ただ、疑問が残った。
何故蟲がいないのだろう。
何故お爺様がいないのだろう。
大きく不気味な間桐の名を冠するこの屋敷には、もはや少女一人しか残されていなかった。
蟲倉を出て数歩歩き、椅子を引き出し座る。
ここで、じっとお爺様を待つのだ。
……実を言えば、月に蓋をされた記憶などとうの昔に戻っている。
聖杯戦争。
サーヴァント。
マスター。
それらの単語も正確に理解している。
だが、しかし。
だからと言って、行動するかどうかは別問題だ。
心を深く閉ざした彼女には、もはや己の活力というものがない。
人間を動かず炉(肉体)はあっても燃料(心)がないのだ。
だから。
全てを知った後も、何も行動せずその場で待ち続けた。
そうして暫く待った後。
ぽこんっ、と。
軽い破裂音と共に白と黒の妖精が現れた。
羽蟲みたいだな、と。
そんな検討違いの感想を抱いている内に、今度は人形が現れた。
木造の人形―――木偶の小僧。
木材で荒々しく作られたその木偶の小僧の顔面に、仮面がついている。
紫の仮面に、不気味な紋様。

「―――a ha ha ha ha ha」

仮面を左右にけたけたと揺らしながら、木偶の小僧は嗤う。
手の甲を見ると、令呪が刻まれていた。
この子供が、己のサーヴァントなのだろうか。
使い魔の類いにも見えるが、魔術には疎い少女の知識では正解を導き出せない。
少女―――間桐桜の家は魔術の家系ではあるが、魔術一族として衰退し才能も途絶えた間桐家にとって必要なのは『有能な後継ぎ』ではなく『優秀な母胎』だった。
故に魔術の知識は豊富ではないどころか、むしろ皆無と言っても過言ではないほどだった。
だからこそ、か。
曖昧な思考で、曖昧に問うた。

『あなたがわたしのサーヴァント?』

すると。
木偶の小僧の嗤いが、止んだ。

「うん」
「オイラがサーヴァント―――キャスター」

キャスター。
魔術師のサーヴァント。
それを意味する記号すら理解できぬままに、桜はキャスターの言葉を聞く。

「ほら、遊ぼうよ」

「鬼ごっこでもかくれんぼでもいいぜ」

差し伸べられた手をじっと見つめる。
カタカタと揺れる仮面と木の身体はまるで、操り人形のよう。
身体中に纏った糸が伸びるとしたら、それは天高く、月まで伸びているのかもしれない。

「駄目よ。お爺様が帰ってくるもの」
「帰ってこないよ みんな みんな 帰ってこない」

上を見てごらん、とキャスターが天を指す。
頭上には『月』がある。
シミュラクラ現象、というやつだろうか。
そこにあるはずがないのに―――月の表面に、『顔』が見える。

「みんな みんな 食われておしまい」

「『お爺様』も」
「『サーヴァント』も」
「『マスター』も」

「みんな」

ケタケタ。
カタカタ。
くすくす。
不気味に仮面を揺らす。
差し伸べられた手が桜の手をとり、妖精が周囲を舞い、身体はふわりと空を飛ぶ。
蟲蔵を飛び出て空を廻り、更に高く。
更に、高く。

「ほら、もう『お爺様』なんて関係ない。オイラといっしょに、遊ぼう」

―――三日目の月が昇る、その日まで。
月が墜ちる、その日まで。
壊れた少女は拒絶すら諦めた。
幼き精神を守るため、壁を作った。
こんなことしても無駄なのに―――そう思うことすら、放棄した。

壊れた少女と悪魔の仮面。
諦めた少女と魔人の仮面。
間桐の少女とムジュラの仮面

今日も夜が、訪れる。

月に潰される、時が来る。



【クラス】
キャスター

【真名】
ムジュラの仮面@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運c 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:―
魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
しかし、魔術師ではないため陣地作成は不可。
だが立派な彼の陣地は、いつも我らの頭上に存在している。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
彼の場合、呪いを帯びた呪具(仮面)を作る。

【保有スキル】
妖精の奏宴:A
 妖精を使役する術。
 彼の場合『生前』―――と呼んでいいのかは不明だが、二匹の精霊を使役する。
 素早い攻撃が可能(ゼルダ無双を参照)だが、『ムジュラの仮面』が召喚された際に、妖精たちが武具として再現されただけの為かつてあった意思は存在しない。

精神汚染(感染):A
 仮面を見ていると、沸き起こる恐怖。
主に感染していく恐怖であり、この仮面を直視していると相手に徐々にスタン判定を与える。

オカリナの狂音:A
 オカリナから奏でられる、魔の響き

 音波攻撃でもあり精神攻撃でもあり、耳にしたものを恐慌状態に陥らせる。

【宝具】
『呪術紡ぐ悪仮面―ムジュラ―』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:―

 かつて呪術に使われたという、莫大な力を持つ仮面。
世界に蔓延る呪術を基盤としておりこの姿でも他人の姿を変化させる強力な呪術を操る他、周囲の恐怖が彼の力になる。
生前―――と言っていいかは謎であるが、かつて使っていた肉体であるスタルキッドを再現し使役しているが本体は仮面であり、肉体が傷つこうとも仮面の霊核には何ら影響もない。
故に肉体を失っても仮面が無事ならば新たな肉体を生成でき―――スタルキッドを失ったとき、新たな手足を獲得し、筋力と俊敏がワンランク上昇する。
膨大な魔力を秘めており、存在そのものが宝具でありサーヴァントであり魔力炉なので、魔力供給を必要としない。

『呪術纏う闇仮面―魔人―』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:―
 仮面としての能力を解き放った形態。
 幻想種としての悪魔、魔人としての特性を付与し筋力と俊敏が更に上昇し、身体中の触手を操る。
 呪術の力を纏っているため、並大抵の力ではダメージを与えることすらままならない。
 戦うならば、まず彼の足を止める必要がある。

『其は人類を放棄する物、三度月が昇るまで』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~
? 最大捕捉:?人

あなたはまだ、月のこわさを知らない。
徐々に堕ちてくる、人面の月。
タイムリミットは三日間。
期限が近づくにつれ月が接近し、三日間を超えた瞬間地表に激突しその大質量で全てを葬る。
時を巻き戻す偉業でもタイムリミットを先延ばしにすることしかできない、人類消滅の偉業。
宝具であるため、彼が消滅すると共に消える。
運命の道は二つだけ。
ムジュラが死ぬか。
みんなが死ぬか。

宝具は聖杯戦争の開始と同時に発動し、三日目の終了と同時に世界を喰らう。
その月の中には果てなき草原が拡がっているとされているが―――さて。

【weapon】
オカリナ
妖精

【人物背景】
 仮面。
呪術に使用される、呪いの籠った仮面。
遊ぼ。遊ぼ。遊ぼ。
かくれんぼ。おにごっこ。
負けたらみんなで罰ゲーム。
世界を喰らう、星が堕ちる。

ああ、今宵も、月が迫る―――

【サーヴァントとしての願い】
―――(不明)


【マスター】
 間桐桜@Fate/Zero

【能力・技能】
 とくになし。

【人物背景】
遠坂凛の実妹。
遠坂家の次女として生まれたが、間桐の家に養子に出された。
 間桐家に入って以後は、遠坂との接触は原則的に禁じられる。
しかしながら「間桐の後継者」の実態は間桐臓硯の手駒であり、桜の素質に合わない魔術修行や体質改変を目的とした精神的・肉体的苦痛を伴う調整を受けている。

【マスターとしての願い】
 望むものは、何もない。
少女の心は精神的・肉体的苦痛から自己の精神を守るため、既に閉ざされている。

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最終更新:2017年04月20日 16:29