◇◇


 ――――その日、運命が狂う。


◇◇


 軽い音だった。
 誰かの命が失われるにしては、あまりにも軽い音。
 しかし、忘れるなかれ。
 本来人間の命というのはこうして誰にでも簡単に、気軽な気持ちで奪い取れるものなのだ。
 何しろヒトとて元は獣。
 生きるために殺す、目的のために殺す。
 文明を築き、同族と手を取り合い、規範らしいものが敷かれているからそうした側面が見えなくなっているだけで、それらが乱れた途端に世界は血腥く変わり果てる。
 そう、このように。引き金一つと弾丸一つで、人は死ぬ。
 男はそれをよく知っていた。飽きるほど繰り返し、魂に焼き付けてきた。
 今となっては、こうして幼子を撃ち殺すことにすら何の呵責も覚えない。
 それほどに――この男は腐っていた。

「楽な仕事だ」

 ひび割れたアスファルトの上に横たわる少年が一人。
 その眉間には穴が空き、中身が後頭部を通して外に漏れ出してしまっている。
 誰が見ても分かる即死だ。
 願いを抱いて聖杯戦争に身を投じた哀れな少年は、痛みさえ感じることなく一瞬で天に召されたことだろう。

「終わったぞ、マスター。サーヴァント及びマスターは完全に沈黙。オレ達の勝利だ」

「…………」

「なんだ、不満があるのか? 我ながら、完璧な仕事だったと思うがね」

 立ちはだかった敵の末路に、しかし銃手(アーチャー)のマスターである少女は苦い表情を浮かべていた。
 不服というわけではない。
 彼の手腕は完璧だった。
 文句のつけようがないくらいに。
 それでも、少女はどうしても後味のよくないものを覚えてしまう。
 哀願する幼い少年を、言葉を遮るように無情に射殺した自分のサーヴァント。
 目の前で繰り広げられた光景を当然のものと涼しい顔で受け入れられるほど、彼女は冷血な人間ではなかった。

「別にケチ付ける気はないわよ。あんたはよくやってくれたわ、アーチャー」

「……ああ、さてはアレか。餓鬼の最期に気を病んでいるのか、あんたは」

 言ってアーチャーは、小さな失笑を溢した。
 その所作は、少女の中に否応なく苛立ちの情を呼び起こす。

「初いことだ。羨ましいよ、素直にそう思う。
 だがその感傷は果てしなく無為だ。通常の聖杯戦争ならばいざ知らず、機械細工に管理されたこの聖杯戦争で敗れた者が元の日常に回帰できる可能性など存在しない。真綿で首を絞めるように、迫る消滅の恐怖を胸に抱きながら終局の時を待たせる……さて、残酷なのはどちらだろうな」

「……もう、いちいち口喧しいのよあんたは! そんなこと、あんたに言われるまでもなく解ってるっての!!」

 少女……遠坂凛は優秀な魔術師である。
 それは決して驕りや過信ではなく、頑然とした事実だ。
 大元の冬木市に名高き始まりの御三家が一、遠坂家の六代目。
 魔術の研鑽を怠った試しはなく、隠し持っている秘蔵の宝石の中にはサーヴァントさえ殺傷できるような頭抜けた威力を秘めたものすらある。
 そんな彼女の目から見ても、自分が召喚したサーヴァントは優秀の一言に尽きた。
 ステータスこそ中級どまりだが、その身に宿す戦闘経験と技巧は間違いなく達人のそれ。
 立ち回り方さえミスらなければ、優勝を真剣に狙えるサーヴァント。
 それが、凛のアーチャーに対する評価だった。
 ……だが遠坂凛という一人の人間としてこのアーチャーを評するのなら、『気に入らない』という思いが先行する。

 神経を逆撫でするような言い回し。
 皮肉屋を何倍も腐らせたような台詞の数々。
 無能を咎めたくても、悔しいことに彼は驚くほど有能だ。
 結果として凛は、なんとも言い難いムカムカを抱えたまま聖杯戦争に身を投じる羽目になっているのだった。

「フン。だといいがな――何にせよ、忠告だ。
 敗者に肩入れする癖があるなら直しておけ。華々しい勝利を望むなら尚更だ」

「あのねえ、だからあんたは――」

 まだ言うかと、怒鳴り付けるべく口を開こうとする凛。
 だがその時にはもう、アーチャーは踵を返していた。
 背に刻まれたⅣの文字が、やけに爛々として見える。

「――それは、心の贅肉というものだ」

 彼が霊体になって姿を消す直前、最後に発したその言葉。
 それは午前二時を過ぎた宵闇の中で、一際はっきりと耳に残った。

「……はあ。何なのよ、アイツは」

 さっぱり分からない。
 真名も、宝具も、過去も、人となりも。
 あのサーヴァントは、分からないことだらけだ。
 自分からそれを語るでもなく、ただ黙々と敵を殺しては悟ったようなことを言う。
 ムカつくヤツ、と凛は唇を尖らせてぼやく。
 ――それから、もう一度だけ地面に転がった死体へと目をやった。

「…………」

 謝罪を口にするつもりはない。
 相手が子供であろうと、敵は敵。
 アーチャーの言うことは、その理屈だけ見れば極めて正しいのだ。
 負ければ終わり、消滅を待つしかない世界。
 おまけに生きていれば再契約をされ、また立ち塞がられる可能性もある。
 だから、これは必然の至り。
 聖杯戦争では、ごくごく当たり前のこと。

 遠坂凛は、聖杯戦争での勝利を目指している。
 より正確にいえば、その先の聖杯獲得を。
 全ての魔術師の悲願、それを自らの手で遂げるために。
 呼び出した掃除人の名前も、その腹に抱えるものも知らないまま――盲目に勝利へ突き進む。


◇◇


「さて。如何にしたものかね、これは」

 時は流れ、夜明け前。
 遠坂邸の屋根上から遠くに昇る朝日を見据え、白い髪に褐色の肌を持つアーチャーは辟易した様子で独りごちた。

「何から何までイレギュラーづくめの聖杯戦争。オレのような男が派遣されるのは必然といったところだが――」

 このアーチャーは正当なサーヴァントではない。
 本来なら、聖杯戦争に呼ばれるべきですらない存在。
 記憶も過去も喪った反英雄。自ら名を捨て失墜した無心の執行者。

「まあいい。オレはいつも通り、オレのやり方で殺らせて貰うだけだ」

 それだけに必然、彼はマスターに聖杯をもたらす存在ではない。
 明確な願いを持たず、揺るがない忠心も持たず、独自の目線で目的を叶えるべく原野を駆ける血塗れた猟犬。
 遠坂凛はいずれ、自分の不運を思い知ることになるだろう。
 なんだってこんな男を引いてしまったのかと、悔いることもあるかもしれない。

 しかし、結ばれた縁は変わらない。
 運命は意図したようにそれぞれ運命(Fate)を繋ぎ合わせ、継ぎ接ぎの物語を演出する。

 ――女は、男の名を知らない。何故なら彼女は、件の運命を経験していないから。

「――優秀な魔術師、いいじゃないか。精々最大限、時が来るまで寄生させて貰うとしよう」


【クラス】

アーチャー

【真名】

エミヤ[オルタ]@Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力:C 耐力:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:E 宝具:?

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:D
シングルアクションによる魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
但し宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】

防弾加工:A
対射撃スキル。
自らの防御力を上昇させ、特に射撃攻撃に対しては上昇値にプラス補正を行う。

投影魔術:C
オーソドックスな魔術を習得している。
その中でも、彼は特に投影・強化の魔術を得意とする。
反転していない彼は投影魔術に限ればAランク超えの才能を持つと明言されていたが、反転した彼のランクはC。
これについての詳細は、明らかになっていない。

嗤う鉄心:A
反転の際に付与された、精神汚染スキル。
精神汚染と異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方をよしとするもの。
Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮できない。

【宝具】

『無■の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』
ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:30~60 最大補足:?
本来、『無限の剣製』は剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いたひとつの極地である。
この固有結界には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されている。
……が、この男の『無限の剣製』は何と相手の体内に生じる。極小の固有結界は、体内で凄まじい威力となって相手を破裂させる。炸裂の瞬間に生じる固有結界の心象風景は衛宮士郎とも英霊エミヤとも異なり、黒い荒野と血のように赤く染まった空、そしてひしめく巨大な歯車の動きを鎖が縛っている、というものになっている。
また、本来の宝具名称は「限」の字に削り取ったような傷が刻まれている。

【weapon】

『干将・莫耶』
陰陽二振りの短剣。
根底から改造し刃のついた二丁の拳銃として銃撃・斬撃に使用している他、双剣に戻し柄の部分を連結させて使用することもある。

【人物背景】

社会が生み出した無銘でなく、自ら名を捨て失墜した無心の執行者。
記憶も過去も喪った反英雄は道徳を見切り、親愛を蔑み、生きる屍となった己を嗤い続ける。
無論、一人の人間の人生がこうまで変貌するには理由がある。
剣の如き強靭な男の魂を失墜させたのは、聖母の如き慈愛を持つ一人の女だったと言われている。
様々な国の権力者、科学者などは、あるいは心に傷を負っており、あるいはその異才から世間に交ざれなかったという心の闇を抱えていた。
ある世界のある国に起きた新興宗教は、教主の女がそんな彼らを救うために――――否、単に気まぐれで創立させたにすぎない。
世界を変えるだけの知識と技術を持った才人が集まったために多くの先進国が危険視したが、その組織には悪の理念もなく、教主の女を除いてただの一人も悪人はいなかった。
世界でただ一人、その女の末路と人類悪になりうる素質に気が付いた男は、自分の信念を曲げてでも必ず殺すことを決意した。
男はこの魔性を追い詰めるために、その過程で多くの信者たちを手にかけたが、その女は自らビルの屋上から飛び降りてしまう。
悪逆の報いを受けさせることも叶わず、ただ『無辜の民を殺した』男は、彼らの命に殉じるように魔道に落ちた。

【サーヴァントとしての願い】

??????


【マスター】

遠坂凛@Fate/stay night

【マスターとしての願い】

聖杯戦争に勝利し、聖杯を持ち帰る

【weapon】

宝石

【能力・技能】

魔術師として、若さに見合わない非常に優れた才能を持つ。
ガンドや宝石魔術に始まり、その他にも様々な属性の魔術を行使できる。
中でも宝石魔術の威力は入念な準備もあって凄まじく、直撃すればサーヴァントさえ殺傷し得るほど。
ただ問題点として、非常にコストがかさむ。

【人物背景】

「始まりの御三家」が一、遠坂家の六代目。
正義の味方を志す少年と出会う前の彼女。
だがその出会いは、悲しいほどに腐り果てていた。

【方針】

聖杯戦争に勝つ。アーチャーには若干の不信感。

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最終更新:2017年05月17日 22:55