芥辺境藩国@wiki

イベント15 I=Dの量産【アイドレス工場のある一室での一幕】

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
メンバー限定 登録/ログイン

【アイドレス工場のある一室での一幕】

作:那限逢真・三影(PL:那限逢真)


 芥辺境藩国は国民総動員で動いていた。
 人から猫から大忙しだった。
 その中でも、アイドレス生産工場は小助救出作戦以来の大忙しであった。
 普段は定時で引き上げる吏族たちも、この時ばかりは倒れるまで働く。
「5番レンチ持ってこい!」
「配線終了しました!」
「手が足りん!! 政庁に行って誰か連れて来い!」
 幸いだったのは、こんな事もあろうかと闇星号の生産ラインを残しておいた事だ。
 何だかんだでも同じメカ。サイズや用途の違いはあれ、使えないわけではない。
 そして、国民がこういう事態を想定してそれらの機器の整備を怠らなかった賜物だ。
 こういう、いざと言う時のための準備が出来ているのは藩王の人徳だろう。
 資金もなく同時に食糧増産命令も出たために藩国の存亡は風前の灯でもあった。
 それでも、誰も彼もが各々に出来る事に奔走していた。
 着々と増産され、各地からかき集められる食糧。
 アイドレスも局地対応による若干の仕様変更があったものの順調に進んでいた。

 しかし、テストも終わっていない機体の量産を開始して間も無く、問題は起こる。
 アイドレス工場の一室で悲鳴が上がる。
「何っ!? モーションデータがない!?」
「まだテスト中の機体ですよ!? あるわけないでしょう!!」
 そう。ハードの生産は進んでいたが、ソフトのほうが全く進んでいなかったのだ。
 前倒し生産の弊害が顔を出したのだ。
「闇星号のモーションデータは?」
「特殊過ぎて使えませんよ。それに可変機ですよ? あの機体」
「ううむ……」
「あの人のコンセプトは変な方向に偏っていますもんね……」
 あの人とは言うまでもなく、摂政である那限逢真のことだ。
 その那限逢真はアメショーのテストパイロットとして出かけており、ここにはいない。
 ついでに言えば、生きて帰ってくるかもわからない。
 確かに闇星号のノウハウはある。が、闇星号は歩兵支援を目的として作られていない。
 加えて、そもそもが機体のサイズも違うし、コンセプトがアレなのでモーションデータの流用が

出来なかったのだ。
「仕方ない。一から作るぞ。あの人がいない以上仕方ない」
 班長が顔を顰めたまま、指示を出す。
 機体の性能に大きく関わる事だが致し方ない。
「あ。大丈夫ですよ~。今、メール送りましたから~」
「……はい?」
言葉を発したのは、天然で知られるある整備士だ。律儀に挙手までしている。
「なんで貴女が那限さんのメールアドレス知っているのよ?」
「前に街中であった時に、頼んで教えてもらいました~」
「……おい」
 班長が言葉を発しようとした瞬間に、辺りに場違いな電子音が響く。
「あ。返ってきた~。えっと……『今、テスト出撃中で忙しいんだけど?』だそうです~」
「うわ。マズイ時にメール届いたなぁ……」
「悪い事したなぁ……帰ってきたら謝らないと……」
 その直後に再び電子音が響く。
「今度は『何とかするからちょっと待て』です~」
「何とかって……どうする気なんだ?」
「……そもそも、テストパイロット中に携帯でメールしているのか? あの人は」
 整備士達が呟いていると、モニターの一つにデータ受信の表示が現れる。
 始めは一行だったプログラムが、瞬く間に増えていく。
「これって、モーションデータ?」
「……ですよね?」
「あ。またメールです~。『今やっているのでデータを送る。解析甘いからよろしく』」
 一瞬、場の空気が凍る。
「あの人、テストしながらデータ解析して送っているのか!?」
「……やっぱり、あの人只者じゃない……」
「前に歩露さんが言ってましたね。あの人はファンタジーだって」
「うん……」
 微妙に間の抜けた空気から、いち早く立ち直ったのはメール送信者である整備士だ。
「あ~。でもでも、これで作れますね。アメショー」
「はっ!? そうだ。急げ! 那限さんは命晒してまでデータ送っているんだぞ!」
 その一言で全員が正気に戻る。
 そして、慌しく自分の仕事を開始する。
 三時間後、芥辺境藩国で最初のアメショーがロールアウトすることになる。
ウィキ募集バナー