「まったく、やっとマトモなアラダが現れたのかと思ったら、戦闘バカと来たもんだ。まいったね、どうも……」
部隊の本部、といっても非常に机があるだけのテントから、ゲドーは敵の陣形を望遠鏡で眺めて呟いた。
今回、新摂政として初めて、部隊を指揮する立場での出陣である。これからあれと戦うのか、と思うと震えそうになる声を、呆れで覆い隠していた。
黒の軍勢は見事な隊伍を組んでいた。こちらを侮り数だけで攻め寄せてきていた白との違い。相手は、多分自分達よりも戦争技術に長けている。
それを相手に戦うのかと思うと苦い笑いしか浮かばない。
天幕から出てきた藩王がゲドーの隣に立った。
今回、新摂政として初めて、部隊を指揮する立場での出陣である。これからあれと戦うのか、と思うと震えそうになる声を、呆れで覆い隠していた。
黒の軍勢は見事な隊伍を組んでいた。こちらを侮り数だけで攻め寄せてきていた白との違い。相手は、多分自分達よりも戦争技術に長けている。
それを相手に戦うのかと思うと苦い笑いしか浮かばない。
天幕から出てきた藩王がゲドーの隣に立った。
「準備は出来たか?」
「万全とはいえませんが、やれるだけのことは」
「そうか、ならいい」
「万全とはいえませんが、やれるだけのことは」
「そうか、ならいい」
並んで今回の敵を眺める。
見ただけで殺されてしまいそうな存在が、一個の生物のように形を整えてこちらとの戦闘を待ちわびている。
ゲドーはその姿を眺めているだけで、どこか危険な獣が牙を研ぎ澄ましているような、そんな畏怖を禁じえない。
だが、傍らに立つ藩王は違うようだった。
口元は緩められ、目は爛々と輝き、まるで新しいおもちゃを目の前にした子供のような、楽しそうな顔をしていた。
見ただけで殺されてしまいそうな存在が、一個の生物のように形を整えてこちらとの戦闘を待ちわびている。
ゲドーはその姿を眺めているだけで、どこか危険な獣が牙を研ぎ澄ましているような、そんな畏怖を禁じえない。
だが、傍らに立つ藩王は違うようだった。
口元は緩められ、目は爛々と輝き、まるで新しいおもちゃを目の前にした子供のような、楽しそうな顔をしていた。
「楽しそうですねえ……」
「ん、そう見えるか? ……そうかもしれないな。うん、たしかにちょっと楽しみだ。不謹慎かもしれないが」
「ん、そう見えるか? ……そうかもしれないな。うん、たしかにちょっと楽しみだ。不謹慎かもしれないが」
荒川藩王は口元を一度撫で回すと、苦笑してそれを認めた。どこかその事を恥じているようでもあった。
「何しろ今回ほど正々堂々とした……というか、ここまで真っ直ぐな敵は初めてだからな。恨み辛みがない分、楽しく戦争できそうだ」
らしいといえば藩王らしい物言いに、ゲドーは苦笑した。
「戦争って言うより、ケンカって感じですね」
「そうかもしれないな。……とはいえ、今回は藩国はおろか、共和国やニューワールド全体の問題でもある。負けるわけにも行かないのは確かだな。勝ちに行くぞ、新摂政」
「その呼び方、慣れないですねえ……」
「すぐに慣れるさ。……さあ、楽しいケンカの時間だ。準備は不十分かもしれないが、できるだけはやった。あとは本番をやるだけだ」
「そうかもしれないな。……とはいえ、今回は藩国はおろか、共和国やニューワールド全体の問題でもある。負けるわけにも行かないのは確かだな。勝ちに行くぞ、新摂政」
「その呼び方、慣れないですねえ……」
「すぐに慣れるさ。……さあ、楽しいケンカの時間だ。準備は不十分かもしれないが、できるだけはやった。あとは本番をやるだけだ」
藩王は一歩を進めて高台の上に上がった。強い風。マントが翻る。
眼下には芥辺境藩国の部隊。誰もが藩王を見上げて、その号令を待ちわびている。
眼下には芥辺境藩国の部隊。誰もが藩王を見上げて、その号令を待ちわびている。
藩王はニヤリと笑った。祭りの始まりを告げるかのように大仰に足を地面に叩きつけ敵陣を真っ直ぐに指差した。
そして告げる。
そして告げる。
「全軍突撃! 奴らの想像以上に、相手の期待に応えてやれ!!」