全ての人の魂の戦い(2)
ビームの隙間を駆け抜け、マジンカイザーは突進した。デビルガンダムの演算とデータを超えるスピード。
カイザーブレードを振りかぶり、デビルガンダムの頭上に振り下ろす。
デビルガンダムは3本の右腕でそれをうける。二本の右腕が斬られて飛び、
3本目の半ばで刃はとまる。さらに力を入れて押し切ろうとするマジンカイザーに対し、デビルガンダムは胸部を展開。
中から巨大な砲塔が現れ、緑色の光線――ゲッタービームだ――を発射。マジンカイザーを弾き飛ばす。
さきほどまでの攻防から見るなら、マジンカイザーはグシャグシャに潰れるはずだった。
しかし、今では装甲がひび割れるのみ。さらに撃ち込まれるメガ粒子砲をすべてかわしてみせた。
ヴィンデルは、今マジンカイザーと完全に一つになったといっても過言ではなかった。
マシンを操縦するものが、時として感じる完璧な一体感。それだけではない。ただ、ひたすら圧倒的な力が体に宿っていた。
燃えるような赤みを帯びたカイザースクランダーの加速がヴィンデルの体に強烈なGをかける。
だが、痛みは無い。むしろ、風を切る心地よさ――感じられるはずの無い――だけがあった。
瞬きする間に距離を詰め、加速を剣の切っ先にすべて載せた。裂帛の気合とともに振られる豪剣。
次の瞬間、マジンカイザー必殺の一刀により、デビルガンダムの下半身の顔は横一文字にたたききられていた。
大質量をものともせず、切られた勢いでデビルガンダムの体はチリジリになった破片を撒き散らしながら転げていく。
しかし、この程度で今のデビルガンダムを倒しきることはできない。
下から沸き立つ触手と、体からあふれる触手が絡み合い、植物と蛇と機械を交配させたような下半身を再生させた。
――ア゛ガジッグレ゛ゴード……ア゛ガジッグレ゛ゴード!ア゛ガジッグレ゛ゴォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ドッ!!
口腔から金属をすさまじい力でねじり上げるような声で、自分の永遠の怨敵の名を叫ぶ。
すでに、デビルガンダムは心を吸い上げすぎ、希薄ながら自分の意思を持つようにすらなっていた。
先ほどの衝撃で壊れた場所を骨格と外装を組み替えながら、再生される。
そこへさらに追いすがるマジンカイザー。
――ヴゥオオオオォォォ!!
突然マジンカイザーの目の前に触手の津波が十重二十重に発生し、飲み込んだ。
「ヴィンデル・マウザーッ!」
ついに追いついたディス・アストラナガン。飲まれていく瞬間を見たマシュマーが声をかける。
「マシュマー・セロか。離れておけ。巻き込まれると危険だ」
意外なことに、まったくあわてた様子の無いでヴィンデルが答えた。
「しかし、脱出できるのか?死ぬぞ」
「私が死ぬ……?」
その言葉を、鼻で笑って見せた。
「私は死なん、まだやることがある。それに、私は独りではないからな!」
巻きついたガンダムヘッドが少しずつ、少しずつ溶け、煙を上げた。
「光子力エネルギー、フルチャージ!いくぞ、お前たち!!」
溶け崩れたガンダムヘッドの隙間から閃光が柱のように伸びる。
「カイザァァァァァァ・ノヴァ!!!!」
一瞬で夜空まで染め上げる。大気すら焼く、限りなく無限に近い熱量が発生した。
まとわりついていたガンダムヘッドはもちろん、直下では地下のガンダムヘッドすら一瞬で蒸発した。
離れていたディス・アストラナガンでさえ、あおりを受け、体制を崩すほどだ。
そして、地面をガラスの鏡面のようなクレーターにした後、マジンカイザーによって発生し、
周囲を焼く尽くした恒星のごとき光球は、急速に力を失い、消滅する。
すべては消え失せ、チリも残らないクレーターが出来た。
マジンカイザーが周りを見回した。
「……そこか!」
マジンカイザーが何も無い地面へまっすぐと飛ぶ。そして、カイザーブレードが地面の一点を刺し貫いた。
カイザーブレードを力任せに振り上げる。そこには、デビルガンダムが突き刺さっていた。一気に地表に引き上げる。
ガンダムのコクピットは胸部、というマシュマーの言葉を思い出し、胸部装甲を強引に引き剥がす。
本来マシーンにあるべき操縦桿やスクリーンといったものはまったく無かった。
中からあふれる触手を掻き分け、マジンカイザーが手を入れる。マジンカイザーの動きが止まった。
そして、一気に手を引き抜く。握られているのは、間違いない。
銀色の皮膜のようなものが砕け散り、青い豪奢なドレスを着たツインテールの少女が現れた。まだ、気を失っているようだ。
「……ミオ」
通信からマシュマーの安堵の声が聞こえた。
しかし、まだ一筋縄では行かない。主を引き抜かれたデビルガンダムが暴れ始めた。全身の全間接から触腕を戦慄かせ、
奪われた物を取り返そうと離れようとしたマジンカイザーを追跡する。
「く……!」
両手を被せて、風や舞い散る破片からミオをかばいながら、空を飛ぶ。しかし、この状態では攻撃を仕掛けることも、
最大速度で飛ぶことも難しい。少しずつではあるが、確実に差は迫っていく。
(あと、1分、いや30秒で追いつかれる!?)
何本もの触腕がマジンカイザーを追い詰めた。だが、今この場にいるのはマジンカイザーだけではない。
「よくやった。後は私に任せろ……!」
ディス・アストラナガンが胸部を腕でこじ開ける。
左右に内蔵されたディーンの火とディスの火が限界まで力をくみ出す。出力を開放された心臓がうなりを上げた。
「テトラクテュス・グラマトン!回れ、インフィニティーシリンダー……!!」
究極、絶対消滅の力が胸へ集中する。
僅かに、マシュマーの体が傾いた。目の前が薄く白くなる。
――思ったより命の残りが少ないか。
あまりに機体の力を引き出しすぎたことによる副作用がマシュマーを蝕む。
(思ったより消耗が激しいな……だがまだ!)
そう、まだだ。このときのために温存していた一撃。今、この時を持って全てを断つ!
「受けろ!アイン・ソフ・オウル!!」
制御も何も無く方向性のみを与えられ放出されるエネルギー。
周囲の待機をゆがませ、ガンダムヘッドの破片を舞い上げながらデビルガンダムの本体へと飛ぶ。
当たったデビルガンダムを中心に、閉鎖された空間を生み出す。その周囲を回る蛍のような光がデビルガンダムを食い荒らす。
下半身、右腕、胸部、腰部、頭部――……みるみるうちにデビルガンダムがこそげとられていく。
最後に、空間が元に戻る反動でおこる大爆発。
後に残るは、僅かに残った腕一本。
マジンカイザーを追いかけていた触手がしおれていく。
それだけはない。
次々と触手が弾けては赤黒いタールのようなものになっていく。3分も経つころには、個体はなくなり全てがタール状になっていた。
「……終わったな」
「ああ、終わった」
2機は並んで崩れていく様子を眺めていた。
2人そろってミオを見る。見たところ、外傷はまったく無い。ただ、寝ているだけに見えた。
「勝ち目の薄い戦いだった。しかし、大切なものを私に思い出させてくれた」
「……大切なもの?」
「人の意思、だ。まったく、司令官などという立場になってから、後ろを見ることをしなかった自分が愚かしい」
「そうか。人の意思か……」
何か思うことがあったのか、静かにマシュマーは頷いた。
ぐるりと地平まで広がるタールを見回し、ある一点を見据えた。
「本当に、勝ち目のない戦いだった。あの2人も……」
「……タシロ艦長、副長の二人に何か会ったのか?」
「鬼を倒すため、自爆攻撃を敢行したようだ。背後で異常なほどのエネルギー反応があった。」
静かに、軍人として、人として二人は敬礼した。、自分達の確執に付き合い、命を落とした2人。
出来ることなど無いが、せめてそれが最大の手向けになるだろうと祈りながら。
タシロたちのその場その場での的確な行動が無ければ勝てなかったろう。
ヴィンデルがガンダムヘッドと接触し、力を引き出さねば勝てなかったろう。
マシュマーが最後の場に居合わせ、消し飛ばせねば勝てなかったろう。
ミオがデビルガンダムの中で意思を繋ぎ止めねば、救出は不可能だったろう。
運命の歯車が最高の形でかみ合わなければ勝てない、それほどにあやふやなあって無きに等しい可能性を潜り抜け、勝った。
その勝因とは何だろう? おそらく、答えは望み。
どんなに可能性が薄くとも、その望みを信じ、皆が自分の意思を持って突き進んだからこそ訪れた結末。
「ここまでだ。次合うときは、お互い敵だろう」
ディス・アストラナガンが背を向けた。
「何故、そこまでする?」
「ハマーン様のためだ」
「やれやれ、お前も私と同じだ、大切なものを忘れている」
ため息をヴィンデルがついた。
「私に、そのハマーン・カーンなる者のことは知らん。しかし、お前がそこまでをする人物だ。よほどのものだったろう。
なら、その聡明な者がお前の今の行動を望むと思うか?」
「だが、それ以外にやりようなど知らん」
「なら、さらに私が言ってやろう。今、お前がやるべきことは、主催者と戦うことだ。このガンダムだったか?を見てもわかるだろう。
このゲームは、ただの殺し合いではない。裏で、もっと大きな何かが蠢いている。主催者の望むようにな。
殺し合いはおそらくその一つだ。つまり、お前がむやみに人を殺せば、殺すほど主催者はあざ笑うだろう。『自分の思う壺だ』とな」
「………」
マシュマーは無言。さらにヴィンデルは話し続ける。
「やるべきことは、主催者を倒すこと。
そして……マジンカイザーとディス・アストラナガンにはその鍵となるかもしれない力と、可能性を秘めている。
だからこそ、だ。主催者を倒しうる力を無駄に振るって、死ぬまで戦うか、共に最大の敵であるヤツを倒すか」
まっすぐマシュマーを見つめ、真摯に話しかけた。
「私は、アクセルの仇を打つためにも戦う」
いったん切って、強調する。
「さて、どうする?」
「…………」
「…………」
お互いに無言で相手の目を見る。
「……わかった」
マシュマーが静かにだが、強く言った。
すっとマジンカイザーが腕を差し出した。ディス・アストラナガンも手を握り返す。
「これからは、仲間だ。頼ってくれてかまわんぞ」
「……ああ、これからも頼むぞ」
――これでいい。
マシュマーはそう思った。もう、わずかばかりの命。ならば、ヤツを打つため、一矢報いるために使おう。必ず、ヤツに牙を突き立てる。
それでこそ、ハマーン様をお喜びになるだろう。胸のバラを掲げ、清々しげにマシュマーは夜空を眺めた。
デビルガンダムは倒れた。
ついに、ここに最強のタッグが完成する。
ここから、始まる。新しい道が。そう――――――
――――――最悪の悪夢が。
タールが、嘲笑った。
そう形容するしかない光景だった。
突然、ゴボリと泡を立て始め、まるでマグマのように滞留したと思うと、この世に在らざる声で騒ぎ始めた。
他人を呪う様に。世界を恨むように。そして、誕生を祝福するように。
粘液からなる肉体が、硬質化する。
「何が起こっているのだ!?」
「わからん、しかしこれは……これは……すさまじいプレッシャーだ!」
――――爆縮していた。
小都市ならすっぽり包み込むほどの量のタールが、小さく集まり、一つになろうとしている。
あまりに急な収縮により、まるでブラックホールが発生し、吸い込んでいるようにすら見えた。
赤黒い負の心の塊が、一気に凝縮された。液体が固体へと変化する。
僅かに残った腕が空へ浮き上がり、タールに包まれ、なめらかな人の手をしたものになった。
マジンカイザーと戦い、アカシックレコードと『死』を感じたデビルガンダムは、
デビルガンダムをやめ、戦うにふさわしい形態へと変化を始めたのだ。
水蒸気が昇華され氷になるように、タールが超硬度の物質へと生まれ変わる。
そして―――
「……『月』?」
ヴィンデルがそう呟いたのも無理はない。直径80m前後の球形になった。きちんとクレーターのようなものまで刻まれている。
2機に異変が起こる。
『何……!?』
二人の声が重なった。
マジンカイザーが突然地上に落下した。
ギリギリで噴射して、どうにかミオを傷つけないように軟着陸。機体の状態をチェックすると、Over Heat の文字があった。
理由は何度調べても『不明』の二文字しか表示されない。
いつの間にか胸のマークも『Z』に戻っている。再起動には、6分30秒と表示された。
一方ディス・アストラナガンはまったく逆の反応だった。
「どうしたのだ!私の言うことを聞け!」
勝手に動き始め、ガンスレイブを射出、その赤い双眸は今までに無いほど煌々と輝いていた。
「あの『月』がそれほど気になるのか!?あの月は何だ?」
――クォヴレーが倒した霊帝と――俺が倒したゼストの融合――ユーゼスの最終目標――その原型――
「何だ……誰だ私の中に入ってくるのは?」
――いそげ――時間がもう尽きようとしている――荒療治だがすべてを教える――受け取れ――
「私の中に入ってくる……!?う、おお……?」
うめき声を上げたあと、マシュマーが動きを止めた。焦点の合わぬ目で虚空を見つめている。
「マシュマー?マシュマーどうした!?」
呼びかけても何も反応を返さない。
強化人間なる通常と異なる感性が何かを感じ取ったのだろうか?とヴィンデルは判断した。
「あの『月』はいったいなんだ?何を引き起こしているのだ?」
月を見上げ、呟く。その声に、答えるものがあった。
「いや、違う。あれは『卵』だ」
上空から涼やかな声が聞こえた。
上空を振り仰ぐヴィンデルの目に映っているのは――
「馬鹿な!お前は死んだのでは……!」
――ガイキング
「俺は戦闘のプロだぞ?あのくらいで死にはしない。しかし、またゲッターのまねをすることになるとは思わなかったがな」
自爆の直前、ガイキングは分離して組み付かれた足をはずしたのだ。あとは、元々マッハ3のガイキングである。
高速でその場を離れ、デビルガンダムに作らせておいたスペアパーツと交換したのである。
「まったく、もしものときの予備ぐらいは作っておくものだ」
憮然と言う鉄也。
「貴様……!」
今にもそのまま食いかかっていきたい思いを抑え、ヴィンデルが冷静に状況を把握しようとした。
マシュマーが起きる時間と、マジンカイザー再起動への時間も稼がねばならない。
「先程、あの『月』を『卵』といったな、どういう意味だ?」
「詳しくは、俺も知らん。どうも、あやふやなもので俺とあれは接続されているようでな。
分かることは、『あれにあるものを除き接近を許すな』ということ、『圧倒的な力を持つものが生まれる』こと、
そして、『そこのマシンを嫌っている』ことだ」
「『あるものは除き』?」
「他は聞かれてもわからんが、それは答えてやろう。あるものというのは……あれだ」
ガイキングが親指を立て、空を見ろと示した。
ドォゥ――――!
鳥の様な頭部と長い首を持つ、細身の怪鳥が、月に向けまっすぐに突っ切っていった。
「怪獣!?いったい、本当に何が起こっているのだ!?圧倒的な力?そこのマシン……ディス・アストラナガンのことか!?」
デビルガンダムという成長、進化する敵。消滅の後現れた月。突如暴れるディス・アストラナガン。今度は怪獣……
完全に常人の理解の範疇をはるか離れたものだった。
「聞かれてもわからん。むしろ、そこのマシンに聞いたらどうだ?随分と嫌っているようだからな、何かあるんじゃないのか?」
「ディス・アストラナガンと、何かある?」
「だから聞かれてもわからんといっているだろう。それより、今度は俺の質問に答えてもらおうか。……そのマシンは何だ?」
「マジンカイザーのことか?」
「……マジンカイザー」
暗い響きが言葉の端にうかぶ。
「それは何だ?マジンガーは俺のグレートと、マジンガーZだけのはずだ。先程の戦闘は遠目に見させてもらった。
はっきり言って、グレートよりもはるかに強い。だが、そんなマジンガーあるとは聞いたことが無いぞ」
苦虫を噛み潰したような声で、認めたくは無いがな、と付け加えた。
「私もよくは知らない。もともと、他の参加者から奪ったものなのでな」
「そうか。」
短く鉄也は答えた。そして、
「動かないようだったから様子を見させてもらったが……どうやら動けないの間違えだったようだな」
鉄也の顔に勝利の確信が浮かぶ。
「破壊するつもりだったが、気が変わった。そのマシン、奪わせてもらうぞ」
カウンターパンチをマジンカイザーに向ける。
「本当にマジンガーというなら、マジンガーに乗るために育てられた俺のものだ。
違うというなら俺のグレートより強いマジンガーの偽者ということになるからな。破壊させてもらう」
機体を奪うために、コクピット狙いだ。オーバーヒートで行動できないヴィンデルには見ていることしか出来ない。
ガイキングの腕が発射された。硬く握り締められたコブシはそのままマジンカイザーに―――
「そうか……そういうことか……」
直撃しない。割って入ったディス・アストラナガンのディフィレクトフィールドが直前で跳ね返した。
「ハマーン様があそこにいらっしゃるのだな!?」
ディス・アストラナガンは月を見据え、加速を始めた。しかし、鉄也はそれを許さずサンダーブレークで行く手を阻む。
「悪いが、いかせん」
「黙れ………!」
気の弱いものなら気絶しそうなほどの殺気のこもった目が、鉄也に向けられる。
「そうか、なら、こうするだけだ」
ガイキングは腕をひょいとマジンカイザーへあげる。
「あの男と、あのマジンガーもどきの手の中にものが駄目になるぞ?それでもいいのか?」
「いいだろう……!すべてがわかった以上、出し惜しみは無しだ。お前を倒し、ミオの安全を確保する。
そして、『ゼスト』を生まれる前に倒し、ハマーン様の魂をお救いする。それが私に与えられた運命だ!」
「倒すだと?やってみろ!」
「言われなくてもわかっている……!ディス・アストラナガンよ、いくら我が命削ろうともかまわん!」
「待てマシュマー!『ゼスト』とはなんだ!?」
ディス・アストラナガンが吸い込んだ力を感じ、歓喜の唸りをあげた。
ヴィンデルの声を無視し、ディス・アストラナガンが虚空を踏みしめ飛び上がる。
雲を、大気を引き裂きガイキングへ。
「そうだ!それでいい!!」
ガイキングの顔がひとりでに弾けとび、真の顔が明らかになる。それは、さらに異常さを増す鬼の顔だった。
「ガイキングミサイル!」
1分間に300発という速射がディス・アストラナガンに飛ぶが、今まで最高のありえない速度で加速、
そしてありえない角度で急上昇、ミサイルは見当違いの場所に飛んでいく。
ガイキングの上空へ舞い上がった瞬間、天の月が僅かに翳った。
腕を交差させ、防御の姿勢をとるガイキングを、そのままディス・アストラナガンが殴り飛ばす。
「これほどのパワー……、いったどこからだ!?」
特殊な体術を行ったわけではない。ただ無造作に殴り飛ばしただけの一撃で、身長を倍するガイキングを吹っ飛ばした。
が、ディス・アストラナガンの腕も数m縮み、しわのような凹凸が生まれていた。
折れた腕をつかみ、無造作に引っ張って直す。それだけで完全に直っていた。
指揮者のように手を振り上げ、優雅に下ろす。
ガンスレイブは、その動きにあわせ、あるものは急速に加速し、あるものはスピードを落としまわりこむように動き、
あるものは狙撃し、またあるものは食いつき装甲を噛み破ろうと複雑怪奇に飛び回る。
一匹一匹が多角的に攻撃を仕掛け、ガイキングの装甲を貫く。
だが、ガイキングにダメージは無い。確かに装甲を抜いてはいるが、一匹一匹の力が弱いため、変化したDG細胞で生まれ変わった
ガイキングの再生速度を上回らないのだ。
ガイキングは両角から激しく放電。すると、次々とガンスレイブが弾け、すべてが打ち落とされた。
「その程度では意味が無いぞ?」
「そうか……なら確実に止めをさしてやる!!」
さらにいままでで最高の速度で加速。
ディス・アストラナガンが、本来の操縦者のであるクォヴレー・ゴードンが霊帝を打ち砕いたときの性能に、限りなく近づいていく。
ガイキングの周りを円を描くように回りながら、ラアム・ショットガンを打ち続ける。
その散弾も、暗い光の尾を引き、最高の威力と速度を兼ね備え、打ち出される。
ガイキングは回避行動を開始。『点』ではなく『面』の攻撃であるショットガンをうまくかわしていく。
空中で灼熱のつぶてを放ちながら、ディス・アストラナガンの側面へ回り込もうとする。
お互いが最高の攻撃点をもとめ、加速し続ける。隙を見て攻撃を続けるガイキング。
ディス・アストラナガンは、直撃コースではない限りディフィレクトフィールドを利用することで、攻撃をそらす。
そうして最小限の動きを作り出し、攻撃を続けた。
あるとき、ディス・アストラナガンの腕に攻撃が直撃した。
「まだだ!」
もげた腕が地に付くよりも早く再生させる。
ズバン!!と、空間を見えない腕で叩く。すると、なくなったという痕跡すら残さず元に戻った。
燃える
燃える
燃え上がる
マシュマーの魂が、ディス・アストラナガンにくべられ、燃えている。
まるで、消える直前のろうそくの様に、煌いている。
ユーゼスが施した紛い物というリミッターと、人間が命を守ろうとする本能という名のリミッター、
この2つを超えたことによる力がディス・アストラナガンを動かし続ける。
命はエネルギータンク。
体は歯車。
頭脳は大いなる負の心を円滑に扱うためのデバイス。
「うおおッ!」
再生した腕にはZ・Oサイズが握られていた。
武器ごと、強引に再生させたのだ。
またガイキングの角が大量の電撃を集め始めた。
「これがかわせるならかわしてみせろ!」
その場をまとめて埋めつく雷が覆いかぶさるように投げ込まれた。逃げ場などない。
「見える、私にも見える!奴のプレッシャーが……悪意の連なりが!」
超高速を超えた超光速をもってディス・アストラナガンが光の速度で迫る雷の僅かな隙間を駆け抜けた。
Z・Oサイズを振り上げ、無防備なガイキングを両断しようとする。
「だが、この程度!」
ガイキングは放電を即刻中止、両手を使いZ・Oサイズを真剣白刃取りした。そのまま、動けないディス・アストラナガンに
ハイドロブレイザーを撃とうとする。
「エンゲージ!」
ディス・アストラナガンもその状態のまま、メス・アッシャーの発射準備。
ガイキングのハイドロブレイザーは、致命的なダメージをディス・アストラナガンの下半身に与えたが、
ガイキングの両腕もメス・アッシャーを受け、因果の彼方へ飛ばされ、爆発した。
ディス・アストラナガンはダメージを再生させ、ガイキングはどこからか取り出したカウンターパンチのスペアを装着した。
マシュマーがそのときむせかえった。べっとりと血が栄光のネオジオン軍の制服につく。それではなかった。
全身から汗を噴出し、まるで高熱を出して倒れそうな様子だ。
――すまない――本来、俺がやらねばならんことを―――
青い髪の男――姿は見えないが、なぜか確信できた――がマシュマーに謝罪した。
「勘違いをするな!お前のためではない、ハマーン様を救うため、ミオを守るため、そして私の誇りのため……そのためだ!」
――まだ完成していないゼストを砕けば――魂は開放されるかもしれない――
「わかっている、先程お前が導いた記憶、確かに受け取った」
ところどころ意識まで飛び始めた。それでも戦いをやめるわけにはいかない。世の中には、命よりも崇高なものがある!
「そちらが刃物を使うというのなら、こちらも使わせてもらおう。こい!ダイターンザンバー!」
鉄也の呼びかけにより、どこからかガイキングとほぼ同サイズの剣が飛来した。
「戻るとき、回収していたものを時間をかけて再生させたものだ。硬度は今まで以上だぞ!」
ガイキングが先に仕掛けた。ダイターンザンバーが風をまいて駆け抜ける。マシュマーも鎌の特性を生かし、遠心力を使いながら
刀身の軌跡をかいくぐって、ガイキングを狙う。
しかし、ツバメのようにダイターンザンバーがひるがえり、ダイターンザンバーとZ・Oサイズはぶつかった。
ガラス同士がぶつかるような、冷たい響きが夜空に木霊する。
通常、大剣は、一撃必殺か後の先を狙うものだが、ガイキングの膂力と鉄也の技量は、片手剣並みの交戦点を与えていた。
その特性をフルに生かし、スピードをまったく落とさない。
まるで、ガイキングの肩口を中心にダイターンザンバーが勝手に回っているようだ。
ディス・アストラナガンは、小回りが聞くことを利用し、確実に制空権を確保し、閃光のように鋭い一撃を素早くねじり込んでいく。
いったい何合打ち合ったか分からなくなったころ、ガイキングがいったん距離をとった。
「さぁ、始まるぞ!ちょっとしたスペクタクルだ!」
鉄也の声と連動するかのように、『月』が動きを見えた。
――まずい――体の生成が完了したか――?――
『月』の外円が皆既日食の時のように光った。
サイコ・ヴォイスで『月』に攻撃を仕掛けていたベターマン・ネブラが、異変に気付き、攻撃の手を止めた。
<また……性質が変化した……>
人間では気付けない変化を感じ取り、クラッシュ・ウィッパーで変化した性質を読み取ろうと接近する。
すると、『月』の表面から黒い半透明の巨大な腕が現れ、ベターマン・ネブラをつかもうと、伸びる。
サイズからすると緩慢に見えるが、かなりの速度を誇る腕が迫る。しかし、慌てることはない。
ベターマンは隙間を縫うように指の間を飛び回る。
時速800km以上で飛行可能なベターマン・ネブラにとっては鈍足の域を出ないものだった。
しかし、腕から小さな腕が生えはじめ、ベターマンの軌跡をそのまま再現し、追跡する。
腕に『月』を攻撃していた際放っていたサイコ・ヴォイスを浴びせるが、まるで効果は無い。
形質、性質が変化している最大の証拠だろう。
さらにしつこく追いすがる触手たち。次々と幹とも言える腕から枝葉のように生え続け、逃げ場を奪おうとする。
ついに、追い詰められるベターマン・ネブラ、大量の腕がベターマン・ネブラに組み付き――
違う。ベターマン・ネブラの姿が僅かに揺らぎ、腕は実態をつかむことなく、空を切った。
激しく追いすがられる間、いつの間に作ったのかベターマン・ネブラの実体と超音波で作った幻影は入れ替わっていた。
光の屈折率を変えて、相手を幻影する。
その隙に、枝葉の一番生えていない幹のそばにベターマン・ネブラはいた。
クラッシュ・ウィッパーで、読み取り、まさに文字通り根幹である部分を破壊するためだ。
そのため、鞭状の突起が『幹』に触れた。
――ヤットサワレタ
〈!!〉
リピッドチャンネルから流れるはっきりとした人間とは比べ物にならない悪意。
何か異常な感覚を察知し、急いで引き戻す。なぜか、そこの部分がこそげとられて、ただれたようになっていた。
危険を感じ、距離をとりつつも、体の一部と引き換えに得た物質構造を解析、サイコヴォイスを放つ。
Zマスターですら恐れる確殺の声が『腕』を揺るがし……
3分の1程度程度を破壊した。おかしい。広範囲に、間違いなくサイコヴォイスは放たれ、腕をまとめて分解するはずだった。
しかし、大部分が残っている。
触手が、また追い詰めようと迫る。そこに、『幹』ごと巻き込むようにサイコヴォイスを放射。
まったく壊れない。
――ムダダ
また追いかけっこが始まる。しかし、ベターマン・ネブラは先程と同じように腕を追い払ようとし――
腕から、ベターマン・ネブラと同じ超音波を発信し、打ち消した。
腕へ迫ろうとしていたベターマン・ネブラの僅かな隙。触手が絡みつく。それを打ち払おうとした。
体が、動かない。
――ヨビミズ
たった一言の言葉が、万の意味を示していた。
そして…………
最終更新:2008年06月02日 16:31