―――ウルトラマン。
赤の代わりにドス黒く、捻じれた紋様を体に刻まれた最初のウルトラマンだった。
試作型のゼスト。
実験段階で、DG細胞に代わるものとして研究されたカオスヘッダーで作られた、できそこないのゼスト。
数多の打ち捨てられたユーゼスの妄執だけが容となったもの。
ウルトラマンを超えるウルトラマン、カオスロイド。
第252話 命あるもの、命なきもの
試作型ゼスト カオスロイド 登場
◆ ◆ ◆
「デゥヷッ!」
「―――速いッ!?」
軽く500mは離れていた距離を、残像だけを残しカオスロイドが走る。
組んだ両腕がギリギリで間に合った。そこに、カオスロイドの正拳が撃ち込まれた。
「しかも―――重い!」
不死鳥相手も一歩も引かなかったソウルゲインが後ろにたたらを踏む。
両腕を組んだためできた死角をかいくぐり、ショートフックがソウルゲインに叩きこまれる。
セオリー通りともいえるが、正確にインパクトの瞬間に拳をひねり、ダメージを倍増させるカオスロイド。
当たった瞬間、金属をこすれあわせるような不快な音が、ソウルゲインの集音マイクから聞こえてきた。
体が倒れるよりも早く、足を踏み出し軸とする。地面を蹴るようにアッパーカット。
ブレードの部分も合わせて、かなりの射程を持つこの一撃を、背面ぞりでカオスロイドはかわすと、
そのまま両足を空に浮かせ、逆にソウルゲインの顎に1発喰らわせて見せた。
一回転し地面に着く衝撃を足をバネに使い前へ跳躍する力にソウルゲインは変える。
だがカオスロイドも、縦回転蹴りの勢いをまったく同じ方法で前進する力に変える。
お互いの額がぶつかり、腕が組み合わされ、正面から力比べとなった。
「く……おおおッ!」
「ジュワッ!」
旺盛な修羅の生体エネルギーを吸い、フルポテンシャルを発揮するソウルゲインが、あろうことか押し負けていた。
組み合わされたソウルゲインの手には、ひびが入り始めている。
無理に手を返すと、磁石同士が反発するように距離をとる。すかさず、拳の雨が繰り出された。
腰を低くし、重心を下げていたカオスロイドは、背杉を伸ばし、高速回転。
回転の力でそのラッシュを左右にそらし―――さらに紫の輪が帯のように体からにじみ出る。
それでも連打を続行していたソウルゲインの腕に光がぶつかると、それは拘束具へと変貌。
腕をつたってソウルゲインの体へと巻きついてきた。
カオス・キャッチリングが、ソウルゲインに身動きを許さない。それを見届けて初めて回転を停止するカオスロイド。
もがくソウルゲインを、逆に暴れれば暴れるほどカオス・キャッチリングは、ソウルゲインを締め上げる。
カオスロイドが後ろに手をゆっくりと引く。
その腕が、光の粒子にほどけていく。そして、先ほどグルンガストとアンジェルグを引き裂いた輪へ。
腕全体を一般の刃へと変換するカオス・ウルトラスラッシュ。
それはオリジナルの八つ裂き光輪や、3人目のウルトラスラッシュのように手のひらサイズではない。
断頭台のギロチンのように巨大なそれが、もう一度放たれようとしている。
(―――ジュデッカより強い!)
ソウルゲインを尻目に、腕を鋭く尖らせていくカオスロイド。それは徐々に弧を描くように曲がり、円を作る。
はやり金属音を打ち鳴らし、地面を奔るカオス・ウルトラスラッシュが―――
空を切った。
黄色い光がソウルゲインにあたり、カオス・ウルトラスラッシュの進路からはじき出した。
「まさかとは思ったが……こんなものまであるとはな。神になるというのはあながち嘘ではないようだな」
紅茶を飲み下し、男が呟いた。もうこのアクションで誰かわかる。
シロッコである。
乗っているのは、エステバリスカスタムにではない。なんと、ジ・Oに乗っていた。
「まだ設計すら終わっていない段階のこれがすでに完成品として存在する。なるほど、時空を超える証明だな」
ジ・Oのビームサーベルが、カオス・キャッチリングを溶かす。
どうやら、内から外れずとも、外からなら外すことは可能のようだ。
実はこの男、最初の段階……ミオが人質に取られた段階で、すでにエステバリスカスタムのコクピットにいなかった。
こっそり倒れこんだ隙に脱出し、乗り換える機体をラミアがフォルカに気を向けていた間に物色していたのだった。
そして、比較的多かったMSの中で、ジ・Oを発見し、乗り込んだというわけだ。
ちなみに……
「ちょっとシロッコさん、私も機体を選ばなきゃ……」
「今出て行っては吹き飛ばされるだけだろうが、かまわんかね?」
ミオは、格納庫に転がっていた適当なマシン―――ブラックゲッターのコクピットにいた。
グルンガストもアンジェルグも、コクピットは胸にある。
つまり、誘爆さえしなければ、腰をぶった切られようがパイロットはなんでもない。流石は特機ということだ。
もっとも、これがまともなマシンのエネルギー攻撃なら爆破して臨終だろう。
フォトンをぶつける、ウルトラ一族特有の力をカオスロイドが持っていたからこそ助かった。
きれい過ぎる切断面。何の抵抗もなく2機を切り裂いたが、切れすぎるためきった周囲を傷つけることはなかった。
シロッコはジ・Oを手に入れたが、ミオはすぐに操縦方法の分かるロボットが見つからなかった。
なにしろ、あまり量産期やらバリエーションの面で劣るあの世界のマシンは、ここには用意されていなかったのだ。
だから、適当なマシンのコクピットに押し込んで……という調子だ。マシン同士の戦いの最中、生身というのは危険極まりない。
ラミアも、実はジ・Oの影になる場所にさっきまでいた。
フォルカとの会話の調子から、引き込むことはできると思ったのも半分、シロッコの嗜好の問題からも半分。
そういった理由でミオのついでに助けたわけだ。
この男の快進撃はさらに続く。
やたら捨て鉢なラミアの態度(もっともこれはラミアの心理状況のせいであり、見当ハズレだが)から、なにかあると推測し、
ジ・Oに乗るついでに端末からヘルモーズにアクセス。自爆があることまで掘り当てて見せた。
とにかく、この男はもっともおいしいところをかっさらっていた。
「フォルカ・アルバーグ、と呼べばいいかな? とにかくこの戦艦は残念ながらあと10分少々で爆発するようだ」
「何……!?」
「残念だが、事実だ。急いで脱出せねばならん。だがそのためには………」
カオスロイドのマッハ5の飛行能力を生かした飛び蹴り。2機とも、バーニアを吹かせそれをよける。
「……あれを倒さねばならん……お互い素性を説明する時間もないが、協力してくれるな?」
「分かった、後ろは任せる!」
フォルカも、時間を惜しみ即答。
シロッコと、フォルカ。
奇妙な共同戦線がここに張られた。
◆ ◆ ◆
私は……どうすればいいだろう?
なにも守るものなく、生身のままラミアは目の前の戦いを眺めていた。
あれが、ゼストの試作型。……ユーゼスさまの最終目標、そのできそこないの人形。
カオスロイドは、自爆に巻き込まれれば自分も滅びるというのに、何の迷いもなく戦っている。
その神にもなれる力を、ただ単一の目的のために暴力的に振るうことを許されている。
迷いもしない。悩みもしない。目の前のものを抹消する……完璧な戦闘人形。
あれが、私の目指したものだったのか?
ジ・Oとソウルゲイン、2体の軌道兵器を前に互角以上の戦いを繰り広げる黒い神。
いったん開放すれば、破壊しつくすまで止まらないため封印された。
意志を持たぬ力、それはユーゼスが最も忌み嫌ったであった。それをラミアは知らない。
だからこそ、意思を持たぬことはユーゼスに使える時では美徳と思っていた。
ヘルモーズへのダメージを気にすることなく、加速していく黒と黄と青の閃光。
カオスロイドに、機神拳が叩き込まれる。しかし痛みを感じることなくカオスロイドは応戦する。
当然だ、 い た い と認識する心すらカオスロイドにはないのだから。
あれが、私の目指したものだったのか?
カオスロイドに自分を重ねようとして……どうしてもそれができなかった。
鏡写しのそれは、酷く醜かった。
やはり、顔をそむけてしまう。
それどころか、ラミアは自分がああなることを「いやだな」と思ってしまった。
何も疑わず、なにも選ぶこともせず、なにも感じずに生きて行ける世界。
それは、きっと楽園だろう。
だけど、一度知恵の実を口にした人間は、もう二度と楽園に変えることはできなかった。
いや、きっとそれは違う。
知恵の実を食べたからこそ、人間は人間になれたのだ。
人形のような生を否定し、荒野を歩き傷つくことを選択した。
そう、選択したのだ。誰からか強要されたのではなく、自分の意思で自分の自由を。
「―――自分の意思で選べ、か」
大きな衝撃で、格納庫の瓦礫が右へ左へと動く。それは、天井からも降り注いだ。
ラミアの上に、落ちてくる鉄塊。ラミアはそれを見つめて、これで終わるのか、と漠然と思い目を瞑った。
その時、一体の無事だったマシンが倒れ、彼女を守るようにそれを阻んだ。
いつまでたっても落ちぬ飛礫に、ゆっくりと眼を開ける。
そして自分を守ったものを見上げ、ラミアは目を見開いた。
今から楽園を捨て、荒野を歩こうとする『人間』を、楽園の使いである天使が守った。
先ほどまで、人形であろうとした自分の乗っていたものが、自分を守ったのだ。
穢れを知らぬ純白も、黒くくすんでいた。荘厳だった天使を模した神像だったころの見る影もなかった。
―――神の卵より生まれし雛鳥だ
最初に乗る際、ユーゼスが言った言葉だ。
「そうか……お前もまだ生まれてなかったのだな」
そっと手伸ばし、手でくすみを払う。もっとも、大きすぎる体の前に、その行為にまったく意味はない。
単純に、感傷だ。人間のみが取りうる、意味のない『遊び』という概念に当たる行動。
不意に、神像から一条の光が放たれた。
最初の時と違う感情を抱き、最初の時のように腕を広げて光を迎え入れる。
ここからだ。ここからもう一度始めるのだ。そうだろう?
自分なりに、自分を探してみよう。そのためには、もう一度ユーゼスに合わなければ始まらない。
「謳おう―――ラーゼフォン!」
歌を歌う。生を謳う。
ラーゼフォンの真の眼が即座に解放された。どこからか流れ出す聖歌。
今までの死を運ぶ陰気な歌ではない。命の輝く様をありったけの方法で表現した生命讃歌。
「歌……?」
フォルカと、シロッコは、この戦場に流れる歌を耳にして、動きを止めた。
カオスロイドは、動きを止めない。心がないから戦場に歌が響くおかしさが分からない。
「受けろ、幻影の印を……!」
ラーゼフォンの光の剣が、カオスロイドに振り下ろされる。
そのまま、右斜め上に。次いで横に。今度は左下に。フィニッシュに、右上方に切り上げる。
「ミラージュ・サイン!」
機体の軌跡が、五芒星を描くのではない。剣の軌跡が、相手の体に五芒星を刻み込む。
最後に、すれ違い様に胸に剣を付き立てた。
紛うことなき、『A』の世界……彼女がもといた世界のアンジェルグに設定されていた本当のミラージュサインのモーション。
だが、カオスロイドの肉体に傷を付けることはかなわない。盛大に吹き飛びはしたが、外見上なんの変化もなかった。
カオスロイドが、またも高速回転。カオス・キャッチリングが、今度はラーゼフォンに。
しかし、当たる直前に音障壁が展開される。波動をあやつり物質を共鳴させる能力が、自由の拘束を一時阻んだ。
その一時の間に、環からラーゼフォンは脱出する。
天に掲げる腕から光が迸り、それは輝く弓を形作る。逆の手には光の矢が生まれる。
それらを一つに合わせ、一気に引き絞った。もちろん呼ぶ名は――
「標準セット……イリュージョン・アロー!」
――彼女の愛機のそれだ。
カオスロイドはそれが直撃することを平然と許し、真っ直ぐにラーゼフォンへ。
矢から、盾に。赤い盾が、カオスロイドのカカト落としを受け止める。ビッグオーの渾身の鉄拳より重かった。
だが、中身がない。破壊衝動はあっても、心の重心を定め相手を打ち倒そうという覇気がない。
イングラム・プリスケンのほうが、よっぽど強い。
腕が軋む。足裏が虚空を踏みしめ、体が沈んだ。更に槍のように真っ直ぐ捻り込まれる拳。
だが、ラミアからすればかわすのはたやすい。ユーゼスから、幾億の世界から集めた戦闘モーションを最適化して作るその動き。
それはラミアもそれは持っているのだ。だからこそ、分かる。
愚直なまでに、一片の揺らぎもないプログラミングの攻撃。そこからまったく変化や緩急がない。
誰かの繰り糸に従うままの戦闘人形。
ラミアが意図的に、大振りにラーゼフォンの腕とそこから伸びる光の剣を振るう。カオスロイドが姿勢を低くしたため、頭上を通り過ぎる。
それはカオスロイドへの攻撃ではなく、その頭上にたれる糸を断ち切るような動きだった。
伸ばしきった腕が、体を前に倒し、バランスが崩れた。その状態においてAIから選ばれる最適の行動をカオスロイドは実行。
すかさず足元をすくう屈み蹴り。
相手の動きを考え、それがくると予見し、自分の判断に従って、ラミアは事前にステップを踏むように飛翔。
蹴りは届くことはなかった。ラーゼフォンの腕からあふれる光が、カオスロイドを焼く。
相手がこちらの行動パターンを認識しているともカオスロイドは考えない。
だから、それに合わせて戦い方を変えようとも思わない。当然だ、カオスロイドにはそう認識する心がないのだから。
ラミアは、正確に相手の定まった動きを認識し、自分独自の動きを加え、戦い方を微細に変える。
横槍から、腰を軸に振りぬかれる拳がカオスロイドを追撃した。
ソウルゲインの機神拳が、カオスロイドの腹に拳のあざを作った。初めてカオスロイドにダメージらしきものが見える。
ダメージがあっても痛みがないため、動きが鈍ることはない。相変わらず機敏な動きを、ジ・Oのビームライフルが妨害した。
仲間と信じて疑わぬように、2機ともラーゼフォンに動きを合わせてカオスロイドを攻め立てる。
カオスロイドが、初めて後退して距離をとる。
腕を胸の前で組むと、そこから波紋のようにウルトラ念力が攪拌しながら撒き散らされた。
「こちらの後ろに下がれ!」
ラミアが、前に立つシロッコとフォルカに呼びかけた。
2人とも、その言葉の意味にある二重の意味を即座に理解した。
彼女が今仲間であること、そして何より自分たちの信じて賭けた可能性は、間違っていなかったと。
ソウルゲインと、ジ・Oが、ラーゼフォンの側にすっくと立った。昔から気心知れた戦友のように。
それを守るように同じく波紋を広げ、音障壁を展開。ウルトラ念力と音障壁がぶつかり合い、相殺されていく。
動くたびに金属音を鳴らすカオスロイド。それを退ける完全調和〈パーフェクトハーモニー〉。
「謳えラーゼフォン! お前の禁じられた歌を!」
何処からともなく聞こえるかすかな響きが、大きくなっていく。
護る歌から戦いの歌へ。声の質が移ろっていく。
ラーゼフォンが歌う。ラーゼフォンのみに歌うことの許された、調律の歌を。
3体に増えた外敵をまとめて消滅させるため、カオスロイドは躊躇なく切り札を切った。
それを使えば、エネルギー消費で自分の存在が危なくなるとか、そんなことは考えない。考える心がない。
カオス・ウルトラスラッシュと違い、両腕が発光する。形だけを真似られたカラータイマーから、両腕に力が流れていく。
黒い神の、究極の力………カオス・スペシウム光線!
「デュア!!」
ゆっくりと腕を交差させ、前に突き出す。漏れ出す力が、コントロールを失い暴れるが、それを強引にまとめあげる。
あるべきでない力を、暴れる力を一つにすることで、強烈な不協和音が、カオスロイドのいた場所から放たれる。
次の瞬間、収束と拡散を繰り返し切れ切れの光が巨大な柱となりラーゼフォン達に直進する!
『ラァァァァ―――――――――――――――――!!』
旋律が、カタチある歌となりラーゼフォンから放たれる。
今までのラミアでは引き出せなかった力をラーゼフォンは汲み上げた。
グランゾンの時のように、拮抗状態が作り出される。神の炎と天使の歌。押し合い、中心をゆがめていく。
だが、あの時のようにはならない。
なぜなら、今は共にある人間がいるのだから。
何も言っていないにも関わらず、重ね合わせるように闘気が歌に混ざっていく。
ソウルゲインの手から、青龍鱗に混じって放出される力で、より荒々しく、より激しい歌に変化する。
戦いしか知らぬ修羅の奏でる歌が、完璧の調和が作り出す。極限の虚無の力を押し返していく。
ジ・Oが、ビームライフルをカオスロイドのカラータイマーを打ち抜いた。
ほとんどダメージにならないそれは、カオスロイドの放つ力に間隙を作る。
そして、歌が一気に押し切った。
逆に、光に飲み込まれていくカオスロイド。光を拒否する神の断末魔が、最後に格納庫へ木霊した。
「終わったの……?」
ブラックゲッターを起こしながら、ミオは呟く。
コードなどの設置に手間取っていたが、ブラックゲッターはモーション伝達式のロボット。
いったん起動させれば十分ミオにも動かせた。
それにラミアが答える。
「終わったさ。……ひとまずはな」
シロッコが、時間を確認する。
「あと、5分弱。どうにか間に合ったか。……残念だが、話している暇はない」
シロッコが、安堵の空気を漂わせる全員に言った。やはり指導者というのだろうか、その姿は実に似合っている。
「……ああ、そうだな」
流石に修羅王にもこのときばかりは弛緩があった。
先ほどの戦闘で壁面は穴だらけだ。すっかり荒れ果て、瓦礫の山となっている上を、4機が飛ぶ。
あとは、脱出するだけ。
フォルカが、まず飛び降りた。ソウルゲインはジ・Oをぶら下げている。
何しろ、ジ・Oだけは単独で飛行ができない。この高さから落下すれば死あるのみだ。
「……落とさないように頼む」
「分かっている」
簡単なやり取りをしながら、落ちていく2機を、ラミアは見ていた。
「んー? どしたの、ラミアちゃん」
ラミアちゃん、という言葉に眉をひそめながら、ラミアは初めて自分の心情を吐露した。
「結局、自分のやったことは背信行為だ。自分のやったことは……正しかったのか? これでよかったのか?」
息を吐きながら、ラミアが言った。ミオは頬を指で書きながら、苦笑いで答えた。
「それは、私にもわかんない。けどね……」
指をびっと立てて、笑ったままミオは、
「自分が正しいことをしてるって、わかってやってる人なんてだれもいないよ。
だから失敗して頭えたりすることもある。あの時こうしてれば、って思うことだってあるよ。
でも、私たちは頑張って動かなきゃいけない。だって、私らは生きてるだから」
生きてるんだから、というところには強いアクセントがあった。
マシュマーたちの魂と触れ合ったからこそ、言える言葉だった。死んだ人たちだって、あれだけ頑張っている。
生きてる自分たちが、サボってる暇なんてない。
おそらく、そういうものだろうと、今のラミアは理解できた。
ポンポンと、ブラックゲッターがラーゼフォンの肩を叩く。
「………そういうものなのか?」
「そういうもの」
うんうんと頷くミオ。あと時間は、2分もないが、脱出するには十分すぎる時間だ。
ゆっくりと降下を始めようとした時、
時間が、ゼロになった。
瓦礫を吹き飛ばし、何か黒い影が2人に走った。
振り向く間もなく、ブラックゲッターにそれがまとわりつく。
「馬鹿な……ッ!?」
それは、カオスロイドだった。ひび割れ、砕けた部分を露出したまま、ブラックゲッターにしがみつく。
ゾンビを思わせる姿になっていたが、動くことをやめようとしなかった。決して、しがみつく手から力を抜かない。
当然だ、なぜなら心のないカオスロイドには、失われる魂がないのだから。
ラーゼフォンが、光の剣を発生させ、カオスロイドの皮膚に突き刺した。だが、一ミリも食い込まない。
エネルギーを失いつつも、神の肉体の硬度は依然として損なわれていなかった。
歌おうにも、この距離ではブラックゲッターも歌をあびてしまう。使うことはできない。
ラーゼフォンは腕力にものをいわせ、強引に引きはがそうとする。
すると、今度はラーゼフォンも道連れにしようとカオスロイドは手を伸ばし―――
とん、と。
ラーゼフォンがブラックゲッターに突き飛ばされた。
「な――……」
浮遊感が、身を包む。落下するラーゼフォン。すぐに姿勢を立て直し、ヘルモーズに戻ろうとした。
「きちゃダメッ!」
それをミオが制止するよう声を上げた。
「何故だ、このままでは………」
「いや、そう思うんだけどね……多分来ても一緒。多分、無理だと思うから」
ミオからの通信。ミオは、まだ笑っていた。
「何を言っている、諦めるつもりか!」
「あきらめるわけじゃないんだけど……多分、ラミアさんも巻き込んじゃうだろうから」
真剣な声で、ミオが言った。
息が、できない。
あれほど軽いと思っていた自分の命を……この少女は案じている。なぜ、あの少女なのだ?
自分の命など惜しくない。あの少女の命のほうが、自分のと比べることすら愚かしいほどの重みを持っている。
だというのに……!
噛んだ唇から、血が出た。声を無視し、ヘルモーズへ戻るラーゼフォン。
その肩に、ゲッタービームが撃ち込まれた。今度こそ、落下していく。
「んじゃ、あの二人のことお願い。できたら、ヴィンちゃんも探してるだろうし、ユーゼスも、止めてあげて。
あとそれから……ああ、結構言いたいことって残ってるなぁ。……全部お願い」
ミオは、笑いながら震えていた。目尻には、涙がうっすら浮かんでいる。
彼女も、恐ろしいのだ。自分のと同じように。……それを、一生懸命耐えている。
逃げようとしていた自分と違って正面からまっすぐに。
「頑張ったんだけどな……私の分まで受け取って頑張って。もちろん、ラミアさんの信じる限りでいいから」
それが、最期だった。
ついに、戦艦が轟音と共に燃え落ちる。
――全部お願い。
―――私の分まで受け取って頑張って。
「分かった……確かに受け取った」
まっさかさまに落ちる中、自分の目からもミオと同じものが流れているのを感じ、さらにラミアは泣いた。
こんな自分に、託してくれた少女の分まで、生きてみよう。
それもまた、託されたものだろうから。
ジョシュアやセレーナからリュウセイへ。リュウセイからマイへ。マイからフォルカへ。
タシロと副将からヴィンデルとマシュマーへ。マシュマーとヴィンデルからミオへ。そして、ミオからラミアへ。
続いていく、命の連鎖。
その鎖の最後尾には………だれが繋がれるのだろうか?
【ミオ・サスガ パイロット状況:死亡】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:EN 1/3ほど消費、右肩を少し損傷
現在位置:E-5
第1行動方針:ユーゼスと会って、ゲームの終了を説得する。
最終行動方針:自分の確立】
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:ソウルゲイン(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:完治 、全快、首輪なし
機体状況: 損傷(小) ソウルゲインで再生中 EN1/2ほど消費
現在位置:E-5
第一行動方針:ユーゼスと会う
最終行動方針:殺し合いを止める
備考1:フォルカは念動力を会得しました。
備考2:ゾフィーの力により機体の神化が可能となりました
備考3:ユーゼスの目的を知りました】
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:ジ・O (機動戦士Zガンダム)
パイロット状況:軽度の打ち身(行動に支障はなし)
機体状況:良好
現在位置: E-5
第1行動方針:脱出を目指す。
最終行動方針:主催者の持つ力を得る。
補足行動方針:十分な時間と余裕が取れた時、最高級紅茶を試したい(ただしもう気は緩めない)。
備考: ラミアを完全に彼は信用していません。マサキ危険視。
リュウセイのメモを入手。
反逆の牙共通思考の情報を知っています。
ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉(1回分)を所持】
最終更新:2007年12月30日 19:56