憎しみの咆哮◆JxdRxpQZ3o
ベラリオスが咆哮を上げる。
シャドウミラーへの憎しみをこめて。
だが誰に届くわけでもなく、その叫びは虚空の彼方へと消えていった。
◇ ◆ ◇
この殺し合いの場はエリア毎に見せる表情が劇的に変わる。
先ほどまで雪原の只中に居たと思えば、今居るここは空は澄み海面も穏やか。
そして今のディアッカにとってそれは必ずしも安らぎをもたらすものではない。
コクピットの中へと差し込む太陽光は聊か眩し過ぎた。
考えまい考えまいと思うほど、逆にそのことばかりを考えてしまう。
端的にいえば今のディアッカはそういう状況だった。
精神は拒否しても、脳は否がおうにも思い起こそうとする。
ここで出会った行動していた――人の死。
ジュドーが死んでここに来て初めてディアッカは涙を零した。
彼が仲間だなどと言う認識は無かったはずなのに。
最期にディアッカを守り、死んでいった彼を英雄視しているのだろうか。
確かに今生きているのは彼が身を挺して守ってくれたからに違いない。
だがそれだけが原因で涙が流れたとは思えない。
道中、ジュドーはシャングリラというコロニーでの仲間との生活のこと、妹のことを楽しげに話していた。
そこには屈託したような思いは感じられず、ただ純粋に仲間や妹のことを思える少年の姿があった。
おそらく死んでいく最中に彼が思ったこともその辺りのことではないだろうかとディアッカは思う。
年は近いもののディアッカとは対照的な人生を送っている。
それが羨ましく感じられたのかもしれない。
だが、奴の姿を思い出してみればどうだろう。
体は振るえ、手からは汗が吹き出る。恐怖を感じているのだ。
また出会う時が来れば戦う。ジュドーの仇を取るために。
だが実際に出会えば恐怖で体が竦みまともに戦えるかどうか……。
ディアッカはそんな矛盾を抱えた自身の心が情けなかった。
どうにかして奴への恐怖を打開しなければならない
もしかすれば、奴は自分たちを背後から付けているかもしれない。
自分たちをボルテッカと叫んだあの光で――。
「――ディアッカ、ディアッカ聞いているか?」
「えっ?あ、はい」
「すまないな。考え事の最中に。ところで何か聞こえないか?」
どうやら考え込みすぎてクルーゼの声が耳に届かなかったようだ。
何度か呼んでいたのを無視していたようなのだが、クルーゼは苛立ちを見せるような素振りは見せない。
クルーゼに言われたことを意識し、耳を集中させる。
自身の心音、クルーゼの息遣い、∀の駆動音。聞こえてくるのはこれくらいで特別意識するようなものはないはずだ。
心意がわからず、クルーゼにたずね返そうとしたき、僅かだがディアッカの耳にもそれは届いた。
――ガオオオン!!――
参加者以外の生物などは殆ど皆無な筈の会場において肉食獣の声がである。
驚き、クルーゼの方へと顔を向ける。
そしてディアッカはクルーゼが笑うように口角をあげているのを見た。
それから数十分もしないうちにディアッカ達は目的の地へとたどり着いた。
岩場に寝転ぶように放置されたダルタニアス。
ライディーンと同じようにMSとは全く違う趣を持った機体だ。
そして、確かにその胸には獅子を模した意匠が施されていた。
先ほど聞いた肉食獣の雄叫びは、ここから聞こえたのだろうか。
獅子の顔を施し、尚且つ咆哮までも上げさせる。
趣味的な機能の数々にディアッカは内心呆れた。
だが、クルーゼのほうといえばそうではないようだ。
まるで目当てのものがあったと喜ぶような顔をしている。
いや、ダルタニアスを目的にここまで来たのだ。それは当然といえば当然だろう。
言い直すならば自身の憶測が間違いなかった。そんな顔だ。
嬉々として∀から降りたクルーゼは迷うことなくダルタニアスの元へと向かう。
近づくクルーゼに対しダルタニアスは警戒の声色で叫ぶ。
グルルと唸るその声はすぐにでもクルーゼに飛び掛りそうな迫力を持っている。
だがクルーゼはそれを意にも介さず、ダルタニアスの元へと向かう。
やがて距離が縮まると突然クルーゼは立ち止まった。
獅子の咆哮にいよいよ臆したのだろうか。
いや違う。クルーゼは獅子へとダルタニアスへと声を張り上げ話しかけた。
内容まではディアッカには届かなかったがその身振り手振りはまるで演説でもしているかのようである。
なにをしているのか。傍から見ればクルーゼが狂ったようにも思える。
元の世界で部下であったディアッカでさえそう感じてしまうのだ。
だがダルタニアスは、その胸の獅子は確かにクルーゼの話に答えるように吼える。
そう。確かにあの獅子には意思を持ち、さながら生きているかのようだ。
ディアッカは思う。例えば、現実でも御伽噺でもいい。
動物と心通わせる人と言えば心優しくその光景も微笑ましいものを想像する。
だが今目の前で行われているそれはそのイメージとは大分離れていると言える。
クルーゼと機械の獅子の会話はまるで狂気染みている。
やがてクルーゼの演説も終わる。獅子も最後に一声雄叫びを上げた後何かに納得したように落ち着いている。
クルーゼは再び歩み始め、ダルタニアスの中へと入り込んだ。
◇ ◆ ◇
咆哮を聞いたとき確かにそれを感じ取った。
何かを怨む意思を持った憎しみの咆哮を。
その力強い雄叫びに危険を感じつつも自身の手中に収めれば心強いものになるはずだと。
C-7の中心。そこに横たわるダルタニアスを前にしてクルーゼは居ても立ってもいられなくなり駆け出した。
程なくして咆哮を直接全身で感じ取った。感じ取った予感は確信に変わる。
確かにこの獅子は意思を持っている。兎角憎しみの心を。
憎しみ。これほどクルーゼに縁のある言葉もなかなか無いはずだ。
彼の怨み憎しみは世界に向けられているものなのだから。
それが人であろうとなかろうと、生物であろうともなかろうとも関係は無い。
そこから発せられる咆哮の重みはクルーゼ本人が一番よく知っている。その利用の仕方もだ。
大きく両手を広げ、ダルタニアスへと言葉を投げかける。
「機械の獅子よ。なぜお前は憎しみの咆哮を上げる」
獅子は答えない。
「機械の体へと変えられたからか?」
そうではない。
「こんなところへと放置させられているからか?」
それでもない。
「ならば、殺し合いの道具としてこんな場所へ連れられてきたからか?」
獅子が低く唸るように答える。理由はわかった。
そして利用する方法も同時にクルーゼは思いついている。
「私と共に来い。貴様の力を必ずこの殺し合いを止めるために使わせてやろう」
でまかせである。そんな気持ちはクルーゼには欠片も無い。
むしろ目的は主催者であるシャドウミラーに近いのだから。
だが、獅子も8時間近くここで放置され痺れを切らしていた。
真贋を確かめる余裕も無いのだろう。先ほどまでとは違う思いで咆哮を上げる。
即ち、クルーゼを操縦者として認めると言うことである。
ダルタニアスと言う強力な力を手に入れ、ことは順調に進んでいる。
ミユキとジロンは死んだが人間爆弾である二人は未だ健在だ。
思わずクルーゼはコクピットの中ででほくそ笑む。
だがこれからは高笑いも程々にしなければいけない。
すぐ近くにベラリオスという監視者が居るのだから。
改造により自身の体の自由は殆ど利かなくなっているようだが何が起きるかはわからない。
扱いづらくなればボロ雑巾のように捨て去るだけだ。
ダルタニアスをディアッカの乗る∀に向きなおさせる。
「ここからが私のクライマックスだ」
【1日目 14:15】
【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:ダルタニアス@未来ロボ ダルタニアス
パイロット状況:良好 仮面喪失 ハリーの眼鏡装備
機体状況:良好
現在位置:C-7 超空間エネルギー開放使用可能
第一行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第二行動方針:雪原市街地でミストたちと合流する
第三行動方針:手駒を使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす(できれば全ての異世界を滅茶苦茶にしたい)】
※ヴァルシオン内部の核弾頭起爆スイッチを所持。
【ディアッカ・エルスマン 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
パイロット状況:体力消耗中 隊長……?
機体状況:良好 核装備(1/2)
現在位置:C-7
第一行動方針:クルーゼと行動していいものか疑問
第二行動方針:
白い悪魔(Dボゥイ)への恐怖の克服
第三行動方針:ジュドーの仇を討つ
最終行動方針:脱出が無理と判断した場合、頃合を見て殺し合いに乗る
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。
最終更新:2010年07月07日 20:39