白い悪魔 ◆bSTqMcZZvs
「くたばれ、ラダム!」
「くっ、速い!」
Dボゥイ――否、ブラスターテッカマンブレードの振るうテックランサーが唸る。
瞬きの間に眼前まで迫ってきた小柄な影に、ジュドー・アーシタ操るライディーンはとっさに右腕の盾・ゴッドブロックを突き出した。
円形に拡がった装甲の陰に襲撃者の姿は収まる。それくらい小さい相手だと言うのに、
「うおおおおっ!」
「ちょっと、ウソでしょ!?」
ビシビシ、と小さな音を立ててゴッドブロックに亀裂が入った。
凄まじいパワーだ。どうやらこのパワードスーツはモビルスーツとかそういう次元ではないらしい、とジュドーは悟る。
「離れろコイツ!」
ジュドーは完全に盾が砕かれる前に左腕のゴッドゴーガンを変形させゴーガンソードにし、右腕を引いて飛び込んできたブラスターブレードへと叩き付けた。
さすがに50mを越えるライディーンとまともに打ち合う気はないのか、白騎士はばっと後退し剣から逃れた。
一息ついたジュドー。
この敵の外見から見てわかる武装は手に持つ両刃の槍だけだが、それだけではないだろうとジュドーは睨む。
先ほどのディアッカを吹き飛ばした光のことだ。
あれはダブルゼータのハイメガキャノンですら比較にならない。
コロニーレーザー並みとまではさすがに言わないが、それでも艦隊一つ丸ごと吹き飛ばせそうな威力だった。
今すぐあれを撃って来る気配はないが、逃げるなどして隙を見せればわからない。
(しかも向こうはやる気満々……くそ、どうしろって言うのさ!)
説得しようという思いは最初からなかった。この敵からジュドーが感じられたのは圧倒的なまでの敵意と殺意だったからだ。
ライディーンは連戦の負傷により本調子ではなく、左足がうまく動かないためバランスが保ち辛い。
つまりまともに戦える状態ではなくさっさと逃げたいところなのだが、そうできない事情がジュドーにはあった。
(まず、みすみす逃がしてくれるとも思えない。背中からあの光を撃たれたんじゃいくらライディーンでももたないだろうし。
そんで、ディアッカを放っていくわけにもいかない。死んじゃいないと思うけど)
先ほどから何度か呼びかけているがディアッカからの返答はないのだ。
気絶したか、あるいはもう死んでいるか。どちらにせよ確認せねば離脱もできない。
つらつらと考えているうちに、白騎士が槍を振り回し再び打ちかかってきた。
「こっち来るなってば!」
ライディーンの背中の矢を、弓につがえている暇などなかったのでそのまま撃った。
ゴッドアローの弾幕の中、テッカマンブレードはなんと自ら前に踏みこんでくる。
かわせるものはかわし、かわせないものはテックランサーで弾く。
元々矢じりとテッカマンブレードの大きさ自体が同程度なので、回避する隙間はいくらでもある。
遠距離攻撃ではとらえきれないと見たジュドーはライディーンの両腕に剣を握らせた。
右腕のゴッドブロックから伸ばした光の短剣ゴッドブレイカーと、左手のゴッドゴーガンの弓の部分を使用する武器、ゴーガンソード。
二刀流で手数を増やし小柄なテッカマンに対抗しようと言うのだ。
迫ってきたテッカマンブレードと、しばらくチャンバラのように剣をぶつけ合う。
「小賢しいぞ、ラダム!」
業を煮やしてテッカマンブレードが突進した。
まずゴーガンソードを振り下ろすと、テッカマンブレードは大きく横に回避した。
(やっぱり受けようとしない!当たれば倒せるんだ。)
スピードとパワーは凄まじいが、その反面に装甲はそう厚くもなさそうだとジュドーは考えた。
体勢の崩れたテッカマンブレードへ、矢継ぎ早にゴッドブレイカーを突き込む。
急降下してその攻撃をかわしたテッカマンブレードが今とばかりにがら空きになったライディーンの腹部へとテックランサーを構え突っ込んだ。
「もらった!」
「それはこっちの台詞だよ!」
「ぐあっ!」
ライディーンの腹、そこはゴッドミサイル発射口のある部分。
いきなり現れたミサイルはテッカマンブレードに直撃した。
ジュドーが大したことはないと見たテッカマンの装甲は、その実核爆発すら防ぐほどの堅牢さを誇っている。
機動力も軽く超音速を越えるのだが、そんなテッカマンが全力で戦えば殺し合いになどなりはしない。一方的な虐殺が待っているだけだ。
故にシャドウミラーによってDボゥイに、ブラスターテッカマンブレードに施された改造は長時間ブラスター化していられると言うだけではない。
公平を期し他者の勝利の可能性を残すべく、攻撃能力以外の機動力・装甲などのスペックは著しく減じられていた。
そこまでしても多くの参加者の乗る機体の水準からすれば規格外であることに変わりはないのだが。
とにかくそういった事情でゴッドミサイルは少なからずテッカマンブレードにダメージを与えた。そう、多少動きを止める程度には。
「あの距離で直撃したのに……なんてやつだ!」
自分も至近距離の爆発から逃れるために後方へ飛んでいたライディーンの中でジュドーが息をのむ。
爆炎の中で、人型の影が依然変わりなく健在だったからだ。
「とにかく、今の内に!」
ゴッドブレイカーのリーチを伸ばすエネルギーカッターを発動させて、両腕の剣を振りかぶる。
勢いを乗せて振り下ろされた左右の剣を、テッカマンブレードはテックランサーを掲げて受け止めた。
だがやはり質量の違いとダメージの硬直は大きく、押し返すことも出来ずテッカマンブレードは地上の雪原へと叩き落とされた。
雪の白に白騎士の白が混じった。
不調を訴えるライディーンを無視し、ジュドーはこの隙は逃さないとばかりに更なる武装を起動させる。
背中から矢をまとめて取り出し、同時にゴーガンソードを弓の形に戻す。
束ねてつがえた矢をテッカマンブレードの落ちた地点へ一斉に射出。
雪を舞い上げるゴッドゴーガン、続けて変形したライディーンにどこからともなく雷が落ち、角へと集中した。
「これでどうだ!」
「ぐああああっ!」
ゴッドサンダーを矢が囲む中心へと撃ち込んだジュドー。
電撃は矢を伝い帯電して、中心であるテッカマンブレードの全身を焼く。
動力が低下した今の状態からできるほぼ最強の攻撃。これ以上の威力を誇る武器は今は使えない。
雪が蒸発し水蒸気となって視界を妨げる中、ライディーンはゴッドバードに変形してすぐにその場を去った。
あれで倒せたかどうかわからないが今はこれ以上かかわっている時間がない。
「いた、ディアッカ!」
さきほど吹き飛ばされたステルバーを追い、隣のエリアへ移動するべく飛行するライディーン。
どれだけ飛んだか、黒い戦闘機ロボが雪山の中腹に埋まっているのを発見した。
傍らへと降りて、ステルバーを揺らす。
「おいしっかりしろディアッカ!起きてってば!さっさと逃げるよ!」
「う……うーん?」
「ディアッカ、起きろ!」
「ジュ、ジュドーか?」
「そうだよ!早く起きろ、またあの化けものが来るかもしれない!」
「化けもの……そうだ、俺は……!」
ステルバーの中でディアッカが気絶する寸前のことを思い出した。
テッカマンブレードの撃ったボルテッカが直撃した瞬間、成す術もなく吹き飛ばされた時のことを。
「そうだジュドー、あいつは!?」
「なんとか撃退したけど、まだ倒せたかどうかはわからないんだ。だからディアッカ、さっさと」
逃げよう、と言おうとしたジュドーだがそれはできなかった。
何故ならその瞬間ライディーンは大きく吹き飛ばされていたからだ。
いきなり吹き飛んだライディーンを追うように緑の光が走ったのを、ディアッカは見逃してはいなかった。
コーディネイターの鋭い視覚のたまものか、顔を巡らせたらそこには空に浮かぶブラスターテッカマンブレードの姿があった。
変形した装甲を戻し鋭い眼光でディアッカを睨むテッカマンブレード。
これぞテッカマンの超高速攻撃・クラッシュイントルード。
自分の数十倍はあるライディーンを軽々と吹き飛ばしたその威力は凄まじいものだった。
「ちっ、やはりこの程度では破壊できんか」
だがテッカマンブレードは不満だった。完全に不意を突いて背中からぶつかったにもかかわらず、ライディーンは破壊できなかったからだ。
ムートロン金属の剛性はクラッシュイントルードに耐えきった。
だがそれはあくまで破壊されなかったと言うだけで、無傷という意味ではない。
「ジュドー、おいジュドー!生きてるか!?」
「……いてて。なんとか大丈夫だけど、ライディーンのパワーがまた下がっちまった……!」
破壊されないようにとっさにムートロンエネルギーを背中に集中しクラッシュイントルードを防いだものの、ライディーンはかなりの消耗を強いられた。
何とか起き上がれたものの、ライディーンの各部から以上が噴出する。
そして今、テッカマンブレードが大きく距離を取り肩の装甲が開く。
「ならばボルテッカだ……む!?」
必殺のブラスターボルテッカを放とうとするブラスターテッカマンブレード。だが、予想よりフェルミオンエネルギーの集まりが悪い。
テッカマンブレードは半日にも満たない短時間にすでに一度、ボルテッカを放っているのだ。
さすがに消耗の大きいボルテッカをそうそう連発はできない。
まだ撃てるだろうがその後の行動に支障が出るかもしれないとテッカマンブレードは思考した。
予想以上にこのラダム達は粘る。両方始末できればいいが、片方でも逃せばピンチに陥るのは俺の方だとDボゥイは頭の片隅で思った。
加えて、先ほど弓を持つラダムから受けた攻撃。
矢は一つとして直撃しなかったものの、あれで動きを封じられたところに電撃が来た。
物理的な衝撃ならともかく、電撃はテッカマンの装甲を伝わり内部へと侵入してきた。
大部分がシャットアウトされたとはいえそれでもDボゥイの身体に少なからずダメージは残った。
無論この程度でテッカマンブレードの優位は揺るがないが、この後予想される他のラダムとの闘いを考えれば消耗は少ないに越したことはない。
「……どうせ手負いのラダムか。ボルテッカを使うまでもない!」
開いた肩を締め、テッカマンブレードが再びテックランサーを手に迫る。
どうにか起き上がったステルバーがナイフを構え、辛うじてテックランサーを受け止めた。
だが一瞬でナイフは両断される。返す刀でステルバーの左腕が宙を舞った。
とどめの一撃を割って入ったライディーンのゴッドブロックが受け止める。
「ディアッカ!」
「た、助かったぜジュドー」
「礼はいいから援護してくれ!まだ動けるんだろ?」
「ああ!でももう弾が少ねえぞ!」
ステルバーの残った腕がマシンガンを握る。
少ない弾を温存し慎重に発射されるマシンガンとガトリング砲、ミサイルの中をテッカマンブレードが駆け抜ける。
接近されたらライディーンが押し返す。
ライディーンの武装を警戒し、テッカマンブレードは深入りせずに後退する。
場を仕切り直してステルバーが弾幕を張り……としばらくその攻防が続いた。
「ゴッドブーメランだ!」
「フォローは任せな!」
ライディーンがゴッドブロックを変形させ、回転させてテッカマンブレードに投げつけた。
悠々と回避するテッカマンブレードだが、そこにディアッカが得意の射撃を叩き込む。
ミサイルでガトリング砲で回避コースを潰し、動きの限定されたテッカマンブレード。
「この程度で……!」
銃弾をテックランサーで弾き、装甲を変形させていくテッカマンブレード。
その背後から、一度回避したゴッドブーメランが弧を描き迫る。
「グゥレイト……何!?」
完全に不意を突いた一撃だったが、テッカマンブレードはとっさにクラッシュイントルードを中断し振り向きざまにランサーを一閃、ブーメランを弾き飛ばした。
だがジュドーはそれを予測していた。既につがえていたゴッドゴーガンを、今度は一点を狙い発射する。
テッカマンブレードの背中、推進器の部分。
「ぐわあっ!」
「当たった!ようし……!」
墜落していくテッカマンブレード。
一気に畳み掛けようとジュドーはゴッドブーメランを呼び戻す。ライディーンの右腕に収まったとたんに変形、回転するゴッドブレイカー。
後ろで膝立ちになったステルバーが全身の武装を発射した。
「決めるぞ、ディアッカ!」
「おうよ!」
ステルバーの砲撃に全身を撃たれるテッカマンブレードの体。
防御のために丸まったテッカマンブレードをライディーンの右足で蹴り上げて、チェーンソーのように回転するスピンブレイカーを振り下ろす。
しかし、交差した腕の中からテッカマンブレードの鋭い眼光がジュドーを射抜いた。
「はあっ!」
蹴りの反動を利用しテックランサーが投げられた。
ライディーンの振り出されていた右足に刺さる。だが大したダメージではなかった。
「何を……何っ!?」
ジュドーは驚愕する。
テッカマンブレードの目的は攻撃ではなく、回避。
ランサーに接続されたテックワイヤーを急速に巻き取り、スピンブレイカーの殺傷範囲から逃れるテッカマンブレード。
瞬時に視界から白い影が消えて、スピンブレイカーは宙を切った。
「くそっ、これでも駄目なのかよ!」
「しぶといな……って、やばい!」
いったん距離を取って仕切り直す三人。
だが転機は訪れていた。今の攻防でテッカマンブレードを仕留められなかったこの時点で。
ディアッカが確認したステルバーの状態。そこには武器の残弾が0だと示されていた。
「ジュドー、もう残弾がねえ!」
「くっ、なんなんだよこいつは!ちっとも消耗してる様子がない!」
ステルバーが弾切れになれば、当然負担はすべてライディーンが背負うことになる。
パワーダウンしたライディーンには、テッカマンブレードの相手は荷が重い。
ジュドーの言葉通り、いくら被弾しても攻撃の手を緩めようとしないテッカマンブレードが叫ぶ。
クラッシュイントルードにより瞬く間にゴーガンソードの上半分が折れて吹き飛ばされた。
「ここまでだラダム!死ねええええっ!」
勝機と感じたテッカマンブレードがスピードを上げる。
今度はミサイルのある腹部ではなく、電撃を放つ頭部でもなく、狙いはすべての動きの起点となる腰部。
「この、どうせろくに動かないんだったら!」
ジュドーはライディーンの左脚を上げ、テッカマンブレードをライディーンの膝蹴りが襲う。
突き出されたテックランサーとムートロン装甲の膝が激突し火花が散る。
動きの止まったテッカマンブレードに、ライディーンは両腕を組んで叩き付けた。
膝と拳でテッカマンブレードが挟まれる。
「ぐ、う……」
「ディアッカ、今の内に!」
「お、おう!」
折れたゴーガンソードを拾いにステルバーが走る。
ライディーンによって動きを止められたテッカマンブレードを両断しようと言うのだ。
「ク、クク……」
「何がおかしい!?」
「捕まえたぞ……ラダム!」
テックランサーの先端は、僅かだがライディーンの膝に埋まっている。
その先端、ジュドーから確認できない位置に光が灯る。
ブラスター化したテッカマンが得る新たな力。
通常状態のテッカマンが撃つボルテッカ並みの威力のフェルミオンビームをテックランサーから放つ技、ボルテッカランサー。
これまでの戦いで一度も使わなかった攻撃。ラダムに学習されず接近する、このときのためだ。
密着状態から放たれるフェルミオンビームがライディーンの左足を駆け巡る。
いかにムートロン金属の装甲とは言え、内部に直接流しこまれる破壊エネルギーには抵抗できない。
一瞬でライディーンの左足は粉々に砕け散った。
「うわあっ!」
「ジュドー!」
吹き飛ぶライディーン。今度こそ完全に機体バランスを欠き、雪原へと倒れ込んだ。
駆け付けたステルバーだが、どうする事も出来ずにテッカマンブレードと対峙する。
だがその手のゴーガンソードだけで抗えるはずもない。
ディアッカは流れる汗を拭うこともできないまま、迫る死の予感に身を振るわせる。
「ディ……ディアッカ……」
「ジュドー、生きてんのか!?」
「あ……ああ……」
ジュドーは辛うじて無事のようだが状況は良くない。
ここでジュドーを囮に自分だけ逃げるにしても、あのとんでもないスピードの突撃を使われればあっという間に追いつかれるだけだろう。
だからと言ってこの状況から勝てるはずもない。
「チクショウ、これが年貢の納め時って奴かよ!」
「ま、まだだディアッカ……」
「何だよ、なんか手でもあんのか!?」
ジュドーが指差したのは背後の山だ。
度重なる戦闘の衝撃でもう崩落寸前といった様子である。
「雪崩を起こして、あいつを巻き込むんだ。その後、一気に逃げる」
「ちょっと待て、お前俺を置いていく気か?」
「まさか。ディアッカにはやってほしいことがあるんだ」
テッカマンブレードと睨み合ったまま、ジュドーとディアッカは作戦を確認する。
勝算は高いとは言えないが、それでも他に手はない。
「ああ、もう!他に手はなさそうだし、やるしかねえか!」
「行くぞディアッカ……!これで最後だ!」
ステルバーからゴーガンソードの半分を受け取って復元し、片足のライディーンがジャンプしてテッカマンブレードに襲いかかる。
ゴーガンソード、ゴッドブレイカー、ゴッドサンダー、ゴッドミサイルにゴッドアローと今あるありったけの武器でテッカマンブレードを押し止めるジュドー。
その間にディアッカは素早くパネルを操作してステルバーを自動操縦モードへと変更した。
動力炉のリミッターを解除して、スペック以上の出力を発揮する。
モニターにタイムカウントが表示された。これが尽きた時がステルバーの最後。
「だが、それはお前の終わりでもあるんだぜ!」
「ゴッド……プレッシャー!」
ライディーンへと突進するテッカマンブレード。
弾き飛ばされながらも、ライディーンは額から圧力波を放ちテッカマンブレードの腕からランサーを弾き飛ばした。
そこへ突進したステルバーが、残った右腕でテッカマンブレードの小柄な体を捕まえる。
「このまま……!」
「舐めるな、ラダム!この程度で俺を封じたつもりか!」
ステルバーの拳からテッカマンブレードの両腕が突き出る。
十倍以上のサイズをものともしないパワーだった。
「おっと、動くなよ!くたばるんならお前一人で死にな!」
しかしそれ以上の攻撃を受ける前に、ディアッカは最後のコマンドを打ち込みコックピットの隅にあるレバーを引く。
ガクン、とステルバーが揺れコックピットが炸薬によって強引に開かれた。
その後、ディアッカの座るシートが天高く打ち上げられた。
テッカマンブレードはその行動に戸惑う。
ラダムの中から何かが逃げた。とするとあれがラダムの本体か、と思考しその後を追うべく全身に力を込める。
その瞬間、ステルバーがテッカマンブレードを掴む腕ごと自らを抱きしめるようにうずくまった。
リミッターを解除したステルバーの、全身を捨てて発揮した力は強大だった。
いかにブラスターテッカマンブレードといえども、疲労した身では一瞬では脱出できないほどに。
そこへ、上空に飛んだライディーンが最後の力を振り絞り、雪山へ向けて念動光線ゴッドアルファを発射した。
パイロットの消耗が大きく多用はできないが、威力は折り紙つき。
震動波が固まった雪を消し飛ばす。一部分が消滅した雪山はその空白を補うべく代わりの雪を下方に下ろす。
つまりは雪崩だ。
広範囲に発射された念動光線は大規模な雪崩を引き起こした。
「ディアッカ!」
「グゥレイト!だがもう一発だ、受け取ってくれ!」
パラシュートを開き空に漂うディアッカをライディーンが回収する。
その手の中でディアッカは脱出する直前に仕掛けた最後の仕掛けの発動時間を計っていた。
雪に呑み込まれる寸前にステルバーの動力炉が臨界を越えた。
ディアッカの戦友であるアスランの未来のお家芸となる、自爆である。
その腕にテッカマンブレードを握り締めたまま、ステルバーが自身を全て熱へと還元する。
光の中で溶けるステルバーの姿。凄まじい雪煙りがジュドーとディアッカの視界を奪う。
噴き上がってきた衝撃波にライディーンが揺れる。
穿たれたクレーターに落下するテッカマンブレード。防御に全ての力を回したテッカマンブレードに、雪崩を回避する余裕はなかった。
直後に何十万トンという雪が爆発もテッカマンブレードもすべてを覆い隠していった。
「やったか!?」
「バカ、ジュドー!それを言うなよ!」
「何でさ!とにかく逃げるよ!」
疲労したジュドーはライディーンの損傷を確認するより先に離脱を選択した。と言うよりも、ゴッドアルファを使ったせいでジュドーはもう限界なのだ。
ライディーンの本来のパイロットであるひびき洸でさえ激しく消耗するこの機能は、仮初めのパイロットであるジュドーにはさらに荷が重かった。
ニュータイプの思念を変換したとでも言うべき念動力の攻撃はジュドーの体力を失神寸前まで奪う。
ろくに視界の利かないこの雪煙の中では戦うのも不利だ。
手に生身のディアッカを握っているためゴッドバードに変形することもできなかったが、ライディーンはこの場を離れるために転進し飛んでいく。
左脚を根元から破壊されたため機体バランスを保つのが難しく、ふらふらとまるで風に揺られる凧のように飛ぶライディーン。
文句を言おうとしたディアッカだが迂闊に口を開いて舌を噛みそうになり、しばらくジュドーの好きに飛ばせようと思った。
しばらく飛んだあと、もう大丈夫だろうとジュドーは気を緩めた。
「なんとか、逃げ切れたかな」
「ああ、そうみたいだな……ていうか寒い!ジュドー、中に入れてくれよ」
「そういやここ雪原だもんね。ちょっと待ってくれ、すぐに降りる……」
地上に降りようとしたライディーン。突如ぐらっと機体が揺れる。
だが、その動きはジュドーが意図したものではなかった。
急降下するライディーン。落ちそうになったディアッカが慌てて指につかまる。
「うわっ!?」
「っと、何しやがるジュドー!」
「違う、俺はまだ何もしてない!」
慌てた声を上げるジュドー。不自然に引力を受けたと感じた右足の情報を表示する。
そこには、いつの間に刺さったのか鋭い槍があった。そう、さっきまで戦っていた白騎士の槍が。
端から糸が伸びている。視認するのも難しいほどに細い、しかし強靭な糸が。
糸の先を追って行くと地上に行き着いた。
猛烈に嫌な予感を感じるジュドー。
果たして、予想通り雪をはねあげてテッカマンブレードが姿を見せる。
全身の装甲に歪みや焦げ跡を刻みながらも五体満足。
「ラダムゥゥゥゥゥゥー!」
雪中を掘り進んできたテッカマンブレードは、伸ばしに伸ばしたテックワイヤーを頼りにライディーンとの距離を測っていた。
ステルバーが爆発した瞬間は水蒸気が爆発しレーダーやカメラはほとんど利かなくなっていた。
テッカマンブレードは一瞬見えたライディーンの足にテックワイヤーを接続したランサーを投げつけ引きずり落とそうとしたのだが、雪崩に阻まれた。
すぐにテックワイヤーも外れたのだが、ワイヤーが引っ張られた方向からラダムの逃亡を感知したテッカマンブレード。
すぐに攻撃を仕掛けたかったが、さすがに雪崩のダメージは大きくまだ体が本調子ではない。
だから一度時間を置き、ラダムが身を休めた時を狙うと決めた。
ランサーの先端からごく微弱にフェルミオンエネルギーを放出し、決して痕跡を出さぬよう深く静かに雪の中を掘り進む。
この辺り一面は雪に追われ、テッカマンブレードの白い身体は遠目には発見し辛い。
ジュドーは片足を欠いたライディーンのバランスを保つのに必死で、その上意識が朦朧としていたのがあだとなった。
後方の空を重点的に警戒していたので、雪の中から顔だけを出して追って来るテッカマンブレードに気付けなかったのだ。
半時間ほどそのまま飛び続けたか、いよいよテッカマンブレードの忍耐も限界に近づいたところでライディーンは停止した。
動きを止めたラダムに、好機と見たテッカマンブレードがついに牙を剥く。
テックワイヤーを接続したランサーを投擲、ふらふらと飛ぶライディーンを地上へと引き落とすと、テッカマンブレードの肩が開いた。
さきほどは力を温存しようとしたから手痛い逆襲にあった。あのラダム達はどうやら相当に戦闘向きの個体であるらしい。
もはや油断はしない。このラダムどもは絶対に生かしてはおかない。今ある全力で葬り去る。
条件は整った。もはや敵ラダムは一か所に集まり、テックワイヤーで繋がっているため撃ち漏らす心配もない。
「塵一つ残さず、消滅させてやる……!」
全身のエネルギーをかき集め放つ、ブラスターテッカマンブレード最大最強の攻撃。
太陽よりも激しい光を見て、ジュドーとディアッカは絶望に支配された。
パワーの低下したライディーンはテックワイヤーを振りほどけない。
ゴッドアローは撃ち尽くしているし、ゴッドサンダーを撃つエネルギーは残っておらず、ゴッドアルファを使うにはジュドーは疲弊しすぎていた。
ゴッドバードに変形しようにも手の平に生身のディアッカを乗せていては無理だ。
ゴーガンソードでワイヤーを切ることはできるだろうが、切ったところで今のライディーンの状態ではろくに回避運動も取れない。
あの高速移動で接近され、至近距離から撃たれるだけだろう。
だが見方を変えれば今の状態なら少しだけ、ほんの少しだけは時間があると言うことでもある。
敵のチャージが完了するまでの僅かな時間に、ジュドーには一つだけできる事があった。
「う、嘘だろ……は、ははは」
「…ディアッカ!」
恐怖のあまり笑いだしたディアッカ。
ジュドーは回避は不可能と見ると、即座にその方針を変更した。
手の中のディアッカを包み込むように右腕のゴッドブロックを変形させる。
そして左腕のゴーガンソードで、ライディーンは自らの右腕を切り落とした。
「じゅ、ジュドー何を!?」
「ディアッカ、もしプルとプルツーにあったら……!」
すぐにゴーガンソードを解除し、丸い玉のようになったゴッドブロックを掴むライディーンの左手。
そしてベースボーラーのように振りかぶる。
「頼む、二人を守ってやってくれ!」
「おい、ジュドー!」
「うおおおおおおっ!」
ムートロンエネルギーを集め、放り投げる。
弾丸のような速度でディアッカを包むゴッドブロックが飛び離れていく。
ありったけのエネルギーを込めて投げたのでしばらくは飛んでいられるはずだ。
その先に何があるかは分からないが、少なくともここに残っているよりは生存確率は上がるだろう。
同時に、ライディーンの下から凄まじいプレッシャーが上昇してくる。
白い騎士がまるで光の塊のようになってライディーンを見上げている。
もう抵抗の手段はない。
だが、ジュドーは座して死を待つようなことはしなかった。
ゴーガンソードを広げた左腕を握り締め、逆に自分から降下することで距離を詰める。
「おおおおおおお……!」
「ごめんよ、リィナ……俺、ここで死ぬみたいだ。でも、またお前に会えるんだから、いいよな……」
戦火の中で死に別れた妹のことを思うジュドー。
リィナの笑顔が見えた気がした。
ライディーンの全重量を乗せたゴーガンソードがテッカマンブレードを襲う。
掲げられたテッカマンブレードの腕が、ギリギリのところでその刃を受け止めた。
その間もボルテッカのチャージは止まらない。
「やっぱり駄目か……でも、ディアッカが逃げる時間くらいは稼いでみせるよ……!」
「ボルテッカァァァァァァァーーーーーーーー!」
至近距離で放たれたブラスターボルテッカ。
撃った当人であるテッカマンブレードを傷つけながらも、その光はライディーンを原子の塵へと変換していく。
しかし、消滅よりも早くライディーンは落下する。
削り取られながら、しかし確実にテッカマンブレードを大地へと沈めていく。
しばしの拮抗の後、ついにボルテッカの輝きが古代ムー帝国の守護神もろともニュータイプの少年を消し飛ばした。
奇しくもジュドーと同じように、戦いの中で妹を失った兄の手によって。
【ジュドー・アーシタ 死亡 ライディーン 大破】
「あの光は……!」
ジュドーを葬ったブラスターボルテッカの光は、まさに天を貫く光だった。
はるか大気圏まで立ち昇る輝きを見て足を止めたのは白いヒゲを持つガンダム。
ラウ・ル・クルーゼが操縦する∀ガンダムの中で、テッカマンレイピアである相羽ミユキが声を上げたためだ。
「アレが何かわかるのかね、ミユキ君?」
「ええ、多分あれはボルテッカです。私たちテッカマンの最強の攻撃……でも、あんな威力のボルテッカなんて誰が……」
なるほどテッカマンが近くにいるのか、とクルーゼは思った。
(では君はこう考えているだろう。そのボルテッカを撃ったのが誰か、確かめたいと……)
「クルーゼさん、私をここで降ろしていただけませんか?」
「いいや、駄目だ。私も共に行こう」
「……いいんですか?」
「君の兄君かもしれないのだろう?そうであればいいが、そうでなかった場合……敵性テッカマン、アックスやランスだった場合は私の力が必要になるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
そして∀ガンダムは来た道を引き返す。同行を決めたクルーゼだが、もちろん善意からではない。
道すがら聞いた話によれば、テッカマンは一度ボルテッカを撃てばほぼ全身の力を使い果たすと言う。
つまり今ボルテッカを撃ったばかりならば、あそこにいるテッカマンは無力に等しい。
ミユキの兄であれば懐柔するが、そうでない場合、つまり敵対的なテッカマンであれば始末するだけ。
労せずして強敵を間引く好機を、クルーゼが逃すはずもなかった。
加えてミユキからの信頼も深まっている。デメリットは何もない。
転進した∀ガンダムはやがて、弾丸のように飛んでくる白い球体を発見した。
ミサイルかと思ったクルーゼだがその内部に生体反応をキャッチして、迎撃せずに受け止めた。
「誰か、いるのかね?」
「……その声は……クルーゼ隊長!?」
「君は……ディアッカ・エルスマンか!」
クルーゼが探していた内の一人、部下であるディアッカだった。
こんなところで合流できるとはと笑うクルーゼに、ディアッカは切羽詰まった声で叫んだ。
「隊長、話は後だ!早く逃げてくれ!」
「逃げる?ああ、君が遭遇したと言うテッカマンだな。だがもう心配は……」
「隊長!あいつが来ちまうよ!」
ボルテッカを撃ったテッカマンは無力。
その理屈はブラスター化したテッカマンには通じない。
だから、クルーゼの目の前にブラスターテッカマンブレードは現れる。
三度目のボルテッカで疲弊し、またジュドーの抵抗により全身に傷を負ってはいたが、テッカマンブレードは装甲の下でにやりと笑う。
弓のラダムのの最後の攻撃によって予想以上に解くまでラダムを逃がしてしまったと思っていたら、その先でまた新たなラダムと出会えた。
自前の足と推進器で飛んできたテッカマンブレードが∀ガンダムと睨み合う。
「また新しいラダムか……!」
「お兄……ちゃん?」
それは、兄と妹の再会でもあった。
【Dボゥイ
支給機体:なし】
パイロット状況:疲労(大) 思考能力回復 支給品入りのバッグ紛失
機体状況:全身の装甲に傷や焦げ跡がある エネルギー中消費
現在位置:C-6
第1行動方針:参加者(=ラダム)を殲滅する。手段は問わない
第2行動方針:テッカマンは優先して殺す
最終行動方針:ラダムを殲滅する
備考:自分以外の動く全ての物がラダムに見えるように改造されています。
家族の顔など、自分自身の細かい記憶は全て失っているようです。
【ディアッカ・エルスマン 搭乗機体:なし(ライディーンのゴッドブロックが変形した脱出ポッドの中)
パイロット状況:体力消耗大
機体状況:なし
現在位置:C-7
第一行動目標:当面殺し合いには乗らない、テッカマンブレードから逃げる
第二行動目標:脱出が無理と判断した場合、頃合を見て殺し合いに乗る 】
【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
パイロット状況:良好 仮面喪失 ハリーの眼鏡装備
機体状況:良好 核装備(1/2)
現在位置:C-7
第1行動方針:テッカマンブレードに対処する
第2行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第3行動方針:ダルタニアスを取りに行って、雪原市街地でミストたちと合流する
第4行動方針:手駒を使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす(できれば全ての異世界を滅茶苦茶にしたい)】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。
※ヴァルシオン内部の核弾頭起爆スイッチを所持。
【テッカマンレイピア 搭乗機体:なし(∀ガンダムに同乗中)
パイロット状態:体力消耗
現在地:C-7
第一行動方針:タカヤお兄ちゃんを助ける
第二行動方針:私も……戦う!
第三行動方針:アックス、ランス、アルベルトに警戒
最終行動方針:みんなで生きて帰れる方法を探す
備考一:テッククリスタル所持
備考二:Dボゥイの異常に気が付きました】
【一日目 9:40】
最終更新:2010年04月13日 16:46