128 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 04:49:13 ID:badsV1Uu
男子トイレの一番奥、右手側にある個室の扉には、モップでがっちり
とつっかえ棒がなされていた。
扉の下から排水口まで水溜りが出来ている。辺りにはトイレ用洗剤の
柑橘臭。中からは嗚咽。いじめ、である。
その現場に──
ぺたっぺたっぺたっぺたっぺたっぴちゃ…
スリッパの足音が水溜りを一歩踏んで止まった。
個室の中で、いじめられっ子の男子高校生ススムは縮み上がった。
が、その足音の主が発した声は、ススムの知っているどのいじめっ子
の声とも合致しなかった。
「ハハハ、こんなに判りやすい“いじめ”の現場、久しぶりに見た」
ハスキーな女性の声…女性の声?!ここは男子トイレのはずじゃ…。
「女が何故男子トイレにいるのか…とか考えてるかも知れないけどさ、
とりあえず私の話を聞いてよ。拒絶の権利は無しね」
ススムは洟をすすり、洋式便器の上にしゃがみ込んだまま、ハスキー
な声に耳を傾けた。
「私さ、学校ってカーストだと思うのよね。役人=教師、貴族=顔も育
ちも良いカリスマを持った勝ち組、平民=取り柄もないけど当り障り無
く安穏と暮らしてる奴等……そして君のような、全部のツケを払わされ
る貧民」
……。
ススムはただ黙って聞いている。
「普通ならば、学年や学校が上がる度に貧民から脱するチャンスはある
でしょう……けどここは小等から大学まで揃った学園。あなたは学園内
の格差社会に埋没し、もう4年も苦渋を舐め続けている」
「な…なんで僕のいじめられた期間まで知ってるんだ!」
思わずススムが声をあげた途端──
どがんっ!
トイレ中に響き渡る衝撃音。ススムが居る個室のドアを、ハスキーな
声の持ち主が蹴り付けたのだ。
「黙って・聞いて・くれる・かな」
「ひぃ…」
ただでさえハスキーな声が、ドスを利かせて苛立たしげに区切って喋
ったのだ。ススムの心臓がキュッとなった。
「じゃあ続けるよ。あれ?…どこまで話したっけ……え~と……う~、
めんどくさい!とにかく!貧民から脱出したかったらこの紙に名前書い
て部室来なさい!終わり!」
上から紙切れがヒラリと投げ込まれ、紙にはこう書かれていた──
≪崖っぷち同好会入部届≫
最終更新:2008年09月04日 23:46