訪ねてきてすぐに、玄関先でくちびるを奪われた。
上品で穏やかな航は夏世にいつも優しい。手荒なことは絶対にしない。
なのに今日は挨拶もそこそこに壁に身体を押し付けられて、顎を捕まれた。
抗議する暇もなく、くちびるを塞がれたのだ。
こんな状況なのに、航とのキスは本当に気持ちがいい。
がくがくと震える両足に力を入れるのがだんだん辛くなってくる。
夏世は航の腕を上着ごときつく握り締めた。
航の身体が離れるどころか、ますます口付けが深く、荒いものになっていく。
両足の間に航の膝が割り入れられ、意地悪く敏感な部分を刺激する。
腰が抜けそうな快感に耐えられなくなった夏世が、航を振り払うように大きく首を振った。
「わ……たるさんっ! いやッ!」
やっとくちびるが解放された。
肩で息を繰り返す夏世を、航はつめたい瞳で見下ろした。
「いや? だったらもう二度としないよ」
耳元で航が呟く。そのままぺろりと耳朶を舐められ、夏世の膝ががくりと落ちた。
「おっと」
座り込んでしまうかと思ったが、航に抱きとめられた。
「どうする? やめる?」
夏世が首を左右に振る。ゆっくりと目を閉じて、航のくちびるを待った。
なのに、航から与えられたのは予想外のセリフだった。
「ちゃんと言ってくれなきゃ、判らないな」
夏世は目を見開いた。
航の口元にこそ笑みは浮かんでいるが、目が笑っていない。
「夏世は、どうしたい?」
航の膝が太股を撫でる。時折敏感な部分に触れて、そしらぬ顔でまた太股を往復する。
触れて欲しくて腰がくねる。自分から腰を押し付けてしまいそうな衝動を押さえながら、夏世がやっと言葉をつむぐ。
「やめ、ないで……」
その返答に軽く頷いて、航の膝がぐいと押し付けられた。
「ひゃっ……んん! 待って!」
「なに?」
「あっ…、ここ、聞こえちゃう…っから、あっああ! 待って、部屋にっ」
夏世の懇願の間も、航の膝がぐいぐいと刺激を与える。
達してしまいそうな快楽なのに、だけどこんな場所で、たったこれだけでと理性が邪魔をする。
「お願い、部屋に…」
「どうして?」
「あっ、聞こえたら、恥ずかしいから……ッ」
「夏世が声を我慢すれば大丈夫だよ」
「そんな、無理っ……。意地悪、しないで……」
仕方ないな、と航がつぶやいて、夏世の腕を引いて歩き出した。
*
おぼつかない足取りの夏世をベッドに座らせて、航が上着を脱ぎ捨てた。
夏世の身体を抱き寄せて、再び深い口付けをかわす。
腕を航の首に回し、夏世もキスに答えた。
この後の展開を思い描いているのだろう、夏世はうっとりと甘い吐息を漏らした。
「どうして欲しい? 全部、夏世のいいようにするから言ってみて」
「えっ……?」
「いつもは僕の好きにさせてもらってるからね、夏世がどうしたいのか知りたいんだ」
「どうって……、あの、いつも通りに」
「いつも通りって?」
「……なんで、今日はそんな意地悪言うんですか……」
困惑で眉根をきつく寄せる彼女の頭を、航はかるく撫でる。彼女がこうされると安心すると知っているからだ。
「意地悪じゃない。知りたいんだ。
教えてくれないなら、今日はもう終わりにするしかないな」
航の指先が、くびすじに触れる。それだけで夏世の身体がびくりと震えた。
夏世の顔が羞恥に赤く染まる。
顎のあたりをちょろちょろと撫でると、くすぐったさに夏世の腰が引ける。
それをぐいと引き戻した。
「やめる?」
低く航が囁く。
夏世は再びふるふると左右に首を振った。
「キス、してください……」
消え入りそうな声で夏世が懇願した。
うん、と答えて指先を顎に沿え、暖かいくちびるに触れた。
「ん……ふっ……」
舌先でくちびるを撫でる。そのままかぷりと噛み付くと、夏世は身を捩った。
「キスだけでいいの? 次は?」
「触って……」
「どこを?」
「……ッ、色んなとこっ……!」
上手い事を言うなと苦笑しつつ、まずは額をなで上げた。
頬、顎、首筋と手のひらを下ろし、衣服の上から軽く胸の頂を撫でる。
「あっ、」
「何?」
「んんっ直接、触って欲しい……」
「じゃあ、自分で脱いで……できるね?」
夏世の潤んだ瞳がゆっくり伏せられ、小さくうなずいた。
ニット素材のパーカをゆっくり脱ぎ捨て、フレンチスリーブのブラウスのボタンに手がかかる。
航の手は、スカートのすそから太ももを意地悪く撫で回した。ゆっくりと、時折爪を立てて、彼女の意識がとろけるように。
「手、止まってるよ」
「ぁ、はい……」
夏世の細い指が震えている。
見た目を重視したブラウスの丸いボタンは、その指では外すのがとても難しそうだ。
3つ目まで外したところで、下着の上から敏感な場所を指先でつついた。
「ああ!」
身体をくの字に曲げて、大きく夏世が身を捩った。
「ほら、あと3つあるよ」
「……ぬ、がせて」
「……いいよ。手、どけて」
軽く伏せた目じりに、うっすらと涙が浮かんでいる。ボタンを外し、ブラウスを脱がせながらその涙を舌先で掬い取った。
「可愛いね」
「航さんの、意地悪……っんん!! あっ」
お望みどおり素肌へと触れると、一層大きく悲鳴を上げる。
「こっちは? 脱ぐ?」
ふわりとしたスカートをつつく。こくりと頷いたのを確認して、ファスナーをおろして丁寧に脱がせ、ついでに下着も剥ぎ取った。
「航さん……電気、消して……」
「どうして?」
「恥ずかしい、から……お願い」
「たまにはいいじゃない」
「あっ、ダメっ! いやっ! 航さん!!」
ぐいと両膝を掴んで、左右に大きく開かせる。
体重を支えていた両腕ががくりと折れて、夏世の身体がベッドに沈んだ。
身を捩って嫌がる夏世を無視して、花芯に舌を這わせた。
「う、んんんっ!! いやぁ! わた、るさんっ、ひあっ」
蜜を溢れさせてとろけきった蜜壷に指を添えると、そこは簡単にそれをくわえ込んだ。
「あっ、や…………っ! ああっ」
がくがくと夏世の身体が震え、指をくわえた秘部が締め付けるような収縮を繰り返す。
航は身体を起こして夏世の白い身体を見つめた。
汗ばんだ胸を上下させ、両手で顔を覆い隠し呼吸を整える姿を見ると、なぜか加虐心が沸いてくる。
差し込んだままの指をくいと動かすと、逃げるように夏世の腰がくねる。空いた手で押さえつけて出し入れを繰り返した。
「っっんん! 航さん、待ってっ、や、待ってっ!」
「どうしたの?」
「ダメっ、今、ダメなの……!」
「何が?」
「お願い、指、抜いてぇ……」
「仕方ないなぁ」
リクエストどおり指を引き抜くと、ん、と名残惜しげな声が上がった。
呼吸を整えた夏世がむくりと起き上がり、先ほど脱ぎ捨てたパーカで胸を隠しながら航に口づける。
「わ、航さんも、脱いで……」
長袖のTシャツのすそからおずおずと手を差し入れ、熱い手のひらが胸板をさすった。
ぎこちない動作でそれを脱がしにかかる。航はされるがままにしていた。
「今度は、航さんの番……だから」
いつも航がしているように、くちびるを重ねて、耳朶を噛み、首筋へと触れ、鎖骨を伝って小さな突起へと舌を這わせた。
「どうしたら、いいですか? 教えてください……」
「……じゃあ、下も、脱がせて」
思い切ったようにベルトに手を掛け、音を立てながら外す。
はたと夏世が明るいままの室内に気がつき立ち上がった。
その手首をグイと掴んで、自分のほうに引き寄せた。
細い身体が自分の腕の中に転がり込んでくる。
「まだ、脱げてないけど?」
「ごめんなさいっ、でも、電気……」
「後で消してあげるから、早く」
素直に頷き、ズボンのファスナーに手を掛ける夏世の白い背中を、つっと撫でた。
腰を浮かし大人しく下着ごと脱がされる。
「あの、どうしたら……?」
「夏世の好きなようにしていいよ」
「え、でも……」
「判らない?」
「……ごめんなさい」
「じゃあ、夏世が僕にされて嬉しい事、僕にもして?」
「えっと、じゃあ……」
身を乗り出して、口づけられる。舌を絡ませあったあと、耳元で小さくあいしてる、と囁かれそのまま舌がぬるりと耳の中を這った。
「……っ、」
小さく声を漏らした航の反応に気をよくしたのか、細い指先がつつと胸板を伝って陰茎へと触れる。
舌先が耳から首筋へと降り、鎖骨の上でぺろぺろと動いた。
――こうされるのが好きなのか。なるほど。今度試してみよう。
口元に思わず笑みが浮かぶ。
ご褒美、とばかりに白い臀部へ触れたら、ちらりと睨まれた。肩をすくめて、ジェスチャーで謝罪をする。
思いつめたような表情で、夏世がぱくりと先端を咥えた。
瞳を伏せて、下の方を両手で包み込みながら自分のものを一生懸命舐めるその姿は素晴らしく官能的だ。
びくりと自身が震えた。
「……夏世、もういいよ」
肩を掴んで身体を引き起こす。夏世が不満げにくちびるをそれから離した。
「気持ち、よくないですか?」
「そんなことないよ。でもほら、ここも、何とかしないと」
下腹部に手を伸ばすと、彼女の秘部は先ほどよりドロドロに溶けていた。
「……っあ……!」
「欲しくない?」
「ほしい……っ、入れて、ほしいの!」
ゆっくりと夏世の上体を横たえ、先ほどのように両足を開かせて準備を終えた自身の欲望を押し当てた。
「いくよ……」
返事を待たず、一気に滑り込む。白い上半身が弓なりに反れた。
「う……あっ、電気……んっ!!」
上体をかがめて深く口づける。たったそれだけで、夏世の身体は敏感に震えた。
「あ……航、さん」
「なに?」
「わたるさんっ、あ、お願い……」
「何を、お願い?」
「~っ……、や、航さん……」
夏世の欲しいものは判っている。もっと、激しい刺激を求めているのだと。
意地悪く奥にとどまったまま、夏世を見つめる。
明るい白熱灯の下で全身を桜色に染めて腰をくねらす恋人が愛しい。
だからこそ、彼女の口から聞きたいのだ。
「航さんっ、航さん、ぅ~~~っ! 航さんっ! もう、ダメなの……!!」
「あ、そう」
ニヤニヤと薄く笑いながら、空いた両手で胸の先端に触れた。
「それじゃ判らないな。ここ?」
「違う……のっ、あの、動いてくださいっ、あんっ!!」
最後まで聞かずに律動を開始した。動きにあわせて夏世の口から甘い嬌声が上がる。
航の思考が飛ぶのに、時間はかからなかった。
目が覚めると腕の中には裸のままの夏世がいた。
「わっ」
驚いて声を上げると、目を覚ました夏世が慌てて身体を引き離す。
その仕草が可愛くて、再び腕の中へ抱き込んだ。
「おはよう」
「…………おはよう、ございます。多分まだ夜ですけど」
「そう? ……機嫌悪いね」
「当たり前ですっ、離してください~~っ」
「理由を話してくれたらね」
「だって!」
後始末を終えてさっさと眠ってしまったこと。
それはいいのだが、服を着る暇もなく腕に抱きこまれて、身動きが取れなかったこと。
何度抜け出そうとしても信じられないぐらいビクともしなかったこと。
おかげでシャワーも浴びられなかった。電気も消せなかった。
何よりさっきの航は人が違ったように意地悪で嫌いだと、夏世は背を向けたまま一気にまくし立てた。
「…………ごめん、ちょっといい?」
「何ですか?」
「そんなに性格悪かった?」
「覚えてないんですか!?」
「うーん、実は3日ぐらい徹夜してるんだよね。
で、原稿上がってシャワーだけ浴びて、どうやってここに来たかあんまり覚えてないんだ」
「そんな! 酷いっ!」
「修たちの話だと、眠くなると人格変わるらしいんだよね。
……もしかして相当酷いことした?」
「だって、玄関でしようとしたり、どうされたいって、わ、私に言わせたり、
電気だって最後まで消してくれなかったし、なのに自分は好きにしてとか言って!」
「で、夏世はどうしたの?」
ばっと航を振り返ると、口元に意地悪い笑みが浮かんでいる。
「~~~~~っ!!!! 航さんの、バカーっ!!」
顔を背けて掛け布団にもぐりこんでしまった夏世の頭をそっと撫でる。
「ごめんごめん。覚えてるよ、すっごい夏世がエロかったこと」
「だからそういう発言がオヤジっ! それ以前に酷い仕打ちに謝罪はないんですかっ」
「うーん…………愛してるよ」
かろうじてはみ出していた耳元で囁き、ぺろりと舐めた。ひゃ、と小さな悲鳴が上がる。
そのスキに三たび白い裸体を抱き寄せた。
「せっかく裸だし、もう一回どう? 今度は意識もハッキリしてるから大丈夫」
「大丈夫じゃ、なーいっっ!!」
愛しの恋人の本性を垣間見て今後に多少の不安を抱いたものの、
愛されてるならいいかなと渋々納得する。
それは流されているということだと、お人よしな彼女は気が付かないのです。
++いじわるな あなた++
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最終更新:2008年12月31日 13:51