「ハルコ。機嫌悪いね」
「……そう?」
動物のように乱暴に口付けてくるハルコの背中を、あやすように撫でながら僕はその舌を受け入れる。
明日は土曜日。
ウィークディは毎日きっかり0時に床に就くハルコが、今日はこんな時間に僕の部屋にいる。
真っ赤なドレスのまま、ノックの返事を待たずにずんずんと入り込んで来たハルコは、有無を言わさず僕を押し倒して、シャツのボタンをぷちぷちと外し始めたのだ。
そしていつになく乱暴に口付けてきて、僕の口腔を蹂躙した。
少しだけ驚いて、僕もその舌に答える。
執拗に舌を絡めあえば、ハルコのくちびるから切なげな吐息がすぐ漏れた。
「1回しか踊ってないから、かな?」
「そうね、あの人たちの所為で」
「ハルコは、アイドルだね。どこに行っても」
不機嫌そうに眉根を寄せたハルコの前髪を、そっとなで上げた。
実際、そうだ。
今日も「花金だ」とか言って、ハルコの派遣先のおエライさんとママのお気に入りのくるくると、お坊ちゃんみたいなのと、あと数人。
わいわいと店をにぎやかしにやってきた。
ちょうどハルコが僕のギターで踊っていた所だったのだが、終わったあとにくるくるが冷やかすもんだからハルコの機嫌は絶好調に悪くなった。
そのまま、2階に引っ込んじゃったんだ。
今日は一緒にワインを飲もうと思っていたのに。
そういうハルコの気まぐれはいつもの事だ(今日は仕方ないと思うけど)。
どこに派遣されても、そうやってお客を連れてくる。
あの子羊ちゃんのようなお客を。
会社の人の前ではつんけんしてるけど、ハルコはアイドルなんだ。
みんながハルコに心を奪われる。
もちろん、僕も。
「……んっ、リュート……?」
薄く開いた瞳を潤ませながら、ねだる様にハルコが息を漏らす。
僕はにこりと微笑んで、ハルコの背中に手を回してファスナーを外した。
ドレスのスカートをばさりと捲り上げて、下肢に手をやれば、下着がじっとりと濡れいてる。
「可愛いね、ハルコ。こんなにして」
ハルコの目が鋭く尖って僕を睨む。
その口が何か言う前に乱暴に塞いでやった。
太ももを撫でながら、ドレスの脇から手を入れて胸を揉む。
僕はハルコの柔らかい胸が大好きだ。
いつまでもふにふにと触っていたい。全然飽きない。
先端をギュっとつまむと、ハルコの背中がビクリと反れた。
「っ、……ドレスっ、汚れるから……」
脱がせろ、って事かな。
ハルコにはこの情熱の色がよく似合うから、出来ればこのまま繋がりたいけど、これ以上ハルコの機嫌を損ねるのはあまり芳しくない。
言うとおりにドレスを脱がせる。
月明かりの下に、ハルコの真っ白な身体が浮かび上がった。
キレイだ。
腕にぐいと引き寄せてベッドに押し倒した。
下着を剥ぎ取って、全裸に剥いた勢いのまま下肢にくちびるを寄せる。
太ももに音を立てて吸い付いて、ハルコの期待を高めてあげる。
そうするとハルコは、大人しく足を開くんだ。
あらわになった肉芽に、唾液をたっぷり含ませた舌を這わせるとハルコの口から可愛い声が漏れる。
「んっ! ……あっ」
もっと聞きたくて、犬のようにぺろぺろと舐めたり、くちびるではさんだり、たまに吸い付いたりと刺激を加えていく。
時折、ハルコの足が閉じてしまいそうに力が入るたびに、両手でぐっと開かせた。
手を添えた太ももにががくがくと震え始めて、ハルコの両手が僕の髪を掴む。
「んんんっ! リュー、トっ! ああっ!!」
ひときわ高い声が漏れ、ハルコがぐったりと力を抜いた。
荒い息が僕の耳にも伝わる。
しばらくそうやってぼんやりと天井を見ていたハルコが、急にむくりと起き上がって、彼女の小さい手が僕のズボンにかかる。
ベルトをすばやく外して、僕はあっと言う間に脱がされちゃった。
いつも思うけど、とっても器用だ。
彼女に不可能なんてないだろうな。
僕自身にくちびるを寄せようとしたハルコの肩を、ぐいと掴んで起き上がらせた。
ハルコは不思議そうな顔で僕を見つめる。
「今日は、もういいから」
早くハルコと一つになりたかった。
頷くと、ハルコが僕の上にまたがって、ゆっくりと腰を下ろした。
ハルコの中は熱くてほんと気持ちいい。
「……っあ!」
全部腰が降りると、ハルコが甘くあえぐ。
この声を知っているのは、今のところ僕だけ。
不思議な独占欲が、僕を満足させる。
ゆるゆると腰を揺らしながら、目の前で揺れる胸の頂に吸い付く。
「ああんっ! リュート!」
「ハルコ……気持ちいい?」
「うんっ、リュートっ、もっと、んんっ!」
そんな声出されちゃったら、僕のなけなしの理性がぶっ飛んじゃうよ。
強引にハルコの身体を押し倒して、腰を揺らす。
「リュートッ、リュー! あッ、リュートっっ!」
泣き声みたいなハルコの声。
もっと僕を呼んで欲しくて、僕はハルコの好きなところをぐんぐんと付き続けた。
「あ~~~~っ、スッキリした!」
僕の隣で猫のように身体を丸めたり伸ばしたりしながら、ハルコが大声を上げる。
「……ハルコ、ちょっとムードないねそれ」
「いいの! だってリュートだもん」
僕の上にハルコが乗ってきて、またくちびるが重なった。
「ありがとね、リュート」
「僕も、ありがと。ハルコ」
そういうとにっこり笑って、僕の首に顔を埋める。
そんなハルコの柔らかい髪を、そっと撫でた。
「……ねー、リュート」
「んー?」
「彼女、まだ出来ないの?」
「出来ないねぇ。僕が本気だって、誰も信じてくれないんだ」
「本気が足りないんじゃなーい? まっ、とにかく、彼女できたら早く言ってよね。
あたしも次の相手探すから」
その言葉に、胸がちりりと痛んだ。
僕が本気だって、ハルコは信じてくれない。
その前に、伝える事も出来ない。
ハルコには自由でいてほしいから。
僕が縛り付けることなんてできないんだ。
「早く、見つけなね。リュートのこと大好きになってくれる人」
「ハルコも、早く見つけなよ」
心にもない事を言う。
「んー、当分いいや」
「じゃ、当分僕で我慢だね」
「そうだね、よろしく」
こんなハルコの姿、あそこの会社の人たちは見た事ないんだろうな。
こんな笑顔も。
あの甘い声も。
思わずにこにこと頬が緩む。
「あー眠いっ。リュート、今日は一緒に寝よ?」
「布団取らないでね」
僕が言うが早いか、転がっていた僕のシャツを奪ってその細い身体に頭から被ると、白いシーツに顔を埋めてハルコは寝息を立て始める。
僕はそんなハルコの身体を抱き締めて、髪にキスを落とした。
*
目が覚めると、隣にハルコはいなかった。
やっぱり。
いつもの事とはいえ、少し寂しい。
ハルコは本当に猫のようだ。
昨夜の情事のおかげで軽くなった身体を起こして、店へ降りていく。
「あ、リュート。おはよ」
ハルコの笑顔。
僕もにっこりと笑顔と挨拶を返した。
「おはよう、ハルコ。起きたら一人で寂しかったよ。酷いね」
「一応起こしたよ。でも気持ちよさそうに寝てたから」
「あらあら、あんたたちまだ一緒に寝てるの? 子どもみたいね」
ママの声がカウンターから飛んでくる。
ハルコがママの方に向き直って楽しそうに口を開いた。
「だってぇ~、リュート暖かいんだもん。ママもたまにはリュートと寝たら?」
「そうねぇ、また今度ね」
ハルコが振り返って、僕の目を見て、いたずらっ子のように笑った。
僕も笑った。
ハルコが望む限り、いつまでも共犯者でいてあげる。
それ以上は望まない。
++あいしてもとどかない++
070227
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最終更新:2008年12月31日 14:07