416 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:20:23.27 ID:DQ8dLChL0
ライブの日、俺が思っていた以上に人は集まり、シンヤの路上ライブで知り合った
ギャラリーのマサキさんに会うまで心細い思いをしていた。

「これ全部シンヤのファンですか?」
「まっさかぁ!シンヤくん以外にも2つバンドが演奏するんだよ」
「あ、そっか…」

勘違いに思わず顔を赤らめ、マサキさんにも笑われる。
シンヤの演奏は二番目でソレまでの時間、俺にとって興味が無いヤツの音楽を永延と
聞かされるだけの苦痛な時間だったが、シンヤの演奏が始まった途端それまでの
苛立ちなど全てが吹っ飛んだ。
初めてのライブにシンヤも緊張しているのか、一曲目はいつもの調子が出ていなかった。
しかし二曲目からは調子を取り戻し、それどころか絶好調になっている。
他の客もシンヤの曲に合わせて踊りだしたり騒いだり、初めてのシンヤのライブは
大成功といえる

「皆さんありがとーっした!あとユウ!来てくれてありがとなー!」

突然名前を呼ばれ、ドキッとした。
暫くシンヤは周りをキョロキョロすると、俺を見つけた途端Vサインを向けて、ニッと
屈託の無い笑顔を向けてきた。
この時の俺の顔は真っ赤だったに違いない。
俺は贅沢にもあの笑顔をずっと独り占めしたいとすら思って、一生心にしまっておく
つもりだったこの感情を、いつか明かそうと決意した。
多分拒まれるかもしれない。それでも俺はこの思いだけを伝えたいと思った。


417 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:21:44.09 ID:DQ8dLChL0
高揚とした気分のまま家に帰ると、玄関には母が立っていた。

「こんな時間までどこに行っていたの?」

いつもは温厚な母が腕を前に組み、鋭い眼差しで俺を射る。一瞬怯みそうになるが、
負けじと睨み返すと母が驚いた顔をした。

「どうだっていいだろ。…心配するようなことはしてないよ」
「どうだっていいって…」
「俺だって子供じゃないんだからほっといてよ」
「何を言っているの!夕食をすっぽかして、ミカちゃんも心配していたのよ!」
「…始めから行かないって言っただろ?俺、もう寝るから」
「待ちなさいユウ!ユ…!」

言葉が終わるのも待たず俺は部屋のドアを閉め、ベッドにそのまま倒れこんだ。
俺はシンヤの歌とライブでのことを思い出し、他の事を何も考えないで寝入った。
それだけがあれば十分だった。

朝になるとまだ怒っている母が朝食を作っていたが、俺はそれを気にすることなく
朝食を済ませ、いつもより早く家を出た。

「あ…」

暫く歩くとミカと鉢合わせして、お互いに気まずい思いをした。
うつむいた顔で俺を視線を合わせようとしないミカに俺はまた苛立ち、そのまま横を
通り過ぎようとすると、「待って!」とミカに止められた。


418 :VIP皇帝:2006/11/26(日) 00:22:42.99 ID:DQ8dLChL0
「…ユウちゃん、久しぶりに一緒に行ってもいい?」
「何で?」
「ごめん。怒ってるよね。私ずっと避けてたもんね…」
「そういう意味じゃない。何で俺がミカと一緒に行かなきゃいけないの?」
「え?」
「この際ハッキリ言うけど、俺、好きな人できたよ」

ミカの大きな目が見開かれる。

「嘘…ユウちゃん嘘だよね?」
「嘘じゃない。それにさ、俺らは親同士が決めただけの婚約者だろ?」
「違うよユウちゃん…親同士じゃないよ…」
「その人かいる限り俺はミカを一番好きにはなれない。だからミカも他に好きな人作れよ」
「ユウちゃん聞いて。お願いユウちゃん、私ね。昔ね、ユウちゃんと」
「じゃあな」

言いたいことだけをいい、俺は無常にもその場を去る。我ながら最低だと思っている。
でも言わなくてはいけないと思っていた。
「どうして?」というミカの泣き声が後ろから聞こえて、俺は胸が痛んだ。それと、ミカの
言いかけた言葉が引っかかり、その日はシンヤと居ても満たされることは無かった。

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最終更新:2006年11月27日 20:39