419 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:23:40.13 ID:DQ8dLChL0
文化祭の日、残念ながら俺はシンヤの演奏の時間、クラスの出店のほうを急遽頼まれ
シンヤの演奏を聞くことが出来なかった。
何が悲しくてタコヤキを焼かなければならないのか。
容姿のおかげで女性客が無駄にたこ焼きを買っていき、横に並ぶクラスメートは喜ぶが、
俺はちっとも嬉しくない。今すぐにでも放り出して演奏を聴きに行きたいくらいだ。

(もう終わった頃だな…はぁ)

割と本気で凹みながらも律儀に営業する俺は偉いと思う。
ライブが終わってから体育館から出てきた客がたこ焼きを買いに来て、俺の担当時間も
終わりが近いためラストスパートをかける。

「お疲れさん」

何の嫌がらせか俺の担当時間の終了と同時に客足は途絶え、俺は汗だくの体を
よろめかせながら、その場を立ち去る。
途中でシンヤに会いライブの様子はどうだったかと聞くと、高いテンションでシンヤは
話し出した。手土産に渡した俺の手製のたこ焼きを一杯にほおばるシンヤの姿は滑稽で、
疲れも吹っ飛びそうだった。

「おいお前ばっかり食うなよ…」
「あ、わりーわりー」

俺も腹が減っていたことを思い出し、残り少ないたこ焼きに手をつける。めいっぱい
ソースと青海苔がついていて、口端にそれがついてしまった。

「ユウ、ついてんぞ」


420 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:24:45.42 ID:DQ8dLChL0
俺がソレを拭うよりも先にシンヤの舌が口端を舐め、そのままキスをされた。
一体何が起こったのかわからない。
ただ口の中にたこ焼きの味がしていて、がさがさのシンヤの唇が俺の唇と重なり、少し
めまいを覚えていた。

「お前って柔らかいなぁ」
「な、なにっ、なにやってんだよっ?」
「ユウのこと好きだよ」

真っ赤な俺の顔と同じくらい真っ赤にしたシンヤが、予想もつかない言葉を吐く。それは
俺がずっと言おうとしていた言葉で、決してシンヤの口から言われないと思っていた。
俺はバカみたいに口をパクパクさせて、どう答えようか迷っていた。
答えなんてわかりきっている。「俺もシンヤが好きだ」それだけしかない。
それなのに、俺は迷った。

『ユウちゃん』

ミカの泣きそうな顔がまた頭をよぎった。
何でこんなときにミカの顔を思い浮かべるのだろう。あいつは関係ないはずなのに。
シンヤは俺の様子を神妙な顔で見つめて、苦笑した。

「わりぃ。お前の気持ち考えてなかったよな…」
「ち、ちがっ。俺もシンヤが」
「…ミカちゃんのこと考えてたろ?そういう顔をしてる」

図星を突かれ俺は更に動揺する。


423 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:27:16.53 ID:DQ8dLChL0
「俺待ってるからさ。考えといてくれよ…俺か、ミカちゃんか」
「シンヤ」
「じゃあな。たこ焼き、美味かったぜ」

立ち尽くす俺にシンヤは背を向け、どこかへと消えてゆく。残された俺はシンヤが言った
言葉を頭の中で何度も反芻させていた。

文化祭が終わり振り替え休日があけた登校日、シンヤはいつも通りだった。
まるで何も無かったかのように接してくるシンヤに俺はあの時のアレは幻だったのかと
思ったが、あの唇の感触だけは鮮明に思い出される。
無意識に唇をなぞるとシンヤが苦笑して、「思い出してんのか?」とからかってくる。
やはり現実なのだ。

「…なあシンヤ。何で俺のことを好きになったの?」
「わかんねー」
「わかんねーって…お前なあ…」
「だって気づいたらお前のことしか考えらんなくなったんだよ」

真っ直ぐなシンヤの言葉に俺は顔を赤くし、俯く。
同時に安心感も得られ、例え茨の道でもシンヤとなら歩ける気がした。何気なく俺は
シンヤの手をとり、周りを見渡してからキスをする。
シンヤは一瞬驚いた顔をするが、俺のことを抱きしめ受け入れてきた。

「ユウは俺のこと好き?」


424 :VIP村人u:2006/11/26(日) 00:28:59.66 ID:DQ8dLChL0
俺は答えない。また、ミカのことを思い出した。
ミカが俺とシンヤのことを知ったらどう思うんだろうか。あいつはきっと泣きそうな気がする。
最近ミカの泣きそうな顔しか見ていなくて、笑顔を思い出せなくなっていた。
どんな顔で笑っていたっけ?
今は笑っているのだろうか?
シンヤに抱かれながら、俺はミカの笑顔をずっと記憶から探していた。

12月になり町はすっかりクリスマスムードになっていた。シンヤはクリスマスにライブを
やると意気込み、俺もそのチケットを貰っている。
前よりも少し大きな所でやるようだ。
前回のライブが好評だったためチケットの売れ行きもよく、余った金で忘年会をやるかと
シンヤは言う。さすがに未成年で酒が飲めない俺は断ったが、それ以上に酒でも飲んだら
シンヤと変な関係になりそうで、嫌だった。

「滝原ー。彼女来てるぞ」

ミカが?珍しい光景に俺は目を疑い、ミカの登場にシンヤも面白く無さそうな顔をしている。
俺は慌ててミカに駆け寄り、シンヤが居ない所に連れて行った。

「何でこんな所に来るんだよ…」

苛立った自分の言葉にミカはビクッと体を震わせ、目には涙を浮かべた。
また泣かせてしまったと罪悪感を感じる。ミカに対しこんな感情を覚えるのも久しぶりだと
気づき、悪い気がしてきた。


425 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:30:18.03 ID:adMMIq590
「ごめんなさい…。あのねユウちゃん、お願いがあるの」
「何?」
「…クリスマスね、渡したいものがあるからいつもの場所に来て欲しいの。時間は4時」

いつもの場所とは駅前に一つだけある古い街灯で、俺とミカだけではなく地元の人間は
それを待ち合わせの目印に使うことが多い。
しかしクリスマスにはライブがあり、俺は当然行くことは出来ない。

「悪いけどクリスマスは約束があるから。イヴじゃダメか?」
「…ユウちゃんは忘れちゃったの?」

何を忘れたというんだろうか。クリスマスに何があったのか思い出そうとすると、気づけば
ミカの姿がない。
自分の校舎にもどっていったのだろう。
教室に戻るとシンヤがあからさまに不機嫌で、機嫌をとるのに苦労をした。

クリスマスの日、シンヤのライブは再び成功に終わった。シンヤの歌唱力は俺が見ても
8月よりも上がっていて、今度CDを作ろうと考えているらしい。
勿論出来上がった一枚目は俺が貰う予定だ。
シンヤはライブ成功のご褒美だと俺にキスをねだり、俺は触れるだけのキスをする。


426 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:32:06.90 ID:adMMIq590
「なあユウ。俺のこと好き?」

俺はまた返事を返せない。

「…ユウはさ、俺とこうやってキスするけど…肝心なこと、言わないよな」
「ごめん」
「悪いと思うなら返事を聞かせてくれよ。俺とミカちゃん、どっちだよ?」
「シンヤだよ。俺はシンヤが…」
「じゃあ言ってくれよ。俺のことが好きだって。愛してるって」

シンヤが腕を掴み、痛いくらいに握ってくる。
何故好きだといえないのだろうか?愛してるともいえない。どちらかと問われればシンヤと
答えられるのに、何故好きかと問われると言葉に詰まるのかわからない。
ミカには嘘でも言えたのに。
ミカにはうそでも好きだと何度でも…。
その時、ずっと忘れていた何かの記憶がフラッシュバックされた。

『うん!私、ユウちゃんのお嫁さんになる!』

ヒマワリのように笑う幼いミカを抱きしめ、幼い俺は顔を真っ赤にさせていた。
親が決めた婚約者じゃない。
俺が、だった。
幼い俺がまだ小学生にもならないミカに、俺が…。

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最終更新:2006年11月27日 20:40