427 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:33:58.96 ID:adMMIq590
「……もういいよ。お前、ミカちゃんが好きなんじゃねーかよ」
「
シンヤ、俺は」
「うるさい!お前なんかどっか行けよ!ミカちゃんとラブラブしてりゃいいだろ!」
「ごめん」
「何がゴメンだよ!ちくしょう、期待持たせやがって!」
「シンヤ、ごめん。本当にごめん」
「…行けよバカユウ。あと三時間でクリスマスが終わっちまうぞ」
時間は9時。ここからミカの家まで2時間かかる。
俺はシンヤにもう一度「ごめん」と言ったあと、次に「ありがとう」と言った。そのまま俺は
振り返らず、全速力でタクシー乗り場まで走り、ミカの家に向かう。
「男相手に失恋とかよぉ…マジ泣けるし…」
ありがとうじゃねーっての!とシンヤは咆哮し、その場で泣いた。
ミカの家に着くと、俺は行儀悪く何度もインターホンを鳴らす。ミカの家の使用人が
迷惑そうな顔で玄関に出るが、俺の顔を見てすぐに態度を改めた。
「あらユウさん。どうかしたんですか?」
「ミカいますかっ!」
「ミカさんですか…ミカさんなら約束があるといって3時に外を出ましたが」
「はぁ!?」
429 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:36:25.57 ID:adMMIq590
てっきり家に居ると思ったのに。俺は慌てて携帯を取り出し、ミカの番号にかけようとする。
が、一つだけ心当たりを思い出した。
いつもの場所に4時。確かにあいつはそう言っていた。
まさか居るとは思わない。だけどミカがそこに居るような気がした。
「ありがとうございます!」
俺は使用人に一瞥し、タクシーは帰してしまったため駅まで走るしかない。時間は既に
11時30分を回っていて、クリスマスが終わるまで30分しかない。
もしかしたら他の友達と遊んでいるかもしれない。
もしかしたら俺に見切りをつけて他の男と過ごしているかもしれない。
待っていても怒って帰ってしまったかもしれない。
それでも今の俺がミカに出来ることは、全速力で走って、駅前の古い街灯に行くくらいしか
思いつかない。
まるで走れメロスのような気分だ。
「はぁ、はぁっ!はぁ…はぁ…」
待ち合わせの場所に着くと、街灯には誰も居なかった。
…まあ当然だよな。
俺は気づくのにあまりのも遅すぎた。自分を慕うミカをぞんざいに扱い、辛く当たり、
シンヤを世界の中心におき、ミカをその世界から徹底的に排除した結果だ。
見捨てられて当然だ。
430 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:38:13.89 ID:adMMIq590
「…帰るか」
時間はもう12時を過ぎている。12月26日、クリスマスは終わった。
もう何をやってもミカとの約束は果たせない。40分もの間ずっと走り続け、限界をとっくに
超えている足を引きずって、俺は帰りのタクシーを捜す。
「くしゅんっ」
可愛らしいクシャミに何気なく振り向くと、コンポタスープの缶を持った小柄な女が街灯に
近づき、誰かを待つようにそこに立った。
ミカだ。
「ミカ…?」
俺は吸い寄せられるようにミカに近づき、ミカは驚きのあまり超えも出ない様子だった。
しかしその顔をすぐに笑顔に変えて、次に泣き出しそうな顔になった。
「ユウちゃん…来てくれたんだ…」
「…何やってんだよお前。俺、約束あるって言ったじゃん…」
「ごめんね。でもね、来てくれると思ったの」
「俺が?何で?」
「だって今日はユウちゃんが結婚しよって言ってくれた日だよ」
「ああ…そうだったな」
431 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:40:13.31 ID:adMMIq590
俺が7歳でミカが5歳のクリスマス、俺はミカにプロポーズをしていた。両親はソレを
微笑ましく見ていて、思えばアレが婚約のきっかけになっていたっけな。
ミカはずっとソレを覚えていてくれたのか。
こんなロクでもない俺との約束を10年間もずっと。
「あのね、プレゼント。開けてみて」
「…ビデオカメラ?」
「ユウちゃん映画好きだから。自分で映画を作ってみたいって昔言ってたじゃん」
「そんなことまで覚えてたのかよ…」
どうしようか、俺は今、かなり幸せなのかもしれない。シンヤと居たときのように、心の穴が
あっという間に埋まってゆき、溢れてしまいそうだ。
俺は溢れる思いを抱擁という形で発散し、ミカを抱きしめた。
「ユウちゃん大好き」
「うん。俺も好き」
シンヤにすらいえなかった言葉をあっさりと吐き出し、冷えたミカの体を抱き続けた。
酔っ払い親父のはやし立てる声が横から聞こえる。
433 :VIP足軽flash:2006/11/26(日) 00:42:45.60 ID:adMMIq590
「よー兄ちゃん!熱々だねー!」
「当たり前だ酔っ払い!」
「ゆ、ユウちゃん…」
俺の心にはもう、穴など見当たらない。贅沢すぎる人生にバンザイだ、と俺は心から
笑った。
ミカもまた真っ赤な顔で笑っていた。
終
最終更新:2006年11月27日 20:41