565 :
ワンダと俺と妹と(作引き出し) ◆49cq481bMY :2006/11/28(火) 16:04:26.90 ID:f8Dw6XGu0
「ありがと。えへへwwww私この後まだ用事あるから、風来橋の所の土手で待っててくれない?」
「何かあるのか?」
「うん。ちょっとねwww」
風来橋は妹の高校の近くにある大きな橋だ。その下に広がる土手は広く、子供達の遊び場や
高校の体育会系の部活の練習場としてもよく利用されている。土手の下が広い空き地のような
スペースになっているのだ。しばらくボーっとしていると妹がやってきた。
「おまたせ」
「お疲れ様でした!夏美様!!」
「ちょっとwwww何それ」
「今日ほどお前を尊敬した日はない。お前は妹だが、むしろ姉になってくれないか!?」
「無理無理。私は一生お兄ちゃんの妹だよ」
「そうか・・・・・・」
「なんで残念がってるのwwwwww」
妹は吹き出した。妹はその時とてもやさしい表情をしていた。
しばらく、兄妹並んで子供達の鬼ごっこの様子をボーっと眺めていると
妹はゆっくり喋り始めた。
566 :ワンダと俺と妹と(作引き出し) ◆49cq481bMY :2006/11/28(火) 16:05:25.54 ID:f8Dw6XGu0
「変わらないね。普段はふざけてるのに何かあった時は私の事本気で心配してくれるとこ。
今日も演奏前に緊張してた私を元気付けてくれたしね」
「普通だろ。それくらい」
「私、今までつらい事とか一杯あったけど、あんまり深刻な事態になる事ってなかった気がする。
今考えると、ほとんどお兄ちゃんがいてくれたおかげなんだよね」
「そうか?」
「試験で赤点とった時も追試前、本気で勉強教えてくれたし、病気の時もずっと看病してくれたし、
親友と喧嘩しちゃった時も真剣に相談にのってくれたし」
「・・・・・・・・・」
「でも一番嬉しかったのは、あたしが中学生の時、車にはねられた事があったでしょ」
そう。妹は中学2年生の時居眠り運転の車にはねられた事がある。不幸中の幸いかそれほど
深刻な怪我はなく、左腕の骨折だけですんだ。隣で一緒に歩いていた俺は心底恐怖したものだ。
実際は激痛で妹は気絶していただけだったのだが、俺はあの時妹が死んだと思った。
病院で先生の「骨折ですね。命に別状はありません。じきに目が覚めますよ」という言葉に
心の底からほっとした。
567 :ワンダと俺と妹と(作引き出し) ◆49cq481bMY :2006/11/28(火) 16:07:26.82 ID:f8Dw6XGu0
「目が覚めたらお兄ちゃんが手をずっと握っててくれて、とても温かかった。そして
『もう大丈夫だからな』ってお兄ちゃんが言ってくれた時、私ほっとした。あの時の事多分
一生忘れないよ私。何かあった時、いつもその時のお兄ちゃんの言葉思い出すの」
喫茶店で俺の手を握っていた時、妹はその事を思い出していたのかもしれない。
多分そうだろう。しかし、妹が病院で目を覚ました時ほっとしたのは俺も同じだ。
あれ以来、妹の事が世の中で一番大切な存在になった。
だが、極力態度には出さないようにしていたのだが、妹はお見通しだったのかもしれない。
「今日はお兄ちゃんだけに一曲演奏してあげる」
そういって妹はトランペットを取り出した。
「おいおい、持ち出していいのかそれ」
「いいの!じゃあ聴いてて」
妹が演奏したのは「天空の城ラピュタ」で主人公パズーが冒頭、家の屋根の上で演奏していた曲だった。
俺は黙って聴いていた。
「どう感想は」
「ラピュタに行きたくなった」
「ふふwwwwwじゃあ、帰ろっか」
「ああ」
その日、俺は久しぶりに妹と手を繋いで帰った。温かい手の温もりが俺達兄妹の絆のような気がした。
終わり
最終更新:2006年11月28日 16:49