※
聡(あー鬱だ…)
学校から帰宅して一直線に自室に行くと、聡はベッドに仰向けに身を投げ出した。
聡「いてっ…」
斜め掛けの学生鞄の金具が腰に当たる。
仕方なく起き上がると、聡は鞄を開けてある物を取り出した。
聡「あーいやだ。やりたくね―…。はぁ…」
重い腰を起こして鏡の前まで行く。
それを自分の前に当てがった。
聡「ないわー、これはないわ…」
ガチャ。
律「なあ、聡―――」
聡「はへっ?!」
二人して固まる。
律「……聡…お前……何鏡の前でナース服かかげてんの…?」
聡「い、いや姉ちゃんこれは違…ッ」
律「いい、言い訳なんぞ聞きたくない!」
聡「誤解だって、これは…っ」
がしっ。
律「大丈夫これでも姉ちゃんスク水とかメイド服とか結構見慣れてるから。聡がどんな趣味でも姉ちゃんは聡が好きだぞ!」
聡「ちがーーーう!」
律「おっと目から鼻水が…。ゴミでも入ったかな?」
聡「ちょ、姉ちゃん違う、これは文化祭の――」
律「じゃ、私はこれで!」
バタンッ。
聡「…オカマバーだって…」
誤解が解けたのは三日後である。
(後日談)
※
教室の中は、集まった30人ほどのお客の声でざわざわとしている。
その黒板側の一角。カーテンで仕切られた縦横1.5mほどの空間の中で聡は頭を抱えていた。
聡「あー帰りたい…」
新庄「何言ってんだ聡…――いや、さと子!あんたには私たちを待ちわびるあの声が聞こえないの?!」
聡「…なんでお前そんなノリノリなんだよ」
股間にでっかいアヒルをつけたバレリーナ姿の新庄を見やる。
新庄「おおお俺だってテンション上げずにやってられるかッッ。…――とにかく、行くわよ聡子!」
聡「あーもう、どうにもなれだっ」
新庄に続いて聡はカーテンの向こうへ飛び出した。
…ああ、足がすーすーする。
新庄「はぁーい、この店ナンバー1アイドル・バレリーナの新子でぇす!」
聡「お注射しちゃうぞっ。新人ナース聡子でーす」
どっと沸く。
おお、意外に受けてるじゃん。
聡は台本通りの台詞をしゃべりながら教室の中を見渡した。好奇心で覗きに来た学校のやつらが大半で、あとは一般の人がちらほら――
聡「?!」
その中に、居るはずのない人を見つけた。
聡(なんで居んの??!)
その後の事はよく覚えていない。
※※
律「おー、お疲れっ」
聡「姉ちゃんっ!!」
校門前でひらひらと手を振る律に、聡は顔を真っ赤にしてずかずかと歩み寄っていく。
聡「なんで来てんだよっ!」
律「え、そりゃあ聡の勇姿を見に来たんじゃん。結構かわいかったぞ。カツラも似合ってたし。」
つんつんとおでこをつつかれる。
聡「わーー!もう忘れろーっ」
律「なんだよそんなに嫌なのか?」
聡「嫌に決まってるだろっ」
女装なんて格好悪い。聡は格好悪い姿を律に見られる事が嫌だった。(まあそんな姿もう何度も見られているのだが)
思わずぶすっとしてしまう。
律「そっか、じゃあもう言わない。な、聡。お腹空いてる?」
聡「え?あー…そいやお昼何も食ってないや」
律「じゃーん。聡と一緒に食べようと思って買っといたんだー。好きだろたこ焼き」
律は満面の笑みでたこ焼きが二箱入った袋を差し出した。
聡「あ、それ俺も…」
聡も同じく二箱のたこ焼きを鞄から取り出した。
聡「…姉ちゃんと食べようと思っ、て…」
律「…」
聡「…」
ぷっと二人吹き出す。
律「まいっか!どっか場所見つけてそこで食べようぜ」
聡「そだな」
暖かいたこ焼きを手に持って、二人並んで歩き出した。
最終更新:2010年01月19日 15:08