さとりつ:アイスクリーム編

 
ある真夏の日の午後。

「しかしあっついなぁ・・・・・。」律が手をかざして、ぎらぎらと容赦なく照りつける太陽を見上げながらため息をついた。
「ヒートアイランド現象ってやつかな?」聡も汗をぬぐいながら言う。
「まったく、どれもこれも人間の所為なんだろ?出て来い、責任者!一発殴ってやる。」
「というか姉ちゃんも人間なんjy・・・・・」
「・・・・あっちぃ~~もうダメ。」
「・・・・・・。お、見て見て姉ちゃん、あそこにアイスやさんあるよ。」涼しげな看板を指差しながら聡が言った。
「うっほ~!ありがたやありがたや!人類の生み出した避暑法の極みだなぁ、ハハ!灼熱地獄からの脱出のチャンスだ!」
「いや、その灼熱地獄を作ったのが人間なんj・・・・・」
「おーい、聡!早く来いよ!」
「(って聞いてないし)・・・・・ま、待ってよ姉ちゃん!」姉に続いて聡も駆け出した。

「おおーっ!色々あんなー!聡、何にする?」
「姉ちゃんは?」
「聡が選んでから決める。」
「何だよそれ。うーんとね、じゃあ・・・・・・・・・これ!」聡は鮮やかなピンク色のアイスを指差した。
「ぷっ、それがいいのか?」
「今ぷって言っただろ?何だよぷって。」
「いや、なんでもない。」
「一応言っとくけどアイスの色なんかで・・・・」
「・・・・・アイスの色なんか関係ないよな。」律が聡を遮った。「ただ、好きなのを選べばいい、そうだろ?・・・そういや前にも約束したよな。男らしいとか女らしいとか、そういうことはもう絶対に言わないって。悪かったな。」
「あ、いや別に分かってもらえれば・・・・・。」
「ってなわけで私コレ!」と言って、律はココア色のごつごつしたアイスを指し示した。
「ね、姉ちゃん・・・・・」
「ん?何だ、聡?」
「な、何でもない・・・・・。」

「ストロベリーチーズケーキ味を一つと、ダークチョコレートファッジを一つお願いします。」
姉よりも先に聡が注文した。店員は注文を確認すると、アイスを盛り付け始めた。
「姉ちゃん、これからどうする?」
「そうだなぁ。もともとは近くのスーパーで買い物して帰る予定だったけど、こう暑くちゃな~・・・・。」
「でも今日の晩御飯は?」
「ない。」
「いざ、スーパーへ。」

アイスを受け取り代金を支払うと、二人は歩き出した。
「どうだ?ピンクは?」歩きながら律が聞いた。
「ピンク言うな。美味しいよ。姉ちゃんも食べる?」
「よし、交換だ。」使い捨てスプーンは手に持ったまま(←コレ重要)、アイスの入った紙製の容器だけを交換した。
「おお!姉ちゃんのも美味しいな。」
「うむ、うまいな。こっちのほうが甘いぞ。私ののほうが渋い感じだな。」
「文句あるんなら返してよ。」
「嘘嘘、っていうか、文句は言ってないぞ?この甘さ、癖がなくっていいじゃん。」
「じゃあ姉ちゃんには向かないんじゃ・・・・」
「ああ?わんかうぃっらか?」そういいながら律はスプーンを口にくわえつつ、聡の左頬を軽くつねった。
「イテテテ。痛いよ姉ちゃん・・・・・。」
「おっ、聡のほっぺた冷たいなー。」
「え?ああ、まあそりゃアイス食べてるわけだし・・・・。」つねられた部位をさすりながら、聡が言った。
「そっか。」
「姉ちゃんだって・・・・・ほら。」聡は律の右頬にそっと手のひらを触れる。
「ちょ・・・・・おま・・・・・熱いぞ!この暑いのに・・・・・。」
「つねってない分そっちのほうがましだって。」
「あ、アッハハハ。スマンスマン。よーし!アイス食べながら晩飯でも買いに行くか!」
「そうだね。はい、これ返す。」
それぞれ自分のアイスを受け取り、小さなスプーンで忙しく口に運びながら、二人は並んで歩き出した。

焼き付けるような夏の陽の光の中でも、凍てつくような冬の寒空の下でも、彼らの間にはいつだって、柔らかな優しい温もりが絶えないのであった。


________

「姉ちゃんこっちの食べすぎ。普通一口だろ、一口。」
「弟よ、私の一口は大きいのだよ。」
「ハイハイ・・・・。」


(完)
 
 
 
 

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最終更新:2010年01月19日 16:03
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