とある休日の夕暮れ時。
「・・・・・ドアが閉まります、ご注意ください。」
「はい三番線ドア閉まりまーす。ご注意くださーい。」
ピコーンピコーンピコーン。ヒュイーン・・・・・・。ウィーイイイイーーーーン・・・・・・・
「ふう、間に合った。」
「あーぶなかったなー。」
聡と律は、ある用事で遠出をした帰りの電車に乗っていた。
「快速に乗れたのはラッキーだったよなぁ。」
「そうだよね。これ逃したらしばらく快速はなかったもんね。」
「お、席空いてんぞ。聡、お前座んな。」
「え?いいよ、姉ちゃん座りなよ。」
「いいからいいからっ。」そういうと、律は半ば強引に聡の肩を取って、座らせた。
「ふぅー・・・・・。」
「随分とお疲れのご様子ではあーりませんか。」
「う、うん・・・・ちょっとね・・・。姉ちゃんは平気なの?」
「私はほら、体力だけが取り柄だからっさ。」右腕を曲げ、二の腕に左の手のひらを当てて、ウィンクしてみせる律。
「・・・・ありがと。」まどろんだ目をやや下に逸らし、聡は柔らかい笑顔を作って囁いた。
「ああ。」
数分後、快速列車は次の停車駅に着いた。多数の人が乗り降りする中、聡の右隣に座っていた女性が立ち上がり、下車した。
すかさず律は座り込む。
「あと六駅!三十分弱ってところか・・・・。」律は、ため息をつきながらそういうと隣にふと目をやった。
聡はすでにうつらうつらしており、今にも夢の世界への誘いに屈服してしまいそうだった。
律は、何も言わずにそっと手を伸ばし、自分と反対側の聡の肩を少しだけ寄せた。
聡はほとんど無意識的に体を傾けると、そのまま頭を律の肩に乗せた。その顔は、心地よさと安堵感に満ち溢れていた。
律はチラッと聡の表情を伺うと、満足したように微笑み、自分の肩にもたれかかる弟の頭に、自分の頭を重ねた。
カタンカタン、と規則正しく鳴り響く電車の音や、時々不規則に揺れる車体は、彼らにとってこの上ない子守唄となり、
さらに、服を通して肌で感じられるお互いの優しい温もりは、彼らを安らかで尊い眠りへと誘った。
聡の髪に頬で触れながら、律はゆっくりと瞼を下ろした。
「(昔は・・・・こうしてよく一緒に・・・・寝たな・・・・・・・・・)」
幸せな吐息が二人分、静かにデュエットを奏で始めた。
『ご・・・車あり・・・・・ござ・・・した。・・・もな・・・終・・・、大宮・・・・・』
「(大宮・・・・・・)」
『・・・・・・車内・・・忘れ・・・・さいま・・・・よう、ご注・・・・・・・・』
「(お・・・・おお・・・)・・・大宮!?」突然、聡が勢いよく体を起こした。
上に乗っていた律の頭は振り落とされ、律は目を閉じたまま眉をひそめた。
「・・・・んん・・・・・まだねむ・・・・・ムニャムニャ・・・・・」
「ね、姉ちゃん!起きて!もう大宮だよ!」慌てて姉の肩を揺する聡。しかし彼女は寝言で返す。
「もう少し・・・・・アンパン・・・・・・・」
『ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮です。』
「ぉぉぉぉ・・・・・・、って大宮っ!!??」唐突に覚醒した律は、辺りを見回す。
「お、おい聡!何で起こしてくれなかったんだよう!」
「な、『起こして』って・・・・・ね、姉ちゃんが何で起こしてくれなかったんだよ?」
「私だって、疲れて・・・・!」
「体力の塊じゃなかったのかよ!」
「か、塊だなんて言ってないだろ!体力が取り柄だって・・・・・!」
「似たようなもんだよ!ああ、もう・・・・・姉ちゃんを信じた僕がバカだったよ!」
「お前はバカじゃない。」
「へ?」突然の律の発言に、聡は思わず間抜けた声を出した。
「私はバカでもお前はバカじゃないからな。おっと、降りるぞ。」律は聡の手を取り、率先して電車を降りた。
すでに外は真っ暗になっていた。やや湿った生ぬるい夜の空気が、二人の肺を満たした。
しばらくして、何の前触れもなく律が口を開いた。
「あ、あのさ。別にお前の所為じゃないからな。ゴメンな。」
「い、いや・・・・。別に姉ちゃんが謝らなくても・・・・。これはなんていうか、誰の所為でもないってことで・・・・・・。」
「そだな。」律は聡を見ると、飛び切りの笑顔を作り、聡の髪をクシャクシャと撫でた。
「ちょ・・・・姉ちゃ・・・・」
「・・・・・よし!反対の電車に乗るぞ!三十分もあれば着くだろ。大丈夫大丈夫!ちょっと晩御飯が遅くなるくらいだって!」
「・・・・・うん。そうだね。」
「ああ・・・・・まだ眠い・・・・・。」逆向きの電車の中で、律の隣に座っている聡が呟いた。
「寝ててもいいぞ。私がちゃんと見といてやっから。」
「姉ちゃんは大丈夫?」
「私は平気。さっきたっぷり寝たしな。」
「そっか・・・・。じゃあ、頼んだね。」
「ああ、おやすみ。」
________
「ね、姉ちゃん・・・・・。姉ちゃんってば・・・・・。」
「(スヤスヤ)・・・・・・・ん・・・・・・・ん?はっ!しまった!」律は電気ショックでも与えられたかのように飛び起きた。
「今どこだ!?」
「次が日暮里。」
「あ、ああ、そ、そうか・・・・。さ、さっきよりは近づいたなぁ!アハハ・・・!」
「姉ちゃん、今度は絶対僕が起きてるから。」
「ハイ。」
(完)
最終更新:2010年01月19日 16:11