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手と手を繋いだら

 
その1

唯「じゃあ遅くまでお邪魔しました~」
律「おう、気をつけて帰れよ」

 田井中家の玄関先。
 今日は珍しく唯だけが遊びに来ていた。
 聡はリュックを背負って階段を下りていく。

律「あれ??聡、こんな時間からどっか行くのか?」
聡「ちょっと新庄んち」
律「あんま遅くなんなよ。ご飯は?」
聡「ん~、そんな遅くならないから大丈夫」
律「そっか、了解」
唯「気をつけてね~」

 聡は靴のつま先をトントンとすると、
 唯に軽く頭を下げて玄関の戸を開けた。

律「あ、ちょっとまった!」
聡「え、なに??」
律「確か新庄君ちって途中まで唯と同じ方向だろ?こんな時間だしちょっと唯途中まで送ってやってよ」
聡「えっ?」


その2

 聡は思わず眉をしかめた。
 実は正直なところ、聡はあまり唯が得意ではなかった。…というか少々苦手だった。
 決して嫌っているとかではないのだが。

(…ていうか、そうじゃなくても女の子と二人っきりとか普通に緊張するしイヤだ)

唯「別にひとりで大丈夫だよ?弟君困らせちゃダメだよりっちゃんー」
律「あっ、こら、唯」
唯「じゃあお邪魔しました~」

 唯が聡の横をすり抜けて行く。
 その顔は笑顔だけど…

聡「あ、待って」
唯「…ほえ?」
聡「ほんと、途中までになっちゃっていいなら送ってく、けど……それでもいい?」

 唯はきょとんとした。

唯「ありがとお」
律「んじゃあ聡、唯をよろしくな」


その3

外は雪が積もっている。
二人ざくざくとその中を歩いていく。

聡「さっぶ…」
唯「う~~、さぶいねぇ」
聡「俺、冬はやっぱ苦手だわ…」
唯「聡君は冬がきらいなの?」
聡「だって寒いもん。唯さんだってそうじゃないの?」

 肩をすぼめながら隣の唯の顔を見る。
 唯はこれまた緊張感のない笑顔を返してきた。
 その鼻の頭が赤い。

唯「私はすきだよー」
聡「………そうですか」

 『好き』という単語に妙にどぎまぎしてしまう。
 聡は顔を伏せた。熱い。

聡「…俺は苦手です」

 そんな自分が悔しくて少しぶっきらぼうに言ってしまった。

唯「冬だっていいことたくさんあるよ」
聡「…例えば?」
唯「へっへ~。はいっ」
聡「?」

 差し出された手を聡は意味がわからず覗き込んだ。

唯「ちがうよ、ちがう」

 もう一度はいっと手を突き出してくる。
 …?
 …これは、もしや。


その4ラスト

聡「え?え??」
唯「いいからいいから」
聡「…」

 動揺がばれないようにできるだけ自然に唯の手に自分の手を重ねた。
 二人とも手袋をしている。

唯「……どうかな??」
聡「どうって…わかりません」
唯「幸せな気もちになったりしないかな?」
聡「え。………わかんない、そんなの…」

 途端唯はしゅんとなる。
 聡は訳がわからない。

唯「そっかぁ~~…」
聡「…あ、あの、もう手…」
唯「私はねぇ、冬が好きだよ」
聡「いや、ちょっと」

 ほんとこの人は人の話を聞いてない。
 だから、苦手だ。人の気も知らないで。
 
唯「寒い日に好きな人と手をつなぐとね、すっごい幸せな気持ちになれるから」

聡「え」

 驚いて唯の顔を見た。
 鼻の頭も耳も、頬も、先ほどより更に赤く染まっている気がする。

唯「えへへ…」

 緊張感のない笑顔。
 やっぱり気のせいかもしれない。だけど。
 
聡「あのっ」
唯「んー??」

 聡は真っ直ぐ唯を見た。

聡「やっぱり家まで送っていっていいですか?」

〔おわり〕
 
 
 
最終更新:2010年01月19日 19:44
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