全身を鎖で縛られ、宝具の豪雨を受けて。
沈黙する、私の最強の英雄(バーサーカー)
下劣に笑う黄金のサーヴァント。
…それが私が心臓を抉り出されるまでの、最後の記憶。
私は、何もできなかった。
私こそ、この聖杯戦争で最強のマスターだと、そう思っていたのに。
バーサーカーの援護もできず、彼を助けるための令呪は何の意味もなく。
ただ、彼が倒されるところを、指を咥えてみているだけしか、できなかった。
私は一体、何のために生まれてきたんだろう。
ただ、とても寒い。
それが死に行く私が抱いた、最期の想い。
無念と一緒に、
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの聖杯戦争は終わった。
その筈、だった。
「……狭い部屋」
冬木のモノとは別の聖杯から与えられた部屋のベッドに横たわり、独り言ちる。
アインツベルンの城とは比べるべくもない、狭くて、魔術的措置の欠片もない。
ただの子供部屋だった。
それが、私に与えられえた、この世界での拠点。
でも、そこにいると、どうしようもなく心がささくれだった。
死んじゃった筈の私が、別の聖杯戦争に招かれたのは良い。
逃してしまったアインツベルンの悲願に、また手を伸ばす機会を得たのだから。
それはいい。だが、許せないのは、そこから先だ。
私がこんな何の変哲もない子供部屋にいる事になった元凶。
ガチャリと、ベッドに横たわる私の背後で、部屋のドアが開く。
入ってきた私のサーヴァントをギロリと睨んで、そして言った。
「他のサーヴァントは倒してきたの、バーサーカー」
他のサーヴァントを従えるつもりなんて無かった。
私にとって、使い魔(サーヴァント)はヘラクレスただ一騎。
それ以外の英雄なんて必要ない。
彼だって、私以外のマスターに従う事は無いだろう。
だから。
きっと、もう一度聖杯戦争に参加して、召還を行ったなら。
また彼は、私の呼びかけに応えてくれる。
そう、信じていた。
そして、それは正しかった。
目の前のサーヴァントからは、確かにあのバーサーカーの気配を感じる。
なのに。それなのに、どうして。
「…ううん。一騎も」
───どうして、私と同じ姿なんだろう。
「やる気があるのかしら?」
「私は言ったはずだけど。聖杯が欲しいって」
ベッドから体を起こして、さっきよりも冷たい眼差しでバーサーカーを睨む。
目の前のバーサーカーは、髪の毛一本まで私にそっくりだった。
お母さま譲りの白い髪も、真紅の瞳も、顔立ちも。
でも、私よりも体つきはずっと良かった。
聖杯としての機能を放棄した、ただの人間の、健康的な子供の肢体。
未来のない私が、本当は欲しかった身体。
彼女が持ってるのはそれだけじゃない。
もう一人の私は、私の欲していた物全てを持っていた。
召喚されてすぐに彼女の夢を見たから識っている。
切嗣(おとうさん)もお母さまも、シロウも、リズも、セラも、みんな揃っていて。
魔術回路と聖杯としての機能の調整の為に毎日体を切り開かれる事もなく。
友達に囲まれて、ありふれた日々を送っていた。
そんなイフの自分がいるだなんて、知りたくなかった。
魔術師として、アインツベルンとして。
正しい道を歩いているのは間違いなく私の筈なのに。
バーサーカーを見ていると、どうしようもなく。
私は何処で間違えてしまったのだろうと、考えずにはいられなかった。
更に、聖杯は当てつけの様に。
私に、アインツベルン城ではなく、もう一人の私の生前の環境を再現し、私に与えた様だった。
冬木から離れ、少しの間用意された自宅で一人暮らしの小学五年生。
それが私、それがこの世界での
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
独り、なのは私にとってきっと良かったと思う。
もし、この世界で何から何までバーサーカーの生前の環境が再現されていたら。
私はきっと、まともじゃいられなかっただろう。
だけど、それと同時に。
やっぱり、魔術師としての私(イリヤ)に居場所なんて無いんだと。
そう言われているような気がした。
腹が立った。ムカムカした。イライラした。
私はそのいら立ちのはけ口を、バーサーカーに求めた。
「私は聖杯を手に入れて、アインツベルンの千年の悲願を達成する。
それが私の使命。私の生まれてきた意味。
貴女は私の使い魔(サーヴァント)で、私なのに、それを否定するの?」
「…………」
皮肉たっぷりに笑って、バーサーカーを詰める。
彼女は言い返すこともできず、哀し気に目を伏せるばかりだった。
それを見ると、とてもスッとして、でも同時に心の中から黒い物が溢れてくる。
ずるい。ずるいずるいずるいずるいずるい。
貴女は、私なのに。
貴女と私、何が違うというの。
何で、私の欲しかったもの全部を持っているあなたが。
よりによって貴女が、その姿をしているの。
私の、バーサーカーの姿を。
全部持ってるくせに。
私から、バーサーカーまで盗らないで。
「……本当は、それも考えてたんだ」
…え?と
思わず、呆けた声が漏れた。
さっきまで、顔を下げて、項垂れる事しかできなかった筈のバーサーカーは、顔を上げて。真っすぐ私の瞳を見て、言葉を紡ぎ始める。
「マスターがそれで幸せになれるなら、それもいいのかもしれないって。
でも、やっぱり駄目だよ」
「な…何よそれ…私は戦えって言ってるの!それが使い魔(サーヴァント)でしょう!」
「だって」
声を荒げる。
不意に、冬木でバーサーカーに初めて出会った日を思い出した。
あの日も、こんな風に声を荒げて言う事聞かせようとしたっけ。
でも、目の前のサーヴァントは、バーサーカーよりもずっと生意気だった。
「それじゃ───貴女が幸せになれない」
その言葉を聞いた瞬間、感情が抑えきれなくなった。
手を振り上げて、自分と同じ顔の横っ面を引っぱたく。
一度じゃない、二度も、三度も。
叩いた頬が赤く腫れあがって、私の息が切れるまで張り続けた。
疲れて、手が止まったところで私は残った感情を吐き出すように怒鳴った。
「貴女に…ッ!!何が分かるっていうの!!」
皆に囲まれて幸せに生きてきた私が。
身体を切り開かれる痛みも知らない私が。
千年の悲願なんて責任も背負わず、溢れる未来を歩んだ私が。
分かるわけもない。分かってほしくも無い。
あぁ、それなのに。
「確かにそう。貴女の苦しみは、私が簡単に理解した気になっていい事じゃない。
でも、分かる事だってある。貴女は───私だから。
少なくともそれを叶えても、貴女が望む未来にはならない気がするから」
「────っ!!」
どうして、甘いだけの日常を歩んできたはずこの子はこんなにも。
真っすぐ、怖がることも、嫌がることもなく。
こんなに辛く当たる私の瞳を真っすぐ見つめてくるんだろう。
私は、その目を見れなかった。
「……そう、じゃあこうしてげる」
告げるその声は震えていた。
どうにも格好がつかないな、と私の事ながら呆れつつ。
それでも精一杯悪意を籠めて、彼女の前に腕を突き出す。
令呪が刻まれた腕を。
「今から令呪で命令してあげる───みんな殺せって。サーヴァントも、マスターも」
幾ら意地を張ったところで、サーヴァントである限り令呪には逆らえない。
私がこのまま一言命じれば、それで終わり。
もう一人の私の意思なんて捻じ曲げて、台無しにしてあげるんだ。
汚してやる。穢してやる。
これが魔術師の世界だって、教えてやるの。
きっと、今の私の顔は。
アインツベルンの城で幾度となく見た、黒いお母さまとよく似た顔をしている気がした。
でも。それでも。
「───いいよ」
「……は?」
私の目の前に立つ私(イリヤ)はそれでも、俯かなかった。
「でも、私は諦めない」
その声は、私なんかよりもずっとはっきりしていて。
瞳は、変わらず真っすぐに、私を捉えていた。
「私は、何も諦めない」
彼女の、その言葉に。
私は思わずバッと顔を上げて、彼女の顔を見てしまった。
お互いの、紅い瞳が交わる。
「貴女を見たときから決めたんだ
貴女が納得できる…ううん、幸せになれる結末を探すんだって」
あぁ、本当に。
イフの私、魔術師として歩まなかった、普通の子供の貴女。
何故、どうして。平凡な道を歩んでいた貴女が。
無理やり戦わせようとする酷い主を前にして、瞳を逸らさずにいられるんだろう。
どうして、貴女の瞳の中に、彼(ヘラクレス)の姿を見てしまうんだろう。
「……はぁ、もういいわ。やーめた」
それが分からなくて、彼女に対する妬みとか憎悪は気づけば散り散りになってしまった。
令呪の紅い紋様は光を放つことを辞めて、翳した手を降ろす。
そうして一呼吸おいてから、私は尋ねた。
「───どうして、辛く当たる私に、そこまでしようとするのかしら」
ふて寝するようにベッドに横になって。
顔を見せないまま、バーサーカーに聞いてみる。
サーヴァントだから、という答えが直ぐに浮かんだけれど、違う気もした。
後ろで、少し考える様な気配を感じて。
返事が返ってきたのは、それから少し経ってからだった。
「貴女、お姉ちゃんに似てるんだ。だから、ほっとけないの」
それに、と、バーサーカーはそのまま続ける。
「私だって、この聖杯戦争で見ず知らずの人でも構わず助けられる
そんな“正義の味方“でいられるかは自信無いけど…
自分(わたし)のためだったら、きっと最後まで戦える気がするの。それだけ」
「何それ、バカみたい…貴女のどこが私なのか全然分かんないわ
それに、奇跡でも起きなきゃ…そんな未来は絶対、来ない」
「……そうかもね。でも、奇跡は起きるよ、マスター」
背後で、バーサーカーが立ち上がる。
絶対に、振り向かない。
振り向いたら、笑っているあの子の顔を見るだろうから。
今、あの子を見たら、頭の中がぐちゃぐちゃになって、おかしくなる。
そんな私にそのまま部屋のドアへと手をかけて、扉を開きながらあの子は言った。
「起こしてみせる」
きっと、この子は。
私の為に、奇跡を得るのではなく、奇跡に辿り着こうとしている。
妬ましくて、羨ましくて、憎らしくて。
そんなサーヴァントだけど、その事だけは確信が持てた。
「私に力を貸してくれてる、優しい英雄も、そう言ってるから」
本当に、本当に、大嫌いなサーヴァント。
いう事は聞かないし、強さも彼のできそこないで。
そのくせ分かったような口ばかり利く。
本当は、話もしたくないけど、でも。
「……これだけは言っておくわ」
それでも、これだけは伝えなきゃいけない。
「───負ける事だけは許さない。貴女の中にいる英雄は…最強なんだから」
「……うん、分かってる」
その言葉だけ残して。
パタン、と扉は音を立てて閉まった。
「───まったく、最低最悪のサーヴァントだわ」
気も話も合わないくせに、余計なお節介ばかりで。
夢みたいなことばかり語って。
なのに、どうして。
あの子と話しているときは、さむくないんだろう。
どうしてあの子の瞳はあんなにも───、
「…ほんと、大嫌い」
それだけ呟いて、寝返りを打つ。
仰向けになった体には、窓から夜空がよく見えた。
そこに月は無かったけれど、闇もまた、そこにはなかった。
例え月の見えない夜でも───星はそこにあった。
【クラス】
バーサーカー
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具:C
【属性】
中立・善
【クラススキル】
狂化:E-~B
理性を失う代わりに能力値が上昇する。
非戦闘時、このスキルは機能せずステータス上の恩恵はない。
戦闘時、戦闘開始から十数分経過の後バーサーカーは理性を加速度的に失っていく。
【保有スキル】
カレイドライナー:B
英霊の力が内包されたクラスカードをその身に宿し戦う者。
夢幻召喚(インストール)という技術に熟達したもののみに与えられる。
非戦闘時、バーサーカーはサーヴァントとしての気配を発さない。
戦闘時においては、その身はカードの基となった英霊の肉体の性能へと置換され、該当する英霊の能力を得る。
本来であればカードさえあれば七クラス全ての英霊の能力を得るが、今回はバーサーカーとして霊基が固定されているため、基本的に狂戦士以外の能力を発揮するのは不可能。
また、英霊の能力全てを発揮できる訳でもなく、どれだけ相性が良くとも一部ステータスやスキル、宝具は本人が扱う者よりも劣化する。
ただし、サーヴァントとなったことによって許容値を越えた攻撃を受けてもカードは強制排出されず、消滅までその身に宿した英霊の能力は解除されない。
不撓不屈:B
バーサーカーがその身に宿す英霊の生き様と逸話が具象化したスキル。
Bランク相当の戦闘続行、心眼(偽)、Cランク相当の勇猛を内包した複合スキル。
神性:B
本来であれば最高ランクの神性を有しているが、劣化してしまっている。
痛みも涙も運命さえも超えて:EX
内包する英霊ではなく、願望器であったバーサーカー自身の在り方が昇華されたスキル。
発動時、バーサーカーはあらゆる難行が『不可能なまま可能』となり、
その為に必要な事象を過程を飛ばして導き出すことができる。
可能性が乏しければ乏しいほど、逆境が激しければ激しいほど、このスキルの効果は青天井に跳ね上がる。
非常に強力なスキルだが、このスキルはバーサーカー単体では決して発動しない。
発動には、マスターとバーサーカーの精神状態が非常に高いレベルで同調している必要がある。
つまり、マスターとの信頼値・絆レベルが一時的にでも最高ランクまで達していなければこのスキルは決して効果を発動しない。
奇跡は、バーサーカー一人では起こせない。
この世全ての贈り物:-
永遠の孤独を定められた少女に全てを捨てて寄り添ったバーサーカーの生き様を体現したスキル。
二人の少女しか知らない幻想譚(フェアリーテイル)。六千年の時を超えた尊き祈り。
想いを届ける事に特化した効果を有するが、現在使用不能。
【宝具】
『十二の試練(ゴッド・ハンド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
バーサーカーがその身に宿す英霊が有していた宝具。
Bランクまでの攻撃の一切を無効化し、それ以上の攻撃を受け死亡した際でも11度の蘇生と耐性の獲得を行う概念防御。
しかしバーサーカーはこの効果を本来の担い手より劣化した形でしか再現できない。
無効化できるランクは1ランクダウンしており、Cランク を超えるBランク相当の攻撃は軽減、最大でも半減することしかできず、それ以上の攻撃は素通りする。
蘇生時の耐性獲得も最大で半減程度に留まり、蘇生回数すら本来の回数の半分である六度に留まる。
またこの六度という数値も彼女が内包する英雄と最高レベルの相性である現マスターだからこそ発揮できるスペックであり、マスターが変わった場合更に蘇生回数は半減する。
ただし性能がデチューンされた分、消費したストックの回復燃費は向上している。
『継承召喚・騎兵(オーバーライドインストール・ゴルゴーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
今回の召喚では狂戦士(ヘラクレス)の能力しか扱えないバーサーカー唯一の例外。
この第二宝具を発動することによってギリシャ神話の反英雄メドゥーサ/ゴルゴーンの能力を得ることができる。
要はフォームチェンジ。
しかし得られると言ってもベースとなるのはあくまでバーサーカーのクラスのため、
騎乗スキルは失われ、メドゥーサの宝具である『騎兵の手綱』は発動できず、
一時的に完全な怪物と化す必要のあるゴルゴーンの宝具『強制封印・万魔神殿』も人の身であるバーサーカーには扱えない。
その代わり発動中にはA+ランク相当の怪力と石化の魔眼のスキルを獲得し、筋力敏捷耐久がワンランクアップする。
特に怪力スキルによって筋力値の上昇は目覚ましく、身体能力のみで宝具に匹敵する性能を発揮する。
【Weapon】
無銘・斧剣
【人物背景】
イリヤスフィール・フォンアインツベルンのイフの姿。
魔術師としての道を歩まなかった、強くて優しい普通の少女。
【サーヴァントとしての願い】
ただ、私(マスター)が笑っていられる未来を
【マスターとしての願い】
聖杯を取る。
【weapon】
○『天使の詩(エンゲルリート)』『コウノトリの騎士(シュトルヒリッター)』
イリヤの髪を媒介にして造られる小鳥サイズの使い魔。自立浮遊砲台。
銃身と本体の2パーツで構成されており、光弾を放つ他銃身そのものを剣の弾丸と化し放つこともできる。
しかしそうした場合、この使い魔は銃身を失うこととなるので攻撃の後に自壊する。
光弾を『ツェーレ(涙)』、剣部分を打ち出す光弾を『デーゲン(剣)』という。
【能力・技能】
非常に高い魔術の技能。
【人物背景】
魔術師としての生を歩み、そして死んだ雪の少女。
今回はUBWルートにて、死亡後より参戦。
そのため、本来の彼女より荒んでいる。
【方針】
聖杯狙い。
最終更新:2022年06月28日 21:14