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 生きるという事に嘘や真があるというのなら、それは間違いだと何度だって言い返せる。

 少年はそのように生きた。
 たとえ自分の辿り着く結末が何であったとしても。
 それがどれほど避け得ない絶対の運命だったとしても。
 諦めずにもがいて、もがいて、もがいて、もがいて…。
 八方塞がりの中にあっても諦めず。諦められず。
 気付いた時少年――千翼は泥に塗れながら見知った、けれど見知らぬ街へ流れ着いていた。
 街の中には城があった。
 只の豪邸と呼べばそれまで。
 だがその威容を前にした千翼はそれを"城"だと認識した。
 疲弊した体を引きずりながら中へと入り進んだ。
 招かれている。
 根拠など無かったがそう分かった。
 ずるずると頼りない音を立てながら玉座の間に辿り着く。
 扉を、押し開ける――そして。
 千翼は開かれたその扉の先に…"王"を見た。

「問おう」

 目を奪われた。
 畏れという感情を初めて知った。
 噎せ返るような死と肉の臭気が漂う部屋の中心で玉座に腰掛けるその体躯はひどく小柄だ。
 だがそこには確かな荘厳さがあった。
 対面したあらゆる生きとし生けるものを畏怖させ平伏させる、底のない大穴を思わすカリスマ。
 王を畏れると共に千翼はもう一つ理解した。
 彼は、己と同じモノであると。
 王に先んじて彼我の巡り合ったその意味を悟った。

「貴様が、余を眠りから揺り起こした不遜の輩か?」

 王は激していた。
 静かなる怒りがその双眸で昏く煮えていた。
 その理由は彼自身が今しがた口にした通りである。
 王は眠っていたのだ。
 己の生と物語を終え眠りに就いた。
 心地好い、他の何物にも代えられない無二の眠りに。
 しかしどうしたことか。
 己を微睡みから揺り起こした者がある。
 この事実は王の不興を買うには充分すぎた。

「…そうだ。俺が……お前のマスターだ。キャスター」
「痴れ者が」
「…が、はッ!」

 千翼の脳には既に自らの置かれている状況に関する知識がインストールされている。
 更にマスターとサーヴァントの間を結ぶパスの存在もある。
 目前でふんぞり返るこれが自らのサーヴァントである事は分かっていた。
 だからそれを踏まえて答えたのだったが。
 眉間に皺を寄せた王の尾が伸びて撓り、千翼の脇腹を打ち据え吹き飛ばした。
 彼が人間であったなら内臓損傷で命を落としていても不思議ではない威力だった。

「一度は許す。だが二度は許さぬ。王たる余を前に主人と名乗るなど、刎頸にも値する不敬だと心得よ」

 フンと鼻を鳴らして不興を示す王。
 だがその眼差しは何処か興味深げでもあった。
 床に転がった体をどうにか起こして立ち上がる千翼の姿を見て、王は言う。

「…人間ならば挫滅で死に至るよう調整をして打ち据えたのだがな。
 砕けた骨や潰れた筋肉、臓腑が既に自己修復を開始している。
 妙な匂いがした故もしやとは思っていたが、貴様――人間の皮を被っているのか」

 早鐘を打つ心臓が止まった錯覚を、千翼は覚えた。
 そうだ。
 王の見立ては間違っていない。
 彼が生きる事を許されなかった理由。
 死を望まれ害獣のように追い立てられた理由。
 それは――

「何故に飢えを善しとする?」

 彼の存在は人類に害を成すからだ。
 ただ生きているだけで。
 ただ存在しているだけで罪をばら撒く。
 溶原性細胞。
 この世に生を受けた瞬間から刻まれていたその呪いがあまりに罪深すぎるから。
 だから千翼はこう求められた。
 死んでくれ、と。

「喰らい生き延びる事が罪であるものか。腹が膨れるまで喰らえばよい。
 美味を求めて貪るもよい。喰らい肥え太る事を恥じるは愚か者の論理ぞ」

 王の眼力は千翼の全てを詳らかに見抜いていた。
 彼が人を喰らう存在である事。
 そしてにも関わらず意図的に人肉を拒んできた事も。
 看破したからこそ王は訝った。
 そのように生まれてきたならば、そのようにすればよいだろうと。
 減った腹を満たす事が罪であるならば。
 果たしてこの世に生まれた意義とは何なりやと。
 問う王に千翼は答えた。

「それをしたら…俺は、本当に怪物になってしまうから」
「笑わせる。貴様が怪物でなくて何だという。人は人を喰わんだろう」
「…分かってるッ! そんな事、お前に言われるまでもなく分かってるんだ!」

 以前の千翼ならば。
 人に非じと指摘された時点で激昂していただろう。
 人喰いの怪物を――アマゾンを強く忌み嫌い続けてきた彼だから。
 だが現実は嘲笑うような非情さで彼を取り囲んだ。
 この世界は千翼の人生の最果てだ。
 行き止まりのその向こう、ある筈のなかった"先"。
 此処には千翼を追い立てる者は居ない。
 此処では全ての暴力が正当化される。
 人を腹一杯喰らって本能のままに生きながら、自分の夢を叶えるなんて夢物語も…当然罷り通るだろう。
 なのにまだその欲を抑える意味とは何か。
 王にはそれがとんと理解できなかった。

「俺は…生きたいんだ」
「それが貴様の願いか?」

 王の放つ殺気が桁を増した。
 千翼の肌がその鑢めいた殺気に掻き乱される。
 言葉を一つでも間違えば死ぬのだと本能的な部分でそう理解させられた。
 生きたい。
 まさにそれこそが千翼の願い。
 元の世界ではどれだけ望んでも叶わなかった願望。
 しかし王に言わせればそれは何ともつまらない望みだった。

「生きる事は生物として当然の本能だ。虫螻にも劣る微生物であろうと誰しも生きる為に日々を過ごしている。
 不遜にも余を従える主(マスター)などと名乗った貴様は、よもやそのようなつまらぬ事の為に余を起こしたのではあるまいな」

 同族であるならばいざ知らず。
 何処の馬の骨とも知らないケダモノの明日の為に身を粉にしてやるつもりは王には毛頭なかった。
 只でさえ眠りを邪魔され怒り心頭の王の前でそんな戯言を吐いたというならば。
 当然、相応の罰が下る事になる。

「そうだ。俺は…生きたいんだ。生きたいんだよ、王様。
 だから俺は此処に居て……此処でこうしてお前と繋がってるんだ」
「ならば時間をやる。今此処で自らの首を落とせ」

 王の宣告に背く事はより惨たらしい死を招く。
 自死を命じたのはせめてもの王からの慈悲だ。
 生きたいと願う少年に死ねと命じた、王。
 しかし彼の命令を無視して少年は重ねた。

「俺は…イユと。俺の大切なヒトと……生きていきたい。
 誰に文句を言われる事もなく、追い回されて殺されそうになる事もなく。
 贅沢なんて要らない。ずっと飢えたままでだって、いい。
 ただ――生きていられればそれでいいんだ。イユが居て、俺が居る。それだけで……ッ」
「――そうか」

 その言葉を聞いた王は、沈黙。
 千翼の死を待つ沈黙ではない。
 人間のそれより遥かに発達した知能で思考に耽る為の沈黙だった。
 時間にして数秒程の静寂。
 しかし王は納得の行く答えを導き出せたらしい。

「…そういう事か。聖杯め、無機物如きが諧謔を弄んだつもりか」

 小さな嘆息は苛立ちを含んだものであったが。
 しかしそれとは真逆に、王が放っていた殺気は見る間に萎んでいった。
 一秒の瞑目。王は何かを思い出すように目を伏せ。
 次に瞼が開いた時、王の口から正式な千翼に対する判決が言い渡された。

「貴様、名は何という」
「…千翼。千翼だ」
「そうか。ならば千翼――貴様に力を貸してやる」
「…どういう風の吹き回しだ、一体。先刻まではつまらない事を言うなって怒ってたのに」
「貴様の願いはつまらん。余を動かそうと思うならば、嘘でももっと大口を叩くべきだった」

 もっとも仮に千翼が心情を偽っていたなら、王は躊躇なく彼の首を刎ねていただろう。
 令呪を使う余地など与えず手ずから無礼者を処刑していた筈だ。
 だがそれでも千翼の"生きたい"という願いは王にとって酷く退屈なものである事に違いはない。
 ならば何故、この尊大な王は自らの前言を翻すに至ったのか?
 その答えは――

「…だが」

 王の脳裏に去来する今際の際の追憶だった。
 人を喰って数を増やし版図の拡大を目論む蟻の王。
 力に恵まれ、知恵に恵まれ、部下にも恵まれた最強の王。
 そんな彼がとうとう最後の最後まで勝てなかった少女が居る。
 冴えない娘だった。
 王がその気になれば指の一本で跡形も残さず消し飛ばしてしまえるような、非力な女だった。
 キメラアントの王が執心するには全く不似合いな彼女だけが、王を真っ向勝負で打ち破り続けた。
 娘の存在は貪食と支配の為のみにあるべき王の心を掻き乱して狂わせた。
 王は、その無力な少女に夢中になっていた。

「あまりに見窄らしい願いだったのでな。応えてやらぬのも王として狭量だと、そう思ったまでだ」

 体の内側を薔薇の猛毒で冒されながら。
 余命幾ばくもない肉体で駒を打つ時間が楽しかった。
 娘の打った手をどう凌ぐか知恵を振り絞るのが楽しかった。
 自分でも驚くような妙手を繰り出した後、苦もなくそれを返される驚愕が愉快だった。
 そんな、死の間際とは思えない豊かな幸福の中で王は眠りに就いた。

 ――おやすみなさい…メルエム

 もう一度だなどと王は願わない。
 それはあの結末の侮辱になる。
 己の生涯には一片の悔いもない。
 だが、それもまた己が王であるからこそ割り切れる事なのだろう。
 尊き者に非ぬならば、見苦しく生きたいと喚き足掻くのも仕方のない事。
 一時なれど臣下となった者の惨めさに付き合ってやらぬのは…王の名を穢す無粋かと。

 王(メルエム)はそう自分を納得させた。
 この話はそれで終わりだ。
 深く問い質せば例外なく彼の怒りを買う。
 蟻の王は慈悲など示さない。
 怪物として生まれ落ちながら"誰か"に心を注いでしまう愚かしさに、かつての己の姿を重ねたなどとは。
 命が惜しければ、口にしない方がいい。

【クラス】
キャスター

【真名】
メルエム@HUNTER×HUNTER

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"を上回る"神殿"を形成することが可能。

【保有スキル】
蟻の王:EX
第一級隔離指定種、キメラアントの王。
肉体の頑健性及び各種能力値が他の同族と比べても非常に高く突出している。
恐らくはキメラアントという種が誕生して以降例のない境地へまで達したメルエムのランクは規格外。
単なる優秀さの上下ではなく彼という王の特異性を指しての評価。

人外のカリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
メルエムの場合は人ならざる者に対して一際強く作用する。
逆に言えば彼のカリスマは人類とは決して相容れない。
その例外は過去、ただ一人だけである。

高速思考:A
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
卓越した思考能力により、弁論や策略や戦術などにおいて大きな効果を発揮する。

【宝具】
『貪食なる蟻の王は、薔薇の咲く亡國にて微笑み果てた(オール・フォー・ワン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:制限無し
他者を喰らえば喰らう程に強くなる王の念能力。
性質としては捕食による吸収と呼ぶよりかは"同化"に近い。
既に備わっている能力としては、数キロ範囲を即座に覆い尽くし敵を把握する"円"の展開が挙げられる。
この円には光子状の物質を拡散する特性が備わっており、円の内部に居る生物は姿形ひいては感情までもをメルエムに把握される。
その上件の光子は円の展開が終わっても対象に付着し続ける。
従って何らかの手段で光子を取り払わない限り、メルエムに捕捉された存在は永遠に彼に追跡され続けることになる。

【人物背景】
キメラ=アント。
非常に貪欲で凶暴な蟻。
その頂点に君臨する絶対の"王"。
生物統一と種の更なる進化を目論見たが果たせなかった。
その代わり彼は、種族の垣根をすら超えた"愛"を得た。

【願い】
存在しない。
余の幕切れに茶々を入れる全ての行動は無粋であり死に値する。


【マスター】
千翼@仮面ライダーアマゾンズ

【マスターとしての願い】
ただ…生きたい。
彼の願いはそれだけである。

【weapon】
ネオアマゾンズドライバー。
アマゾンネオに変身するためのベルト。
これにアマゾンズインジェクターを投与することで千翼のアマゾン細胞は変容し、彼は力を得る。

【能力・技能】
オリジナルアマゾン。
千翼の見た目は人間のそれにしか見えないものの、彼はあくまでも人工生命体に過ぎない。
彼がヒトと異なる点は一言食人の本能。
非常に激しく抗い難い食人衝動に苛まれる。
その代わりに千翼は極めて高い身体能力と、生半な手傷なら即座に再生させる再生能力を併せ持つ。
彼にとってはこんなもの…何の幸いでもなかったろうが。

【人物背景】
生まれた事実そのものを罪とされた少年。
生きることを許されなかったちっぽけな命。
彼の存在が人間社会に受け入れられることは決してない。
奇跡が起きて、怪物(ちひろ)が怪物(ちひろ)でなくなりでもしない限りは。

【方針】
生きたい、他には何も要らない。
ただ――生きていたい。

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最終更新:2022年06月28日 21:18